コンラくんのFGO   作:彼に幸あれ

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※2020/2/25、加筆修正致しました。
 2020/6/27、一部修正致しました。



戦友

 

第三者視点

 

 

ゲオルギウスとマルタは竜と(えにし)を持つ聖人である事から。ジークフリートとフレイズマルは邪竜(ファヴニール)(因子)を体内に持ち、一種の共感関係が成立している事から。

彼ら4人(3人と1匹?)が上記の理由で邪竜(ファヴニール)の動きを感知し、コンラ達へと伝えていた頃・・。

 

 

 

「なに、これ・・?」

 

「っ!!」

 

「・・・・。」

 

「そんな・・これを『私』がやったというのですか!?」

 

 

 

同じ空の下。

最後のマスターたる藤丸立香達は、焼け落ちた街ーーラ・シャリテへと足を踏み入れていた。

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

藤丸立香視点

 

 

キャスター(クー・フーリン)あの女の子(清姫)を足止めしてくれたおかげで、私達は無事に目指していた(ラ・シャリテ)へと着くことが出来た。

けれど、そこで待っていたのは目を疑うような悲惨な光景。

《特異点F》や《ドンレミ》で、私は人が『人ならざる者達』に襲われたり。

街が燃え、家屋が燃やされている所を何度もこの眼で見てきた。

だから自分でも、少しは『こういったモノ』に耐性が出来たと思っていたんだけど・・・それはどうやら間違いだったらしい。

視界に入った黒い物体が、人の形をしているのを頭が理解した瞬間。

ガクリッと、此処まで酷使していた脚から力が抜け。地面に両膝をついてしまった。

 

 

「っ!?」

 

「先輩っ!?」

 

「マスターッ!」

 

 

思えば、自分が《人理修復》を行うキッカケとなった、カルデアでのレフによる爆破事件。

あの時は炎に囲まれた中。

重症を負ったマシュの手を握る事に必死で、周りに居ただろう息絶えた人々の事を気にする余裕は無かった。

 

《特異点F》では、コンラくんと所長を喪い。

親しい人と死に別れる痛みを味わったものの、彼らの亡骸を目にする事は無かった。

 

それが、この街には有った。

すぐそこに、居る。

変わり果てた姿で道端に横たわっている。

私はこの時、この世に産まれて初めてーーー他者に命を奪われた、人間の死体を直視したのだ。

 

 

「あ・・。」

 

 

ガクガクと四肢が震え。

嗅いだことの無い異臭が鼻を刺す。

口の中が渇き。

全身から血の気が引いていくのを感じた。

かつて無いほど、すぐ傍に自分の『死』の気配を感じた。

 

怖い怖い怖い。

死にたくない。

出来る事なら逃げ出してしまいたい。

安全な場所へ。

少しでも『死』から遠い所へとーー

 

 

 

 

 

《いやーーいや、いや、助けて。誰か助けて!

わた、わたし、こんなところで死にたくない!》

 

《所長を助けてくるね。》

 

《アイツが、コンラが・・死んだ?

ははっ・・冗談だろ?マスター?》

 

 

 

 

ーーでも。

私の脳裏を、家族や友人。

所長とコンラくん。

そしてキャスターの顔がよぎる。

 

 

 

「ーーー。」

 

 

 

・・・無理だ。

逃げるなんて、出来ない。

許される筈が、ない。

 

 

「大丈夫です、先輩。」

 

 

ふいに、私の冷えた手に触れる温かい感触と言葉。

恐る恐る隣に視線を移せば、私を安心させようと微笑むマシュが居た。

 

 

「私が先輩を護りますから、大丈夫ですっ!」

 

「マシュ・・」

 

 

マシュは包み込むように、その柔らかな両手で私の左手を優しく握ってくれる。

・・・彼女もまた、酷く青褪めた顔をしているのに。

 

きっと、マシュも私と同じで人の亡骸を直接眼にしたのは初めてなんだ。

怖い筈なのに。

私よりもずっと『死』というものを身近に感じた経験がある筈なのに。

それでも私の事を気遣って、気丈にも励ましの言葉をかけてくれている。

 

 

ーーーああ、私ったらダメな先輩だなぁ。

可愛い後輩に心配をかけて、こんな台詞を言わせちゃうなんて。

 

 

背負うもの(人理修復)に対する責任感や。

あの特異点F(冬木)から生き残った者としての罪悪感や義務感だけでなく。

マシュの健気なほどの優しさに後押しされて、挫けかけた私の心は奮い立つ。

こんな事ではいけないと自分を叱咤し。

グッと体の震えを無理やり抑え込み、立ち上がる。

 

