第三者視点
「■■■■■■■■■■ッ!!!!」
轟音と共に周囲の民家を破壊しながら襲い来る、巨大な触手。
それをマルタは俊敏な動きで避け。宙を舞い。
その触手に着地して足場にすると、次々と近くの触手に飛び移り巨大海魔を翻弄する。
「はっ!見た目だけで大した事ないわね。
精神を蝕んでいた狂化が解かれ、本来の力を取り戻した彼女は。
持ち前の身体能力を活かし巨大海魔相手に1人で大立ち回りを演じていた。
今はマルタの座にいるタラスクがこの場にいたならば「姐さん!自重っ!自重してくださいっ!!」と。
彼女の聖女としての風評やら身の危険やらを心配して絶叫していただろう。
いや、(魂の繋がり的なもので察知し)現在進行形でしているかもしれない。
そんなタラスクの
己を薙ぎ払おうと振り降ろされた触手の1本を。
渾身の力で下段から殴り、跳ね上げたマルタ。
その触手の下を潜り、駆ける長髪の騎士ーーゲオルギウスは。
剣を構え、己の宝具を発動する。
「これこそがアスカロンの真実。
汝は竜、罪ありき!
《
神聖な光を纏う剣から輝く十字の斬撃が放たれ。
真っ直ぐに巨大海魔へと飛んだそれは、巨体から触手を1本斬り落とす。
「■■■■、■■ッ!!!」
しかし、その程度の攻撃は敵の驚異的な再生能力の前では無意味だった。数秒で失った触手は生え、元に戻ってしまう。
海魔の死角へと一時後退したゲオルギウスは、愛馬の傍らで待機していたジークフリートへと声をかける。
「やはり本体に再生不能のダメージを一撃で与えるしかなさそうです。
ジークフリート。私の
貴方の竜殺しの力の見せ所。頼みましたよ。」
「ああ。それは構わないが。
ーーーアレは、海魔だろう?」
ゲオルギウスの《
敵にダメージを与えるだけでなく。
攻撃を受けた敵の属性を強制的に『竜』へと転じさせる効果があった。
けれど、外見上は何の変化もないため。
タラスクという前例がいれども。
ジークフリートが思わず疑問を抱き、尋ねてしまうのも無理はなかった。
「・・いえ、『竜』です。」
「だ、だがーー」
「『竜』です。」
「・・・・。」←(滝汗)
だが、彼が尋ねた相手は『聖ジョージ』として名高いかの聖ゲオルギウス。
生前に信仰を棄てるよう幾度となく迫られ。
陰湿にて苛烈な拷問をその身に受けようとも。
けして屈することなく最後まで教えに殉じた、ダイヤモンドメンタルの聖人である。
彼の一切動じることのない微笑みと、そこから放たれる謎の
他者に
「・・わ、わかった。」
何とか自身を納得させ、彼は了承の意をゲオルギウスに示す。そして、聖人2人の解呪ーー『洗礼詠唱』により。
かけられていた
抜き身の刃に魔力を宿らせた呪いの聖剣は、黄昏の色に輝く。
「いつでも放てる。
すまないが、
「ジークフリートッ!
一発ぶちかましてやんなさいっ!!」
「」←ジークフリート
「さすがですね。
どうやら彼女の心配は無用のようです。」
マルタを
高濃度の魔力を感知したマルタは。
先を読んで、既にバルムンクの攻撃範囲外に脱していた。
そんな戦闘技術の高すぎる聖人仲間に、素直に尊敬の念を覚えるゲオルギウス。
そのメンタルは当然の如く、揺らぐことは無い。
「・・そ、そうか。なら、良いんだ。」
逆にジークフリートは気の毒な程に聖人2人に翻弄されっぱなしである。
動揺から言葉を濁しながらも。
そこは彼もかつて『王』であり『英雄』と呼ばれる男。
短い時間で精神を立て直し、『竜殺し』として強い意志の光る瞳で巨大海魔を見据える。
「すまないがーーー覚悟を決めてくれ。」
続いてジークフリートは自身の宝具を発動。
剣に宿る高濃度の魔力を、黄昏色の剣気として撃ち出す。
「《
弧を描き、振り下ろされた刃から放たれた半円形の輝く斬撃は夜空を分かつように宙を翔け。
「■、■、■■■■ーー」
再生不能のダメージを喰らわされた巨大海魔は恨めしげに鳴き声を漏らすが。
間もなく、その巨体は消滅していく。
「ゲオルギウスッ!ジークフリートッ!
