キャスニキ視点
「えっと、立香ちゃん。その人は・・・?」
自分に向けられる無垢な瞳とその言葉に、槍で抉られたような鋭い痛みが胸に走る。
堪える為に強く奥歯を噛み締めたが、視線をその存在から外す事はしなかった。
ーーーあの日、殺した我が子が目の前にいた。
死に別れた時と何ひとつ変わらぬ姿に、かつて無いほどに心がかき乱される。
再び出会えた事への喜びと、殺めた事への罪悪感。
触れたいという欲求と、再び傷つけてしまう事への恐怖。
槍を振り回していた頃の若い自分だったならば、ここまで複雑な感情は抱かなかったかも知れない。
だが、生憎いまの自分はあの頃より年を重ねたキャスタークラスとして現界している。
落ち着いてしまった分、己の欲求に素直に従う事が出来なくなっていた。
「彼はキャスターだよ。私達と一緒に戦ってくれる事になったの。」
「そうなんだ。よろしくキャスターッ!」
「ーーーあぁ。よろしくな、坊主。」
我が子がーーーコンラが笑う。
自分へと笑いかける。
あの時の死を悟った顔ではなく、無邪気な子供らしい笑顔で。
気づけば俺は、湧いた衝動に突き動かされるまま己の手を伸ばしていた。
頭を撫でてやろうとして、脳裏を過ぎった記憶に手が止まる。
はじめてコンラに触れた時、俺の手はコイツを傷つけた。
また同じ事を繰り返すのではないかと。
どんな強大な敵と戦った時でも抱かなかった恐怖心に囚われ、俺はただ伸ばしたままの手を彷徨わせる事しか出来ない。
そんな不甲斐ない俺を、コンラはジッと見つめていた。
離れるでもなく、問いかけるでもなく。
まるで俺の覚悟が決まるのを待つように、その場に留まっていた。
その姿に促されるように。
できうる限り力を抜いて労るようにその小さな頭を撫でた。
瞬間、指先に感じた温かな体温に息を呑む。
胸に去来したのは言いようの無い幸福感だった。
屈強な敵を倒した際に感じる戦士としての達成感や喜びとはまったく違う。
惚れた女に抱いた男としての愛情とも違う。
ただただ、血を分けた我が子が傍にいる事が堪らなく心を満たした。
俺が撫でると、無意識にか眼を細めて嬉しそうに頬を緩ませるコンラが愛おしかった。
ーーー護らなければ。
父としての強烈な使命感に駆られた。
俺にはもうその資格はない。
それでも、せめてこの街にいる間だけでも。
コンラに父親らしい事をしてやりたかった。
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「お願い!」
「ダメだ。」
「ダメよ。」
ぐぬぬ。
とりつく島もないとはこの事か。
イリヤちゃんの事を説明して、学校に張られてた結界をキャスターに解除してもらったまでは良かったんだ。
けど、アインツベルン城とかいう場所にいるバーサーカーの所までイリヤちゃんを送りたいって言ったら大反対された。
「わかってる?そのバーサーカーの真名はヘラクレスなのよ!強いの!危ないの!」
「戦わなければ平気じゃない?」
「こっちが戦いたくなくても向こうが襲ってくるのよ!!」
『バーサーカーは私のことを襲ったりしない!
戦わないよう私が言えば、あなた達にも危害を加えたりしないわ。』
「ーーって、イリヤちゃんは言ってるけど。」
俺以外に認識できないイリヤちゃんの言葉を通訳すると、所長が怖い顔で誰もいない場所を睨んだ。
「所長、イリヤちゃんはこっちだよ。」
「う、うるさいわね!」
所長は今度は顔を赤くして俺が示した方へ顔を向ける。
「確かに元マスターであるアナタなら襲われないでしょうけど。姿が見えなくちゃどうしようもないじゃない!」
あ、確かに。
イリヤちゃんの存在をバーサーカーが認識してくれなきゃ説得できないよね。
「イリヤちゃん、何とかできる?」
『うん。少し魔力を分けてもらえれば。』
その問題も解決できると所長に伝えた。
でも、所長は首を縦には振ってくれなかった。
・・・・仕方ない。
俺も無理強いはしたくないし。
「・・・わかった。」
「そう、やっとわかってくれたの。」
「うん。俺一人でイリヤちゃんを送ってくる!」
「何でそうなるのよ!?」
スパーンッ!と頭を叩かれた。
地味に痛い。
「だって、皆が行きたくないなら一人で行くしかないじゃん。」
「行くのを諦めなさいよ!」
「やだっ!」
「〜〜〜ッ!!!」
なにやら頭を抱えて唸りだした所長に代わるように、キャスターが口を開く。
「譲れねぇのか?」
「うん。」
「出会ったばかりの死んだ女の為に、どうしてそこまでする。まさか惚れたか?」
「違うよ。イリヤちゃんの為じゃない。
俺が、イリヤちゃんとバーサーカーを会わせたいんだ。」
そうだ。
これは俺が自分の為にしてる事なんだ。
だから、これ以上俺の我儘でみんなに迷惑をかけるわけにはいかない!
「俺、一人で行くよ。」
「・・・そうか。」
キャスターは静かに頷くと。
真っ直ぐに俺と合わせていた眼を伏せた。
そして数秒の後、何かを決意したように顔を上げて立香ちゃんに話しかける。
「マスター。アンタはどうしたい?」
「私は・・・コンラくんが一人で行くなら、私も一緒に行こうと思う。イリヤちゃんのことも出来るなら手助けしたい。」
「私も先輩と同じ気持ちです。」
「立香ちゃん・・マシュちゃん・・。」
「ちょっと!アンタ達自分が何言ってるかわかってんの!?死にに行くようなもんなのよ!」
「だろうな。今のままバーサーカーと戦うことになれば確実に全滅する。」
「「「ッ!!」」」
「だから、少しばかり俺が鍛えてやるよ。」
俺達三人から距離を取り、キャスターは杖を構えた。
「俺に勝てたら全員でバーサーカーの所へ行く、負けたら大人しく行くのを諦める。
どうだ?わかりやすいだろ。」
「キャスターッ!でも、俺は・・・」
「コンラ。お前はどう思ってるか知らねぇが、今の俺達にとってはお前も貴重な戦力の一人なんだ。我儘だって自覚があるなら折れることも覚えろ。」
「・・・。」
きっとキャスターの言ってることは正しい。
頭では理解してる。
だけどーーー
『コンラ・・。』
ずっと独りで。
会いたい人に会えなかった女の子を見捨てるなんてこと、出来ないよ。
俺は不安げなイリヤちゃんに笑いかける。
「安心して。俺、勝つから。」
盾を構えるマシュちゃんの横に並び、俺は剣をキャスターへと向けた。
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※誤字脱字等のご指摘ありがとうございます。
ステータスの件はご容赦を。
作中で理由は明かしますがコンラくんは《英霊もどき》なので正式なステータスはありません。
そして《英雄の座》が無いので英霊でありながら成長します。