第三者視点
ルー神から事の次第を聞き。
だが、彼はコンラと過ごした
当初はルー神から伝え聞いた情報だけを頼りに。
宛もなく聞き込みでコンラとそのマスターの行方を探していたランサーだったが。
交戦中のワイバーンの突然の奇行に疑問を抱き。
その後を追いかけ、ワイバーン達が集結する街ーーコンラ達のいるこの街へと辿り着いたのだった。
情報を得るため、海魔に追いかけられていた(おそらく)カワウソの姿をした英霊を助けたランサーは。
己の問いに答えず、睨む様にコチラを見上げる相手にどうしたものかと頭を悩ませる。
ーーーもしかして。喋れねぇのか?
そう思い至った彼は(情報が得られないならば)と立ち上がり。歩を進めてカワウソーーフレイズマルの横を通り過ぎる。
彼は自らの眼でこの街の状況を確かめる事にしたのだ。
「ーー待て。」
ふいに、そんなランサーを呼び止める声がした。
酷く懐かしい、聞き覚えのある幼い声音。
忘れられる筈もない。
生前に己が殺めた、
驚き、弾かれたように彼は振り返る。
その眼に飛び込んで来たのは、初めて会った時のままの幼いコンラの姿。
「ッ!コン、ラ・・じゃ、ねぇな。」
しかし、その瞳に渦巻く昏い鬱々とした感情の色と。ルー神が創造した器にも関わらず神気をまったく感じない肢体に。
彼は目の前の存在が息子とは別人である事を一目で見抜く。
「てめぇ、その姿はどういう事だ。
答えによっちゃ容赦しねぇぞ。」
コンラの姿に変じたフレイズマルに。
息子の身を案じ、思わず殺意を滲ませるランサー。
そんな彼に対し、フンッと不機嫌そうにフレイズマルは鼻を鳴らした。
「早とちりするな。ワシはお主の息子の味方だ。
あやつに会いたければ黙ってワシについて来い。」
一方的にそれだけを告げ。
フレイズマルは時間が惜しいとばかりに、返答も待たずに駆け出した。
ランサーは相手のその態度に眉をひそめるも。
深いため息を吐き、大人しく彼の後を追いかける。
ーーーあぁ、くそっ!
分けわかんねぇぜ。
息子に会う為に、息子(の姿をした別人)の背を追いかけるという奇妙な状況に頭痛を覚えながら。
ランサーは自らコンラのいる火中へと身を投じるのだった。
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「ここまでか・・。」
《
誰にともなくそう呟くと、俺に向けていた銀の槍の矛先を下ろした。
どうやらもう戦う意思はないみたいだ。
勝負が着いたのを確信し、俺も光槍を送還する。
「小僧。まだ甘いが、良い槍さばきであった。
ーーそして問おう。あの槍からは神の気が放たれていたが。もしや貴様は神に関わりのある者か?」
「あ、うん。爺ちゃんが神様なんだ。」
「やはりそうか。
俺の答えに何やら納得した様子で自嘲した後。
男は光の粒子に姿を変え、静かに消えていった。
ーーさっきまで凄く怒ってたのに。
急に褒めたり、納得したり。
よくわからない敵だったな。
敵の変化に疑問を覚えたけれど。
それよりも気がかりなタラスクの容体を聞きに、俺はマスターに駆け寄った。
(先にもう1人の敵を倒したマスターには、俺の援護ではなくタラスクの治療を優先してもらったのだ。)
「マスター!タラスクは?」
俺の問いにマスターは目を伏せ、首を横に振る。
「残念だけど・・持ってあと数分ね。」
「そんな・・」
俺は自分の声が震えるのがわかった。
タラスクが、友達が消えてしまう。
正しくはマルタさんの座に還るらしいけど。
また今回みたいに俺がタラスクと会える保証はどこにもない。
これが今生の別れになるなら、それは死別と変わらないのだ。
消えゆくタラスクを、何も出来ずにただ見送る。
そんなことしか出来ない自分が酷く歯がゆかった。
せめてその温もりを忘れまいと。
光に変換されていくタラスクの頭部をそっと撫でた。