 

「ありがとう、マシュ。

マシュのおかげで元気でたっ!」

 

「先輩っ!」

 

 

今の私に出来る精一杯の笑顔でニッコリと笑い。

喜びの色を瞳に瞬かせたマシュの手を握り返す。

 

そのまま手を引き、私に合わせてしゃがんでくれていた彼女を立ち上がらせると。

私は胸に湧いた熱い想いのままに、ギュッと後輩の細い身体を抱きしめた。

 

 

「ッ!?せせせせ、せんぱいっ!!?」

 

「ーーでもね、マシュ。

私は護られてるだけじゃ嫌なんだ。」

 

「・・え?」

 

「まだまだ私は頼りない先輩だけど。

マシュは私にとって大事な後輩だから。

私もマシュのこと・・護りたいんだ。」

 

「せん、ぱい・・」

 

「だから、だからね。マシュ。

さっきのお返しに・・。

今度は私がマシュのことをーーー元気にするね!」

 

「ふえっ?」

 

 

私は抱き締めたマシュの体を、両腕に力を込めて更に自分と密着させ。

柔らかな彼女の頬に自分の頬を合わせて、グリグリグリーッ!と頬擦りした。

 

 

「大丈夫だよー!もう怖くないよー!

お姉ちゃんがついてるからねー!!」

 

「ッ!!?」

 

 

昔、悪夢をみて夜中に起きた幼い兄妹にコレをすると。怯えていたのが嘘のように無邪気な笑顔を見せてくれたのだ。

たぶん触れる人肌と伝わる体温が、あの子達に安心感を与えてくれていたんだと思う。

 

だから、マシュが私を励ましてくれたお返しに。私もマシュを安心させ、元気づけようとしたのだ。けれど・・。

 

 

「ひうぅ!・・先輩っ。もう十分です!

十分過ぎですーーっ!!」

 

 

予想以上に早く、マシュから静止の声がかかってしまった。

 

 

「えー。早いよ、マシュ!

私まだ物足りない。」

 

「ものたっ!?

だ、ダメです!ダメです!

これ以上は無理です!近すぎです!

心臓が保ちませんーっ!!」

 

 

 

 

「お姉ちゃん・・」

↑(羨望の眼差しを送る、実は妹が欲しかった聖処女。)

 

 

「(くっ!なんて美しい主従愛だ・・っ!)」

↑(目頭を押さえる、バーサーカーな元《理想の騎士》。)

 

 

 

アワアワと慌てるマシュを不思議に思いながらも。あまりに必死な様子に、渋々回していた腕を解いて後輩の体から離れる。

 

距離を取った事でよく見えるようなった彼女の顔は、先程より血色がかなり良くなっていた。

(何でか涙目で、息も上がってたけど)

よかった。

短すぎないかと心配したけど、少しはマシュを安心させられたみたい。

やっぱりあのスキンシップの効果は絶大だね!

(私も幼い時にお世話になったし!)

 

 

 

 

ーーーまだ私の中にある《死》への恐怖は、消え去ってはいない。ううん。生き物である以上、きっとこの恐怖が消える事は絶対に無いんだと思う。

 

それでも・・・この感情(恐怖)にばかり囚われていたら、前に進む事は出来ないから。すぐ隣にある、大切なモノ()達を見失ってしまうから。

 

私は・・逃げずに。臆さずに。

この《感情(恐怖)》を胸の奥に抱えたまま歩いて行こう。

大切な後輩と、お互いを支え(護り)合いながら。

《人理修復》という重過ぎる使命を成し遂げるその時までーーー真っ直ぐに。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

お互いを励まし合い、動揺から立ち直った私とマシュ。

この街(ラ・シャリテ)に着く前に唐突に途切れたカルデアとの通信は今だ繋がらず。

何度呼びかけてもロマンとの連絡は取れないままだ。

 

キャスターが来るまで此処で待つと決めていた私は。ひとまず皆と話し合い。(希望は薄いと言われたけれど)

生存者が居ないか街中を探索することにした。

敵が居るかもしれないので、警戒しながら私達は死者の街を慎重に進んでいく。

 

 

歩く歩く歩く歩く。

燃え落ち、崩れた民家の側を。

黒炭と化した死者達の傍らを。

 

 

「信じられません。本当に・・これを《私》が?」

 

 

