コンラくんのFGO   作:彼に幸あれ

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唄う怪人

 

 

第三者視点

 

 

コンラの『記憶の封印』。

それは前述の通り、《人理修復》に挑む孫が旅の間の拠点となるカルデアで。

共に過ごす事となる父親(キャスター/クー・フーリン)と新たな良き関係を築けるよう。

ルー神の心遣い(こころづかい)により(ほどこ)されたものであった。

 

しかし、孫に《宝具》として譲った《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》ーー本来の名は《轟く五星(ブリューナク)》であり。コンラが扱い易いよう、あえて格落ちさせたのだがーーその神槍には5つの()格が宿っていた。

彼らが一癖も二癖もある性格である事を知っていたルー神はーーもちろん当()達の了承を得てからーー光槍達の口からうっかり生前の事柄が孫にネタバレされぬよう。

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》へも術で『意思表示の制限(リミッター)』をかけた。

 

だが、そんな彼の配慮も虚しく。

その『制限(リミッター)』は当事者であるコンラが自ら『記憶の封印』を破った際、その余波で『強制解除』されてしまったのだった。

 

ーーーそういった経緯により。

今の主(コンラ)の《宝具》と化してから初めて言葉を交わす自由を得た。《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》の1槍、『光』の力を身に宿すソウェイル。

彼はいま現在、(ルー神の計画を見事に瓦解させた)無自覚お爺ちゃん泣かせな孫・・コンラに対し。

 

 

 

 

 

 

 

〘ーーそして、敵の大軍相手にたった1人。

幾日も決闘を繰り返し、自国への侵攻を防いでいたご子息様は。日毎に増える傷に力尽き、とうとう膝を折ったんすよー☆〙

 

「そんな・・父さんっ!」(ハラハラッ)

 

「」←ランサー

 

 

宣言通り《クアルンゲの牛捕り》の話を。フワフヨと宙に浮いた状態で、嬉々として語っていた。リクエストのあった父親(クー・フーリン)の武勇伝も多少つけ加えながら。

 

瓦礫に座り、対面で聞き手に徹するコンラはと云えば。ソウェイルが紡ぐ物語に熱中し、話のところどころで一喜一憂していた。

ーーーとても楽しそうで何よりである。

 

そして話に夢中で聞き入る少年の後ろ。

佇む、《クアルンゲの牛捕り》の主人公と言っても過言ではない少年の父親(ランサー/クー・フーリン)は。

自分の『武勇伝』を聞いて、はしゃぐ息子の姿にーー羞恥やら喜びやら誇らしさやら慈しみやらーーとても一言では言い表せない複雑な感情を込み上がらせながら。

 

それでも、息子のコロコロと目まぐるしく変わる子供らしい反応を愛おしく想い。

彼は慈愛の滲む優しい表情で、その小さな背を見守っていた。

ーーー彼もなんだかんだで幸せそうで何よりである。

キャスタークラスのクー・フーリン()が目撃すれば、即座に真顔で『そこ代われ』と異を唱えること間違い無しの光景だが。

 

 

〘しかし。しかーしっ!

そんなご子息様の前に、金髪のイケメンな戦士が姿を現すんですよー☆

その手には穂先が5つに鋭く分かれた光り輝くゴージャスでビューティフルな最高の槍が1本っ!!!〙

 

「おおおっ!!」(テンション↑)

 

(あああああっ。

コンラったら、そんなに眼をキラキラさせて。頬を上気させて、満面の笑顔まで浮かべちゃって。

可愛い可愛い可愛い可愛いかわいいかわいい可愛すぎるっ!!

この子、天使?天使なの?ハァハァッ!

