第三者視点
燃える燃える燃える燃える。
星屑の散る夜空の下で。
教会が、
灼熱の業火に呑まれ、朽ちていく。
「ハ、ハハッ!■■ラ・・コンラッ!!」
仇である
朱槍で自らの心臓を穿き、自害させられながらも。消滅する事なく現界し続け。
自身が放った地獄の焔に囲まれ、その身を灼かれながら。再び殺めてしまった息子に向け。
火の粉の舞う宙へと吼える。
「ーーーオレは!今度こそ!
オマエの仇を討ったぞっ!!コンラッ!!」
生前の、とある平行世界にて。
知らず息子を殺めてしまったクー・フーリンは狂い。
息子を殺すよう命じた己の王を仇とし。
王を護る戦士共々、皆殺し尽くそうとした。
しかし、それはフィン・マックールの王への助言により叶う事は無かった。
その時の無念を
彼はひとしきり息子の名を呼びながら狂笑し続けた後。ふいに先程までの狂乱が嘘のように黙した。
仇を討ち果たした事で。
蘇った生前の狂気が薄れ普段の
この冬木で過ごした
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《え、えっと・・あっ!》
《ん?》
《釣り!俺も釣りをしに来たんです!!》
釣り道具を握り締め。
どこか狼狽えた様子で己の問いに答える青年。
何故かその気配を懐かしいと感じた理由を。
ランサーはこの後すぐに知ることになる。
《あーー。こっちの話だ、気にすんな。
それよりまだ俺の名前教えてなかったな?》
《あっ、はい。》
《俺はクー・・・いや、ランサーだ。アンタは?》
《俺は■■ラです。》
《そうか。■■ラ・・・良い名前だな。》
《ッ!・・・あ、ありがとうございます。》
困惑しながらも礼を述べる、転生した息子ーー■■ラ。
その名が、己が生前に与えた名と似通っている事に。その親指に、生まれ変わってもなお己が贈った指輪がはめられている事に。
彼はかつての父として、喜びを抱いてしまう。
この瞬間。
《俺、ほぼ毎日この時間は此処で釣りしてるんでっ!もしよかったら明日から一緒にどうですかっ!?》
《ーーー願ってもねぇぜ。
明日からよろしくな、■■ラ!》
《ッ!ーーはい!》
己はもう関わるべきではないと。
その場を早々に去ろうとしたランサーを■■ラは呼び止める。
その■■ラの発した提案は。
本心では離れがたく思っていたランサーにとって、あまりにも魅力的で。
彼はその提案を快く受け入れてしまう。
・・・この時。断り。
二度と
この後に降りかかる悲劇を、彼は防ぐ事が出来たのかもしれない。
《ふぅ・・ご馳走様でした。
ありがとうランサー。めちゃくちゃ美味かった!
今度は新作の方をよろしくな!》
《おいおい。さっそく次の注文かよ。》
《頼む!代わりにランサー用のルアー作っとくから。それと交換で!》
《・・・まぁ、構わないけどよ。》
《やったー!!》
《はしゃぎ過ぎだろ!?》
心を開き、素のままの自分を見せる■■ラ。
ランサーは寄せられるその信頼が心地よく。
向けられる無邪気な笑顔が愛おしかった。
前世のような影のある様子は微塵も見受けられない。
今世の息子は間違いなく幸福な人生を歩んでいるのだと。彼は安堵し、心の底からその事実を喜ばしく想った。
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記憶の中の
無邪気に。楽しげに。己へと。
前世の記憶もなく、容姿も変わり。
それでも己の息子だと云う
幸福な今世を送るその姿を。
ただその傍らで、短い時間でも。
見ていられればそれで良かった。
だからこそ。
あえて己の真名も、聖杯戦争の事も告げず。
魔術という危険な領域に関わらせまいとしていたというのに。
《■■ラッ!!コンラッ!!