ジャンヌがどこか困惑が滲む声音で、ポツリと呟いた。

聞くと、ジャンヌはもう1人の自分(竜の魔女)が何故同郷の者達にこんな非道を行えるのか理解できないらしい。

 

 

「ーーしかし。国を救った貴女を、その同郷の者達は《魔女》と貶め処刑した。貴女が彼らに憎しみや恨みを抱くのは必然だと私は思いますが・・」

 

「ランスロット卿ッ!」

 

 

(ようやくお喋りを解禁された)ランスロットの早々の無遠慮な発言に、マシュが咎めるように声を荒げる。

けれど、ジャンヌの方は特に気にした様子もなく。むしろケロリとした顔でランスロットの疑問に応えた。

 

 

「それはあり得ません。

私は彼らの事を少しも憎いとも、恨めしいとも思っていませんので。」

 

「・・・(まこと)ですか?」

 

「はい。私は主の嘆きを聞き、フランス(母国)を救おうと立ち上がりました。しかし、それは誰かに強制されたわけではなく己の意思で決めた事。火刑に処されたのもまた、己の意思を貫くと選んだ故の結末。誰かを、彼らを恨むのは筋違いです。それに・・・」

 

「?」

 

「薄々、気づいてはいたのです。

フランスを救う事が私の役割であり、天命だと。

その使命を果たし、倒れた私の屍の先が・・・争いの無い『戦友』達の未来へ繋がるのなら。

それで私は満足だった。それだけで良かったのです。」

 

 

彼女が穏やかな微笑みと共に語るのは、生前から変わらぬ母国と戦友達への《想い()》。

そこには暗い感情の影は見えず。

その言葉がジャンヌの嘘偽りの無い本心であることがわかった。

 

 

「ーーーー。」

 

 

彼女のそんな姿を、ランスロットは何処か追想と憧憬のこもった眼差しで見つめていてーーー彼の唇が『王』と小さく動くのを、確かに私は見た。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーガラッ!!

 

「ジャンヌ・・」

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!!!」」」

 

「誰ですかっ!?」

 

 

唐突に瓦礫が崩れる音と共に、耳に届いたのは人の声。

とっさに身構える私達の前に。

燃え残った民家の後ろから、ふらりと1つの人影が姿を現した。

 

肩まである黒い髪に、白銀の甲冑を身に纏う騎士。

彼はその両眼からボロボロと大粒の涙を零しながらコチラへと歩み寄る。

 

 

「ジルッ!?どうして貴方が此処にっ!!」

 

「えっ?ジャンヌの知り合い?」

 

「はい。彼は私の生前の副官であり、長らく私を支えてくれた戦友(とも)です。」

 

 

ジャンヌの言葉に彼が敵ではない事がわかり、私達は警戒をゆるめた。

・・・それにしても、本当に何でこんな危険な場所に?

 

 

「ハッ!まさかこの街の生存者っ!?」

 

「だとしても、無傷というのは可怪しいのでは・・?」

 

「ランスロット卿にしては珍しくまともな意見ですね。

先輩。おそらくあの方も、私達と同じく他の場所からこの街に辿り着いたのではないでしょうか。」

 

「( ´ー`)」←ランスロット

 

 

私はランスロットの指摘とマシュの予想に『なるほど』と納得する。

なら、別々の場所に居た私達と(えーと。ジルさんだよね?)眼の前のジルさんが、此処で偶然にも出会えたのは凄いラッキーだっ!なんて事を考えていたら・・。

 

 

「おおっ!そんな、ジャンヌ・・っ!!

貴女の処刑を止めるどころか、その場に駆けつける事さえ出来なかった私を、まだ戦友(とも)とっ!

それに・・先程のあの言葉っ!

ジャンヌ。貴女はなんて、なんてーーお優しいのかっ!!」

 

 

その当人は感極まったように膝から崩れ落ちると。天を仰ぎ、滝のように涙を流して号泣し始めた。

興奮のあまりか、彼の両眼は大きく見開かれ。

眼球が今にも飛び出しそうになっていた。

 

 

恐ぁっ!!?

え?ちょ、大丈夫かなコレ?

落ちない?目玉落っこちちゃったりしない!?