 

ーーーそれにしても。

この槍、絶対に自分のところだけ話を盛ってるわよね。

まぁ、どうでも良いんだけど。)

 

 

少年の横で、同じく瓦礫に腰を下ろしてソウェイルの話に耳を傾けるのは。コンラのマスターであるオルガマリー。

彼女はコンラの無邪気な姿と笑顔を至近距離で眺めて大興ふーーゴホンッ。ではなく。

大いに心を癒やされつつ、一部(己のところ)の話を盛りまくる光槍に。初見から悪かった印象を更に一段階悪化させる。

 

当人いわく、彼女はショタコンではない。

己の好きになった相手がショタ(幼子)だった。

ただそれだけの事なのだ←

 

ちなみに、後ろの《父性全開》な気配のするランサーはーー(しず)まった対抗(ライバル)心が蘇りそうなのでーー敢えて意識しないよう努めていた。

ーーーショタコ・・ゴホンッゴホンッ。ではなく。

暴走する《恋する乙女》と化した彼女も、何だかんだで幸せそうで何よりである←

 

 

〘その戦士の正体はなんと・・・☆

我らがボス()ーー太陽神ルーッ!!!〙

 

「爺ちゃあああんーっ!!!!」

(テンション↑↑)

 

〘ボスは傷つき、疲弊したご子息様に優しく声をかけやした。

「お前のアルスターへの忠誠心は見事だ、息子よ。だが、その傷ではもう戦えまい。

傷が癒えるまでの間は、私がお前の決闘を代わりに引き受けよう。ゆっくりと体を休めるがいい。」てな感じで。

そんでもって、ご子息様はボスの癒やしの魔術と薬の力で3日3晩の休眠状態に入りましたー。

お休み☆〙

 

「うん。父さん・・ゆっくり寝て元気になってね。」(しんみり)

 

「」←ランサー

 

〘さてさて。次の日、決闘を挑みにノコノコやって来たコノートの戦士くん。

なんとその野郎は、ご子息様の代わりに現れたボスを見て鼻で笑いやがったんすよー。

ご子息様が逃げ出した、とか。

相手がご子息様じゃなきゃ勝てる、とか。

そんな感じの事を考えてたんじゃないんすかねー。マジで脳筋もホドホドにしろ☆〙

 

「むむむっ。

父さんと爺ちゃんを馬鹿にするなんて。

そいつ・・絶対に許さんっ!!」(プンスカッ)

 

(や、やだっ。どうしようっ!

怒った顔も・・可愛いっ!!)←

 

〘でも、そこは我らが偉大なるボス。

ボスは怒るどころか脳筋野郎に慈悲をかけやしたー。

「私とお前の力の差は歴然だ。

今のうちに負けを認めるならば、命までは奪わない。」ってね☆

まっ、相手は侮辱されたと勘違いして逆ギレしてましたどー。〙

 

「爺ちゃん・・優しいっ!」(感動)

 

(可愛い可愛い可愛い可愛いコンラ可愛い可愛い可愛いかわいいかわい(ry))

 

〘そんなこんなで、決闘の火蓋は切って落とされやした☆怒り心頭で大剣を構え襲いかかる脳筋。

そんな身の程知らずに、ボスは静かに穂先が5つに鋭く分かれた光り輝くゴージャスでビューティフルな最高の槍を向けてーー。

 

あっ、話は変わるんすけど。

実はオイラの5つの穂先からは《光》を魔力に変換したビーム(光線)がそれぞれ出るんすよね☆〙

 

「ビームッ!?カッコイイッ!!」

(テンション再び↑↑)

 

(可愛い可愛い可愛い可愛い食べちゃいたいぐらい可愛いでもダメよコンラはまだ子供でも可愛い可愛いかわいいかわい(ry))

 

「・・ん?」←目敏く不穏な気配に気づくランサー。

 

〘でしょでしょ☆

そいで、その5本のビーム(光線)を1つに収束した。

《ハイパー・デンジャラス・ソーラー・ビッグビーム》(最大威力の極太光線)で、ボスは野郎を跡形もなく地上から抹消しやした。

ーー脳筋グッドラック☆〙

 

「へ?・・あ、あれ?

