反対するマスターとマルちゃんをどうにか説得し。
俺は身を隠していた民家から急いで
もうこの付近から移動してしまったのではと不安だったけれど。
目を凝らしながら周囲を見回していたら、運良く父さんの姿を見つける事が出来た。
ーー父さんっ!
再会を強く願った父の。
その焦がれた背中を眼にした途端、頭が真っ白になって。
気づけば一緒について来てくれた2人を置いて全速力で駆け出していた。
「待ってっ!コンラッ!!」
「ーーッ!」
マスターの俺を呼び止める声で冷静さを取り戻し、周りの様子が見える様になった時には。
宙に浮く『聖杯』が消え、父さんが苛立たしげに舌打ちしている光景が目前に広がっていた。
ーーえっ?ええぇっ!?
い、今の聖杯だったよね?
いったい何処から来たっ!?
そして何処へ行ったっ!?
異変の原因である筈の『聖杯』が唐突に現れ、消えた事に俺は戸惑う。
父さんの苛立った表情に、自分が知らぬうちに何かまずい事をやらかしてしまったのではと不安に駆られた。
それでもその瞳に俺を映して欲しくて。
緊張から震える脚を動かし、おぼつかない足取りで近づきながら。
上手く回らない舌で、どうにか言葉を紡ぐ。
「とう、さん・・。」
「ッ!ーーーコンラ。」
ろれつが回らず、声も小さくなってしまって。
随分と聞き取り難くなっていただろう俺の声を。
それでも聞き逃すこと無く父さんは拾い、応えてくれた。
その紅い瞳に俺が映っていた。
その口は俺の名を呼んでくれた。
「ーーーぅ、ぅ″。」
それらを認識した直後。
俺の魂は喜びに芯から満たされた。
鼻の奥がツンとして、喉から嗚咽が漏れそうになる。
嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。
この瞬間、《
『会いたい』と願った父が眼の前にいるのだ。
俺は今すぐにでもその腕にしがみつき。
生前に我慢した分、思いきり甘えてしまいたい誘惑に駆られた。
でも、必死にその衝動に抗い。
かろうじて踏み止まることに成功する。
把握出来ていない現状への危惧。
精神的な年齢からくる羞恥心。
そして何より《
自分でも処理しきれない複雑な感情の波に襲われながらも。
せっかく会えた父さんに泣き顔を見せたくないと。
俺は唇を噛んで込み上げる涙を呑み込み。
代わりに今できる最高の笑顔を浮かべて。
生前に言いたくても言えなかった、その言葉を口にした。
「父さんーー会いたかった。」
「ッ!!」
父さんの眼が驚愕に見開かれるのを不思議に想いながらも。一度吐き出した想いは止まらず。
溢れるままに、唇から勝手に言葉となって零れていく。
「ずっと会いたかったんだ。
はじめは母さんに認められたくて、勝負して勝つ為だったけど。噂を聞いて。
凄い武勇ばっかりで。
とてつもなく強い人なんだなって。
そんな人に勝てるのかって不安にも思ったけど。
少しだけ・・誇らしくて。
師匠に使いを頼まれた時も。
まだ修行が終わってなかったから、どうしようって想ったけど。
父さんに闘わないで会えるって考えたら、嬉しくて。早く会って、いっぱい話をしたいって・・」
感情のままにとりとめもなく吐き出される言葉達。
それは生前に『父さんに自分の事を知って欲しい』と望んだ俺の想いが、今になって表に現れたものだった。つたなくて、デタラメな。
文章にもならない酷い短文の羅列を重ねながら。
俺は《
「
俺はこの人を知ってるって思った。
すごく懐かしい感じがしたんだ。
もっと一緒に居たくて、離れたくなくて。
必死に引き止めてた。
朝に釣りをするようになってからは、前の日にあった事とかを父さんと話すのが楽しくて。気づいたらそれが釣りに行く目的になってた。」
父さんは黙って、ただ静かに俺の話に耳を傾けてくれている。雲が月にかかったせいで。
月光が遮られ、陰ったその顔がどんな表情を浮かべているのかは
「キャスターの父さんに初めて頭を撫でてもらった時は不思議と嬉しかった。
記憶が無かったから、あの時はわからなかったけど。
生前の『頭を撫でて欲しい』って願いを父さんは叶えてくれてたんだね。
何度も助けてくれて、何度も励ましてくれた。
息子だって認めてくれた。護るって言ってくれた。たくさん愛情を注いでもらえて俺、すごく嬉しくて。
父さんが俺の『父さん』で良かったって。
父さんの息子に生まれてーーー幸せだって想ったんだ。」
「ーーッ!」
唐突に、父さんが息を呑む気配がした。
その気配にハッと反射的に口を閉じる。
思えば、目の前にいる父さんは《どちら》の父さんなんだろうか。
《ランサー》と《キャスター》。
どちらも《父さん》である事に変わりないけど。
目の前の父さんが両方の記憶を持ってるとは限らない。身に覚えのない思い出話しを聞かされて。
困らせてしまったのではと。
俺は恐る恐る父さんの様子をうかがった。
その表情は相変わらず暗くてわからない。
でも、俺が言った台詞に何か思うところがあったようで。
数回躊躇うような動きの後に、重々しくその唇を開いた。
「お前はーーそれでいいのか?」
「え・・?」