 

 

脳裏にどこぞのゾンビ映画のクリーチャーの姿を描きながら。(泣いている相手に対して失礼だと思いつつも)私は焼死体からの連続スプラッタは勘弁して欲しいと心底震え上がった。

 

 

「先輩っ!こっちですっ!!」

 

 

そんな私を再び救ったのは、私の可愛い後輩ーーマシュだった。

あれ?一瞬マシュが天使な王子様に見えた。私はいつ誰に幻術をかけられたんだろうか?(混乱)

 

 

「ッ!?」←ランスロット

 

 

謎の幻覚にゴシゴシと目元を擦っていると。

その間にマシュに片方の手を引かれ、一緒にランスロットの後ろへと回り込んでいた。

ジルさんとの距離が空いたことで、失っていた冷静さを少し取り戻す。

ランスロットを見るとコチラに背を向けたまま、ピクリとも微動だにしない。

どうやらこのまま私達をジルさんの(顔面の)脅威から庇ってくれるつもりらしい。

 

(それにしてもアレを見てまったく動揺していない、だと?

さすがマシュのお父さんーーーやりおる←)

 

マシュの判断と彼の善意に感謝しつつ、1人残されたジャンヌが心配で。

そっと、ランスロットの肩越しに様子を覗うとーー。

 

 

 

「変わりませんね、ジル。

少し安心しました。

ーーーーえいっ☆」

 

「ぐあああああーーっ!!!!」

 

「ええ"ぇーーっ!!?」

 

「ジャンヌさんっ!!?」

 

 

ジャンヌはまったく動じておらず。

それどころが懐かしそうに顔を綻ばせてーーージルさんの飛び出しかけた両眼を、一切の躊躇なく二本の指で『ぶすぅっ!!』と突いたのだった。

 

な、なにやってるのこの聖女ーーっ!!!?

 

 

「ジャ、ジャンヌッ!?

いま目をっ!目を突いたよねっ!!?

彼、大丈夫なの!?」

 

「はい。大丈夫ですよ。

ちゃんと手加減していますから。」

 

 

『目がーっ!目がーっ!』と。

どこかの某悪役のようなセリフを上げながら両手で眼を押さえ、ゴロゴロと転がる被害者を横目に問えば。

ジャンヌが彼の眼は昔から飛び出しがちで、出る度に先程のように指で突いて押し戻していた事を教えてくれた。

 

彼女にとって、ジルさんのこの一連の奇行は見慣れた光景らしい。そ、そうなんだ。

よくある事なんだ。

そっかぁ・・斬新な目の治療法だなぁー。

 

 

「アマデウス、今の見まして?

聖女様が元師さんの眼を突きましたわ!

あれがこの時代のスキンシップ法なのかしら?」

 

「絶対に違うと思うから、さり気なく二本指を立てて僕に迫るのはよしてくれないかな。マリア。

いくら君の頼みでも、それだけは断固拒否するよ。」

 

 

あまりの出来事に思考を明後日に飛ばしていた私の耳に、聞き覚えのない声が飛び込んできた。

今度は反対の肩越しに声のした方を見ると。

さっきジルさんが現れた民家の残骸あたりに2人の男女が佇んでいた。

楽しそうにはしゃぐ、大きな帽子を被った少女。

そして頬を引きつらせて少女から後退る、黒服の青年だ。

 

 

「あれは・・誰でしょうか?」

 

「ジルさんの知り合いかな?」

 

「(マシュが私の後ろにっ!

頼ってくれたっ!

『父』として私を頼ってっ!!)」←感動

 

 

いつの間にか、両手でWガッツポーズを決めながら小刻みに震えていたランスロット。

 

『改めて見ると、髪が長くて邪魔そうだなぁ。あとで縛ってあげようっ!』なんて事を頭の片隅で考えながら、彼女達を眺めているとーーーパチリと帽子少女と目が合った。

 

 

「わっ!」

 

 

驚いて小さく声を漏らした私に、彼女はふわりっと花の様な笑みを浮かべ。

どこか踊るような足取りで青年を伴い、私達の元へとやって来た。

 

 

「うふふっ、御機嫌よう!

私はマリーよ。よろしくね。

ヴィヴ・ラ・フランスッ!」

 

「ご、御機嫌よう。私は藤丸立香っ!

