コンラくんのFGO   作:彼に幸あれ

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『クー・フーリンの死』

 

 

 

第三者視点

 

 

 

アルスターの大地にて行われた父子の決闘は、父親の勝利によって決着が着いた。

 

心臓を魔槍に穿かれ、血に濡れた小さな子供の体を抱え起こした父親は。

その子供の親指に己が産まれる前の息子へと贈った、金の指輪がはめられている事に気づく。

そしてようやく、父親は己が殺した腕の中の幼子が己の子供ーーコンラである事を知った。

 

 

「ーーーーッ!!」

 

 

その残酷な現実は、アルスターの英雄たるクー・フーリンから一瞬にして正気を奪い去った。

 

 

「■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 

天に向け、怒れる獣の如き咆哮を上げた父親は。

己の身が血に濡れる事も厭わず。

我が子の亡骸を抱きしめ、うずくまり、そのまま動かなくなった。

 

 

「い、いったいクー・フーリン殿はどうされたのでしょうか?フィン殿。」

 

「・・・わからん。だが、嫌な予感がする。」

 

 

その様子を、王の命で遠くから決闘の行く末を見守っていた二人の戦士は訝しんだ。

フィンと呼ばれた美丈夫は己の勘を信じ、親指の力を行使する。

そしてその力により、フィン・マックールは近いうちにアルスターにて起こる惨劇を誰よりも早く悟った。

彼は未だ動揺する己の部下であるコナン・マウルを急かし。全速力で馬を駆けさせ、王の元へと直ちに戻った。

 

海より来た異国の少年に脅威を抱いていた王は、自国の戦士であるクーフーリンの勝利の知らせを聞き喜んだ。

しかし、続いて発せられたフィンの言葉にその表情は凍りつく。

 

 

「王よ。王が殺すよう命じられた子供はクー・フーリンの実子でした。

我が子を自らの手で殺めた今のクー・フーリンは既に正気ではありません。

私の親指の力をもちいたところ。数日のうちにクー・フーリンは息子の仇を討つ為、我々を殺しにやって来るでしょう。」

 

 

にわかにはその進言を受け入れられなかったコンホヴァル王は、千里眼の力を持つお抱えのドルイドに己の近い未来を視させた。

 

その結果は、フィンの忠告通りであった。

ドルイドが告げたのは今より3日後。

王自身も城にいる全ての戦士達も、皆が一人残らず狂乱状態のクー・フーリンの手により虐殺されてしまうという怖ろしい未来であった。

 

最強の戦士に命を狙われ死の恐怖にかられる王に、フィンは己の考えたある策を提案する。

それは未だ息子を殺めたショックで動けぬクー・フーリンにドルイド達総出で幻術をかけ。

誰もいない遠き場所にその身を追放するというものだった。

死を逃れる為に二つ返事でその策を了承した王の命により、王に使える全てのドルイドが城を出た。

 

ドルイド達と己の部下達を引き連れ半日で戻ったフィンは。最後に見た姿のまま変わらぬクー・フーリンの姿に安堵を抱き、直ぐさま指示を出す。

彼らは迅速に準備を済ませ、石のようにピクリとも動かぬクー・フーリンへと幻術をかけた。

 

 

「フィン様・・クー・フーリンの身をバーラの海岸へと馬で運びますが。あの子供の亡骸はいかが致しましょうか?」

 

 

ドルイドの一人の問いに、フィンは父親の腕に抱かれる死んだ幼子を見る。

 

 

「クー・フーリン本人はもはやアルスターの敵となってしまったが。彼の子が偉大なる英雄の子である事に変わりはない。

・・・我々で丁重に葬ってやろう。」

 

 

フィンの命により、彼の部下達は幻術をかけられ意識が混濁している父親から子供の亡骸を引き離す。

 

 

そして彼らは人の居ない遠き地へと父親を追放し。子供の亡骸は墓を建て、アルスターの大地へと埋葬した。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

いないいないいない

たしかにこの腕に抱いていたのに

どこにもいない息子がいない

なぜだなぜだなぜだ

 

 

追放され、バーラの海岸へと独り残されたクー・フーリン。

彼は息子を殺めた日からちょうど3日後。

うずくまっていた体を起こし、己の空っぽの両腕を見下ろした。

狂乱状態の精神の上に幻術をかけられた彼は、もはや己が何者であったのかすら覚えてはいない。

 

