旅立ち
第三者視点
コンラのマスターとなったオルガマリー。
その右手の甲にかざしていた手をルーが退けると、そこには赤い歪な傷痕ーーー3画の令呪が刻まれていた。
〘
「わかった。ありがとう爺ちゃん!」
「色々ツッコミたいところだけど。我慢するわ。」
素直に感謝の言葉を述べるコンラに対し。
オルガマリーは再びとんでもない事を実行したルーのチートっぷりに諦観の表情を浮かべた。
〘セタンタもお前達の後をすぐに追うことになっている。少しの間、不安だろうが堪えてくれ。〙
「? セタンタってだれ?」
「セタンタっていうのはクー・フーリンの幼名のことよ。」
「えっ!?じゃあ、父さん来てくれるんだ!
やった!!」
尻尾があれば全力で振り回しているだろう勢いで喜ぶコンラの姿に。
ルーとオルガマリーは秘かに癒される。
そんな1柱と2人の耳に、バキバキという不穏な音が届いた。まるで、何かが壊れていく様な。
「な、何よこの音は?」
〘・・ふむ。見つかったか。
まぁ、アチラの方が千里眼の精度が上なのだから当然といえば当然か。〙
「爺ちゃん?」
ルーの言葉に疑問を抱き、問おうとした瞬間。
ルー神の仮の座の一部が大きく崩れ。
そこから赤い目玉が大量に生えた黒い化物達が侵入してきた。
「イヤーー!!!!何あれ!?何あれ!?気持ち悪い!!!」
「うわっ!目玉お化けがいっぱいだっ!!」
〘あれは魔神柱だ。人理焼却を行った黒幕の手下ーーーというか一部だな。〙
「なにそれ!?意味分かんないんだけど!!?」
〘問題ない。そのうち嫌でも知る事になる。〙
「イヤァアアアーー!!!知りたくないぃー!!!!」
「マスター!落ち着いて!!」
人理修復の旅に出る覚悟は決めたものの。
突破的な事態には未だ弱いオルガマリーのメンタルは、敵の急襲に早くもパニックを起こしかける。
コンラはそんな己のマスターを慌ててなだめた。
傍から見ると、小さな子供になだめられるダメな大人という図である。
その光景に、ルーは一刻も早くランサークラスの息子をこの二人に合流させなければと切実に思った。
〘コンラ。此処は私に任せて次の特異点へ行け。〙
「でも・・!」
〘案ずるな。我が身は太陽神、あの程度の雑魚に遅れはとらん。ーーーアラドヴァル。フラガラッハ。〙
ルーは両手を広げ、己の神器を喚ぶ。
すると、空気を焦がす様な熱風と灼熱の焔を纏った槍が。
ルーン文字が装飾の様に刻まれた鞘からひとりでに抜け、宙に浮かんだ長剣が。
それぞれ持ち主の左右の手に収まる。
どちらも強い神気を放つ武器にオルガマリーは息を呑んだ。
魔神柱達もその動きを止め、警戒するようにルーの出方を窺う。
ーーー凄い。
コンラは己の祖父の、計り知れない力の片鱗を目にし。感嘆の息を吐いた。
これが太陽神ルー。
人智を遥かに凌駕する神の力。
その圧倒的な力を見せつけられ、祖父の身の心配は不要なのだとコンラは理解した。
〘行け、コンラ。〙
「ーーーうん!
《
マスターであるオルガマリーの手をとり、彼はルーから譲り受けた宝具を発動する。
宙に現れた光槍が眩い光を放つと、二人の身体は光の粒子に変換され。《
「爺ちゃん!絶対にまた会おうね!
今度は父さんも一緒に!!」
〘ーーーあぁ、また会おう。〙
そしてコンラとオルガマリーは次の特異点へと転移し。それを見届けたルーは侵入者である魔神柱達へと顔を向けた。
〘待たせたな。〙
言葉と共に数十柱はいる魔神柱達の1柱ごとに彼は視線を巡らせた。まるで何かを確かめるかのように。
〘・・・残念だ。目的の者はいないのか。〙
【何の話をしている?】
しかし、目当ての者を見つけられなかった彼は微かに肩を落とす。
その様子に思わず疑問を投げかけた敵の1柱に、ルーは快く答えた。
〘実はな。お前達の仲間のレフーーーおそらく別の名もあるだろうがーーーが、我が孫を虫ケラ呼ばわりしてな。その報いを受けさせてやろうと思っていたのだ。〙
【【え。】】
〘だが、残念な事にそのクソやろーーゴホンッ!