ゔぃ、ゔぃら、ゔぃ・・?」

 

「先輩。《ヴィヴ・ラ・フランス》は《フランス万歳》という意味ですよ。」

 

「あっ、そうなんだ。

ありがとうマシュ。」

 

 

聞き慣れない単語に慌てていると、頼りになる後輩が助け舟を出してくれた。

助けられてばっかりな現状に、ちょっぴりへこんでしまったけれど。

『先輩のお役に立てて嬉しいです!』と頬を染めて手放して喜ぶマシュの姿に。『これから挽回すればいい!』と気合を入れ直す。

 

可愛い。私の後輩はすごく可愛い。

可愛くて健気で頼りになるマシュは良妻確実だと思う。

・・・・・結婚しようかな←

 

 

 

 

 

ーーーーそれから。

(ジルさんが復活した後)私達は彼らの仲間が待機している場所を目指しつつ、お互いの事情を打ち明け合った。

 

まず、帽子を被った少女マリーは《マリー・アントワネット》という今(西暦1431年)から(未来)の時代のフランス王妃様で。

黒服の青年アマデウスは《ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト》という音楽家だった。

2人とも《サーヴァント》で、ジャンヌと同じくこの特異点に《召喚主なし》で喚ばれたのだそうだ。

 

(聞かれたので、マリーの名前もアマデウス(モーツァルト)の曲も『知らない』と正直に答えたら。『君、本当に文明人かい?どこぞの秘境のジャングルで猿と暮らしてたんじゃないのか?』という暴言と共に、まるで珍獣を見るような眼差しをアマデウスに向けられてしまった。実に遺憾である。私はれっきとした文明人なのにっ!・・・何故か《そっち(歴史や美術)》関係の知識はないんだけどっ!)

 

 

彼らの話をざっくり纏めると、3人は《ヴォークルール》という砦で偶然にも出会い。その後、一緒に行動する事に。

それから仲間(ジルさんの部下の兵士達+エリちゃん?)と共に、この街《ラ・シャリテ》まで移動。

 

けれど、ようやく辿り着いた街は敵に蹂躙され尽くした酷い状態で。

しかも何やら風変わりな音律(メロディー)達がーーアマデウスの能力で感知したらしいーー聞こえてきた為。

彼ら3人だけが偵察として先行し、こうして私達と出会った・・・とのこと。

 

 

「しばらく隠れて君達の様子を覗うはずだったんだけど。

どこぞの元師様がそこの聖女様の話を耳にした途端、勝手に飛び出してくれてね。」

 

「ぐっ・・面目(めんぼく)ない!」

 

「ふふふっ。許してあげてアマデウス。

元師さんが聖女様のことが大好きなのは、沢山お話しして貰ったから知っているでしょう?

そんな相手に出逢えたら、嬉しくて飛び出してしまうのも仕方がないと思うわ。」

 

「話?・・ああ。

あの、ストーカー紛いのアレ(熱弁)のことか。」

 

 

《ラ・シャリテ》を目指して移動中の馬上で、マリーが尊敬する聖女様ーージャンヌのことーーをジルさんに尋ねたところ。

彼らは聖女様(ジャンヌ)の素晴らしさを、数時間ノンストップで聞かされ続けたらしい。

 

その時の事を思い出したのか、げんなりした表情をアマデウスは浮かべ。反対にマリーは、楽しいお話しだったと無邪気にはしゃいでいる。

 

当事者であるジャンヌ本人は『ジル。どういう事ですか?彼らに何を話したのですか?事と次第によっては・・』と、凄みのある笑顔でジルさんに詰め寄っていた。

静かに怒るジャンヌのプレッシャーに、ジルさんは道中タジタジだったーーー聖女怖ぃ。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

場所は《ラ・シャリテ》の街のすぐ傍らの平原。

上官であるジル・ド・レェにより待機を命じられたフランス兵士達は。

警戒を怠らぬよう交代で見張りを立てながらも。

各自が思い思いに小休憩をとっていた。

 

水や干し肉で軽い食事を取る者。

走り通しだった愛馬を労う者。

街の惨状を目の当たりにし、どうしても下がってしまう士気を留めようと。他愛ない談笑に興じる者達。

 

 

「・・・っ!」

 

 

そんな彼らの元へと近づく複数の人影。

気づいた見張り番の1人が目を凝らすと、そこには見知った人物達の姿があった。

 

 

「元師殿っ!」

 

 

狼狽(ろうばい)するばかりの己達を此処まで導いてくれた尊敬する上官。

そして砦から脱出する際、力を貸してくれた恩人達。

他にも数名、顔を知らぬ者達が増えていたが。

上官達と彼らが親しげに接している様子から、敵ではないとその若い兵士は判断した。

 

 

「おい!元師殿と恩人達が戻られたぞっ!」

 

「ん?おお、そうか。

おーいっ!上官達のお帰りだとよーっ!!」

 

 

周りの兵士達にも帰還を伝え、彼は真っ先に彼らを出迎えようと歩調を速めた・・のだが。

 

