第三者視点
暗い森と湖の間にて。
焚火に照らされるコンラとオルガマリーは体を冷やさぬよう身を寄せあって眠っていた。
その2人の傍らに座る1匹のカワウソは、そんな2人を呆れた眼差しで見つめる。
出会ったばかりの自分を信用し。
見張りを任せたマスターとそのサーヴァントの不用心さに呆れていたのだ。
ーーー生前のワシだったなら、とっくにおさらばしていただろうな。
コンラの獲ってきた大量の魚のおかげで、彼の尽きかけていた魔力は満ちていた。
クズだった頃なら魔獣に寝込みを襲われて2人が死のうが構わず。利用するだけ利用して、すでにこの場を離れていた事だろう。
《それにしても・・なんとも不運な子供だ。
ーーーオッテルを思い出す。》
思えばあやつも自分に似ずお人好しだったなと。
ワザと噛みつき、摂取したコンラの血を分析しながら想う。
コンラとオルガマリーに話した彼の英霊としての能力は、自身と指定した他者の姿を動物に変えることが出来るというものであった。
しかし、正確には血を摂取した生き物の遺伝子情報を分析し。その情報を元にその生き物(動物、人間、魔獣。血を有する者なら何でも)に姿を変えるというものだった。
分析する過程で、彼は遺伝子に組み込まれた血の持ち主の記憶を観る事も出来た。
そして知った。己の父親に殺される事になった不運なコンラの姿を。
彼は同じく不運から神に殺されてしまった己の息子と重ねた。
あの日、ワシが魚を獲らせに行かせなければ。
多くの魚が獲れるようにと、カワウソにあやつの姿を変えていなければ。
神々があの河の側を通らなければ。
そして、その後に起こった醜い争いと死の連鎖も起こらなかったのだろう。
ーーーいや、違う。
あやつは関係ない。
ワシがあさましく、強欲であった。
それが全ての悲劇を招いたのだ。
死してようやく自分の愚かしさに気づいたと云うのに。未だに自身の罪から目を背けようとする己の性根に、彼は小さく舌打ちする。
彼は目を逸らすわけにはいかなかった。
己の代わりに《もう一つの罪》を被った《自分を殺した息子》に報いる為にも。
その息子にこれ以上、罪を重ねさせぬ為にも。
彼はけして逃げるわけにはいかなかった。
《ファヴニール。お主はワシがこの手で殺す。》
フレイズマル。
かつて人間であった邪竜ファヴニールの父親。
次男オッテルを神に殺され。
長男ファヴニールと三男レギンに裏切られ。
ファヴニールの手によって殺された男。
彼が覚悟と共に仰いだ夜空には。
見た事もない光の輪が輝き浮かんでいた。
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日が昇ると同時に湖の畔から出発し、俺達3人(2人と1匹)は森の中の獣道を進む。
邪魔な細い木や枝を剣で斬り落としながら、魔獣やワイバーンの襲撃を警戒しつつ歩いていく。
「あっ!あの木の枝先、実がなってる!食べれるかな?」
《むむ。アレはやめておけ。まだ熟していないうえに毒がある果実だ。》
「ふーん。詳しいのね。」
《生前は農夫でもあったからな。食用になる植物の知識には自信があるぞ。不作の時は自然の恵みに頼らざるおえなかったしな。》
俺の頭の上で胸を張るマルちゃん。
そうか。マルちゃんは生前、魔法使いで農夫だったのか・・・ん?
「ねぇ、マルちゃん。」
《何だ小童。》
「魔法使いだったなら。術で食べ物を出したり、農作物を成長させたりとかすれば良かったんじゃないの?」
《・・・。》
頭に浮かんだ何気ない疑問を口にしたら、急にマルちゃんが項垂れて元気がなくなった。
どうしたんだろう?
もしかして昨日(亡くなった息子さんの事)みたいに深刻な話題だったのかな。
「マルちゃん?」
《・・・ワシ、変身術以外の術はからっきしだったから。》
あ、別の意味で振っちゃいけない話題だった。
「で、でも動物に変身できるのって。俺、凄いと思うんだ!カワウソ可愛いし!撫でたい!!」
《それはお主の願望だろうが!慰める気ないだろう!?》
「コンラ。気持ちはわかるけどフォローになってないわ。」
ションボリするマルちゃんを頑張って励まそうとしたら怒られた。
何でだ。本当に動物になれるの凄いと思うのに。
いつでもモフモフし放題じゃないか!←
《ふぅ・・動物が好き、か。
そんなところまで
「? 何か言った?」
《ーーーああ。
何度も人をペット扱いするなと言ったんだ!》
「ギャーッ!?痛い!頭に爪立てないで!!」
「コンラ!?あんたこの子を傷物にしたらガンドで蜂の巣にするわよ!」
《傷物て・・。随分と
マスターが注意してくれたおかけでマルちゃんが立てていた爪を引っ込めてくれた。
うぅ・・痛かった。
もうマルちゃんは頭に乗るの禁止だ。
爪が喰い込んだ部分を涙目になりながら押さえていると。強い風が吹いて木々を揺らした。
嫌な気配を感じて、とっさに頭上に目を向ける。
激しく揺れる枝と重なった葉の隙間から、遠くに青空が見えた。
ーーーギャアアアッ!!!
