第三者視点
「あの娘は私がもらっても?」
「構わない。余は小僧の方をもらおう。」
お互いの血を啜る相手を決め、狩りを開始した。
「さぁ、私の美の糧になってちょうだい?」
「ーーえ?なっ!?」
カーミラは屋根から飛び降りると、己の杖の一部である鎖を魔力で操り。瞬時にオルガマリーの肢体を拘束した。
そしてズルズルと絡め取った獲物の体を己の元へと引き寄せる。
その先に待ち受けるのは、少女の姿が彫られた棺の様な拷問器具ーー《
ゆっくりと開かれた棺の中身は隙間なく鋭い棘に覆われ、オルガマリーが入るのを待ち構えていた。
「ーーーッ!!!」
「マスターッ!!」
迫る死の恐怖に声も出ないオルガマリーを助けようと。コンラは剣を片手に己のマスターの元へ向かう。
そんな彼の前にウラド三世が立ち塞がった。
「貴様の相手は余だ。
気に入らぬ召喚主に望まぬ形で喚ばれたのだ。
少しぐらいこの余興を愉しませてくれ。」
「知らないよそんなこと!
邪魔すんな吸血鬼っ!!」
助けに行く事を邪魔され、焦りからウラド三世に暴言を吐くコンラ。
敵の吸血鬼のような容姿を見て、彼は見たままを言ったのだが。その言葉はウラド三世の怒りを買ってしまう。
「・・・いま、何と言った小僧。」
竜の魔女に召喚された今のウラド三世は、狂化の影響で身に宿る吸血鬼の能力を許容してはいるが。本来の彼は《吸血鬼》という汚名を注ぐ為に英霊となったルーマニアの王である。
そんな彼にとって《吸血鬼》と呼ばれる事は最大の屈辱であり侮辱であった。
禁句とも言えるその言葉を吐いたコンラに対し、ウラド三世は怒りから顔を歪ませる。
「余をその名称で呼ぶとは。
ーーー遊びはやめだ。死ね!」
石畳から、民家の壁から、数えきれない程の杭が出現し。コンラの全身を串刺しにしようと一斉に襲いかかる。彼に逃げ場はない。
「コンラッ!!」
自身に身体強化の魔術をかけ、カーミラの引く鎖に必死に抵抗していたオルガマリーは叫ぶ。
己にとって何よりも大切な
しかし、それは本人に念話で止められる。
《大丈夫だよマスター。
安心して、すぐ助けるから!》
そして彼は己の
「《
コンラに喚ばれた5つの光槍が、今の主を護る為に迫る全ての杭を砕き、燃やし尽くす。
「なにっ!?」
強い輝きを放つ宝具が召喚され、とっさに眩しさから目の前に手をかざすウラド三世。
コンラはその隙に光槍の1本を操り、オルガマリーを拘束していたカーミラの鎖を断ち切った。
「ちっ!邪魔を・・
「《ガンドッ!》」
「っ!?・・くぅっ!!」
拘束から逃れたオルガマリーは自由になった腕を伸ばし、直ぐ様カーミラへとガンドを撃つ。
高い魔力密度から形成された赤い魔弾が彼女の白い腕を撃ち抜いた。
だが、彼女の反撃はこれで終わらない。
「天体は空洞。空洞は虚空。虚空には神ありき。
神に選ばれし
オルガマリーが発動した魔術により、彼女の前にひとつの星座の図が展開する。
それは神話の時代、
「ーー浄化せよ《
少年の持つ水瓶が逆さになり、中から神々の美酒ーー地上の者にとっては《聖水》が水流となってカーミラを押し流す。
「ーーーッ!!!」
絹を裂くような悲鳴が彼女の喉からほとばしった。聖水は吸血鬼の弱点。
吸血鬼として現界している今の彼女にとってもそれは変わらない。
「あ、ぁあっ!そんな!