 

 

「おっっそーーーーい!!!!」

 

 

 

急ぐフランス兵士の頭上を高速で翔け抜け。

一番乗りで兵士達の上官ーー『元師』ジル・ド・レェ達を出迎え(に不満をぶち撒け)たのは。

先行した彼らに置いてけぼりをくった、『自称アイドル』少女ーーエリザベート・バートリーだった。

 

彼女は背から生やした両翼をバサッ!と苛立たしげに羽ばたかせ。自分を置いて行った者達の前へと降り立つと。

その(つつ)ましやかな胸から湧き上がる鬱憤を、躊躇うことなく吐き出した。

 

 

「遅いわよーーっ!!

勝手に人を置いてってーーっ!!

しかもブタどものお守りまで押し付けてーーっ!!

私は豚の飼育係じゃないのよっ!?

バカバカバカバカバカーーッ!!!!」

 

 

「あらあらあら。」

 

「あー、イヤだイヤだ。

何だってこう雑音ばっかり生み出すかな、この色々小さいのは。」

 

「えっ?えっ?

何で怒ってるのこの娘?それにブタって?」

 

 

癇癪を起こして喚くエリザベートに対し、苦笑する未来のフランス王妃と頭痛を覚え眉をひそめる音楽家。

彼女と面識のない最後のマスター達は状況が呑み込めず、困惑するばかりだ。

 

 

「ぶ、ぶた・・」

 

「俺ら、豚なのか・・」

 

「き、気にしない方がいい。

彼女はおそらく、他人に変わった愛称をつけるのが趣味なのだろう。」

 

 

一方、年端もいかない少女に『豚』呼ばわりされたフランス兵士達は。(幸運にもそういった事に悦ぶ嗜好の者は居なかったようで)怒ればいいのか、嘆けばいいのかわからず。

何とも言えぬ微妙な表情で頬を引き攣らせていた。

 

そんな部下達へ素早くフォロー(?)を入れるのを忘れない。

上官の(かがみ)、ジル・ド・レェ。

どうか魔導に堕ちず、そのままの『綺麗な旦那』でいて欲しいものである。

 

(プレラーティ)からの手紙?

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)

ーーーーどんな手を使ってでも燃やせ。塵一つ残さずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

兎にも角にも、待機していたフランス兵士達&エリザベートと合流を果たした一同。

 

 

「べ、別に食べ物に吊られたわけじゃ無いんだからね!

子ジカがどうしてもって勧めるから。

ファンからの貢物(プレゼント)を断るのはアイドルとしてどうかなー?って思ったから、受け取ってあげるだけなんだからね!?私の優しさに感謝しなさい!!」

 

「うんうん。そうだねー。

何で私のニックネームが子ジカになったか分からないけど、分かったよー。

ところでその携帯食料(カ○リーメイト)

チョコレート味の他にフルーツ味もあるんだけど、食べる?」

 

「もぐもぐ。しょうが無いわね、もぐもぐ。

貰ってあげる!もぐもぐ。」

 

 

荒ぶる鮮血魔嬢(エリザベート)の怒りは、藤丸立香の見事な説得(餌付け)によって鎮められ。

ジャンヌと対面したフランス兵士達はと云うと・・。

 

 

「ジャンヌ様っ!聖女様っ!」

 

「ジャンヌ様っ!!」

 

「ああっ!我らの聖女様が生きておられた!

我らの元に帰ってこられたっ!!」

 

「え?・・まさか、貴方達はっ!」

 

 

彼らの輪の中から、一部の兵士達が我先にと飛び出し。満面の笑顔でジャンヌを迎えたのだった。

 

その兵士達の顔ぶれを目にしたジャンヌは、驚き。だが、すぐに彼女も破顔し。

懐かしいーーかつて戦場を共にした《戦友》達の傍らへと駆け寄った。

 

 

「良かった。貴方達も無事だったのですね!」

 

「はいっ!」

 

「お久しぶりですジャンヌ様っ!

こうしてまたお会い出来る日が来るだなんて!!」

 

「上官も、俺らも信じてましたよっ!

ジャンヌ様が《魔女》になる筈なんてないってっ!」

 

「上官っ!ひとりだけ抜け駆けなんて狡いですぜっ!」

 

「い、いや。私はけして抜け駆けした訳ではなく。彼女と会えたのは偶然で・・」

 

「へぇー、どうだか?