その青空を、怖ろしい鳴き声と共に幾つかの大きな影が横切り通り過ぎて行く。
一瞬だったけど、羽ばたく羽根のような物が見えた。アレはーー
《ワイバーンか。》
俺の肩に移動したマルちゃんの呟きに、予想が当たった事を知る。
どうやら俺達は森の中にいたから見つからずに済んだらしい。
《ヤツら集団で同じ方向に移動していたな。もしやどこぞの街でも襲うつもりか?》
「え!?」
何だそれ。大変じゃないか!
早くワイバーンの後を追って止めないと!
「急ごうマスター!」
「え、ええ。」
俺は躊躇いながらも頷くマスターの手を引き、先を急いだ。
間に合わなかった。
森を抜け、俺達が街に辿り着いたのは事が終わった後だった。目にしたのは
「ーーひどい。」
燃え、崩れ落ちた家々
地面に転がる黒い人型のモノ
鼻をつく異様な臭い。
直視してしまい俺は思わず吐きそうになった。
でも、唇を噛み締めてグッと我慢する。
そして俺と同じく顔を青褪めさせたマスターの傍に寄り。剣を構えて周囲を警戒した。
ワイバーンか、血の匂いに誘われた魔獣が近くにいるかもれないと思ったからだ。
《ッ!こっちだ!》
「マルちゃん!?」
鼻をひくつかせていたマルちゃんが、ふいに俺の肩から飛び降り走り出した。
瓦礫の隙間を縫う様に駆ける小さな姿を見失わないようマスターと一緒に追いかける。
「あれは・・!」
「マスター!人がいる!」
追いついた先には、大量の瓦礫に体が半分ほど埋まった男の人。
その傍らにマルちゃん。
亀と獣をミックスしたみたいな生き物。
十字架のような杖を持った女の人がいた。
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第三者視点
フレイズマルは人や物が燃えた臭いの中。
微かに己の知る匂いを嗅ぎとり走り出した。
ーーーこの血の匂いは
これはもしや・・。
抑止力から与えられた知識により。
血の持ち主に見当をつけ、己の目的に必要な人物だと判断した彼は。
コンラ達とその人物を合流させるべく駆ける。
そして辿り着いた場所には瓦礫に埋まる瀕死の男ーーージークフリートがいた。
その傍らに立つのは聖女マルタと彼女に従う竜タラスク。
マルタは近づいて来る小動物がただのカワウソではないと一目で見抜き。
念の為に杖を向けつつ、背後のタラスクに指示を出す。
「ったく・・狂化の衝動を抑えるだけでもツライってのに。タラスク、彼をお願い。」
《了解っす、姐さん。》
指示を受け、タラスクはジークフリートの体から瓦礫を退かす作業に入る。
己を召喚し立ち去った竜の魔女の「ジークフリートにとどめを刺せ」という命令に逆らい。
強い精神力で正気を保ちながら《竜殺し》たる彼を彼女は救おうとしていた。
その様子に彼らが敵ではない事を理解したフレイズマルは、大人しく後ろの2人が追いつくのを待った。
「あなたは・・?」
カワウソの後から現れたコンラとオルガマリーにマルタは聖女として己の名を告げる。
「私はマルタ。ただのマルタです。」
「マルタ?まさか、あの悪竜タラスクを鎮めた聖女マルタ?」
「ええ。あなた達は?」
マルタの問いにオルガマリーは人理焼却の事。
自分達がいまフランスで起こっている異変を止める為に此処にいる事を話した。
話を聞き終えたマルタは目を閉じ、十字を切る。
「此処であなた達と会えたのは神の思し召しですね。神の愛に感謝を。」
「あ、神だって。この人は爺ちゃんの知り合いかなマスター?」
「そうよ・・って言ってあげたいけど違うわ。この人が言ってるのは別の神様よ。」
「そっか、残念。」
「え?爺ちゃん?え?」
とんでもない事(神の孫=《彼》の息子?)を聞いた気がして。
思わず聖女の仮面が外れるマルタ。
しかし、問題の少年の事情を簡単に説明してもらい。
ホッと彼女は安堵の息を吐く。
「あー、ビックリした!《彼》の隠し子かと思って焦ったじゃない。紛らわしい事言わないでよ。」
「「・・・。」」
《姐さん。思いっきり地が出てるっすよ。》
「ハッ!しまった!」
聖女モードと地の性格のギャップに驚き唖然とするコンラとオルガマリー。
そんな2人にマルタは誤魔化すように咳払いをすると。己の召喚された経緯を話し始めた。
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※今回でストックの残数が無くなりました。
一週間に一回投稿を目標にしているのですが、急に不定期になってしまったら申し訳ありません。
そしてついにマルタ、タラスク、ジークフリート(瀕死)が登場。
ヤリニキはまだ来ない!←