ヤリニキ視点
「とう、さん・・。」
「ッ!ーーーコンラ。」
不安げな顔で、脚を震わせながらオレへと歩み寄るコンラ。
追い求めた
胸を突く愛おしさと、処刑台に立つ罪人に似た心境を味わいながら。
聴き逃してしまいそうな程に微かな、オレを呼ぶ息子の声に応えた。
「ーーーぅ、ぅ″。」
途端、
オレに名を呼ばれた事で、息子が苦しんでいた。
ーーそう、だよな。
今のコイツは記憶がねぇんだ。
『冬木』で《ランサー》として会ったオレの顔も。親父は真相を気取られないよう封じてた筈だ。
それが、こうして《
ようやく会えた息子の記憶が無い事に。
安堵と淋しさを。
どう足掻いても息子を苦しめる自分に。
憤りと虚無感を。
混じり合う相反する感情の矛盾に苛まれながら。
オレはこれからコンラが寄こすだろう問いに、全て偽りなく答える心づもりで。
無言のまま、次にその口から発せられる言葉を待つ。
問いを終えた時、コンラがオレへと向けるのは。
騙されていた事への怒りか。
殺された事への憎しみか。
何にしろ、今までのような《友人》や《父親》として接することは出来なくなるだろう。
ーーそれでも、構わねぇ。
キャスターのオレはどうするつもりだったか知らねぇが。
コイツは全てを知って、封じられた記憶を解き放たないかぎり。この人理修復の旅を生き残れねぇ。
カルデアという『安全地帯』に行く術を失ったコンラに。この幾つもの特異点を巡り続ける旅は過酷すぎる。(親父の気遣いを無下にしちまうが)無理矢理にでも記憶の蓋をこじ開け。
せめて、
無事にコンラが《座》を得られたあかつきには。
祝い代わりに殺されてやるのも悪くないと。
未だに一部が《
らしくない自分の薄暗い思考に自嘲し。
オレは息子からの糾弾を待ち受けた。
「父さんーー会いたかった。」
「ッ!!」
だが、コンラの口から出たのは詰問ではなく。
オレとの再会を心から喜ぶ。
純粋な歓喜が込められた言葉だった。
濡れた瞳は、最後に死に別れた時と何ら変わらず無垢なままで。
向けられる眩しい笑顔に、昏い陰りは微塵も見受けられない。
予想とかけ離れた息子の言動に驚きを隠せず。
動揺から思考は停止し、『何故』という単語ばかりが頭の中を埋め尽くす。
そんなみっともなく狼狽えるオレの前で。
コンラは更にオレが耳を疑う話を、つたなくも語り始めた。
それは生前の《
それは冬木での《
それは特異点Fでの《
まるで生前から今に至るまでを、もう一度歩み直すかのように。
コンラはオレに、胸に秘めていた数々の想いを打ち明けていく。
そして伝えられるその内容は、雄弁に《ある事実》をオレに示していた。
ーーお前。
もう、全部『思い出した』のか。
何があったかはわからないが。
息子は既に記憶の封印を解いていた。
ーーなら、余計にわからねぇ。
何でお前は。
そんなふうにオレに笑える?
嬉々として話しかけられる?
『思い出した』なら。
オレが重ねた罪を、犯した許し難い行いを。
コイツは身をもって知っている筈だ。
それなのにーー
「父さんが俺の『父さん』で良かったって。
父さんの息子に生まれてーーー幸せだって想ったんだ。」
「ーーッ!」
ーーどうして。
当たり前のように。
お前はそんな言葉が言えるんだ。
理解できない台詞を続けて聞かされ。
オレは愕然とする。
その心意を知りたいと。
渇ききった重い口を動かし、躊躇しながらも。
コンラへとオレは自ら問いかけていた。
「お前はーーそれでいいのか?」
「え・・?」
「オレはーーお前をこの手で殺した。
1度だけじゃない、2度もだ。
転生して何もかも忘れ。
新たな幸せを掴もうとしていたお前の未来を奪った。オレはお前から命を、未来を、幸福を奪い続けてきた。
そんなクソみてぇな男の息子で良かっただなんて・・・本気で言ってんのか?」
聞くまでもない。
コンラはーー《本気》で言っている。
姿は違くとも《アキラ》を『冬木』で。
すぐ近くで見守っていたのだ。
その瞳を、表情を見れば。
息子が嘘をついていないことは一目でわかった。
ーーでもよ。
それじゃ『ダメ』だろ。
『良く』ねぇだろ。
「ーーー確かに、不満に思った事もあったよ。
生前に気づいてもらえなかった時は、忘れられてると思ったし。
父さんが《
俺を殺したんだって知った時も、ショックだった。裏切られたような気がして。
心が抉られてるみたいに痛くてーー」
責めるような息子の言葉に。
鉛を飲んだ様な苦しみと。
背負ってきた罪が僅かに軽くなる感覚を覚える。
ーーそうだ。
《罪を犯した》オレを。
オマエは《罰する》べきなんだ。
オレはコンラに罰を与えられる事を望んでいた。
罰を受けた分だけ、犯した罪が軽くなるような。
そんなありもしない錯覚に《この時》のオレは陥っていたのだ。
「ーー死のうと想った。」
「ーーッ。」
しかし、刹那の時間で。
他ならぬ息子によって。
それがただの錯覚だと思い知る。
ーーオレがとった行動は。
自ら死を願う程に。
コイツの心を傷つけたのか。
《死》を望んだという。
コンラの言葉にゾッと背筋が寒くなった。
一歩間違えば、オレはこうして再会する事も叶わず。永遠に息子を喪っていたのだ。
迎えかけた怖ろしい結末にオレの曇った眼は覚め。罰せられれば罪が雪がれるという身勝手な幻影は跡形もなく消え失せた。
ーー何をわかった気でいたんだ、俺は。
コイツはオレが想っていた以上に。
脆く、繊細で。
「でも・・俺は生きる道を選んだ。
生きるのは苦しくて痛いけど。
その分、楽しくて幸せな事に出会えるって。
父さんとマスターが俺に《約束》を通して気づかせてくれたから。」
「だからね、父さん。
もうーーー自分を責めないでよ。」
ーー想っていた以上に。
危うくも強く。
どこまでも優しかった。
「なに・・言ってんだコンラ。
オレを責めるのはオレじゃなくてお前だろ?