爺ちゃん?抹消って・・えっ?」(動揺)

 

(可愛い可愛い可愛いダメダメ可愛いまだダメよ可愛いああでもホントに可愛い食べちゃいたい可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いかわいいかわい(ry)

 

「ーー。」←察したランサー。

 

 

優しい祖父の、まさかの行いに狼狽えるコンラ少年。そんな顔も可愛いハァハァッ!と、想い人の様々な表情が見れて心底大興ふーーゴホンッゲフンッ。ではなく。

口には出さないものの、内心では大喜びのオルガマリー(暴走する恋する乙女)

彼女の息子に対する不穏な気配(行き過ぎた好意)を目敏く察知し、コンラの(貞操)が若干心配になるランサー(お父さん)

 

(ランサー)は思った。

息子とオルガマリーがお互いに好意を抱いているなら、これは自分が口出しする事柄ではないと。

けれど、思わずには要られなかった。

頼むからーー息子に手を出すのはせめて、カルデアに辿り着いてからにしてくれーーと。

 

多くの武勇伝(女性遍歴)を持つ、かのアルスターの英雄クー・フーリンといえど。

可愛い息子が敵国の女王似の女に喰われる(意味深)ところなど、目撃したくはないのである。

ーーというか。その場に遭遇したならば、彼は間違いなく大量出血でショック死する自信があった。

死因『吐血』である←

 

 

〘驚くことないさー☆

神に喧嘩売ったんだから当然の報い報い。

もともとボスの基本スタンスは身内に『だけ』甘くて、それ以外には容赦なしだしー?

どうせ自分と敵の力量の差すら見抜けない実力じゃあ、野郎も長生きしなかったろうしねー☆

すべては因果応報。諸行は無常なりー。〙

 

「そ、そうなんだ・・。

ハッ!ーーという事は、俺もその凄いビーム出せるんじゃ。」(ゴクリッ)

 

〘全てはお孫様の努力しだいっすかねー?

ガンバ☆〙

 

「うん!俺、がんばるっ!!」(キリッ)

 

〘頼みやすよー。

オイラも早くあの頃みたいにヒャッハーッ!!(大暴れ)したいんで☆〙

 

 

すぐ隣のマスターの胸に秘めたる(よこしま)な想いや。

背後の父親の胃をジワジワと攻め立てつつある心労など露知らず。

少年は屈託のない笑みを浮かべながら、必殺技的なビームについて光槍と語り合う。

ーーー『ハイパー・デンジャラス・ソーラー・ビッグビーム』という酷いネーミングについてのツッコミは、誰からも無いようである。

この場にDr.ロマン(ツッコミ役)が居ない事が実に惜しまれる←

 

 

・・・・さて。

上記のように、コンラ少年が《宝具(ソウェイル)》との話に熱中し。保護者2人が、胸中でそれぞれ悩み葛藤している頃。

姿を消したフレイズマルとジークフリートは、どうしているかというとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・無事か?フレイズマル。」

 

《ショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコンこわ(ry》

 

「無事ではなかったか・・すまない。」

 

 

ーー街の西側。

2人(1人と1匹)は全身ずぶ濡れの状態で。

仲良く石畳の上に並んで倒れ、フランスの澄んだ空を(あお)いでいた。いわゆる『青天(アオテン)』というやつである。

彼らがこのような無残(むざん)な姿に至った経緯は、己のサーヴァントを溺愛するオルガマリーの《制裁》を受けた。その一言に尽きる。

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

 

《ぐおあああ"あ"あっ!!!

すまぬっ!すまんかったーっ!!》

 

 

竜騎士(ドラゴンライダー)コンラ、墜落死未遂事件』の後。

少年が墜落死しかけた原因であるフレイズマルは。怒れる少年のマスター(オルガマリー)に民家の影に強制連行され。

彼女の履く高いヒールの靴に、容赦なくその身を踏み潰されていた。

フレイズマルは未だカワウソの姿に変化している為。傍から見れば、その様子は完全に動物虐待の図である。

 

 

「はあっ?謝れば許されると思ってんの?

