IS ただ、それだけを知りたい   作:カーテンコール

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蜘蛛の罠

 

 

 

 

 

 それは、当事者である一夏にも理解が追い付かないほど、目まぐるしさを感じる出来事だった。

 

 楯無から半ば強制的に受けさせられた、生徒会主催の演劇への参加。

 演目は『シンデレラ』。しかし実際には、王子役である一夏の頭に被った王冠を奪うことで、彼と同室になれる権利が与えられると言う、演劇の舞台を借りた死の鬼ごっこであった。

 ちなみに、この演劇には飛竜も同じ役で参加していた。約束の時間が過ぎてしまったらしく、久々津は不参加であったが。

 

 とにかく、劇は熾烈を極める展開となった。どの女子も武器を手に手に追いかけてくる上、肝心の王冠が外れれば全身に電流が流れるトラップまで織り込み済み。詰まる所、一夏には延々逃げ続けるしか手が無かった。

 だが、如何せん相手の数が多すぎた。確実に追い詰められようとした一夏だったが、そこでとある人物に助けられる。

 その女性の誘導により、彼は人気の無い更衣室へと逃げ延びることに成功する。

 

 だが、それは。

 『巻紙礼子』と名乗った女――オータムによる、罠であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は? 今、なんて……」

「耳の悪いガキだな。てめえのISを寄越せって言ったんだよ」

 

 

 ニコニコと優しげな笑顔を浮かべたまま、オータムが吐き捨てるように言う。

 そのギャップに付いて行けず、一夏は未だ己に迫る危機を感じ取っていなかった。

 

 

「えっと……冗談です、よね?」

「あ? オイオイ、こんなつまんねー冗談言う為に、何で私がてめえみたいなガキのとこに来なきゃならないんだよ。マジでムカつくぜ」

 

 

 ニコニコと、笑ったまま。

 オータムは一夏の腹を蹴飛ばし、ロッカーに叩き付けた。

 

 

「グゥッ!? な……何なんだ、アンタ!?」

「あー、どうしてくれんだよ。ずっとこんな面してたから、すっかり固まっちまったじゃねーか。ったく、ただでさえジャンケンに負けててめえなんぞの相手をする羽目になって、死ぬほどイライラしてるってのに。1時間半かけたメイクの成果が、全部無駄になっちまったよ」

 

 

 更に2発、倒れたまま一夏が蹴りつけられる。

 そこでようやく、オータムを『敵』として認識したらしい。

 緊急展開によって、ISスーツごと白式を呼び出した。

 

 

「やっとかよ。欠伸が出るぜ全く、どんだけトロくせぇんだ、よ!」

「!?」

 

 

 彼女の着ていたスーツが引き裂かれ、背後から飛び出す蜘蛛のそれに似た鋭利な8本の爪。

 その先端が割れ、銃口が飛び出した瞬間。

 一夏は弾かれたように身体を捻り、PICにより重力が相殺された機体のスラスターを全開とし、真上へと緊急回避した。

 

 

「あー? 小賢しいなぁオイ」

 

 

 反撃として『雪羅』をクロウモードで発動させ、斬撃を放つも。

 

 

「ハハッ、遅せぇ遅せぇ!」

 

 

 オータムはその外見通りの蜘蛛が如き動きで、巧みに攻撃をかわす。

 更には、8本の装甲脚から放たれる銃撃の雨。

 如何に楯無のコーチを受け、一時前とは比べ物にならない成長を見せた一夏にも、そう簡単に対処できる相手ではなかった。

 

 彼が必死に回避と攻撃を織り交ぜる中、オータムは高笑いと挑発を繰り返しつつ頭の中では冷静に思考を進めていた。

 

 

「(システムのロックには穴を開けておいた……後はこいつの相手を適当にやってれば、手練れがこっちに来る筈……)」

「このっ!」

 

 

 『雪片弐型』による攻撃を装甲脚で反らし、別の1本で思い切り突き飛ばす。

 間合いが開けて相手の動きが止まる隙を突き、一斉射撃を浴びせかけた。

 

 

「くっ……こんな物ッ!!」

「ちょこまかちょこまか、この『王蜘蛛(アラクネ)』相手に頑張るじゃねーかよ!」

 

 

 息も吐かせぬ攻防の繰り返し。

 けれど自力の差が徐々に出始めたのか、一夏が押される形となっている。

 

 焦りを感じた彼は、早く決着をつけようと踏み切ったらしく。

 正面から突っ込むと言う、『悪手』をやってしまった。

 

 

「へ、やっぱガキだなぁ。真っ直ぐ突っ込んでくるなんて!!」

 

 

 アラクネの特殊装備である粘着性エネルギーネット。

 頭に血が上っていた一夏はそれをかわすことができず、蜘蛛の糸に雁字搦めとされた。

 

 

「くっ! こ、このっ!」

「無駄だ。そいつは1度取っ捕まるとそう簡単には逃げられねえ」

 

 

 必死にもがくも、ネットはびくともしなかった。

 それどころか、余計に絡み付いてやがて身動きさえ取れなくなる。

 

 そんな彼の姿を見遣って、オータムは口の端を吊り上げた。

 

 

「(……そろそろ、か)んじゃあ、てめえをぶっ殺した後に、ゆっくりとISを奪わせて貰うとするぜ」

 

 

 腰部装甲からカタールを抜き放ち、くるくると回す。

 そして、それで一夏を突き貫こうとした瞬間。

 

 

 

 

 

「あら、それは困るわね。私これでも、一夏君のこと結構気に入ってるのよ?」

 

 

 

 

 

「(来たな)」

「楯無さん!?」

 

 

 背後から聞こえた楽しげな声に、オータムがゆっくりと振り返って。

 闖入者の姿を見た瞬間、忌々しげに顔を歪めた。

 

 

「何だてめえは。態々殺されに来やがったか?」

 

 

 その少女の容姿は、水色の髪に赤い瞳。

 目にするだけで、壊したくなるような色の取り合わせだった。

 

 

「私は、この学園の生徒会長。だからこそ、そのように振る舞うの」

「何が言いてえのかは、さっぱり分からねえがな……私がこの世で1番嫌いなものを教えてやるよ」

 

 

 一瞬だけ、彼女の頭から『作戦』も『目的』も吹き飛んで消える。

 ジャンケンに負けたことをツイてないと思ったが……強ち、そうだとばかりも言えないかも知れないと。

 怒気を露わにし、オータムは牙を剥き出して吼える。

 

 

「水色の髪に、赤い目をしたクソムカつく女だ!! てめえをグチャグチャにすりゃあ、長年の恨みが1%ぐらいは晴らせるかもな! ちょっと試させろよ!!!」

 

 

 複雑な軌道で8本の脚を動かし、楯無へと向かうオータム。

 水を纏う奇怪なISで、それを迎え撃つ楯無。

 両者の戦いは、火花と共に開幕した。

 

 

 

 

 

 けれど、楯無は知らない。

 この戦闘が、ある存在から目を離させる為だけに仕組まれた物であると。

 

 罠に嵌まったのは、自分達の方であったと。

 彼女は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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