上官は聖女様のことになると、人が変わりますからねぇ?」

 

 

まるで子供の様な邪気の無い顔で笑い合い、少女を中心に大の大人達ーーしかも体格のいい戦歴のある兵士達ーーがはしゃぎ回る光景は異様であった。

(現に、ジャンヌと戦場を共にした事のない若い兵士達などは唖然としている。)

 

しかし、絶望的な戦況の中。

常に旗を振り、己達を鼓舞し続けてくれた少女の存在は。

それだけ兵士達にとってかけがえのない《希望()》そのモノであったのだ。

 

そんな彼らから寄せられる、揺るぎない『信頼』に。

変わらぬその『親愛』の温かさに。

聖女たる少女の胸は、震えるほどの想い(喜び)に満たされる。

 

《竜の魔女》が自らを『ジャンヌ・ダルク』と名乗った事を彼らは既に知っていた。

その命を何度も《魔女》の放った手下(怪物)に脅かされ。

その手下(怪物)達により、街が滅びたのを彼らは眼にした。

 

故に少女は疑われ、恐れられ、憎まれ。

出会い頭に彼らに罵倒を受けても仕方がない状況だった。

 

けれど、兵士達はそれでも『ジャンヌ・ダルク』が《竜の魔女》ではないと信じた。

彼らの《聖女()》を、そして《聖女》を信じる《上官(戦友)》を。

疑わず、迷う事なく、一身に信じ抜いたのだ。

肩を並べ戦場を駆けた、かの時のように。

 

 

(ああ、私はなんて果報者なのでしょうか・・。)

 

 

幸多き未来を願った、戦友達から注がれる。

生前と変わらぬ温かな言葉と笑顔と信頼(親愛)

 

彼女はその全てが嬉しく、とても愛おしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーだが。

聖女のその幸福な時間は、非情にも長くは続かなかった。

 

 

「ッ!?、この音はーーーくっ、間に合わないかっ!」

 

「皆さん、気をつけて下さいっ!

何かとてつもないモノが此方に向かって来ますっ!!」

 

 

「「「っ!!!?」」」

 

 

 

アマデウスの聴覚が異様な生体音を(とら)え。

ジャンヌのルーラーの能力が、彼女達の元へと高速で迫る巨大な生物の反応を感知した。

 

逃走の時間が無いと判断したジャンヌは、皆に警戒を促し。

旗を手に、先頭に立って襲い来る未知の存在を迎え撃つ。

聖女の声を聞いた者達も彼女に(なら)い、それぞれが武器を構えた。

ーーそして数分も経たず。

《ラ・シャリテ》の街は巨影に覆い隠され。

一時(ひととき)の間、夜と化す。

 

 

「な、何なのよコレっ!?

子ジカッ!何で急に暗くなったのよっ!?」

 

 

動揺のままに傍に居た藤丸立香の腕を掴み、ガクガクと揺らすエリザベート。

そんな彼女を『どうどう』と落ち着かせながら、最後のマスターは空を見上げた。

まずい事態になっている事を肌で感じながらも、取り敢えず頭に浮かんだ1番楽観的な現象を言葉として吐き出す。

 

 

「うーん。日蝕かな?というか日蝕であって欲しい。」

 

「残念ながら、自然現象ではなさそうです・・原因は上空に居る何者かで間違いなさそうですがーー。お嬢さん方。

一旦、私の後ろに下ってください。」

 

「え?でも・・・」

 

「ここは従いましょう、先輩。

自ら私達の『壁』になると申し出たサー・ランスロットの好意に甘えるべきです!

散っても骨を拾う気はカケラもありませんが!」

 

「なっ。か、壁・・!?」

 

 

『父』としてではなく『壁』として扱われていたーー少女騎士(息子)の放った苦すぎる真実。

そして笑顔で告げられた辛辣な言葉のWパンチに、黒騎士(父親)が1人衝撃を受ける中。

陽の光を遮っていたモノが巨大な翼で突風を生み出しながら。

遥か上空より最後のマスター達の前に舞い降りた。

 

 

 

ーーーーーグゥオ"オ"オ"オ"オ"オォッ!!!!

