「それでね、虚ちゃん! 久々津君、私のこと嫌いじゃないって言ってくれたのよ!」
「そうですか」
生徒会室。
会長用の机に座る楯無が、子供のようにはしゃぎながら黙々と書類を片付ける虚相手に話していた。
「嫌いじゃないってことはやっぱりアレよね! どっちかって言うと好きってことよね! もー照れちゃうなー!」
「そうですか」
パッと広げた扇子で、自分の顔を覆い隠す楯無。
僅かに覗き見える表情は赤らんでいて、可愛らしく笑んでいる。
余程久々津にそう言われたことが、嬉しかったらしい。
「だってあの久々津君よ? 毒舌で冷淡で意地悪で優しくてカッコ良くて身内想いな彼がそんなこと言うってことは、やっぱりそう言う事なのよ!」
「そうですか」
楯無は、気付いているのだろうか。
虚が書類に走らせるペンの音が、カリカリからガリガリへと変わっていることに。
「もういっそ、一夏君と同室になるの止めて久々津君と一緒の部屋になろうかしら。一夏君の方は、ホラ、イャンクッ君にでも任せればいいと思うのよ。彼あれで、たぶん生徒の中だと私の次に強いし」
「そうですか」
「あ、でも久々津君貞淑な子が好きだって言ってたし……けど話を聞くに、お母さんかなり強引に迫ったらしいからそっち系で行くのも――」
「そうですね」
眉間に皺が寄り出した。
危険信号であるが、楯無は気付かない。
それどころか、エスカレートする一方だった。
「制服も長袖ロングスカートにするついでに久々津君と色をお揃いにしてみたし、これで一緒に歩いてたらもう注目の的よね!」
「そうですね」
「……もー。虚ちゃんてばさっきからそればっかり。ちゃんと私の話聞いてる? 人の話はしっかり聞きましょうって、今時幼稚園児でも知ってるわよ?」
「…………」
ぷっつん。
耐えに耐え抜いた虚の中で、何かの切れる音が響き渡った。
「大体虚ちゃんは――」
「オイ」
「ひゃい!」
極寒地獄もかくやと言えるような冷たい声音に、楯無は思わず背筋を伸ばす。
「仕事をしなさい、バ会長」
「……はい」
布仏虚。
普段は真面目でしっかり者だが、その分怒らせるとある意味千冬よりも恐ろしい人物である。
すっかり萎縮してしまった楯無は、しばらくの間大人しく書類仕事に打ち込むのだった。
「初めまして! 今日からルームメイトになる更識楯無です、よろしくね久々津君!」
「何なんだお前」
夕食を終えた久々津が部屋に戻ると、何故か内装ががらりと変わっていた。
置かれていた飛竜の私物が全て無くなり、代わりに楯無の持ち物が準備万端にセッティングされている。
彼が部屋を空けたのは精々数時間だと言うのに、見事な荷解き技術であった。
「まあ、冗談は置いておいて。ちょっとおねーさんの方にも色々事情があって、部屋組みを弄らせて貰ったの。イャンクッ君は、一夏君の所に行って貰ったわ」
「…………」
彼女の意味ありげな言葉に、久々津は以前臨海学校の時千冬と束に対し自らが紡いだ言葉を思い出す。
……
まあ、これでも一応知り合いだ。特に問題は無い。
くどいが、銀崎である。
「(織斑先生には、私が一夏君の護衛に回るよう頼まれたけど……イヤよ私。彼と同室になって、久々津君に変な誤解されたくないもん)」
「……好きにしてろ。お前なら同室でも構わん。余計なことをしなければ、な」
「ふぇ……」
「何故赤くなる」
ストレートな物言いに、思わず楯無の頬が赤く染まった。
……最近になってようやく分かりかけてきたことだが、久々津は身内に対し甘い。
他人への気遣いや思いやりが皆無な分、1度仲間と認めた相手には辛辣さがなりを潜めるのだ。
そして。彼自身自覚しているかは不明だが、少しずつ。
少しずつだが、楯無を。自分の仲間と、認め始めている。
「……シャワーでも浴びるか」
適当に着替えを掴み、シャワールームへと入って行く久々津。
そんな彼の背を見送り、ドキドキと五月蝿い心臓を押さえ付けながら。
「……ッ」
楯無は、言葉にし難い多幸感を覚えていた。
そして、学生寮1025号室では。
「何故……何ゆえ俺とお前が同室に……」
「いや、元気出せって銀崎」
強制的に部屋移動をさせられた飛竜が、縦線を背負いダークサイドに堕ちていた。