アンタがあの子を危険な目に合わせたの、これで2度目よ?2度目。

ふざけんじゃないわよ。

まさかワザやってんじゃないでしょうね?

ーー殺すわよ。」

 

 

昨晩に続いて繰り返されたフレイズマルの失態(うっかり)に、怒り心頭なオルガマリーは。

足下からの謝罪に耳を貸すことはなく、むしろそれに煽られたように青筋を立て。

好意を寄せる少年には決して見せない怖ろしい形相で。踏みつける足により強い力を加えた。

 

 

《違うっ!

あやつに害がおよぶのはワシも望まんーーって。

ギャアアアアッ!!

ヒールが、腹に食いこっ!?

グホァッ!死ぬ"っ!出る"うっ!

内臓的なものが出る"ぅううっ!!》

 

 

煮え滾る激情のままに、カワウソの腹部をグリグリと一切の手加減なく深く抉る鋭いヒール。

人理が焼却されていなければ、愛護団体への通報まった無しの光景である。

 

 

「待ってくれオルガマリーッ!」

 

 

そんな彼女を止めようと声をかけたのは。

嫌な予感を覚え、2人の後を追いかけた竜殺しーージークフリート。

彼は今回の件は、己にも否があったと頭を下げる。

 

 

「すまない。例え(コンラ)望み(願い)であろうと。

あの時そばにいた俺が、2人を止めるべきだった。そうすれば少年が危険な目に合うことは避けられた。

だから・・どうか、フレイズマルだけを責めるのはやめてほしい。

罰ならば、俺もこの身をもって受けよう。

許されるとは思わない。

だが、それで君の中の『大切な者を喪い(奪われ)かけた怒り』が。少しでも収まるなら、幸いだ。」

 

「・・・。」

 

《お、お主・・っ!》

 

 

竜殺しが告げた真摯な言葉に。

胸中で燃え上がっていた憤怒の焔が、いささか勢いを失うオルガマリー。

 

彼女は自分の靴の下で(息子(レギン)と重ねている)ジークフリートの。

己を庇う様な台詞に感激しているフレイズマル(ダメ親父)を一瞥し。小さく溜息を吐いた後、足をカワウソの上から退けた。

 

 

「ふぅっ・・まったく。

貴方って、損な性格をしているわね。」

 

《ゲホッ!ゴホッ!ううっ。

た、たすかった・・》

 

 

自分の体を石畳にプレスしていた靴底と、腹に食い込むヒール(凶器)が無くなり。

ようやく拷問のような責苦から解放されたフレイズマルは、激しく咳き込む。

そして一刻も早く怖い女(オルガマリー)の傍から離れようと。

彼は痛む体を押して、ズリズリと石畳を這い進んだ。

 

 

「オルガマリー、すまない。

・・・ありがとう。」

 

 

その一連の行動を見たジークフリートは、(ひとまず自分達を許してくれたらしい)彼女の寛大な心に感謝し。

傷だらけの身で必死の逃走をはかる、弱ったカワウソの痛々しい姿を見ていられず。

彼は地に片膝をつき、助け起こそうとフレイズマルへその手を伸ばした。

 

 

「いいえ。お礼なんて要らないわ、ジークフリート。だって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・貴方には望み通り。

これからフレイズマルと一緒に『罰』を受けてもらいますから。」

 

「《・・えっ。》」

 

「術式展開ーー《水瓶座(アクエリアス)》。」

 

 

まさかの事態(フェイント)に呆然とする竜殺しと瀕死のカワウソ。固まる彼らを余所に、オルガマリーは己の魔力を用いて『星図魔術』を発動させる。

すると、瞬く間に星座が宙に描かれ。

『水瓶座』の逸話の概念から生まれた虚像の少年ーーガニメデスが、(ゼウス)から与えられた水瓶を手に姿を現した。

 

 

「やりなさい。」

 

 

彼女の口から発せられた、短くも無慈悲な(めい)に。神の給仕係たる少年はーー虚像なのだが、どこか物凄く申し訳無さそうな表情でーーその水瓶を逆さにし。

『聖水』の激流を生み出し、彼らへと放った。

 

 

「ぐうっ!!」

 

《ギャーーッ!!?

