コンラくんのFGO   作:彼に幸あれ

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交差する願い

 

第三者視点

 

 

 

(ああっ!気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らないっ!!!)

 

 

竜の魔女ーージャンヌ・ダルク・オルタは。

邪竜の背から下方に視線を送り、群れる小さな蟲のような人間達に苛立ちを覚えた。

 

脆弱な霊基を宿す、ネズミの如く力無き聖処女。

そんなネズミ(聖処女)を慕い、敵対者の手から護ろうと周りを囲む裏切者と虫ケラ(元師とフランス兵士)達。

 

 

 

 

《ジャンヌ様ッ!》

 

《聖女様っ!》

 

 

 

 

 

「ーーーー。」

 

 

創造主に植え付けられた『偽りの記憶』にて、己に注がれていた彼らの《親愛》と《信頼》の眼差しは全て《聖処女(本物)》へと与えら(奪わ)れ。

竜の魔女(贋作)》たる己に虚構ではない現実の彼らが向けるのは、《憤怒》や《憎悪》。

全て《敵意》の篭った眼差しだけだ。

 

 

(わかってた!こうなる事はわかってた!!

この記憶は全て作り物で、偽物だから。

彼らが敵である私に《負》以外の感情を向ける事はありえないと理解していたっ!!

でも、それでもーーーっ!!!)

 

 

まるで《本物(聖処女)》を受け入れ《贋作()》を拒絶し、否定するかのような目の前の光景は。

未だ穢れぬ、魔女の白く柔らかな内なる部分を傷つけた。

その裂傷は間を置かずに膿み、《竜の魔女》の心をさらに暗色に染め上げる。

 

 

(・・・そう。そんなに《本物》が良いの?

《本物》が大好きなの?

そんなちっぽけで大した力も持たない聖女様が良いの?ならーーー)

 

 

ジリジリとチリチリと音がする。

それは彼女の心を灼く烈火の音だ。

《贋作》の痛みと嘆きを薪に燃え上がる、《魔女》の憤怒と憎悪を宿した黒炎の音色だ。

 

 

(オマエ達など全員。愛する聖女に得られぬ救済を()い願い、泣き叫びながらーーー無様に地をのた打ち回り、死に絶えて逝けっ!!)

 

 

「ファヴニール、予定を変更するわ。

あの女を殺すのは最後。

先に目障りな周りの蟲どもを片付けましょう。

・・・ワイバーンを、お願いできる?」

 

【ああ。任せろ魔女。

オマエが望むなら、俺はいくらでもオマエに力を貸そう。】

 

 

魔女の願いに応え、再び咆哮を上げる邪竜。轟音と共に放たれた彼の(めい)は、空気の振動に乗り広大な範囲へ拡散。フランス中の飛竜へと伝えられた。

 

 

「ファヴニール・・。

ふふっ、そうよね。最初から解ってたのに。

私の味方は、貴方だけだって。

それなのにーーーバカみたいだわ。」

 

【魔女?・・苦しいのか?】

 

 

ジャンヌ・オルタの異変を敏感に嗅ぎとり、気遣う邪竜。彼のそんな優しさに、心を苛む黒炎の勢いがいくばくか収まるのを彼女は感じた。

 

知らず浮かんでいた自嘲の笑みは崩れ。

狂気をはらんだ瞳は、緩やかに正気の色を取り戻す。

 

 

「いいえ。苦しくなんてないわ。

ただ、やっと目が醒めただけ。

往生際が悪く頭の中にこびり付いていた幻影から、ようやく完全に抜け出せたの。」

 

 

されど、その奥の黒炎はそのまま鎮火する事はなく。静かに燃え続け。

 

 

「ファヴニール。ファヴニール。

今日は素晴らしい日になるわ!

私が《贋作》から《真作》へと生まれ変わる記念すべき日。全てが終わったら、私の誕生日を貴方も祝ってちょうだい!」

 

 

己を慕う者達を力無き故に見殺しにし。

数多の骸に囲まれ。

穢れなき身を焔に抱かれ。

 

絶望を孕んだ堕ちた聖女(本物)の、その血に染まった腹を内側から突き破り。

魔女(贋作)は己が《真作》としての『新たな生』を授かる事を宣言する。

 

 

【当然だな。・・ん?ならば魔女よ。

バースデーケーキを用意するべきか?】

 

「あらっ!素敵ね。

聖杯の力で準備しましょうか。

ロウソクの火は貴方が担当よ?」

 

【むっ。そうか・・せっかくのケーキを焦がさないよう、細心の注意を払わなければならないな。】

 

「あはっ、あはははははははっ!!!

ファヴニールっ!

