「ーーーーっ!!!!」
飛び込んだ瞬間、全身が分子レベルで分解されていく激痛に苛まれる。
イタイイタイイタイ。
クルシイクルシイクルシイ。
いっそ殺してくれと思う程の。
気が狂ってしまいそうな苦痛の嵐。
意識が混濁し、目的を見失いかける。
でも、握りしめた聖杯の感触がそれをかろうじて防いでくれた。
記憶の中の、所長の助けを求める眼差しが俺を正気に引き戻す。
ーーーしょちょう、は・・?
レフが言っていた通り。
完全に分解され、消滅するまで少しの猶予があるみたいだ。
このチャンスを逃すまいと、霞む目を必死に凝らして所長の姿を探す。
そして見つけた。
あまりの苦しみに意識を失い。
カルデアスの中を漂う彼女の姿を。
俺は脚に力を込め、水の中を進む様に所長の元へと向かう。
ほとんど分解され輪郭も曖昧になってしまった手を掴み。
今度こそ決して離すまいと。
壊されていく肢体を引き寄せ、強く抱きしめた。
この状態で冬木に戻ってもすぐに消えてしまうと判断した俺は、先に所長を生き返らす事にした。
「しょちょうを!いきかえらせてくれ!!」
聖杯は強い光を纏い輝くと、俺の手の中から消えていった。
代わりに抱きしめる所長の輪郭が明確になる。
どうやら聖杯は俺の願いを叶えてくれたみたいだ。
ホッとしつつ、俺も限界が近いので急いで立香ちゃんに念話を送る事にした。
《立香ちゃん。いまだよ、れいしゅをーーー》
《ーーこん、らーくーー!》
《ーーー立香、ちゃん?》
《ーーースが!まって!まだーーー》
瞬間、立香ちゃんとの念話が途切れ。
ブツリと、自分の中の何かが絶ち切られる感覚がした。
パスが、切れた。
切れてしまった。
立香ちゃんとの繋がりがもう、感じられない。
呆然としながらも、俺はパスが切れた理由に心当たりがあった。
カルデアスだ。
カルデアスの力によって俺と立香ちゃんを繋いでいたパスもまた、分解されてしまったのだ。
体の分解より先にパスが分解されてしまうなんて。油断した。俺の目測が甘かったのだ。
「う、あ・・。」
突然脱出の手段を奪われ、俺は何も出来なくなる。こうしている間にも、体も精神も分解されて考える事が出来なくなっていくというのに。
何も思いつかない。
助かる方法がない。
俺は何かをしなければとただ焦り。
無意味に時を無駄にする事しか出来なかった。
「ーーーーーーーッ!!!!」
そんな中、所長が意識を取り戻してしまう。
すぐ傍から聞こえる絶叫に。
俺の体にしがみつく手の強い力に。
体の痛み以上に心が痛くて張り裂けそうになる。
結局、俺のした事は所長の苦しみを長引かせるだけの行為で。
俺はこの人を助けられないのだ。
きっと俺は、心のどこかで慢心していた。
セイバーを倒せた事で、今回も何とかなると思い込んでいた。
そんな都合のいい事など有りはしないのに。
セイバーに勝てたのだって、皆の協力があったからなのに!