「オレはーーお前をこの手で殺した。
1度だけじゃない、2度もだ。
転生して何もかも忘れ。
新たな幸せを掴もうとしていたお前の未来を奪った。オレはお前から命を、未来を、幸福を奪い続けてきた。
そんなクソみてぇな男の息子で良かっただなんて・・・本気で言ってんのか?」
その声色には深い苦悩と後悔と疑念の感情が滲んでいた。そこでようやく俺は気づく。
息子を手に掛けてしまった後、父さんが『子殺し』という罪を背負って生きた。
早々に楽な『死』へと逃げ、全てを忘れた俺と違って。
父さんは苦しみながらも胸を張って『生』を生き抜き。死後も俺のことを忘れず覚えていてくれた。
その《
改めて父さんへの尊敬と憧れの念が、俺の胸の奥から湧き上がる。
「ーーー確かに、不満に思った事もあったよ。
生前に気づいてもらえなかった時は、忘れられてると思ったし。
父さんが《
俺を殺したんだって知った時も、ショックだった。
裏切られたような気がして。
心が抉られてるみたいに痛くてーーー死のうと想った。」
「ーーッ。」
「でも・・俺は生きる道を選んだ。
生きるのは苦しくて痛いけど。
その分、楽しくて幸せな事に出会えるって。
父さんとマスターが俺に《約束》を通して気づかせてくれたから。」
2人と交わした《約束》が、俺をギリギリで留まらせてくれた。
その《約束》は生きる目的となって。
皆の隠された優しさに、俺が気づくキッカケになった。
そして記憶の中の、父さんの温かな愛情は。
俺に生きる希望を与えてくれた。
つまり、あの精神世界で俺は父さんにーーー救われたのだ。
「だからね、父さん。
もうーーー自分を責めないでよ。」
そんな俺に、父さんを憎む気持ちなんて微塵も有りはしなかった。
元々、殺されたことに対して父さんを恨む想いは無かったんだ。
「なに・・言ってんだコンラ。
オレを責めるのはオレじゃなくてお前だろ?
お前はオレを恨んで当然なんだ。
なのに、責めるなとかーー意味がわからねぇ。」
動揺に乱れ、掠れた声が耳に届く。
俺はそんな父さんに更に歩み寄り。
嘘偽りのない心の内を自ら晒した。
「俺は、父さんの事を恨んでなんていないよ。」
1度目は王命で。
2度目は(おそらく)令呪で。
どちらも父さんの本意じゃなかったんだ。
父さんは悪くない。
悪いのは星の巡りだったのだと。
全てを思い出した今の
「だって、俺は父さんの事がーー大好きだから。」
「ッ!?」
『
いつだって優しくて、強くて、温かくて、かっこ良かった。
俺の尊敬できる憧れの《
俺は今ーー心の底から誇らしく想うんだ。
雲が通り過ぎたのか。
月明かりが戻り、父さんの顔が柔らかな光に照らされる。その顔はどこか呆然と。
信じられないモノを見る様な眼差しを俺に向けていて。
「父さん。俺は誰に何と言われようと。
父さん自身に否定されても。
クー・フーリンの息子に生まれて良かったと想う。父さんは俺の憧れで。父さんみたいな強い男になりたいから。
これだけはーー絶対に譲れない。」
「ッーーいい、のか?オレが、父親で。」
「うん。」
「そう、か・・」
「むしろ、
「ッ!!ーーーは、ははっ!
そうか!そうか!!」
力なく言葉を発していた父さんの声に覇気が戻り。その顔は一瞬、泣き笑いに似た表情に歪んだかと思うと。
瞬く間に満面の笑みへと変わった。
「《アキラ》だった頃から薄々気づいてはいたけどよ。お前にはホント・・敵わねぇなあ。」
「?、何のこと?」
「あぁ、何でもねぇよ。
それよりほらっ。もっとこっち来いっ!」
「わっ!」
いきなり肩を掴まれて、グイッと力強い腕に引き寄せられる。数歩分、離れていた父さんとの距離は詰められ。
驚いている間に大きな掌にワシャワシャと頭を撫でられた。思わず、俺は目を丸くしてしまう。
キャスターの父さんよりも乱暴な撫で方に少し焦ったけど。すぐに力加減は違うけど同じ撫で方だと気づいて。
俺はホッと無意識に強張っていた肩の力が抜けるのを感じた。
ーーあぁ、父さんだ。
大きな安堵感が胸を満たし。
ーー撫でられるくらいならいいよな。
と、よくわからない言い訳を自分に呟きながら。
俺は撫でられる心地良さにゆっくりと身を委ね、目を閉じる。
出来る事なら、ずっとずっと。
この時間が続いて欲しかった。
けど、いつまでもこうしてはいられない。
人理修復やカルデア側との合流など。
俺達にはやらなければならない事が沢山あるのだから。
それでもーーあと少しだけ。
あと数分だけ待って欲しい。
生前からの願いが、長い時の果てに。
ようやく叶ったのだから。
もう少しだけ、この幸福な時間を味あわせて欲しかった。
ようやく夜がーー明けたようだった。
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※またもや遅刻してしまい申し訳ありません!
どうしてもヤリニキ視点と同時投稿したかったもので遅くなってしまいました。
コンラくんは記憶統合したことでクー・フーリンへの好感度がMAXを突破。
『ファザコン』と化した模様。
良かったねヤリニキ!
でも、コンラくんを狙う『