 

 

 

強固な鱗に覆われた闇色の巨体。

かつて執着した黄金を溶かし、造ったかのような金の両眼。

周囲に轟く咆哮はその場にいる者すべてに。

遠い過去、被食者であった頃の潜在的な恐怖を思い起こさせる。

 

 

「ーーー黒い、ドラゴン。」

 

 

そう。天より飛来したのは漆黒の巨竜(ドラゴン)

『幻想種の頂点』にして『最上級の竜種』たる存在。『強欲』の体現者。

 

彼の名はーーー《邪竜》ファヴニール。

 

 

「ああっ!ーーなんてこと。

まさか、まさか《こんな事》が起こるなんて・・!」

 

 

予期せぬ邪竜の襲来に一同が絶句する中。

堪え切れぬとばかりに声を漏らしたのは、この《特異点(フランス)》に災厄を振り撒く《竜の魔女(元凶)》ーーージャンヌ・ダルク・オルタ。

 

竜の背から見下ろした想定外の光景に《魔女》の相貌は狂気じみた笑みを形どる。

 

 

「見てよファヴニールッ!!

《聖処女》だけでなく《裏切り者(ジル・ド・レェ)》まで居るわっ!それと《植え付けられた記憶》にある見知った顔もチラホラと。

ふふふふっ。

アハハハハハハハハハハハッ!!!!

主は、全ての決着を此処でつける事をお望みのようねっ!!」

 

「っ!?、貴女は・・っ!」

 

「なっ!ジャンヌ様がもう1人っ!?」

 

「まさか、あれがーー?」

 

 

黒き鎧を身に付けたーー《聖女(ジャンヌ)》と鏡合わせの様な容姿のーー少女の出現に、兵士達の間に更に動揺が走る。

 

もう1人のジャンヌ・ダルクの存在を知っていた者達は平静を保ったが。《魔女》の纏うあまりに禍々しい気配に息を呑んだ。

これが、眼前の清廉な少女と同一の存在なのか?・・と疑念を覚えながら。

 

 

「ハハッ・・・良いわ。

なら、見せつけてやりましょう。

 

あの女共が私と貴方の焔で1人残らず灼き尽くされ。竜達に喰い荒らされたフランスが不毛の地となり。この世界が破綻という完結を迎えるーーーその道程を。」

 

「ーーっ!!」

 

 

 

かくして、2人のジャンヌーー《救国の聖処女(真作)》と《竜の魔女(贋作)》は相見(あいまみ)え。

 

《第一特異点》の行く末を決定する『聖杯戦争』の火蓋は切られたのだった。

 

 

 

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※皆様、明けましておめでとうございます←(大遅刻)

筆の進みが遅すぎる作者ですが、今年も何とぞ宜しくお願いします!

 

 

▼作中の《(プレラーティ)からの手紙》とは?

 

その名の通り『フランソワ・プレラーティ』という人物が親友であるジル・ド・レェ宛に送った手紙。だがその内容は、聖女()を喪ってもなお。神の存在を信じる友への歪な親愛を臭わせる不気味で狂気じみたもの。

手紙の最後の一文は『ようこそ、悪夢と恐怖の食堂に』。

ーーーお勧めメニューは海魔の活造りデスカ?(震え声)

 

 

▼フランソワ・プレラーティとは何者か?

 

元は教会に仕える僧侶であったが、とある医師にして魔術師である人物との出会いにより魔術師に転職。

その後、ジャンヌが処刑されて自暴自棄になっていた旦那に近づき。幼い子供達を使った凄惨な魔術儀式を行うよう(そそのか)して、共に死体の山を築き上げたヤベー奴。

つまりジル・ド・レェ(国家元師)殺人鬼(青ひげ)に堕とした張本人である。友達は選ぼうぜ、旦那っ!

ーーーちなみにその容姿は『どこか病んだ目の美少年』(公式)。ジルさんは彼の容姿が好みだった為、自分のお抱え魔術師にしたとの事。

旦那ァ・・。

 

 

▼ついでに螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)も。

 

言わずと知れた《キャスター》クラス時のジル・ド・レェの宝具。人間の皮で装填された魔道書。海魔無限召喚機。

《セイバー》クラス時の綺麗な旦那がこの宝具を使用した場合、強制的にクラスが《キャスター》へと転じてしまうそう。

製作者はプレラーティ本人であり、後に彼が旦那へとプレゼントした。(この時点で嫌な予感しかしない。)

またの名を、クトゥルフ神話にて『ルルイエ異本』と呼ばれる教本。

ーーー人間を容易く発狂させる邪神達の教典を手にし読んだ旦那・・なるほど。狂人フラグ回避不可ですね(絶望感)

 

 

さて、とうとうオルレアン最終決戦が開幕します。

今回《竜の魔女》にアウトオブ眼中され、マシュ(息子)からの毒舌に晒されたランスロット狂が次回は活躍する・・筈だ←

 

 


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