まるで空気が切れ味を持っていそうな雰囲気だった。
「…………」
食堂の席に座り、テーブルの上に足を投げ出している男子生徒。
赤い長髪と、黒い制服姿。
そう、久々津であった。
「…………」
一触即発、不機嫌そのものと言った表情。
その有り様は、本人いわく夏休み限定だったらしい白制服から、黒制服に戻っている事もあり、ひどく禍々しい。
昼食時であるにも関わらず、彼の周囲の席には誰も居なかった。
……僅かな例外を除いて。
「はいはいみんなー。コイツ今ものっ凄く機嫌悪いから、近寄らないよーに。女子供関係無しに暴力振るうからね、コイツ」
久々津の放つ剣呑な雰囲気もなんのその、彼の向かいで鯖味噌定食を食べる飛竜。
その姿を遠目に見る女子生徒達は、何故彼が平気そうにしているのか理解しかねていた。
「…………」
「ほら、お前も何時までイラついてんだ。決まっちまった事はしょうがねえだろ?」
気弱な者なら心臓麻痺を起こしそうな眼光も、さらりと受け流している。
それもその筈。飛竜は何を隠そう久々津と同室、こんな『威嚇』程度でビビっていたら、心臓が幾つあっても足りない。
久々津が転入してきて以来、着実に逞しくなっている飛竜であった。
……ボコボコにされる回数は、大して変わっていないが。
「とにかく、飯食おうぜ? お前の頼んだロールパン、折角焼きたてなんだしよ。熱いうちの方が美味いって」
「……チッ」
軽く舌打ちし、ロールパンに咬みつく久々津。
さて。そもそも何故、彼がこんなに不機嫌なのかと言うと。
「パンに当たるなよ。お前口がちっちゃいからあんま迫力ないけど」
「あ゛?」
「……そんなに嫌か? 授業に出るの」
「言うな殺すぞ」
ギロリ、と。
『黒い』状態ではあまり視力の良くない眼で、久々津は飛竜を睨み付ける。
が、彼に怒りをぶつけても仕方ないと思い直し、すぐに視線を逸らす。
「……世界まるごと、呪われろ」
「怖ッ!?」
何故彼が此処まで不機嫌なのかと言えば、2学期から他生徒と同様に授業に出なくてはならなくなったからである。
そしてその理由は、臨海学校での1件にあった。
織斑千冬、篠ノ之束両名との岬での会話。
世界の裏に精通している事を示唆するもの言い。
更に、詳細は不明であるが生身でISを御し、その機体『ブラッディ・ウィッチ』を非公式だが手中に収めている。
誰であろうと警戒して当然。千冬はきっと、学園上層部に久々津の事を問い質し、真実を聞かされたのだろう。
真実と言っても、『何ひとつ詳細には分かっていない』と言う真実だが。
彼の本当の真実を知るのは、学園内には楯無しか居ない。
……それはともかく、拘束などの扱いを受けていない事から恐らく千冬は『ブラッディ・ウィッチ』関連の事は話していないだろうが、それでも監視が必要であるぐらいには話を通した筈。
故に学園側も、彼をわざわざ呼び出して授業に出るよう伝えてきたのだ。
「……織斑千冬め。余計な事を」
大人しく弟の心配だけしていれば良かったものを。
腹いせに弟の方を入院するまでボコボコにしてやろうかとも思ったが、
下手に手を出せば、そいつらが黙っていない。
本人も専用機持ちらしいし、流石にISを6機も同時に相手取るのは面倒極まりない。
それにブラッディ・ウィッチは、そもそも戦闘向きの機体とは言えない代物。やめておこう。
そう思いつつ待機状態のブラッディをひと撫ですると、僅かに振動した。
……撫でられて喜んでるらしい。
「(割と甘えん坊だなコイツ……)」
まあ、
暫くブラッディを撫でていたら、苛々していた気持ちが収まるのを感じた。
「……仕方ないか。イラついてても状況は変わらん」
「へ? お、おう、そうそう。なんか急に冷静になられると逆に怖いけど、言ってる事はもっともだぜ」
……さて。
冷静になったところで考えてみれば、このバカはさっきから人に向かって偉そうにべらべらと喋り倒していたな。
よし、殺すか。
「世界まるごとは言い過ぎた……田中武彦、呪われろ」
「銀崎飛竜だ! ……って、あの? どうして拳をこっちに向けてるんですか?」
「ゴミ掃除の為だ。すぐに終わる」
食堂に屍をひとつ残し、久々津は午後の実習授業が行われるアリーナに向かうのであった。