話し合いの末、俺達はこのままフランス各地の街を回る事になった。
それはジークフリートの呪いを解ける聖人のサーヴァントを探す為と。その過程で立ち寄った街の人々に危険を知らせ避難させる為だ。
全員の了承を得たところで、マルタさんが笑顔でパンッと両手を叩く。
「それでは話も纏まった事ですし。出発まで各自交代で休息を取りましょうか。
あぁ、周囲の警戒は私達がしますので。貴女達は構わずゆっくり休んでくださいね。」
「ありがとうマルタ。助かるわ。」
マルタさんの気遣いにマスターと一緒に感謝し。
俺は何気なく窓から暗くなった外を確認した。
その瞬間ーー
《姐さん!来るっす!!》
「っ!みんな伏せて!」
1匹のワイバーンがコチラに向かって突っ込んで来る光景が眼に飛び込み。
俺はタラスクと同時に声を上げながら、とっさにマスターに飛びついていた。
「きゃあっ!」
「ごめんマスターッ!!」
マスターを床に押し倒し、その上に覆い被さって身を低くする。(思いの外近くなったマスターの顔は何故か真っ赤だった。)
すると頭上を破壊音と共にワイバーンがもの凄いスピードで通り過ぎるのがわかった。
横目で確認すると、幸いにも屋根はまるまるふっ飛んでいて壊された家屋の下敷きになるような事はなかった。
降り注ぐ細かい破片が止むのを待ってから顔を上げ、周りを見回す。
「ゲホッ!ゴホッ!皆さん無事ですか?
今のワイバーンは一体・・?
まるで墜落して来たみたいに見えましたけど。」
「ワシの匂いに引き寄せられたか?いや、まだワシは小童に化けておるからそれはないか。」
「ワイバーンの背に何かいたような気がしたのだが。」
《あっ!俺も見やした!
なんか目玉が飛び出た気持ち悪いのがくっついてたっすよ。》
「まさか、ワイバーンに寄生する新種の魔獣が・・?」
よかった。みんなも無事だった。
各自が言葉を交わしながら体にかかった破片や埃を払い立ち上がる。
俺も身を起こし、なにやらワタワタと挙動不審な動きをするマスターを不思議に思いながら手を差し出す。
「マスター、立てる?」
「あ、うっ・・え、ええ。大丈夫よ。」
俺の手をしっかり握ったのを確かめてからマスターを引っ張り起こす。
そして立ち上がったマスターを背に庇い、墜落したらしいワイバーンの方へ剣先を向けた。
俺達が休ませてもらっていた家の上部を壊し。
更に数十メートル地面を抉りながら墜落したワイバーンは、今は見るも無惨な姿で平原に転がっている。
あの様子だとたぶん絶命しているだろう。
新種の魔獣がくっついていたそうなので。
俺達が油断せずに警戒しながら近づくと死んだ筈のワイバーンが微かに動いた。
いや、正確にはワイバーンの亡骸をずらして下敷きになっていた何かが出てきたのだ。
「ああ、私とした事が。つい興奮してワイバーンの操作を誤ってしまいました。」
這い出すようにして現れたのは奇抜なローブに身を包む1人の男。
その頭からは血がドクドクと流れだしているのにも関わらず、本人は気にした風もなく不気味に嗤っている。
半ば飛び出しているその眼は舐める様な眼差しで俺の事をガン見していた。
「フフフハハハハハッ!!!!
素晴らしい!アナタは実に素晴らしい!!
なんて神性な魂の輝き!幼い肢体から放たれる神気の強さ!アナタは神の恩寵を一身にその身に受けているのですね!
あああああっ!!その魂を!肉体を!穢し堕としたならばアナタはさぞや最高の神への冒涜の供物となり至高の傑作となることでしょう!!!」
両腕で宙を掻き、唾を飛ばして喚き散らす男は己の内なる狂気を月夜に叫ぶ。
その瞳は正気を失いながらも、どこか冷静に獲物として俺に狙いを定めていた。
ゾワッとかつてない程の身の危険を感じて背中に鳥肌が立つのがわかった。
俺の魂が、全身が、あの男は危険だと警鐘を鳴らす。(そうでなくとも生理的に気持ち悪くて無理だけど。)
いきなり現れた変態にロック・オンされて俺はちょっと泣きたくなった。
そんな俺を護るようにマルタさんとジークフリートが前に出る。
「はぁ?神への冒涜?供物?ざけんじゃないわよ!しかもこんな子供を狙うだなんてありえないわ!ーー跡形もなくぶっ潰す!!」
《あーあー、とうとう姐さんがあの頃に戻った。
狂化で自制がゆるんでたもんなー。》
憤怒の表情でマルタさんは聖杖を(どこか諦めた様子の)タラスクに投げ渡し、いつの間にか装着した籠手に覆われた拳を男に突きつける。
「子供に無体な行いをするのは見過ごせない。すまないが邪魔させてもらう。」
ジークフリートはまだ顔色は悪いものの、危なげなく
マスターがサッと俺の姿を男から見えないように体で隠してくれたおかげが、2人の姿を目にしたからか。
男の顔から狂気が抜け落ち真顔になった。
「おっと、また自分を抑えられなくなるところでした。良い素材を前にすると創作意欲が溢れて困りますね。さて・・応えぬ神に殉じる売女と我が聖処女の障害となる匹夫ですか。」
男はおもむろに懐から1冊の本を取り出す。
本が纏う禍々しい魔力にあの本がただの書物ではない事はすぐにわかった。
「気をつけて。アイツが例の魔女と一緒にフランスを襲っているジル・ド・レェよ。」
「えっ!あの変態が!?」
「変態ではありません。芸術家ですよ、坊や。」
「アンタこの子に話しかけるのやめてくれる?