《・・・ね、えさん。》
「っ!」
すると、タラスクの閉じられていた目蓋が持ち上がり。その瞳にゆっくりと俺の姿を捉えた。
そして足掻くように力なく垂れていた四肢を動かすと。
急に首を上げ、ワイバーンが飛び交う夜空へと話しかける。
《ーーーあと、は。たのむっす・・よ。》
「え・・っ!?」
「ちょ!何なの!?」
次の瞬間、タラスクはいきなり口から焔を吐き出し。自分の体をその焔で包んでしまった。
(寸前で手を引こっ込めたから火傷はしなかったけど。かなり驚いた。)
半ば光と化し消えかけていた巨体は、業火にも灼かれた事で。あっという間に焔と共に跡形もなく消えてしまった。
後に残された俺とマスターはタラスクの行動の意味がわからず。ただ戸惑い、彼の最後をなぞる様に夜空を見上げる。
「・・あれ?」
そして、気づいた。
「ーーねぇ、コンラ。」
「ーーなに?マスター。」
「集まったワイバーンって。
・・・こんなに少なかったかしら?」
「・・俺も、同じ事考えてた。」
空を飛ぶワイバーンがあまりにも少ない事に。
夜空を覆い尽くす勢いだったのが。
いつの間にか、まばらな数になってしまっている。
しかも、ファヴニールの因子の影響で殺る気MAXでジル・ド・レェに襲いかかっていた筈のワイバーン達は。
今ではまるで何かに怯え、逃げ惑うような動きをしている。
ーー何だろう。
不吉な、予感が・・。
じわじわと背を這い上ってくるイヤな予感に。
俺は周囲への警戒を高めた。
マスターも身構え、不測の事態に備える。
そんな俺とマスターの目の前で。
「「ッ!!」」
突如、地上から天に向かって巨大な光の柱が放たれた。
よく見ると、柱は魔法陣の形を描いている。
「マスター!これって・・!」
あの
ーーーギャアッ!ギャアアッ!!
「「ーーえ?」」
空を飛んでいた1匹のワイバーンが、悲鳴のような鳴き声を上げながら。
その体を光の柱から突き出た巨大な触手ーー海魔の足に絡め取られる光景を目撃し。
続く言葉が出なくなった。
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第三者視点
己の頭を撫でる心地の良い温もりを感じ。
タラスクの沈んでいた意識は痛みと共に暗闇から浮上した。
《・・・ね、えさん。》
真っ先に思い描いたマルタの名を呼びながら、鉛のように重い目蓋を持ち上げる。
しかし、そこに居たのは己が慕う
己に近い境遇の
生前、タラスクが産まれてすぐの事。
母であるリヴァイアサンは、薄れる世界の神秘を危惧し1人世界の裏側へと去ってしまった。
産まれたばかりで、ついて行く力を持たぬ彼を置き去りにして。
自分は母に捨てられたのだ。
そう、理解し。絶望し。彼は周りのモノ全てを憎んだ。
胸にポッカリと空いた穴から湧き立つ、黒く淀んだ激情のままに。
タラスクは水辺の街を襲い、船を砕き、人を燃やす。
だが、どんなに世界の一部を壊し、沈め、灰にしても彼の気が晴れることはなかった。
そんな、いつものように彼が街で暴れまわっていたある日。
彼は1人の旅の女と対峙する。
それこそがタラスクにとって運命とも云える聖女ーーマルタとの出会いだった。
その後は言わずもがな。
タラスクはマルタの説法(物理)により改心する事になる。
街と人を襲った償いとして。
人々に残虐な方法で殺される運命にあったタラスクの魂を、マルタは肉体から切り離し。
襲い来る死の苦痛から救い上げた。
「人様に迷惑かけた償いはこれで果たしたでしょう。タラスク、貴方はこの後どうしたいの?」
空っぽの肉体を街の人々に渡し。
再開した旅の道中、自らの体に憑かせたタラスクへと尋ねるマルタ。
彼は言い淀みながらも、殴られた事で覚めた眼で己の心を見つめ直し。
その望みを口にする。
《俺は・・母さんに会って。文句を言いたいっす。》
「そう・・いいんじゃない?
