「何なのだあの男は!」
食堂のテーブルを叩き、憤慨する箒。
おい止めろよ、壊れるって。馬鹿力なんだから。
「全くですわ! 当然のように無礼を振る舞うあの姿勢、気に入りません!」
「転校当初の私はあれに近い感じだったのか……凹むぞ」
「あ、あはは……」
セシリアは箒に全面同意、ラウラは少なからず自分の行いを思い返して落ち込みモード。
例によって、シャルロットは苦笑気味だ。
「そんなに酷いわけ?」
「そりゃあもう。朝の自己紹介以降全然喋らないし、誰とも目さえ合わせようとしない。山田先生最後の方泣いてたよ」
「あんたには聞いてないのよ銀崎」
「酷い! せっかく教えてあげたのに!」
唯一クラスが違う鈴の質問に答えたのは、俺が昼食に誘った銀崎。
鈴、確かにそれは酷いぞ。
銀崎は結構いい奴なのに……たまにおかしなこと言うけど。
「……し、しかも泣いてる山田先生に向かって何て言ったと思う!? 「ぴいぴい泣くな駄メガネ、鬱陶しい」だよ!?」
「しつこいわねあんたも……けど、確かに引くわその言い草」
「流石にそのあと千冬姉に叩かれたけどな。山田先生が可哀想だったよ」
「その様を見て、あいつはあろう事か薄らと笑っていた。最低の男だ」
箒のひと言に、うんと頷く皆。
……確かに久々津の行いは行き過ぎてる。けど俺としては折角の数少ない男子なんだから、できる事なら仲良くしたい。
そしてその為には、あいつがちゃんとクラスに打ち解けなくちゃならない。
「織斑。あのムカデ野郎と仲良くなんて無理だと思うぜ」
「休み時間の度にどっか行っちまうから、話し合うにも切っ掛けが……って、銀崎? 俺口に出してた?」
「顔に出てた」
何てこった。だから千冬姉にも心が読まれるのか。
ポーカーフェイスの練習した方がいいか?
「向いてないから止めとけ」
「学校唯一の男友達が冷たい……」
銀崎って時々辛辣じゃないか? 主に俺に。
そう思ってたら。
「「「「「…………」」」」」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい!!」
何故か銀崎が皆に睨まれてた。
あろう事かシャルロットにまで。どうしたんだ。
「くっ、この気安さ……」
「羨ましいですわ……」
「むぅ……」
「ある意味1番の敵よね……」
「やはり消すか……」
「ひぃいっ! すみません消さないで下さい!」
「ラウラぁッ!? ナイフ仕舞え!」
何故か危うく友達を1人亡くすところだった。
ラウラの考えてる事は、相変わらずさっぱり分からん。
……他の奴なら分かるのか、と言われても困るけど。
「ところで一夏、『ムカデ野郎』ってなに?」
「え?」
ああそうか。鈴だけクラスが違うから知らないのか。
「転校して30分でクラスに定着した久々津の渾名だ。右目の下に蚣のタトゥーしてるから」
「蚣?」
「そう! それがムカつくぐらい様になってるのなんのって……爆発しろ!」
「あ、あはは……銀崎君、そこまで言わなくても……」
人の良いシャルロットが、まあまあと銀崎を宥めてた。
……それにしても、やっぱり『シャルロット』って少し長いよな。それに折角の呼び名が普通になっちゃったし、何か呼びやすい渾名でも考えようか……?
まあ、それに関して今はいいとして――
「それにしても、蚣ね……あ、それってあんな感じの?」
「うん?」
鈴が指差した先を向いてみる。
そこには。
「…………」
「「「「「「なぁっ!?」」」」」」
何時の間にか、俺達と同じ席でロールパンを食べてる久々津が!
俺を含めた鈴以外の全員が、同時に声を上げた。
「き、ききき貴様!? 何時からそこに!」
「さっきから居た。他に席が空いてなかったからな」
「え? 本人?」
ラウラの問いに、淡々と答える久々津。
と言うかもしかして、今までの会話全部聞かれてたのか!?
「……お前達が、俺に対して何を思おうが勝手だがな」
聞かれてたよ! き、気まずい……。
「ひとつだけ、言っておく」
そう言うと、久々津はロールパンを飲み込んで、ゆらりと席を立った。
そして無機質な黒い眼で、俺達をゆっくりと見回して――
「
頬の蚣をひと撫でして。
ぼそりと呟き、行ってしまった。
いや。確かに赤いけれども。
「一夏……俺、あいつのキャラが分からなくなった」
「奇遇だな銀崎……俺もだ」
けど、なんか……やっぱり根っこから悪い奴だとは思えないんだよな。
どうしてかは、分からないけどさ。