俺は自分の愚かさと情けなさに、眼から涙か溢れ落ちるのがわかった。
けれど、その涙もすぐに分解されてしまう。
「ーーしょ、ちょう・・、ごめ・・なさ、い!」
無力な俺に出来る事はもう、謝る事だけだった。
助けられなかった所長に。
特異点に置いてきてしまった立香ちゃんと、マシュちゃん。そしてフォウくんに。
こんな俺を助ける為に、色々と手を尽くしてくれた爺ちゃんに。
そしてーーー
「とう、さ・・ん・・」
俺を息子だと認めてくれた。
護ると言ってくれた。
会いに行くと言ってくれた人。
それなのに俺は、自ら死地へと飛び込んでこのまま消滅するのだ。
待っていると言ったのに。
自分から口にしたその約束を破るのだ。
俺は父さんの想いを裏切るんだ。
ーーーごめんなさい。
唇を動かす気力すら奪われた俺は心の中で謝り続ける。すると、ふいに俺を掴んでいた所長の手がゆるんだ。
その手はぎこちない手つきで。
まるで慰めるように俺の頭を撫でてくれた。
驚いて所長の顔を見上げると、所長は微笑っていた。
苦しい筈なのに。
痛い筈なのに。
初めて見る穏やかな表情で微笑み、俺を包むように抱きしめる。
「ーーーありがとう、コンラ。」
耳元で囁かれたその一言に、俺は俺の愚かさを赦されたような気がした。
そしてその赦しの言葉を最後に、抗う心とは裏腹に俺の精神は限界を迎え。
温かなぬくもりに包まれたまま、眠る様に意識は途切れた。
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オルガマリー視点
意識を取り戻した途端、再び始まった地獄の責苦に私は悲鳴を上げた。
とっさに自分の近くにあるモノにしがみつき、少しでも苦痛を紛らわそうと力を込める。
くるしいくるしいしにたくない
やめてどうしてこんなことに
わたしばかりたすけてだれか
意味もない言葉の羅列が思考を埋め尽くす。
何故か正気に戻った意識が再び分解され、錯乱しかけた時。か細い声が壊れかけた私を引き止めた。
「ーーしょ、ちょう・・、ごめ・・なさ、い!」
その聞き覚えのある声に、私は私がしがみつくモノが何なのか気づく。
小さな体で必死に私を護ろうと、私を抱きしめる幼い子供。
ーーーコンラ。
どうして
最後に私を助けようと、私の手を掴んだコンラの姿が思い起こされる。
まさか、この子は。
私を助ける為に、ここまで私を追いかけて来てくれたのだろうか?
その可能性に思い至った私の脳裏に。
燃える街で過ごしたコンラとの記憶が蘇る。
《お姉さん!それ何?バンバン凄いね!》
《ひぃ!?こ、これ?これはガンドよ!》
《へぇー。カッコイイ!強いんだ!》
《・・置いてかないの?》
《え?何で?》
《だって、足手まといじゃない。》
《全然足手まといなんかじゃないよ。
さっきもガンドで援護してもらって助かったし。
それに例え足手まといになったとしても、俺はお姉さんのこと置いてかないから安心して。》
《ッ!!》
《もしも出来たなら、俺は所長と契約したかったな。》
《もう!アンタが変なこと言うからよ!?》
《だって、ホントに所長にマスターになってほしかったから。》
《まだ言うか!?》
《待って所長っ!!》
《離しなさい!
私はレフに助けてもらわないといけないの!!》
《掴まえ、た!》
《ッ!!》
ーーーそうだ。
どうして私はあの時、この子の手を振り払ってしまったのだろう?
この子は私を助けてくれた。
この子は私を褒めてくれた。
この子は私を認めてくれた。
私の欲しかったモノ、全てをこの子は私に与えてくれたのに。
コンラの瞳から零れ落ちた涙が、カルデアスに分解され消えていく。
その光景に、泣かないで欲しいと思った。
初めて会った時のように、無邪気に笑って欲しかった。
私に、笑いかけてほしかった。
体の痛みを堪え、私はコンラの頭を撫でる。
はじめて誰かの頭を撫でたのでぎこちない動きになってしまったけれど、彼の涙を止める事は出来た。
驚いて顔を上げたコンラに微笑み、その小さな体を抱きしめる。
激痛に苛まれているというのに、私の心は酷く穏やかで。かつてない程に満たされていた。
「ーーーありがとう、コンラ。」
ーーー私の心を救ってくれて。
命がけで私を助けようとしてくれて。
ここに至るまで、苦しくて哀しくて怖くて痛い事ばかりだったけれど。
最後にこんなにも満たされた、幸せな気持ちで消えれるのなら。
自分を唯一認めてくれた相手と一緒に死ねるのなら。それも悪くないと。
意識を失ったコンラを抱きながら私は想った。
死を覚悟した私は、素直に運命を受け入れて目を閉じる。
抱きしめる腕の中の温もりがあれば、もう何も恐ろしいモノなど無かった。
〘ーーー残念だが。我が孫をお前と心中させるつもりも、見殺しにするつもりも私にはないぞ。〙
「ーーーえ?」
けれど、唐突に響いた声の主は私の覚悟をあっけなく払拭し。
カルデアスから私達を、何か大きな力によって救い上げた。
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※お爺ちゃんに頑張ってもらいました←
これで所長のショタコン化は確定ですね。
そしてキャスニキのハートブレイクも確定しました。鬱だ。