アああ″アアぁッ!!!!》
結局、今世も。
そんな
「ち、くしょう・・何で。
オレは、オマエを・・!」
ランサーは血を吐くような声音で。
呻くように独り呟く。
護りたかった。
(再び殺めてしまった。)
今世こそ幸福な生涯を送って欲しかった。
(その未来を奪ってしまった。)
自身の願いとは裏腹に。
息子を殺し、幸福を奪う事しか出来なかった己に。ランサーは心を掻きむしられる様な激しい痛みを覚える。
己は息子を不幸にする事しか出来ないのかも知れない。己が関わらない方が息子は幸せなのかも知れない。けれど、それでも・・。
「バカかオレは。
ーーーまた会いてぇ。だ、なんて。」
己には過ぎた願いだと理解しつつも。
彼は再度、息子に会うことを望んでしまう。
それ程までにランサーにとって
短くも、かけがえのないものになっていた。
「未練なんて、無かったのによ。
・・・死んでから出来ちまったぜ。」
自身の魔槍によって、傷ついた息子の魂が幻霊と化したことを知らぬ彼は。
重ねた罪に気づかぬまま。
生まれてしまった《息子との再会》という聖杯への願いを胸に。
第五次聖杯戦争の舞台を後にする。
ーーーそして。
まったく彼の予想とは違った形で。
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フレイズマルの後を追い。
辿り着いた先でランサーが眼にしたのは、海魔の群れに捕らわれた息子とそのマスターの姿。
全身血塗れの男が、護るべき息子の眼を抉ろうとしている光景に。
ランサーは激昂し。衝動のままに宝具を放つ。
「ーーー汚え手で!そいつに!
触んじゃねぇえええ!!!!」
《
瞬間、コンラとオルガマリーを傷つけぬよう放たれた朱槍の雨が。
敵に容赦なく降り注ぐ。
「ぷはっ!この槍って・・!」
「来るのが遅い!でも、助かったわ!!」
海魔の拘束から解放され。
見覚えのある槍に戸惑うコンラと。
クー・フーリンが来た事を察し、ぼやきながらも歓喜の声を上げるオルガマリー。
そんな2人に。
ジークフリートーーに変じたフレイズマルが槍の雨を縫うように走り寄る。
「変態はあやつに任せて。とっとと逃げるぞ!」
「えっ!?マルちゃん!?」
「アンタいつの間にジークフリートの血飲んだのよ!?」
「こっちにもこっちの都合があるのでな。
詳しい事は後で話すっ!」
オルガマリーの問いを後回しにし。
素早くコンラを右脇に、オルガマリーを左肩に担ぐと。力強く地を蹴り、近くの民家の屋根上へと飛び上がった。
着地すると、フレイズマルはそのまま屋根の上を駆け。次々と屋根を飛び移りながら元いた場所から離れていく。
そんな了承も得ず逃亡をはかったフレイズマルに。コンラは慌ててストップをかける。
「待ってマルちゃん!今のたぶん
あいつだけ置いてけないよ!!」
「は?
眼にした朱槍から、自分とオルガマリーを助けたのは友人であるランサーだと当たりを付け。
例え(■■ラの時の)自分を殺した相手でも、特別な友人ーーー親友とも云える存在を。
独り
そんな複雑な背景を知らないフレイズマルは。
コンラの発言を訝しみ。特異点Fで皆が揃えて口を噤んでいたその《真実》を口にしてしまう。
「何を言っとるんだ。
あやつは・・クー・フーリンはお主を殺めた父親だろう?」
「ーーえ?」
「ーーッ!!」
フレイズマルの発した言葉にコンラは眼を見開き、驚きを顕わにする。
「ランサーが・・
ち、違うよマルちゃん。
だって、父さんはキャスタークラスで・・」
《今は違うが。ランサークラスが俺がよく喚ばれるクラスだな。》
「
《お前は何も悪くねぇ。
悪いのは・・・全部俺だ。》
「ーーーー。」
否定する想いに反して、記憶の中の父親の言動から。彼はいくつかの思い当たるフシを見つけてしまう。
「マスター、違う・・よね?