なら、しっかり徳を積んで世界の裏側に行けるようにならなきゃね。」
《・・・いいんすか?》
「? 何が?」
《俺を憑かせたままで。こう見えても俺、竜っすから。アンタの信仰に反するんじゃあ。》
マルタの信仰する教会の教えの中で、竜は=悪魔とされ。邪悪な滅すべき存在とされていた。
出会って間もない自分の心配をするタラスクに。
やっぱり根は善良なのだと。温かな気持ちに胸が満たされるのを感じながら、彼女は微笑う。
「心配しなくても大丈夫よ。
例え竜であっても、迷える子を導くことを主が咎めるはずはないわ。それに・・今更放り出すなんて私自身も嫌だしね。最後まで面倒みるから、大船に乗ったつもりでいなさい。」
《ーーー。》
タラスクはそんなマルタの生き方に衝撃を受けた。
我が身可愛さに血の繋がった子を捨てる母親がいる一方で。こんなにも他人の為に心を砕ける人間がいるのかと。
タラスクは生まれて初めて、自分と違う生き物に好意を持った。
《・・姐さん。》
「え?」
《姐さんって呼んでもいいっすか?》
「・・ふふ。いいわよ。
これからよろしくね、タラスク。」
《はいっす、姐さん。》
そしてこの後。
タラスクはマルタが生涯を終えるその時まで。
その傍らであらゆる迫害から彼女を護る守護竜となった。
彼は己を捨てた母に会う事より、傍にいてくれたマルタと同じ路を歩む事を選んだのだ。
マルタと共に現世から旅立つ時。
タラスクの心に空いた暗い穴はとうに塞がっており。彼女と過ごした温かな思い出が、彼の心を穏やかに満たしていた。
ーーーやっぱり。
放って、おけないっす。
目の前の
母から愛情を得られなかったあの苦しみを、寂しさを。彼は今でも覚えている。
けれど己にはマルタが居た。
その拳で、言葉で、優しさで。
絶望と増悪の沼に囚われた己へと手を伸ばし、救ってくれた。
だが、目の前の
この哀れな程に優しい子供へと手を差し伸べてくれる存在は。生前、誰一人として居ず。
彼は孤独なまま父の手によって屠られたのだ。
それはまるで、マルタと出会えなかった己の末路を見ているようで・・・。
ーーー俺は、もう。
見届けられないっすけど。
コンラの口から、英霊となった父が彼を探しにこの地に来ていると耳にした時。
タラスクは強く、コンラとその父親を会わせてやりたいと想った。
死後にようやく。
彼にも手を差し伸べてくれる者が現れたのだと思うと嬉しかった。
しかし、致命傷を負った己はもうすぐこの現世から消えてしまう。
少年の力になる事も。
2人の再会を見届ける事もできない。
だから・・・。
ーーー姐さん。
姐さんを苦しめるコレは全部俺が持って行きやす。だから、お願いっす。
この坊やを助けてやってください。
タラスクはマルタの魂に語りかけると。
彼女を苛む狂気を己の精神へと全て移し取った。
ーーータラスクッ!!
《ーーーあと、は。たのむっす・・よ。》
正気に戻った、誰よりも信頼する
夜空を見上げ、最後の願いを託し。
タラスクは力を貸したいと想った
直ぐ様、己自身を自らの業火で灼き尽くす。
彼にとって
己にとってのマルタのような存在になることを信じて。
守護竜タラスクはフランスの地を去り。
己の唯一たる
……………………………………………………………………………
※今回はタラスクが頑張った!お疲れ様です!
これでマルタさんの狂化は解けたので。
心置きなく敵を殴れます←
そしてヤリニキに苦労人ポディションの予感が・・。