貴方、最高だわ!!」

 

 

己の《魔女(家族)》の誕生日祝いを台無しにしては成らないと、真剣に頭を悩ませる邪竜に。

魔女は笑いが止まらなかった。

 

けれどそれは、先程の様な自嘲の感情からでは無い。胸の奥から溢れ出る喜びが抑えきれずに上げた、彼女の純粋な笑い声だった。

 

世界中でたった1人だけでも、自身の誕生を祝福してくれる存在が居る事がーーー魔女はこの上なく嬉しくて堪らなかったのだ。

 

 

「ははははっ!・・・ふぅ。

どうやら、楽しいお喋りの時間はココまでのようね。」

 

【ーーああ。そのようだ。】

 

 

国中のワイバーン達が(つど)い。群れとなって遥か遠くからコチラに押し寄せて来るのを感知した魔女と邪竜。

 

邪竜は無駄に足掻くよう、不可思議な動きをみせる人間達の集団へ向け一気に降下する。

 

激しい地響きと土煙を立て。《ラ・シャリテ》の残骸を踏み潰し。大地に降り立った巨竜の背から、魔女は唄うようにその言ノ葉を呟いた。

 

 

「さあ・・蹂躙を始めましょうか。」

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

ーーー少しばかり時は戻り。

魔女と邪竜が最後のマスター達の前に姿を現したのと同時刻。

 

 

「わああああああっ!!!!

立香ちゃん!マシュちゃん!」

 

「嘘でしょ!?

何やってるのあの子達っ!!」

 

「あーー。これはまた、マズイ事になってんな。」

 

 

《ラ・シャリテ》から遠く離れた森の中。

コンラ、オルガマリー、ランサー(クー・フーリン)の3人は《遠見の魔術》を使い、バッチリその場面を目撃していた。

 

ゲオルギウス達の助言に従い、邪竜の反応を追いかけ。

偵察がてら魔術を行使したは良いものの。

眼に飛び込んで来た光景が、まさかの『いきなりラスボス戦』状態に彼らはド肝を抜かれたのだった。

 

オルガマリーは見知った少女2人の他に、彼女達の味方らしき《サーヴァント》達の姿を複数確認出来たが。それ以上に現地民らしき兵士達の数が多い事に眉を顰める。

 

普通の人間が相手の戦闘なら、彼らフランス兵士達も立派な戦力と成り得ただろう。

しかし、今の彼らの敵は《最上級の竜種(邪竜)》と《サーヴァント(竜の魔女)》。

人の領域を超えた者達の争いにて、《ただの人間》である彼らは戦力には成り得なかった。

それどころか、その人数の多さは足で纏いと言っても過言ではない負担を兵士達を護る味方側に強いる事となっていた。

 

 

「マルタッ!ゲオルギウスッ!ジークフリートッ!緊急事態よ!!」

 

 

カルデア側の知人達の劣勢を、直ぐ様理解したオルガマリー。彼女は慌てて近くにいる仲間に声をかけ、その状況を伝える。

 

そんな中、父親と同じくルーン魔術で遠見をしているコンラ少年はというと・・。

 

 

(うああ!どうしよう!?

どうしよう!?

どうしーーーーっ!!)

 

 

彼の瞳に映るのは、黒く強大な巨竜(ファヴニール)に今にも襲われんとする友人達。

彼女達の身を案じ狼狽える少年であったが、その脳裏を1人の男の姿が過ぎった事により。彼は『はっ!』と平静さを取り戻す。

 

 

(そうだ!立香ちゃん達がこの特異点(フランス)に来てるならーーーキャスターの父さんも此処に来てる筈っ!)

 

 

特異点F(冬木)で幾度も助けてくれた頼れる父親(キャスター)との記憶(思い出)が、彼に希望と安堵を与えてくれる。

 

 

(良かった。父さんが居れば安心だ!

父さんならきっと、この状況も何とかしてくれる!!)

 

 

どこか盲目的にも思える父親(キャスター)への信頼によって心の平穏を得たコンラ。

彼は大きく息を吐き出しーー続いて。

胸に込み上げてきた別の想いに従い、その父親の姿を求め忙しなく視線を巡らせる。

 

 

(父さん!父さん、どこっ!?)

 

 

少年の傍らには、すでに父親(ランサー)が居る。

けれど、ランサーは転生後の自身(アキラ)と過した時間の記憶を持ってはいたが。特異点F(冬木)で自身と過した時間の記憶を有してはいなかった。

 

《ランサー》と《キャスター》。

クラス違いの、2人の《クー・フーリン》。

どちらも少年にとっては大好きな《父親》である事に変わりは無い、だがーー。

 

 

 

 

《ああ。これを召喚の時の触媒にすれば、間違いなく俺はカルデアに行ける。

安心しろ・・・すぐに会いに行く。》

 

《・・うん。待ってるね。》

 

 

 

 

 

(ーーー父さんに、会いたい!

約束を破ってごめんなさいって、会ってちゃんと謝りたい!!)

