イリヤちゃんとお別れした後、聖杯を回収しようとした俺達の前に緑色の服を着た男が現れた。
いったい今までどこに居たんだろう?
もしかしてずっとこの洞窟内に隠れてたんだろうか?
ーーーいや、それ以前に。
アレは人間なんだろうか?
首の裏がチリチリして全身に鳥肌が立つ。
立香ちゃん達との会話から知り合いらしいけど、見ていると凄くイヤな感じがした。
(発言もなんか悪役っぽいし。)
その当人は警戒するマシュちゃんを見下し、次に俺を一瞥して忌々しげに舌打ちした。
「このような虫ケラ1匹の為に我が王の計画を利用しようと企むとは。たかだか神の一柱が大きく出たものだ。」
ん?早口でよく聞こえなかったけど。
たぶんアイツ俺の事ディスったぞ。
初対面でいきなり失礼な奴だな。
髪型も変だし。←
俺が内心でムカついていると、急にマシュちゃんの後ろにいた所長が前に飛び出した。
「レフッ!ああ、レフ。レフ。
生きていたのね!よかった!!」
「所長っ!?いけません!」
「待って所長っ!!」
悪い予感がして、俺は所長の手を慌てて掴んで引き止める。
けれどーー
「離しなさい!
私はレフに助けてもらわないといけないの!!」
その手は無情にも振り払われてしまった。
ガーンッ!!
手、振り払われた!
ショックで思わずOrzの格好になる。
そんな俺を置いて所長は変な髪型の男ーーレフに駆け寄り、色々と捲し立てていく。
「管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし!予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった!でもいいの、アナタがいれば何とかなるわよね?だって、今までそうだったもの。今回だって私を助けてくれるんでしょう?」
その姿はまるで、親へと助けを乞い縋りつく小さな子供のようだった。
この人なら自分を護ってくれる。
何があっても助けてくれる。
無垢な子供が親へと寄せる絶対の信頼。
それと似たものを所長はレフに抱いているようだった。
だが、その信頼は裏切られる。
「ああ、もちろんだとも。
本当に予想外のことばかりで頭にくる。
その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。
爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんて。」
「ーーえ?」
レフは現状を理解できない所長に、残酷な真実を次々と明らかにしていく。
いわく、所長はすでに死んでいて。
その原因は爆弾を仕掛けたレフだという事。
今ここにいる所長は残留思念で。
カルデアに戻ると消滅してしまうという事。
ーーー何だよ、それ。
カルデアに帰るために所長は怖いのを我慢して、必死にここまで頑張って来たのに。
戻れないなんて・・そんなのおかしいだろ!
言葉を投げかけられる度に混乱し、顔色を悪くする所長。
その様子を愉しむかのように長々と自分の話を続けるレフに俺は苛立ちを覚えた。
「生涯をカルデアに捧げた君の為に、せめて今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう。」
いつの間にか聖杯を手にしたレフの背後の空間が歪み。そこから巨大な赤い地球儀のような物が出現する。
赤い地球儀を目にして、所長がそれを否定するように首を横に振った。
「な、なによあれ。
カルデアスが真っ赤になってる・・?
嘘よね?あれ、ただの虚像でしょう?レフ?」
未だにレフを信じようとする所長に、レフは本物だと告げる。
そして突き放すように、嘲りの言葉を所長へと浴びせかけた。
「ふざ、ふざけないで!私の責任じゃない!私は失敗していない!私は死んでなんかいない!!」
堪え切れず、衝動的に怒鳴り散らしてしまった所長へと向けるレフの眼差しは冷たい。
「まったくーー最期まで耳障りな小娘だったなぁ。君は。」
ふいに、所長の体が宙に浮いた。
どうやらレフが何かしているらしい。
そのまま所長を赤い地球儀ーーカルデアスに突っ込もうとしているようだった。
ーーーマズイ。助けないと!
俺は立ち上がり、所長を助けようと足を踏み出した。
《安心しろ・・・すぐに会いに行く。》
《・・うん。待ってるね。》
「ッ!」
けれど、脳裏を過ぎった父さんの言葉に次の足を踏み出せなくなった。
薄情にも俺は、所長を助ける事を躊躇ったのだ。
あのレフという底の知れない敵と戦い、万が一敗れれば。
もう二度と父さんと会えなくなる。
それが何よりも怖かったのだ。
父さんと会えなくなる恐怖と所長を助けたいという想いに挟まれ。
俺は迷い、動けなくなる。
その間にも所長はカルデアスへと運ばれていく。
ーーーどうすればいい?どうすれば・・!
そんな俺の耳に、所長の悲痛な叫び声が飛び込んできた。
「いやーーいや、いや、助けて。誰か助けて!
わた、わたし、こんなところで死にたくない!
だってまだ褒められてない!誰も、私を認めてくれていないじゃない!
どうして!?どうしてこんな事ばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった!