ごバ、ぐぼばごボゴボボッ!!!》

 

 

放たれた聖なる水流に、成す術もなく呑まれる2人(1人と1匹)。

彼らはその水の勢いのまま一直線に押し流され。

その時に居た街の東側から。

いま現在彼らが居る、街の西側へと無理やり移動させられたのだった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

流れのあまりの激しさに何度か溺れかけながらも。(泳ぐ体力すら残っておらず)溺れるカワウソを救助し。

激流が収まるまで、水の中を耐え抜いたジークフリート。

 

 

「・・・無事か?フレイズマル。」

 

 

力を使い切り、身を起こす事も出来ず。グッタリと横たわりながら。

青い顔で、隣に居るフレイズマルに彼が安否を問えば。

 

 

《ショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコンこわ(ry》

 

 

今回の件がトラウマになったのか。ガタガタと震えながら白目を剥き。

オルガマリー(ショタコン)への恐怖を繰り返し呟くという。

まるで精神病患者のような返答が、《念話》を通して返って来た。

 

 

「無事ではなかったか・・すまない。」

 

 

そのフレイズマルの酷い様子に、ジークフリートは思わず顔を覆いたくなった。

かの《竜殺し》をここまで追い詰めるとは・・・オルガマリー、本気で怒らせると怖い女である←

 

そんな疲労困憊な中。

それでも一刻も早く、フレイズマルを連れて仲間達の元へ戻らなければと。

彼は持ち前の精神力で弱った心を立て直し。最優先事項である体力の回復に努めようとした。

だが、その矢先ーー

 

 

「クリスティーヌゥウウウウッ!!!!」

 

「」←ジークフリート

 

 

仰向けで倒れる彼の頭上ーーというより眼の前を。黒いマントを身に纏う細身の男が一瞬で横切り、隣の民家に激突。

壁に大穴を開けて見えなくなった。

 

ーーー竜殺しは思った。

何を見たのか。何が起こったのか。

よく分からないが、何故か凄く既視感を覚えると。

 

ジークフリートが謎のデジャヴに囚われている中。彼の耳に、ふいに人の足音と馬の蹄の音が届く。顔をそちらに向ければ、見知った者達が自分達の元へ駆けてくる姿が眼に映った。

 

 

「どうしたのよ貴方達っ!?

ボロボロじゃない!」

 

「先ほど少年のものらしき悲鳴が聞こえたのですが。そちらにも敵襲があったのですか?」

 

 

修道服を翻し、走る聖女ーーマルタ。

白馬に乗る聖人ーーゲオルギウス。

 

マルタは急いでジークフリートに駆け寄ると。

彼女の《奇跡》の力を使い、彼の傷の治療にあたった。

 

 

「すまないマルタ。

だが、俺よりもフレイズマルを先にーー」

 

「貴方が終わったら、すぐに彼も看ます。

怪我人は黙って治癒されてなさい。」

 

「彼女の言う通りですよ、ジークフリート。

それに貴方が先に戦力として復帰して貰えた方が心強い。まぁ・・負けるつもりは毛頭ありませんが。」

 

「っ!」

 

 

愛馬(ベイヤード)から降りたゲオルギウスの台詞と、壊れた民家へ注がれたまま外れぬ視線に。

ハッと『ある事』に思い至る竜殺し。

白馬の聖人は先ほど『そちらにも敵襲があったのですか?』と聞いた。

それはつまり・・。

 

 

「敵か。」

 

「ええ。」

 

 

大剣の柄を握り、問うたジークフリートにゲオルギウスは頷く。

マルタはかざした掌から癒やしの力を送りながら。ポツリと小言を漏らした。

 