私の、わたしの肌が・・美がっ!」
聖水を浴びた肌が焼け爛れ、煙を上げるのを直視したカーミラは泣き叫ぶ。
己の美しさに死しても執着する彼女にとって、それはあまりにも残酷な光景だった。
そんな半狂乱の彼女を見、オルガマリーは良心の呵責を感じたが。
首を振り、罪悪感を払うとカーミラへとその指先を向ける。
「私は
彼女は己のただひとりのサーヴァントを想い。
彼の為に。彼のマスターとして。
冷静かつ、冷酷に人差し指の先に宿った魔弾を放った。
「あっ・・。」
カーミラは無抵抗のまま急所となる額と心臓を撃ち抜かれ、霊基を破壊される。
悲鳴は止み。
グラリと、細い体が傾き淡い光に包まれた。
「ーーーだから、怨まないでよね。」
弱気な言葉とは裏腹に。
消えるカーミラを見送ったオルガマリーの瞳には、強い意志が宿っていた。
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《・・今の音は。それに、この血の匂い。》
コンラ達との合流場所を目指して走っていたカワウソーーフレイズマルは。
異常を察知し、その脚を止めた。
路地裏から大通りへと出て、小さな鼻をひくつかせる。
覚えのある血の匂いと、嗅いだことのない人間の匂いを嗅ぎとり。
破壊音の聞こえた方向に彼は眼を向けた。
《まさか、新手か・・?》
フレイズマルの脳裏に真っ先に浮かんだのは
当初はただ
息子達を思い起こさせるコンラとジークフリートと接するうちに。
いつの間にか彼らに情を移すようになっていた。
故に、彼らの安否を気にしつつ。
フレイズマルは元来た道を急いで戻ろうとした。
その矢先。
「■■、■■、■ーーッ!」
《うげっ!》
運の悪いことに、ジル・ド・レェの支配下から逃れた1匹の海魔が彼のいる大通りを通りかかった。嫌な音を立てながらワイバーンの亡骸を咀嚼して移動していた海魔は。
フレイズマルに気がつくと、残りの亡骸を一口で飲み込み。
新たな獲物を求めて彼に襲いかかってきた。
《ギャーーッ!!!》
フレイズマルは今夜2度目となる絶叫を上げながら、海魔の反対方向へと全力で走り出した。
しかし、カワウソの姿の彼ではスピードはあっても歩幅が完全に相手に負けていた。
しだいに距離を詰められてしまう。
フレイズマルはいっそ鳥に変化して空へ逃げようかと思考を巡らせ、走りながら術を行使しようとした。その時ーーー
「《
《っ!?》
逃げる彼の頭上を1本の朱い槍が音速で通り過ぎ。背後に迫っていた海魔を穿いた。
見覚えのある(コンラの血の遺伝子情報を分析する際に、彼の記憶に映っていた)朱槍に。
フレイズマルは「まさか」と眼を見開き、槍の飛んできた方へ顔を向ける。
「アンタ、ただのカワウソじゃねぇな。
・・・英霊か?」
その男は思いの外近くにいた。
手元に戻ってきた魔槍を慣れた動作で肩に乗せ。
ゆうゆうとフレイズマルの前まで石畳を歩いてくる。
「色々と聞きてえ事はあるが。
とりあえず、ひとつだけいいか?」
あと数歩という所で立ち止まり。
海魔が完全に消滅したのを確認してから。
男は視線をフレイズマルに近付けるようにしゃがみ、問う。
「金髪の坊主と白髪の嬢ちゃんのふたり連れを見てねぇか?探してんだ。」
《ーーーッ!》
間違いないと、彼は確信する。
目の前の男が
そして同時に、助けられたにも関わらず。
フレイズマルの胸の内に
それは2人が息子を持つ父であり。
2人が同じく我が子を苦しめる罪を犯した罪人であった事からくる《同族嫌悪》であった。
フレイズマルは欲に目が眩み
クー・フーリンはその手で2度も
真逆の立場でありながらも、息子への贖罪という同じ目的の為に
こうして混沌と化した街中で出会ったのだった。
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※所長にオリジナル魔術を使わせてしまった。
公式で天体に関する魔術を使っていたので、星座くらいいけるかなっと。
いける筈だ・・腹をくくった所長なら、きっと。
最後にヤリニキがやっと来ました。
コンラくんとの再会までもう少し!