父さんは・・ランサーは・・」
それでも違うと。
父親と親友は別人だと。
父親が自分を手にかけてなどいないと。
フレイズマルの言葉を否定したいコンラは、思わず己のマスターに縋るような眼差しを向けてしまう。
「・・・コンラ。
今まで黙ってて、ごめんなさい。」
「ッ!!」
けれど、オルガマリーが苦しげに告げたのは。
肯定を意味する謝罪の言葉だった。
その言葉にコンラは、何の前触れもなく目前に突きつけられた事実が。
間違い無く真実であることを知る。
「そ、んな・・・」
彼はその残酷な真実を理解してしまう。
認めてしまう。
そして、この時を待っていたかのように。
「あ・・。」
記憶の中の
《俺はクー・・・いや、ランサーだ。アンタは?》
《俺は■■ラです。》
《そうか。■■ラ・・・良い名前だな。》
「父、さん・・」
その顔は(少し若いが)父親と瓜二つで。
コンラは押し寄せる事実を受け止めきれず。
乱された心を持て余し。
俯き、感情のままに涙を零してしまう。
ーーーわからない。わからない。
父さんとランサーが同じクー・フーリンで。
父さんが
それをずっと俺に黙っていて。
マスターも、立香ちゃんも、マシュちゃんも。
皆、誰も、俺にその事を教えてくれなくて。
彼は
それ以上に父親が、マスターが、皆がその事実を己に黙っていた事に傷ついた。
まるで、自分1人だけが除け者にされたようで。
強い孤独感に襲われた。
ーーーどうしたらいい?
どうしたらいいんだろう?
父さんにも、ランサーにも、マスターにも。
もう、どう接したらいいのか。
どんな顔をすればいいのか・・わからない。
「コンラ・・?」
「むっ。どうした?」
「ちょっと止まってフレイズマル!
コンラの様子がおかしいのっ!!」
己のサーヴァントの異常に気づいたオルガマリーが。走り続けていたフレイズマルに急ぎ止まるよう声をかける。
ーーー苦しい。淋しい。哀しい。怖い。
胸を何かに抉られているみたいに。
心が、心臓が痛くてたまらない。
こんな。
こんなに苦しい想いをするぐらいならーー
「ーーー何も。
知らないままでいたかった・・」
《ーーーそう、だね。
全部、忘れてしまおう。》
我を忘れたまま唇から吐露された台詞に。
コンラの頭の中で、誰かが優しくも哀しげな声音で応えた。
途端、彼の心臓に。
それまでとは桁違いの激痛が走った。
「ーーーーッ!!!」
断末魔に近い悲鳴を上げ。
コンラは胸を押さえて、狂った様に身をよじる。
「コンラッ!コンラッ!」
「おいっ!?しっかりするんだっ!!」
オルガマリーとフレイズマルの必死の呼びかけも虚しく。激痛に苛まれるコンラには届かない。
彼の意識は何かに引っ張られるかの様に。
現実から引き離され、深く自身の内側へと沈んでいく。
「あ、れ・・?」
そして、唐突に。
心臓を蝕んでいた激しい痛みも苦しみも、嘘のように消え失せた。
己のマスターの声も、フレイズマルの声も聞こえない。代わりに聞こえてきたのは・・。
「ーーーう、み?」
心地のいい波の音。
潮の香りのする柔らかな風。
温かな太陽の日差し。
それらに失っていた平常心を取り戻し。
大きく息を吐いてから、覚悟を決め。
強く閉じていた目蓋を恐る恐るコンラは開く。
そこには・・・
「・・おはよう。」
金の髪に、紅い瞳の幼い少年がいた。
「え・・
「そうだよ、
はじめまして・・かな。」
その少年は
大人びた様子で穏やかに微笑んだ。
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※とうとうヤリニキとキャスニキが同一人物だと知ったコンラくん。
次回は自分の過去と向き合います。
気づいたら怒涛の急展開になってしまった。
分かりづらかったらすみません!