 

「あの黒マント男。

やっと(画像)データを消せたと思ったら。

何処からともなく現れて、いきなり襲い掛かって来たのよ。

驚いて反射的にぶん殴ったから、手加減できずに此処まで吹っ飛ばしちゃたわ。」

 

「ーー。」

 

 

竜殺しは彼女のその言葉で既視感の正体を理解した。そう。黒マントの男もまた、彼と同じくステゴロ聖女に殴られた被害者だったのである。

 

 

(彼女の拳は・・痛かったな。)

 

 

昨夜の、狂化された聖女に殴られた時の事を思い出し。ジークフリートはほんの少し、敵である男に同情した。

 

 

「ああ"あ・・クリスティーヌ。

クリスティーヌ。クリスティーヌッ!

クリスティーヌッ!!

よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもっ!!!」

 

 

しかし、そんな竜殺しの想い(優しさ)など微塵も知らず。そして知る理性も無いバーサーク・アサシンーー《オペラ座の怪人》ファントムは。

壊れた壁の向こうで、瓦礫を踏みしめ立ち上がると。右半分が髑髏の仮面に覆われた美しい顔を歪め、愛する彼の歌姫の名を呼びながら憤怒を叫んだ。

 

 

「ーーよくも我が愛しの歌姫に悲鳴を上げさせたなっ!我が天使に痛みを与えたなっ!

お前達を私は許さぬ。

決して許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬっ!!」

 

 

狂気と怒りと殺意に染まった昏い紅眼で、ゲオルギウス達を睨めつけ。

己の最愛の歌姫(クリスティーヌ)』を苦しめたと彼らを糾弾する、狂える怪人。

その身に覚えのない罪状に、マルタは慌てて抗議の声を上げた。

 

 

「はっ?えっ、ちょっと。

クリスティーヌって誰よっ!?

知らないわよっ!!」

 

「ふむ、悲鳴ですか・・。

私は少年らしき声しか耳にしていませんが。

ジークフリートは心当たりはありますか?」

 

「いや・・すまない。

女性の悲鳴も、少年の声も聞いていない。

おそらく俺とフレイズマルが水流に呑まれている時だったのだろう。」

 

 

真っ先に『冤罪』を訴える聖女。

そして、お互いに『女性(クリスティーヌ)の悲鳴』を聞いていない事を確かめ合う聖人と竜殺し。

けれど、ファントムは彼らの言葉を否定する様に。(彼にとっては絶対の)根拠を唄うように語る。

 

 

「私は聞いた、ココではない場所で。

彼女の苦痛を帯びた悲鳴を。

私は聞き間違えない、どんなに遠く離れていようとも。彼女の美しい声音を。

だから私はココに来た。

我が歌姫に会いにココに居る。

だからーーココに居たお前達はクリスティーヌの敵だ。」

 

「なるほど・・彼は《狂化》の影響が強すぎて、他者との意思疎通が難しいようですね。

さて、どうしましょうか。」

 

「どうもこうも。向こうが殺る気なら、倒すしかないんじゃない?」

 

「何か考えがあるのか?

ゲオルギウス。」

 

 

ジークフリートの治癒を急ぎ終えた聖女は。

フレイズマルの治療に取りかかりながら、言葉を返す。

そんな彼女に礼を述べた後、竜殺しが尋ねれば。

ゲオルギウスは(《狂化》のせいで得るモノは少ないかも知れないが)『敵の情報を聞き出す為、ファントムを捕らえたい』と2人に告げた。

 

彼が、バーサーク・アサシンとして《竜の魔女(ジャンヌ)》に召喚されたのではないかと推測した聖人は。

近い内に行われるだろう決戦に向けて、少しでも有益な情報を集めたかったのだ。

 

 

《竜殺し》ジークフリート。

 

《聖女》マルタ。

 

《白馬の聖人》ゲオルギウス。

 

