IS ただ、それだけを知りたい   作:カーテンコール

50 / 50
蚣の選択

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族(さそり)を殺したのは、家族(あげは)だった。

 蚣は顔を青褪めさせ、幽鬼のように立ち尽くす。

 

 

「……なん、で」

 

 

 分からない。分からない分からない分からない。

 家族になろうと、夫婦になろうと言った彼女が。

 自分も一緒に家族を守ると、そう言ってくれた彼女が。

 

 どうして。

 

 

「欲しかったんでしょう」

「……?」

「揚羽は、貴方が欲しかったんです」

 

 

 蛇が、呟くように思いを語る。

 

 

「人間の欲は際限を知らない。愛しい者の心を得れば身体を欲し、最後にはそれを己だけの物にしたくなる。揚羽はきっと……その欲に、勝てなかった」

 

 

 愛とは、時に毒となる。

 それ故に、揚羽は悪魔の囁きへ耳を貸してしまった。

 

 許せないことだ。

 許せないことだが、蛇にもまた理解できてしまった。

 

 もし(このひと)が私を、妻として心から愛してくれたのなら。

 自分が同じことをしないと、言い切ることが。

 彼女には、出来なかったから。

 

 

「……どうして、気付けなかった。どうして、俺は……!!」

 

 

 膝を折り、地へと手をついて蚣は歯を軋ませる。

 そこにあるのは、揚羽にではない、自分へと向けた怒り。

 

 気付くべきだった。揚羽がとりつかれていた狂気に。

 他でもない、自分が気付くべきであった。

 

 

「俺の、所為だ……」

「……蚣さん」

 

 

 揚羽に対し怒りどころか、彼女を責めることさえしない蚣を見て、蛇は、スコールは思った。

 変わっていない、と。

 

 この人は、1度愛したら何があっても愛し続ける。

 だからこそ、愛した者の罪さえも自分が背負ってしまおうとする。

 それがたとえ、背負う必要など無いものだったとしても。

 

 

「…………」

 

 

 どうしてこんなに弱いのだろう。

 どうしてこんなに強いのだろう。

 本当は誰よりも優しくて、兵器どころか兵士にさえなれないような人なのに。

 

 私は知っている。この人が、まだ私達と施設で暮らしていた頃。

 戦場から戻る度に、手を震わせていたことを。

 私は知っている。私達を守る為に、この人がどれだけ傷付いていたのかを。

 親と呼べるものも何も無く、兵士として作られ生まれた私達を、ずっと守ってくれた。

 

 そんな貴方だから、私は貴方を愛した。

 誰もくれなかった温もりをくれた貴方が、愛しくて仕方なかった。

 蜘蛛よりも蠍よりも、そして揚羽などよりも。

 私は誰よりも、貴方を誰よりも愛していた。

 貴方が居なくなってしまって、10年経った今でもそれは変わらない。

 

 

 

 

 

 私は彼を、この世界の誰よりも愛している。

 

 

 

 

 

「蚣さん。もういいんです、苦しまなくていいんです」

 

 

 震える久々津を、スコールがそっと抱き締める。

 それでいて……強く、強く。

 もう2度と、離れ離れにならないように。

 

 

「へ、び……」

「もう戦わなくていい。何も背負わなくていい。貴方は、私が守るから」

 

 

 そう。ただそれだけ。

 この人を守ることだけが、私の望み。

 

 

「ルクセンブルクに家を買ったんです。貴方と、私と、蜘蛛。3人で暮らしましょう? また、あの頃のように」

 

 

 せめてこの人が、最期を安らかに迎えることが出来るように。

 傷付き過ぎた愛しい人を、守りたい。

 

 久々津の身体の、震えが止まる。

 そして、ゆっくりと彼は立ち上がった。

 

 

「さあ。行きましょう」

 

 

 彼に向け、手を伸ばすように差し伸べるスコール。

 

 

「……俺、は」

 

 

 迷いを湛えた目で、久々津はスコールの伸ばした手を見る。

 だが、それも一瞬。

 

 

「…………」

 

 

 瞼を閉じ、開く。

 もうそこに、迷いは無かった。

 

 

 

 

 

 スコールの手を。

 久々津は、そっと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。