だが、息子のことは覚えていた。

己が何かに対して激しい怒りを抱いている事も、覚えていた。

 

クー・フーリンは息子を探して顔を上げ、眼前に広がる海岸線を目にした。

どこまでも続く大海原からは次々と波が押し寄せ、浜辺へと波飛沫を上げながらその身を打ちつけている。

 

 

そうか、おまえたちか

おまえたちがオレから息子をうばったのか

 

 

それはただの波であった。

しかし、幻術をかけられた父親にはそうではなかった。

彼の眼には、波はすべて己へと襲いかかる敵兵として映っていた。

 

 

「ーーーカエセッ!!!」

 

 

息子を取り戻す為に、父親は居もしない敵へと憤怒の形相で戦いを挑む。

 

その終わりのない戦いは7日7晩続き。

最後の夜、力尽きたクー・フーリンは波間に倒れ。その亡骸は誰にも知られぬまま冷たく暗い海底へと沈んだ。

 

 

 

ーーーこれは、数多に存在する可能性のひとつ。

平行世界のクー・フーリンが迎えた、終焉の記憶だった。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

キャスター(クー・フーリン)は思い出した。

 

(クー・フーリン)(誇り高き戦士)である為に、無意識のうちに魂の奥底に沈め。

忘却していた狂乱の記憶を。

 

 

王に命じられ知らぬままに息子を殺め

仇も討てず

亡骸さえも引き離され

最後は幻術に惑わされて死んだ

愚かな父親としての己の記憶を。

 

 

 

「ーーーッ!!!!」

 

 

 

記憶を取り戻したキャスターの渇いた心をドス黒い感情が満たし、渦を巻く。

 

過去の(クー・フーリン)の絶望が、怒りが、後悔が、未練が、切望が、執着が。

息子を喪った今のキャスターの昏い感情と交じり合い、彼をさらに狂わせていく。

 

これがランサークラスや別のクラスのクー・フーリンであれば。

この時点で発狂しカルデア内を暴れ回り、マスターの令呪で何かしらの処置を受けていただろう。

だが、キャスタークラスとして現界した彼はクー・フーリンの全てのクラスの中で最も齢を重ね。精神的にも成熟していた。

それが功を奏し、彼は完全に狂い切ることはなかった。

 

ーーいや、カルデアや人類の未来を思うならば彼は此処で狂い切るべきだった。

狂い切る事の出来なかった半端な狂気は、キャスターの中で冷静な思考と共に定着する。

 

そう、彼は狂ったのだ。

たちの悪い事に、冷静に狂ってしまった。

そしてキャスターは狂った思考のままに、己の中である答えを導き出す。

 

 

「・・・俺は息子(コンラ)をまた奪われた。

ーーー今度こそ、必ずこの手に取り戻す。」

 

 

 

彼は決めた。

愛する息子を取り戻す事を。

その為にカルデアを利用し(裏切り)、人類を利用する(滅ぼす)事を。

 

 

「待ってろ、コンラ。大丈夫だ。

少し時間はかかるが、会いに行くって言っただろ?約束は必ず守るからな。」

 

 

彼は笑う、誰も居ない虚空に向けて。

彼の虚ろな眼にのみ映る最愛の息子へと笑いかける。

 

 

《・・うん。待ってるね。》

 

 

記憶の中の息子の言葉が、笑顔が、彼の狂った決意を後押しする。

 

そしてキャスターは動き出す。

英雄である事を辞め、戦士の誇りを捨て。

ただの父親となった彼は息子と再会する為に、自ら道を外れていく。

 

誰に知られる事もなく。

彼は息子を救う(人類を滅ぼす)為の旅をたった独りで始めたのだった。

 

 

 

 

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※カルデア内部に爆弾が設置されました。

解除できるのはコンラくんのみ。

再会できなかった場合はもれなく人理再編ルートに突入します。

カルデアの皆さん・・マジですみません。

 

ちなみに上記の元ネタはアイルランドの民話『クー・フーリンの死』です。

フィンはディルムッドだけでなくアニキまで間接的に殺していたとは。

今回は正当防衛とはいえ、なんとも間の悪い人だ。

 

 

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