《強欲なる者》フレイズマル。

 

《光の御子の息子》コンラ。

 

《アルスターの英雄》クー・フーリン。

 

《星見の魔術師》オルガマリー。

 

 

彼らの戦力は意図せずも整いつつあった。

そして、この《特異点(フランス)》で生きる。今もワイバーンやバーサーク・サーヴァント達に蹂躙されるフランス国民達の事を想うならば。

被害を抑える為に、彼らは出来るだけ早く行動を起こさなければならなかった。

 

 

「ーーそうね。

私もそれが良いと思うわ。」

 

「俺も異論はない。」

 

「ああ・・クリスティーヌ。

美しき我が歌姫。

君の声はどんな形でも美しい・・。

痛みに侵されようとも、天使の如き愛しい調べ。

けれど、私はそれを望まない。

けれど、私はそれを喝采できぬ。

君には喜びの歌がふさわしいのだから・・。」

 

 

ゲオルギウスの提案に同意する聖女と竜殺し。

その間にも、ココには居ない歌姫へと己の揺るがぬ想い()を吐露するファントム。

虚ろに揺らいでいた瞳は、次の瞬間には再び狂乱の色を帯びる。

 

 

「ーーー君を傷つけた彼らを殺し。

私は君を喜ばそう。クリスティーヌ。」

 

 

男の背後で、黒いマントは生き物ように蠢きうねり。白い手袋を脱ぎ捨てた彼の両手は、異形の鋭い鉤爪を日の下に晒す。

 

 

「私は醜い。私は呪われている。

君は美しい。君は祝福されている。

私は、君は、私は君は私はーー

あああああああああ"あ"あ"あ"っ!!!」

 

 

狂い果てた怪人は、愛しい歌姫の為に。

彼女の敵たる存在を葬ろうと。

両手の指から生える凶刃を大きく振りかぶり、ジークフリート達へと襲いかかった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

※GWが公私共に忙し過ぎて大幅に更新遅れました。令和初日に投稿したかったのに・・誠にすみません←

 

どうやら前回の件で、コンラくんへの所長の溺愛度が上限突破したようです。

当人に嫌われたくないので自重して色々セーブしていますが、好意をすべて我慢せず表に出した場合。彼女はガチで(今は焼却されてますが)警察に捕まります。

ほら・・心は大人(成人済み)でも、体は子供(未成年)だから←

 

そしてヤリニキ(お父さん)の胃は今後、多方面から襲撃される模様。誰か、彼に胃薬を・・っ!

 

ちなみに今回のジークフリートとフレイズマルの悲劇は完全に作者の願望のとばっちりです。

2人共すまぬ。

 

あ、あと前回と同じく作中の説明となってしまいますが。ジークフリートとフレイズマルが何故『念話』で会話できるように成ったのかと言いますと。

一言で云えば、フレイズマルがジークフリートの血を摂取した事が要因です。

 

ジークフリートは邪竜の血を浴び、口にした事で体内にファヴニールの(因子)を生前に取り込み。

フレイズマルは邪竜に転じたファヴニールの《血》の繋がった実の父親(肉親)

元々、血縁関係の近い共通の存在の《血》を体内に持っていたところに。ジークフリート本人の血をーー邪竜の《(因子)》と共にーーフレイズマルが直接飲んだ。

よって、この2人の間に《邪竜(ファヴニール)》の《(因子)》を(かい)して、強い《繋がり()》が結ばれたから・・という独自設定です。

まぁ、サラッと流してカワウソ姿の(フレイズマル)の話し相手がコンラくんと所長以外に1人増えたと覚えてもらえれば幸いです。

むしろ作者はスルーしてもらえた方が嬉しい←(おい)

 

最後に・・すでにご察しの方もいるのではないかと思いますが。

ファントムが『誰』の声をクリスティーヌ嬢と誤認しているかーーお分かりですよね?

がんばれ、ヤリニキ(お父さん)(遠い眼)

 


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