みんな私を嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや!だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も!誰にも認めてもらえなかったのにーー!」
パキリッと、何かにヒビが入る音がした。
《どうしてだろう?母さんも、師匠も。
俺を通してクー・フーリンを見ている。
どんなに頑張っても、俺を認めてはくれない。
一度でいいから、
認めてほしかった。褒めてほしかった。
ーーー頭を、撫でてほしかった。》
その瞬間・・・胸の奥からどこか懐かしく、聞き覚えのある声が響き。
同時に呼吸するのが苦しくなる程の哀願の感情が湧き上がる。胸を押さえ、反射的に顔を上げると所長と目が合った。
助けを求め、俺へと泣きそうな顔で手を伸ばす。
その姿に、唐突に所長に感じていた既視感の正体を理解する。
そうか。所長は似ていたんだーーー生前の
だから放っておけなかった。
その心の痛みを、自分もまた痛い程によくわかっていたから。
記憶は戻ってはいない。
けど、不思議と俺はそれを確信していた。
ーーーそして、それ故に。
俺の中の迷いは吹き飛んでいた。
助けなければと。
自分と同じ痛みを抱え、苦しむ彼女を助けなければと。
ただそれだけが思考を埋め尽くす。
「《
宝具の連続使用に魔力残量が危なくなる。
でも、立香ちゃんとカルデアから魔力を分けてもらっているおかけで動けなくなるほどではなかった。重くなった体を叱咤し、光槍を操りながら駆ける。
「コンラッ!」
「所長っ!」
分裂した光槍を階段のように足場にしてジャンプし。伸ばされた所長の手を掴んだ。
「掴まえ、た!」
「ッ!」
希望を見出した眼で俺を見る所長。
俺はその眼差しに力強く頷き、余った光槍をレフへと放った。
しかし、聖杯か。それともレフ自身の魔術か。
光槍は見えない壁に弾かれてしまう。
「羽虫が!うっとおしい!!」
本性を曝け出した醜悪な顔で、レフは腕を振り上げ、下ろす。
すると、俺の体は見えない何かに引っ張られて地面へと叩きつけられた。
「ぐ、は・・!」
せっかく掴んだ手は、引き剥がされてしまった。
「いや!コンラ!助けーー!!」
叩きつけられた衝撃ですぐに動けない俺は、所長がカルデアスに呑み込まれるのを見ている事しか出来なかった。
所長の絶望に染まった顔が、赤く燃える太陽に呑まれ見えなくなる。
この世に存在する全ての痛みを体感し、吐き出したような悲鳴も・・途切れた。
「あ、あ・・・しょ、ちょう。」
ーーー助けられなかった。
あんな近くにいたのに。
確かに手を掴んだのに。
強烈な悔恨と無力感に襲われ、体から力が抜ける。膝をつき、項垂れる俺をレフは愉しげに見下しながら口を開く。
「君が気に病む必要はない。彼女は望み通りまだ死んでいないのだから。まぁ、あの中で死んだ方がマシだと思える様な地獄の苦痛を、消滅するその時まで生きたまま味わうことにはなるがね。」
「ーーーオマエッ!!」
レフの言葉に、激しい怒りが胸を満たす。
こんなにも激しい怒りを誰かに覚えたのは生まれて初めてだった。
許せないーーー衝動のままに握りしめた剣で、レフへと斬りかかる。
だが、再びわけのわからない力によって弾かれ、地面に転がされた。
それでも睨み上げる俺が気に触ったのか。
レフは俺の体も宙に浮かし、カルデアスへとーー
「させません!はぁっ!」
「なっ!ぐほぁっ!?」
カルデアスへと運ぼうとして、マシュちゃんの投げた盾に邪魔された。
俺に気を取られていたおかげか、盾は見事にレフの腹に直撃する。
掴む手が緩み、レフの手から離れた聖杯は宙を舞う。
カランッと音を立てて俺の目の前に落ちてきた。
ーーーそうだ!聖杯!
これがあれば所長を助けられる!!
俺は急いでソレを拾った。
「コンラくん、大丈夫!?」
「遅くなってすみません!」
駆け寄ってきた立香ちゃんが、令呪で俺の怪我を治してくれた。
マシュちゃんはそんな俺達を庇うように、返って来た盾を構えて前に立つ。
「立香ちゃん!これで、所長をーー!」
「ッ! わかった!」
俺の言わんとする事を理解した立香ちゃんが、聖杯に願う。
「お願い!所長を助けて!」
けれど、聖杯は何の動きも見せなかった。
「なんでっ!?」
困惑する俺達を、レフが嘲るように嗤う。
(さっきまで腹を押さえて転げ回ってたくせに!)
「く、は、はははッ!!
当たり前だろう!あの小娘は文字通り、次元が異なる領域にいるんだ!いくら聖杯でも、別の次元に干渉し願いを叶えることなど出来ない!!」
「そんな・・!」
「ーーー。」
立香ちゃんが、俺の隣で最後の望みが絶たれたような悲痛な声を漏らす。
その声色には、諦めの感情が滲んでいた。
でも、俺はレフのセリフを聞いて別の事を考えていた。
ーーーつまり、同じ次元にいればいいんだよな?
「立香ちゃん。俺が念話で合図したら、令呪で俺達をこちら側に呼び戻してくれる?」
「コンラくん?何を・・」
これから俺がする事は傍から見たら無謀で、かなり危険な事だと自分でも思う。
それでも、俺はーーー
「所長を助けてくるね。」
「ーーえ?」
どうしても、所長を助ける事を諦められないのだ。
「父さんには内緒だよ!
(知られたら今度こそ尻を叩かれる!)」
俺は立香ちゃんの手から聖杯を掠め取り。
驚く二人を余所に、そのまま脇目も振らず走り出した。
「コンラくん!ダメッ!!」
「コンラくん!」
「一体何を考えてーーーはっ?」
立香ちゃんとマシュちゃんの静止の声が。
俺のしようとしている事に気づいたレフの間の抜けた声が。俺の耳に届く。
けれど俺は振り返らない。
片手に聖杯を握り締め、誰にも邪魔されないように全力で走り。
ーーーカルデアスへと、自ら飛び込んだ。
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所長を助けようとしたらコンラくんの生存率がヤバイことになった。
しまった。キャスニキのSAN値がゼロになる。
あと影の国姉妹の畜生レベルまで上がってしまった。
スカサハ師匠とオイフェ様には朱槍が飛んで来る前に土下座します。