お前はオレを恨んで当然なんだ。
なのに、責めるなとかーー意味がわからねぇ。」
わからない。
わからない。
愛する我が子の事がわからない。
オレの心は面白いほどに。
息子の言葉ひとつで激しくかき乱される。
名を馳せたアルスターの戦士が情けないと思いつつも。
《
「俺は、父さんの事を恨んでなんていないよ。」
ーー何でだ。
2度も理不尽に殺されたんだぞ?
どうして恨まない。憎まない。
どうして、お前はオレを・・。
「だって、俺は父さんの事がーー大好きだから。」
「ッ!?」
コンラはオレの事がーー父親の事が『好き』だから恨まないと言う。
ただそれだけの理由で。
数えきれない程の苦痛を与え。
死後も苛酷な道を歩む
姿を現した欠けた月が。
言葉もないオレと、信じられぬ告白をしたコンラを。その光で平等に照らし出す。
「父さん。俺は誰に何と言われようと。
父さん自身に否定されても。
クー・フーリンの息子に生まれて良かったと想う。父さんは俺の憧れで。父さんみたいな強い男になりたいから。
これだけはーー絶対に譲れない。」
月光の下に映し出された息子の瞳は。
偽りのない澄み切った眼差しをしていて。
その表情からは、けして譲らないと云う強固な意志も読み取れた。
こんなオレを。
《父》と慕う息子に。
こんな男の。
《息子》で幸せだと。
微笑うコンラに。
その資格はないと。
幾度も諦め、打ち消してきた。
変わらず《コンラ》の《父親》で在りたいという欲求が魂の根底から湧き上がる。
「ッーーいい、のか?オレが、父親で。」
「うん。」
「そう、か・・」
迷いなく返された息子の答え。
それに『
ーーお前が望むのは。
悦びにオレの口端は自然と上がり、目頭が熱くなる。しかし、息子に情けない顔は見せられないと。求められ、認められた《父親》としてのプライドで。
出口を求め暴れる激情を内側で押しとどめていたのだが。
「むしろ、
コンラがこちらの努力も知らず。
オレが喜ぶ言葉をサラリとのたまってきたものだから。オレはたまったものではなかった。
「ッ!!ーーーは、ははっ!
そうか!そうか!!」
止められずに瞳から落ちた雫をバレぬように
溢れだした喜悦に逆らわず笑う。
「《アキラ》だった頃から薄々気づいてはいたけどよ。お前にはホント・・敵わねぇなあ。」
「?、何のこと?」
「あぁ、何でもねぇよ。
それよりほらっ。もっとこっち来いっ!」
「わっ!」
開いた数歩の距離がもどかしく。
細い肩を掴んでコチラへと引き寄せる。
友人として接していた《
コンラは突然の事に眼をパチパチと瞬かせていたが。程なくして、安心したように体から力を抜き。
まろやかな頬を弛めて瞳を閉じる。
自分を殺した《父親》に何の抵抗もなく、無防備に身を委ねていた。
その姿に、絶対の信頼を寄せられている事を理解し。狂おしい程の愛おしさから胸が詰まる思いがした。
まるで仔犬が親に甘える様な動作で掌へと擦り寄る息子に。
乱雑だった指の動きを止め。
細く柔らかな金糸を、梳くように撫でてやる。
ふと、視界の隅に入った『青』に顔を上げれば。
白む東の空を除いて。
辺り一面が青く染まっていた。
『
どこぞの聖杯戦争で得た知識を掘り起こし。
夜明けが近いことを知る。
《あの日》は太陽が輝く晴れ渡った空の下で。
冷えていく温もりを感じながら。
赤く染まった息子を抱いていた。
《今》は欠けた月が浮かぶ空の下で。
あたたかな温もりを感じながら。
青に染まる息子の頭を撫でている。
同じ『青い空』であるのに。
眼の前の情景は驚くほど《生前》と対照的で。
《あの時》とは違う、その事実を。
息子と再会し、赦され、父として隣に佇む奇跡のような現状を。
オレは強く強く噛み締めた。
ーーもう『同じ
コイツを必ず
そう己に誓いを立て。
『青』を追い払い。
昇りはじめた太陽に眼を細める。
深海にも似た暗い夜がーー明けた。
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※これでようやく2人が無事に再会&和解できました。
ヤリニキは『父親』ポディションをGET。
一緒に旅をして、隣にも居られるので完全に勝ち組ですね。
キャスニキは・・・うん。マジですまぬ←