第三者視点
クー・フーリンの息子、コンラ。
彼は生前、父親の放った《
そして死したコンラの魂は、神の血を引く者としてその神性の高い魂ゆえに。
本来であれば輪廻の輪には加わらずケルトの神々の座に迎えられる筈であった。
しかし、コンラはそれを良しとしなかった。
彼はただの人間としての来世をルーに願ったのだ。
肉親に愛され
友と野を駆け
武器を握る事なく
父と殺し合う事のない
平凡で穏やかな一生
そんな人生をコンラは望んだ。
母に疎まれ
師に捨てられ
他者を傷つけ
父に殺されて死んだ彼にとって。
それは喉から手が出る程に欲しいモノであったのだ。
ルーはそんな孫を哀れみ。
その願いを聞き入れ、コンラを転生の輪へと送り出す。
そしてーーー転生した《コンラ》は《■■ラ》となった。
■■ラの人生は生前のコンラの望んだ通り穏やかなものであった。
生憎、両親の愛を得る事はできなかったが。
代わりに家族となってくれた優しい大人と沢山の兄弟達を得た。
争いのない土地で、気心の知れた友人達と何気ない事で笑い騒ぐ日々。
■■ラは幸せだった。
彼は幸せなまま歳を重ね、生を終え、輪廻の輪へと再び還る。
ーーーその筈だった。
運命のごとく、
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その日、彼は趣味の釣りを楽しむべく。
釣り道具一式を手に通い慣れた釣り場へと向かった。
はりきって朝早く出て来たというのに、港には既に先客がいて釣り糸を海に垂らしていた。
ーーーこの時間に俺より早く来てる人がいるなんて珍しいな。
興味を抱き、声をかけようと彼はその人物に歩み寄る。そして近づいたその背に、強い既視感を覚えた。
ひとつに結われた蒼く長い髪。
スポーツでもしているのか広く逞しい背。
彼は、此処ではないどこかで。
ずっとこの男の背中を追い求めていたような気がした。
「ーーー俺に何かようか?」
「ッ!」
男に先に声をかけられ、慌てた彼は言葉を探して視線をさまよわせる。
彼は二十歳前にしては背が低く、顔も童顔だった為。
その姿はまるで親への言い訳を探す子供のようにも見えた。
「え、えっと・・あっ!」
「ん?」
「釣り!俺も釣りをしに来たんです!!」
自分の握っていた釣竿が視界に入ってようやく本来の目的を思い出した彼は、急いで男に返事を返す。
振り返り、彼の様子を訝しんでいた男はその答えに納得したのか。
鋭い眼光を放っていた瞳をゆるめ、ニカリと快活に笑った。
「おっ!そうだったか。
もしかしてこの場所はアンタの定位置だったか?悪りぃな横取りしちまって。」
「あ・・大丈夫です。俺は特に場所とかにこだわり無いんで。」
「へぇ・・。まぁ、こうして会ったのも何かの縁だ。獲物がかかるまで話でもしようぜ。」
「え?あーーはい。」
男に誘われるまま彼は男の横に腰を降ろし。
自分も準備を済ませ、釣り糸を海に垂らした。
それから二人は他愛ない話を交わしながら、魚がかかるのを待った。
だが、一時間以上経っても獲物がかかる気配は一向にない。
「いくら何でもコレはねぇだろ。何だ?
今日は厄日かなんかか?」
「俺もここまで何もかからないのは初めてですよ。」
「・・・仕方ねぇ、終いにするか。」
「そうですね・・。」
ため息をつき片付けを始める男に倣って。
彼もまた肩を落としながら釣り竿を収納し、家を出た時からはめていたフィッシンググローブを手から外した。
「ーーーッ!」
途端に強い視線を感じて、彼は顔を横に向ける。
すると驚愕の表情で男が彼の手を凝視していた。
正確には、彼の右手の親指のつけ根にある。
指輪のような形をした痣を。
「あぁ・・これ、気になります?
生まれつきの痣なんですよね。まるで指輪みたいな形してるから、小さい時はよく同級生にからかわれましたよ。」
「・・・・なぁ。」
「はい?」
「その痣。もっとよく見せてもらってもいいか?」
「ーーーえ?」
男の言葉に彼は驚く。
普段の彼であったなら、出会ったばかりの他人に痣を見せる事などしなかっただろう。
けれど、彼はその男にどこか郷愁にも似た感覚を抱いていた。
そしてあまりにも真剣な男の表情に気圧された事もあって、素直に自分の右手を差し出す。
男はその手を両手で受けると、微かに震える指先で何かを確かめるように痣の形をなぞった。
「ーーーあぁ。そうだったのか。」
そして深く深く、男は息を吐き出した。
まるで万感の思いをのせるかのように。
「ここで運を使い果たしてたんなら。獲物がかからねぇのも、幸運Eなのも納得だな。」
「え?魚がどうかしたんですか?それに幸運って・・?」
「あーー。こっちの話だ、気にすんな。
それよりまだ俺の名前教えてなかったな?」
「あっ、はい。」
「俺はクー・・・いや、ランサーだ。アンタは?」
「俺は■■ラです。」
「そうか。■■ラ・・・良い名前だな。」
「ッ!・・・あ、ありがとうございます。」
柔らかな笑みを浮かべ、名を呼ばれた事に彼は動揺する。
その男の表情には、声色には、自分を想う何か温かな感情が込められているような気がしたのだ。
男から自分へと向けられるその温かなモノが何なのかわからず。
狼狽える彼は、反射的に礼を述べる事しか出来なかった。
「それじゃ、俺はもう行く。また何処かでな。
ーーー■■ラ。」
「あっ・・。」
けれど、ただひとつだけ。
混乱する彼にもわかった事があった。
それはーーー
「あ、あの!」
「ッ!」
彼がこの男と、もっと同じ時を過ごしたいと思っている事だった。
何かに突き動かされるように、急かされるように、彼は必死に去ろうとする男を引き止める。
「俺、ほぼ毎日この時間は此処で釣りしてるんでっ!もしよかったら明日から一緒にどうですかっ!?」
「ーーー。」
思ってもいなかった誘いに、男が目を丸くする。
彼もその男の反応に冷静になったのか、気不味げに目を逸らした。
「ランサーさんが良かったら・・・何ですけど。」
言い訳じみた言葉をつけ足して、彼は黙る。
男は少しの逡巡の後、そんな彼に満面の笑みで答えた。
「願ってもねぇぜ。
明日からよろしくな、■■ラ!」
「ッ!ーーはい!」
彼もまた男の答えに喜び、無邪気に微笑った。
それが生前、死に別れた二人の再会であり。
二度目の悲劇に向けての序章だった。
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※毎回、短くて申し訳ありません。
そして中々進まない。
特異点Fを抜ければコンラくんのケルト蹂躙タイムが始まる筈なのに!(悶絶)