一夏が地獄を味わい、飛竜がサンドバッグにされた翌日。
今月中程にある学園祭についての特別説明会として、SHRと1限目の半分を使って全校集会が行われた。
「……しかし、これだけ女子が集まると騒がしいを通り越して姦しいな」
「そうかー? 俺的にはこう、女の子一杯でテンション上がるけど」
どこかげんなりした一夏の言葉に、飛竜がそう返す。
その発言通り、いつもより肌の艶がいい。周囲の女生徒から何かを吸収しているのかも知れない。
そして、人混みが嫌いな久々津はと言えば。
「……雌臭い……五月蝿い」
飛竜の横で腕組みし、眉間に皺を寄せつつ瞼を閉じ不機嫌そうに唸っていた。
「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」
マイクを持った虚の声に、ざわざわと騒がしかったホール内が一気にしんと静まり返る。
程なくして、壇上に1人の女生徒が立った。
「やあみんな。おはよう」
「!?」
「キター!!」
先日ロッカールームで一夏の前に現れた人物……生徒会長、更識楯無。
一応その名こそ聞いてはいたが、突然の再開に思わず声を上げそうになる一夏。
その隣では、飛竜が小声で叫んでいた。
「……ふぁ」
対して久々津はちらと片目でだけ一瞥し、すぐ興味なさげに瞼を閉じる。
そもそも平常時は左右共に0.3ずつしかない彼の視力では、この位置からだと殆ど姿さえ見えない。見ようとするだけ無駄なのだ。
そんな彼の様子を目聡く観察していた楯無は、ぜんっぜん自分に関心を抱いていない久々津に少し涙目となるも。
それを悟られぬよう、努めて余裕ある態度を取って言葉を続けた。
「さてさて、今年は色々と立て込んでてちゃんとした挨拶はこれが初かな? 私の名前は更識楯無、君達生徒の長よ。以後、よろしくね」
にっこりと微笑む楯無の姿は、異性同性問わず魅了する色香を放っているらしく、あちこちで熱い溜め息が響き渡る。
飛竜に至っては感涙しつつ、パシャパシャと集会中にも拘らず写真を撮りまくっていた。
周りの女生徒達が、「それ焼き増しして!」と頼んでいる辺り彼女の人望が窺える。
「ふふっ……では、本題に入るわね。今月の一大イベントである学園祭だけど、今回限りの特別ルールを導入するわ。その内容は――」
懐から閉じた扇子を取り出し、勢いよく前へと突き出す。
瞬間、空間投影ディスプレイが広々と浮かび上がった。
「名付けて、『各部対抗男子生徒争奪戦』!」
パンッ!と音を響かせ、楯無の持つ扇子が開く。
そしてそれを合図にして、ディスプレイに大きく映し出されたものは。
「は?」
「畜生フィルム足んねぇ……ん?」
「……Zz」
右から順に、一夏、飛竜、久々津の写真姿だった。
当事者達が状況を把握できないでいる――約1名立ったまま寝ている――中、生徒達が一気に沸き立つ。
冗談ではなく、ホールが揺れた。
「静かに。学園祭では例年、各部活動毎に催し物を出し、それに対し投票を行って上位組には部費を水増しするシステムだったけど……折角3人も男子がいるのに、それじゃ詰まらないでしょう? だ・か・ら」
指でピストルを模り、それを久々津達へと向ける楯無。
「織村一夏、久々津・オテサーネク、イャンクッ君を、1位の部活動に纏めて全員入部させましょう!」
「や、俺銀崎ですから!! せめてこんな時くらい名前呼んで下さいよー!!」
ばきゅん。
彼等を撃つ真似をしながら高らかに宣言した楯無の言葉に、再度ホール全体を揺らす雄叫びが上がった。
そして当然だが、飛竜の発言は無視である。
「素晴らしい、まさにトレビアンだわ会長様っ!!」
「正統派美男子の織村君! 軟派なイケメン飛竜君! 毒持ち要危険物取り扱い資格の久々津君! え、何これ逆ハー!? 乙ゲー!?」
「今日からすぐに準備を始めるわ。秋季大会? 何それおいしいの?」
明らかに男子達の承諾などない勝手な行いだが、もうこうなってしまっては誰にも止めることはできない。
おまけに飛竜は乗り気で、久々津は耳栓着用&立ち寝中。
混乱した頭で、それでも抗議の視線を向ける一夏だが。
「ふふふ」
壇上で扇子を仰ぐ楯無は……不適に笑うのみだった。
かくして。後に『戦争』とまで呼ばれたこの争奪戦は、スタートから怒涛の勢いで幕を切られたのである。