悪いけど、あの子達が心配だから先に行くわねっ!!」
マルタは巨大な怪物が消えていく光景を最後まで見届けずに修道服を翻し。2人に声をかけると。
元々、フレイズマルとの集合場所に指定していた街外れの広場へと急ぐ。
思いがけない事態が連続で起こり、バラバラになってしまったが。
無事であれば皆、合流する為にソコを目指すだろうと彼女は当たりをつけたのだった。
マルタが目指す街外れーー東の方角の空は。
僅かに白み始めている。
長い夜が明けようとしていた。
……………………………………………………………………………………
その頃、同じ街の一角で。
両断され消えていく巨大海魔を眼にし、笑う男がいた。
「おーっ。すげぇのぶっ放してる奴がいんな。」
状況が違えばあの巨大な怪物を斬った猛者と一戦交えたかった、と。
敵に突き刺していた己の槍を乱暴に引き抜いた。
「グアぁっ!?この、匹夫めがぁああっ!!!!」
「ひんぷひんぷ、うるせぇな。
タコ?ヒトデ・・か?
とにかく気持ちわりぃもん無駄撃ちしやがって。
おかげでアイツらを見失っちまったじゃねぇか。」
ジル・ド・レェの肩に刺さっていた朱槍を抜いた彼は、非情に吐き捨てる。
ランサーは
故に、今の彼は本来の面倒見のいい兄貴肌から一転。仕事モードの冷めた表情と眼差しで、息子の眼を抉ろうとした男を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた本人は石畳を転がり、ランサーに屠られた大量の海魔の亡骸にぶつかって止まった。
血が流れ出す傷を片手で押さえ。
手の届かぬ場所に落ちた己の
見る。
ーーーアァアアアア″ア″ッ!!!!
何てことだっ!何てことにっ!?
丸腰の状態でうずくまるジル・ド・レェは、己の覆しようのない敗北を身を持って感じていた。
傑作を生み出す作業を邪魔された怒りのままに。
海魔を更に召喚し、優勢に立ったものの・・・それは一時のみ。
瞬く間に敵の槍に海魔は殺し尽くされ。
自身もまたその朱槍に穿かれ、無様な姿を晒していた。
ーーー私は、私はっ!
こんな・・ところで消えるわけにはっ!!
まだ彼女の復讐を!フランスへの罰を!
始めたばかりだと云うのにっ!!
あああああっ!!
尊く愛しき我が
自身の無力さ、愚かしさに。
後悔と狂気に呑まれかけるジル・ド・レェ。
しかし、己の聖処女への強い想いが。執着が。
狂いかけた精神を正気に繋ぎ止め、ある策を講じさせる。
彼はたったひとつ残された、己が最後に出来る事をなす為に。
その血濡れの顔を歪めーーー嗤った。
「く、ひっ、ふふふっ!フハッ!
ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
嗤う、嗤う。
彼は嗤う。
まるでランサーを嘲る様に、蔑む様に。
それに気づいたランサーは眉をひそめ、不快げに槍を男の喉元に近づけた。
「なに笑ってやがる。」
「フフフフッ!!
あぁ・・いえ、すみませんねぇ。
あまりにも滑稽だったもので。
我慢が出来ませんでした。」
「あ″っ?何の事だ?」
「気づいていないのですか?
それとも気づきたくないのですか?
貴方の犯した『子殺し』の罪は、今更息子の窮地を救ったところで赦されなどしないっ!!」
マスターらしき女が呼んでいた
かつてケルト神話を題材とした美術品も収集していたジル・ド・レェは2人の関係性を見抜き。ランサーへとその罪を突きつける。
「あの坊やは生前、さぞ貴方の事を怨んで死んでいったのでしょうねぇ。異国から会いに来た実の息子を誤って殺してしまった。愚かな父親の事を今も憎んでいるでしょうねぇ。」
「っ!」
ランサーは思わず息を詰める。
それはジル・ド・レェの口にした言葉が、彼が最も恐れる可能性を指摘したものであったからだ。
男の言う通り。
ランサーは生前、息子とは気づかずコンラを殺めてしまった。それは己が贈った
そして運命とも云える『冬木』での再会。
彼にとってあまりにも忌まわしい出来事。
二度にわたり息子の命を奪ったという罪の呵責から、ランサーの心に巣食う影はより暗さを増し濃くなっていった。
ほどなくして『ある疑問』が、そんな彼の中で頭をもたげ始める。
ーーー
一度ならず二度までもその命を刈り取り。
求めた
(後に知る事となったが)魂すら滅しかけた己の事を憎んでいるのではないか?