コンラの耳が腐るじゃない。
子供を襲う芸術家とか。さっさと爆発して死ねばいいのに。」
まるでゴミを見る様な眼で変態ーージル・ド・レェを睨めつけるマスター。
はじめて聞く冷ややかな声に俺はギョッとした。
ど、どうしたんだろう。
マスターが何やら凄く怒ってる。
芸術家が嫌いなんだろうか?←
(というか俺、外見は子供だけど一応中身は20歳手前なんだが。もしかしてマスター忘れてる?)
内心で狼狽えている俺とは対象的に。
ジル・ド・レェはマスターの言葉を特に気にした様子もなくパラパラとページを捲っていく。
そしてあるページでその指先を止めた。
「まったく・・これだから芸術のわからぬ凡夫は。まあ、いいでしょう。
無理に理解する必要はありません。
ーーー貴方達は此処で海魔の餌となるのですから!!
《
・・・あ、でもそこの坊やは殺してはいけませんよ。極上の供物ですから捕まえるだけにしなさい。その後で私がゆっくり、時間をかけて・・・フフフフフッ!!」
あの本はやっぱり敵の宝具だったらしい。
本に纏わりついていた靄のような魔力はジル・ド・レェの声に応えるように揺らめき。
躍動したかと思うと不気味な怪物ーー海魔をこの場に召喚した。
(その後に何か言ってた気がするけど、俺は何も聞いてないよ?聞いてないったら聞いてないからね?←必死)
「■■■■■■■ッ!!!」
タコとヒトデが合体したみたいな怪物は召喚された事を悦ぶように。鋭い牙が並ぶ口から歓喜の鳴き声を上げた。
うわー。
目玉お化けの次はタコヒトデお化けか。
ワラワラと本から出てくる海魔達にデジャヴを感じながらも。意識を切り替え、マスターを襲ってきた1匹を剣で斬り伏せる。
「だああっ!ハレルヤアアァッ!!!」
マルタさんは自ら敵へと突撃し。
伸びてきた無数の触手を躱して渾身の一撃を海魔に叩き込む。
タラスクは口から火を吐いて援護しつつ、その背を護っていた。
「ギャーッ!!ワシ違うから!ニセモノだから!!」
「マルちゃん!!」
「こっちだフレイズマル!」
俺と誤認した海魔に追いかけられ、逃げ回るマルちゃん。
一緒にマスターを護ってくれていたジークフリートが見かねてマルちゃんをこちらに呼んだ。
《危なかった!危なかった!外見的にも年齢的にも触手プ○イはアウトだから!!》
「アンタのその発言の方がアウトよ!」
「え?触手がなに?」
「あっ!いいのよコンラ!気にしないで!!」
「???」
触手がどうのこうの言っていたみたいだけど、マルちゃんを追いかけて来た海魔を退治してたら聞き逃してしまった。
まぁ、マスターが気にしなくていいって言うならいいんだろう。
マルちゃんは追いかけ回されたのが相当嫌だったらしく。俺達の元に来るとすぐ様カワウソの姿に戻った。今は俺の足元でゼェゼェと息を整えている。
「ちっ!雑魚とはいえ多勢に無勢はキツイわね。
タラスク!!」
《了解っす!やっと俺の見せ場っすね!!》
前衛で戦っているマルタさんがタラスクの甲羅に触れ、魔力を渡す。
《「《
彼女の宝具であるタラスクは頭と手足を甲羅の中に引っ込め。自分が吐いた炎を纏い高速回転しながら海魔の群れへと突っ込む。
爆発したような衝撃と共に押し寄せた熱風に数秒目を瞑り。開くと海魔は全て綺麗に焼き払われていた。
「ナイスよタラスク!私とタラスクにかかればあんなヒトデもどき、敵じゃないっての!!」
見事に敵を一掃して胸を張るマルタさん。
タラスクも褒められたからかちょっと嬉しそうだ。
「忌々しい売女ですね。ですが、これで終わりではありませんよ!!」
「げっ!」
「嘘でしょ!?」
せっかくマルタさんが駆除してくれたのに。
海魔はジル・ド・レェが本を掲げただけで再び召喚されてしまった。
しかも明らかに前より多く召喚されている。
「この数で単騎は危険よ!マルタ!
いったんこっちに合流して!」
「ーーーそれが最善、か。」
マスターの注意を受け、マルタさんは口惜しげに前衛からタラスクを伴って俺達の元に後退した。
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※コンラくんはたぶん(ジャンヌを除いたら)青髭の旦那の好みドンピシャだと思ったので。
戦闘シーンがツライ!