第三者視点
〘なんとか間に合ったか・・〙
ルーは目の前に横たわる二人ーーコンラとオルガマリーの分解されかけた体と精神を復元し。
その作業が一段落ついたところで、ようやく詰めていた息を吐き出した。
そして空中に浮かぶルーン文字と幾何学模様の羅列を指先でなぞり、発動していた術を消すと。
改めて発動した別の魔術を上書きし、書き換えていく。
宝具《
故に、ルーが喚べば《
それを利用し、カルデアスという別次元から一時的に己の創った仮の座へと二人を救出する事に成功したルーは、続けて己の光槍へと新たに術をかけた。
それは今後コンラのいる特異点の定礎が復元されしだい、次の特異点へとコンラが自動的に送られる様にする転移の術だった。
最後のマスターとのパスが切れ、カルデアの協力を得られなくなった今。
コンラが人理修復の旅を始め、続ける為にはどうしても必要となるモノだった。
〘それにしても自ら
術をかけ終え、気を失っている孫の小さな体をオルガマリーから引き離しながらルーは深いため息をつく。
人理修復に挑む前からこの調子では、孫が旅を無事に終える事など不可能の様に思えたのだ。
しかもカルデアの援助もなく、おそらくアチラに召喚される事になるキャスタークラスの息子の協力も得られそうにない。
もはやスーパーハードモードと化したコンラの旅の生存率は絶望的だった。
だか、人理修復に挑む以外の選択肢はコンラには残されていない。
それは、挑まない=消滅する事を受け入れるという事だからである。
ーーー仕方がない。背に腹は変えられん。
ルーは労るように孫を優しく抱え上げ。
足元で気絶したまま何やらウンウン唸っているオルガマリーを見下ろしながら己の計画を変更する事を決めた。
それは目の前の魔術師の女と、孫を殺した魔槍を持つ
カルデアスに共に分解されかけた影響で、オルガマリーとコンラのパスは幸運にも繋がっている。
オルガマリーをコンラへ魔力を供給する
狂った計画を正すことが出来ないならば。
少しでもコンラが生き残れるよう手を回す事が、今のルーにとって最優先事項だった。
ーーーそれ故に、ルーはこの後。
カルデアに召喚される
それが
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「さっきぶりだな、マスター。」
「ーーーうん。そうだ、ね。」
予定通りカルデアに召喚されたキャスターは、己を喚んだ少女に軽く言葉をかけると。
すぐに周囲を見回し、約束を交わした息子の姿を探す。しかし、その姿はどこにも見当たらない。
代わりに視界に入ったデミ・サーヴァントの少女は、まるでキャスターを直視できないと言わんばかりに顔を伏せ。
マスターたる少女の傍らに寄り添うように佇むだけで、けして彼と目を合わせようとしなかった。
その様子に違和感を感じたキャスターは訝しげに眉を寄せ、己のマスターへと視線を戻す。
マスターである藤丸立香は、コンラの姿を探すキャスターの様子を沈痛な面持ちで見つめていたが。その視線が自らに向けられた事で。
彼女はキャスターが送還された後に起こった、事の次第すべてを彼に話すことにした。
彼女は自らが発する言葉がキャスターを酷く傷つけることをわかっていた。
けれど、それでも話さなければならないと彼女は思った。
あの少年の父親であるキャスターには、彼の最後の姿を知って欲しかったのだ。
最後の最後まで他者を助ける為に戦い、散った。
誰よりも優しく勇敢な少年の最後の勇姿を、藤丸立香はキャスターに伝えたかった。
「キャスター・・あのね。
コンラくんはーーー」
マスターの口から語られる話に、当初は黙って耳を傾けていたキャスターだったが。
しだいにその顔はこわばり、息子の死を告げられた瞬間。
その唇からは、掠れた声で否定の言葉が紡がれた。
「アイツが、コンラが・・死んだ?
ははっ・・冗談だろ?マスター?」
その問いには、本人も気づかぬうちに懇願の感情が滲んでいた。
ーーー冗談だと言ってくれ。
息子が死んだなど、嘘だと言ってくれ。
だが、マスターである少女は少年の死を否定せず。むしろ肯定する様にキャスターへと頭を下げ、謝った。
カルデアスへと飛び込んだ彼を止められなかった事を。
彼を助けられず、自分達だけカルデアへと戻って来てしまった事を。
彼女は涙声になりながらも、泣く資格は自分には無いと涙を堪え。
何度も頭を下げたまま少年の父親へと謝った。
もう一人の少女ーーマシュもまた、藤丸立香の横に並び。同じく頭を下げて謝る。
その二人の少女の行動によって、キャスターは受け入れたくもない事実を受け入れざる負えなくなった。
愛する息子の死が紛れもない事実である事を、彼は認めるしかなかった。
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キャスニキ視点
「ーーーはっ。」
俺は自分に割り当てられた部屋の壁に背を預け、ズルズルと力が抜けるままにその場に座り込んだ。しばらく一人にして欲しいとマスター達には伝えてある。
案内されたこの部屋に近づく者は、当分の間は誰もいないだろう。
「ーーーははっ!」
だが、そんな事はどうでもいい。
勝手に口から漏れる乾いた嗤いは、無様な己への嘲笑だった。
「ーーーコン、ラ。」
コンラが死んだ。
何が護るだ。
何がずっと傍にいるだ。
護れなかった。
肝心な時に傍にいてやれなかった。
優しすぎる息子は他人を助ける為に死地へと飛び込み。跡形もなく消滅してしまった。
あの温かなぬくもりも。
愛おしい笑顔も。
まだこの手は覚えていると云うのに。
まぶたを閉じれば、鮮明に浮かび上がると云うのに。
もう二度と触れることも、見ることも叶わない。
「ーーー。」
俺はその事実に、かつて無いほどの絶望感と虚無感に襲われる。
かろうじて残っていた戦士としての誇りも、英霊としての義務感も、一欠片も残らず崩れ落ち。
最後に残された父親としての愛情さえ、行き場を喪った今では渇き朽ち果てていくだけだ。
人理修復など、人類の未来など、もうどうでもよかった。
元々この旅の真の目的は、コンラを救う事だったのだ。
その息子が死んだというのに、見ず知らずの人間を救う事に何の意味があるのか。
息子のいない世界になど、何の価値も見いだせなかった。
いっそ己ごと滅んでしまえばいいと。
英霊が本来であれば願ってはいけない望みを抱いた時。
渇き切った湖の底から湧き水が湧くように。
魂の奥底に眠っていたーーー黒く澱んだ
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※キャスニキはヤリニキにポディションを盗られたもよう。キャスニキの絶望がとどまるところを知らない。
ケルトを蹂躙する前にキャスニキのメンタルを蹂躙してしまった。マジで申し訳ない。