直視することを躊躇う程の激しい痛みを心に走らせる。望まぬ可能性。
けれど自らが息子へと行った蛮行を思えば。
怖ろしくも当然の可能性。
それは
「貴方がどんなに赦しを乞おうとも、おそらく彼は首を縦には振らないでしょう。当然ですっ!
罪は罰を持ってしか償えないっ!!
命を奪った贖罪は命でしかあがなえないっ!!!!」
「ーーーーせぇ。」
ランサーはジル・ド・レェの糾弾を否定出来ない。自身が息子を殺したのは、動かしようのない事実だからだ。
「そして貴方達はこの地で再び殺し合うっ!!
ああっ!素晴らしいっ!私が手を下すまでも無く。あの子供は貴方という
「ーーーうるせえっ!!!」
だが、《それ》はランサー自身が一番よくわかっていた。ジル・ド・レェに言及されるまでもなく。自らが犯した罪の重さを彼は誰よりも自覚し、認めていた。
息子が望むのなら、その手にかかる事も厭わないと思い詰めるほどに。
だからこそ・・・
「アイツを殺そうとしたヤツがっ!
アイツの事を全部わかった風に言うんじゃねぇよっ!これはオレとアイツの問題だ。
部外者のテメェが口出しすんなっ!!」
ただの敵である男が、自分達の全てを知ている様な顔で。軽々しく口を挟んできた事に。
冷めていたランサーの心は嫌悪と怒りに黒く燃え上がる。
業火の様な激情のままに繰り出された朱槍はジル・ド・レェの首を穿き。
噴き出す血飛沫に惑わされることなく。
追って出された矛先はその心臓を正確に穿いた。
「待ってっ!コンラッ!!」
「ッ!?」
敵にとどめを刺した直後。
思いもよらず、背後から耳に飛び込んできた息子の名に。ランサーが乱れた心のまま振り返れば、コチラに駆けてくる息子の姿が眼に入った。
今の彼にはその姿が酷く愛おしくーーー同時に恐ろしく映った。
ーーーあぁ、待っていました。
この瞬間をっ!!
そして、そんな父親の動揺を今か今かと待ちわびていた男が1人。
「ジャンヌ″ゥウ″ウ″ウ″ウ″ウウッ!!!!!」
「「っ!?」」
ランサーに『子殺し』の話を振ったのも。
ワザと挑発し、怒りを買ったのも。
全ては敵に冷静さを欠かせ、この一瞬の隙を生み出す為。
ジル・ド・レェはランサーの意識が己から逸れた、この千載一遇のチャンスを逃さず。
破れた喉で雄叫びを上げ、心臓を穿かれたまま最後の力を振り絞り。
己が身に秘かに宿していた『聖杯』をジャンヌの元へと転移した。追い詰められた彼が唯一最後に出来る事、それは。
『聖杯』を、己がその力で生み出した
ーーージャンヌッ!ジャンヌッ!!
我が復讐を体現せし聖処女よっ!
どうか貴女の心の赴くまま。
憎悪と憤怒のままに。
この
その麗しき身にて神罰をっ!!
己の願いを『聖杯』へと込め。
力尽き、消滅するジル・ド・レェ。
彼の肉体が消えたことで顕になった宙に浮く『聖杯』に。ランサーとオルガマリー達は目を剥く。
「なっ!?聖杯だとっ!?」
「何で!?え?まさかーー」
とっさにランサーは『聖杯』を確保しようと手を伸ばすも。数秒遅かった。
『聖杯』はオルレアン城へと転移され、跡形も無く消え去る。
「ちっ!」
何も掴めなかった己の手に。
敵の挑発にまんまと乗ってしまった己の迂闊さに。苛立ち、舌打ちするランサー。
そんな彼に、どこか不安げな様子で近づく幼い子供。
「とう、さん・・。」
「ッ!ーーーコンラ。」
初めて出会ったのは生前。
2度目に出会ったのは『冬木』。
3度目に出会ったのは『特異点F』。
数奇な運命に翻弄され。
出会いと別れを幾度も繰り返した父子は。
この夜、フランスの地にて4度目の再会を果たした。
…………………………………………………………………………………………
※場を引っ掻き回すだけ回して
お疲れ様です。
残されたジャンヌ・オルタは真実を知ってしまうので不憫な事になりそう。
が、がんばれっ!←
そしてようやくヤリニキとコンラくんが顔を合わせられました。よかった・・のか?←