その目的の者は来ていないのでな。
・・・・・代わりにお前達にその報いを受けてもらう事にした。〙
【【え″。】】
ルーは己の両手に馴染む神器の感触を確かめながら、久しぶりの戦いの高揚感に眼を細めた。
ーーーこうして戦うのは《クアルンゲの牛捕り》以来か。
遥か昔、息子の為にコノートの女王の軍勢と戦った事を思い出す。
湧いた懐かしさに導かれる様に、ルーは愛用の槍ーーーアラドヴァルの力を解放した。
途端に、焔の嵐が吹き荒れ。
あまりの熱量に魔神柱達の半数が蒸発した。
〘さて・・少しは楽しませてくれよ。〙
かつて《長腕のルー》と呼ばれた神は若き日を思い出し、獰猛な笑みを浮かべる。
その笑みを目撃した残りの魔神柱達は。
【【ーーー恨むぞ。フラウロス。】】
己の同胞への恨み言を呟き。
だが、自らの王と悲願の為にと。
憐れにも白目を向きながらルーへと特攻するのだった。
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次の特異点へと転移した俺とマスター。
光によって白く染められていた視界が戻り、俺達は状況を把握する為に周囲を見回した。
まず目にとまったのは大きな湖だ。
その周りを囲む様に鬱蒼とした森が広がっている。その森と湖の境目ーー湖岸に俺達は立っていた。
どうやら無事に新たな特異点に着いたみたいだ。
これからどうしようかと考えた時。
グーー。
キュルルル。
「「・・・。」」
俺とマスターのお腹が盛大に鳴った。
マスターは真っ赤になった顔を両手で覆う。
そういえば
パッと見て異変らしきモノも見当たらないし。
魔力を回復する為にも今のうちに食べといた方がいいか。
「よし!ご飯にしよう!」
「うぅ・・穴があったら入りたい。」
とりあえず枯れ葉や枝を集めて山にし。
地面に火のルーン文字を描いて、父さんのマネをしてみた。
「えーと。確かこんな感じでーーーアンサズ!」
「」←マスター
やった!ちっさいけど火が出た!
(ダメもとだったけどやってみてよかった。)
消えないうちに急いで枯れ葉を近づけて火を大きくした。これで焚き火の準備はOKだ。
「そうよね。あの神の孫だものね。4分の3は神の血だものね。」
遠い目をしてなにやらブツブツ呟いているマスターに火の番を任せ。(何かあったら念話ですぐ呼ぶようにお願いした。)
俺は食料調達もとい、魚を獲る為に湖へと向き直る。
どうせなら釣りで魚を捕まえたかったけど。
釣り道具を持っていないし、作るにしても時間がかかるので、今回は素潜りで行くことにした。
靴と上半身だけ服を脱いで魚影の写る湖に入る。
(もちろん準備体操はちゃんとした。)
腰ぐらいまで浸かった辺りで大きく息を吸い、水中にダイブした。
湖の水はとっても澄んでいて。
綺麗だなと感動しながら水の中を泳ぐ。
泳いでいる魚は動きが速いので狙わず。
湖の底の岩陰に隠れている大きめの魚をターゲットに突く。
狙った魚がうまく棒の先に刺さったのを確認し、俺は浮上しようとした。
「ーー?」
そんな俺の視界の端を小さな黒い影が通り過ぎる。
眼で追うと、その影はUターンしてコチラに向かってきた。俺の捕まえた魚を狙っているらしい。
せっかくの獲物を盗られては困るので。
近づいて来たその影を片手で素早く鷲掴みにした。
そのまま急いで水面に向かって泳ぐ。
「ぷはっ!」
顔を出し、息を整えてから自分の手の中の生き物に視線を落とす。
ーーーそれは、カワウソだった。
ジタバタと俺の手から逃れようと暴れまくっている。野生のカワウソを見るのは初めてで、興味津々で観察していると。
カワウソとバチリと眼が合った。
《放せ小童!ジロジロと失礼な奴め。ワシは見世物ではないぞ!!》
「わっ!カワウソがしゃべった!?」
驚く俺に、今度はカワウソが驚く。
《小童。お主、ワシの言葉がわかるのか!?》
「う、うん。」
《この姿のワシの言葉がわかるとは・・。うん?もしやその眼。魔眼の一種か?》
「あ・・。」
そういえば俺の眼は《
という事は、このカワウソ。
普通のカワウソじゃないのか。
幽霊ではないから、妖精か精霊の類かな?
(弱そうだから魔獣とかではないと思う。)
でもーーー
《いいだろう!小童の才に免じて年長者に対する無礼な行いは許してやる!だが、代わりに倍賞としてお主の獲った魚を寄越せ!ワシの腹がいっぱいになるぐらいにだ!》
こんな偉そうで意地汚い妖精(もしくは精霊)とか嫌だな。
俺の中のイメージが壊れる。
元はといえばコイツが人の獲った魚を奪おうとしたのが原因だし。
・・・うん。これは性格の悪いただのカワウソ。
当分はそれでいいや。
俺は水から上がり、丈夫そうな
マスターの身の安全の為に一応縛り上げたカワウソと、獲った魚をマスターに渡した。
「マスター、これ持ってて。」
「何これ。カワウソ?」
「うん。そこで捕まえた。お腹空いてみるみたいだから2人と1匹分、獲ってくるね。」
「わかったわ。気をつけるのよ?」
「うん!」
これ以上マスターを待たせないように、俺は急いで湖にとって返し。
大きな魚を数匹捕まえた。
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・アラドヴァル←槍に太陽と同等の熱量が宿っている。伝承では都市が溶けるレベル。
・フラガラッハ←どんな鎧も鎖も斬れる剣。オート機能付き。この剣につけられた傷は治らない。
お爺ちゃんの魔神柱無双が始まりました。
カワウソはオリキャラです。
正体は・・・あの方の父親です。