 

 

特異点F(冬木)で交わし、自身の力不足により果たせなかった、あの約束。

その大切な約束の記憶を持つ《父親(キャスター)》に。少年は会い、直接その事を謝りたかった。

 

コンラは自分を突き動かす想いに急かされるまま、《遠見の魔術》を駆使してキャスター(父親)を探し回る。

だが、数分後にはその顔色は青褪め。

彼の背をドッと冷や汗が流れ落ちていた。

それは・・。

 

 

(うっ?えっ?あ、あれ?可怪しいな・・?

父さんーーーー居なくない?)

 

 

探し求める父親(キャスター)の姿が、友人2人の周囲の何処にも見当たらなかったからである。

 

 

(そ、そんなっ!何で!?

あの優しい父さんが、立香ちゃん達だけを特異点(危険な場所)に行かせる筈ないから。絶対一緒に居ると思ったのに!?まさか父さんの身に・・何か、あった?)

 

 

所在不明の父親と、その信頼する父親が共に居ない友人達。

眼の前に改めて突き付けられた最悪の現状に、少年の内にあった安堵は消え失せ。代わりに倍増した不安と恐怖が彼の心を掻き乱す。

 

このままでは彼女達が殺されてしまう。

大切な友人達を喪ってしまう、と。

もしかしたら、もしかしたら。

父親(キャスター)をもーーー。

 

 

 

 

 

「おい。しっかりしろ、コンラ。」

 

「っ!?」

 

 

焦燥に駆られ、苦しげに己の胸元を掴む少年。

そんな我が子の頭を、父親(ランサー)は手の甲で軽く小突いた。

 

 

「へ?・・えっ?」

 

 

突然の事にポカンと小突かれた頭部を押さえ、もう1人の父親を見上げるコンラ。

発動していたルーン(遠見の)魔術をいつの間にか解き、息子の『とある奇行』からその様子をうかがっていたランサーは。

訳が分からず目を白黒させている息子に、溜め息混じりの苦言をこぼす。

 

 

「お前、『父さんが居ない。父さんが居ない。』ってさっきから隣でうるせぇぞ。」

 

「ーーッ!!」

 

 

それは少年にとって、もう1人の父親(ランサー)に決して聞かれてはいけない台詞であった。

本人にその意図は無くとも。

聞く者によっては父親たる《ランサー》を否定し。

もう1人の父親(キャスター)のみを肯定する様にも捉えられる発言だったからだ。

 

 

「と、父さん!違うんだ。俺、俺ーーっ!」

 

 

瞬時にその事を悟り。

コンラは自身が知らず漏らした言葉で、傷つけてしまったであろう父親(ランサー)に急いで謝罪と真意を述べようとした・・・しかし。

 

 

「ああ、そんな顔すんな。

別に怒ってねぇし、お前を責めるつもりもねぇよ。」

 

 

泣きそうに顔を曇らせた息子の頭をワシャワシャと撫でてやり。ランサーは『余計なこと言っちまったな。』と胸中でぼやく。

 

彼はコンラが(ランサー)も、もう1人の己(キャスター)も。等しく《父親》として慕ってくれている事を理解していた。

息子に己が犯した蛮行を想えば、それはランサーにとって過ぎた幸福で。

故に、彼はコンラの発言に対して傷心などする筈が無かった。

 

そして父親は、彼が本当に告げたかった事柄を少年へと知らせる。

 

 

「心配しなくて大丈夫だ。

お前の探してるキャスターの方のオレは、ちゃんと此処(フランス)に居るぜ。」

 

「えっ!?」

 

「邪竜とあの嬢ちゃん達が居る場所から、東の方に魔術で《認識妨害(ジャミング)》がかかってる場所があっただろ?

おそらくだがーーあそこにオレは居る。」

 

 

使用されている術がルーン系統であり、覚えもある魔術であった為。(他に《霊基》にいきなり《狂った思考》をぶち込まれた一件で、同じ『特異点(フランス)』に居ると確信していたのもあり。)

 

おおよその見当をつけ、息子が必死に探すもう1人の己(キャスター)の居場所を教えるランサー。

 

 

「何で《認識妨害(ジャミング)》を掛けてんのかは知らねぇが。状況から見て、あそこで敵が嬢ちゃん達の所へ向かうのを喰い止めてる・・ってところか?」

 

「っ!!・・そっ、か。

父さん、あそこに居るんだ・・。」

 

 

目を凝らす様に細め、魔術が展開している方角を見つめるコンラ。その強ばった表情が、ふっと緩むのを。少年の父親は黙して見守っていた。

 

だが、息子の横顔が決意の感情を滲ませ。

コチラを向き、口を開いた瞬間。

 

 

「父さ」

 

「ダメだ。」

 

「(°口°๑)」←コンラ

 

 

『父さん!俺、キャスターの父さんの援護に行きたい!!』と続けて発せられる筈だったセリフを。

先に予測していたランサーは、息子の口から全て出終える前に一切の容赦なく切り捨てた。

 

自身の頼みを、取り付く島もなく一刀両断っ!どころか。神速で即殺された事に、コンラは文字通り開いた口が塞がらない。

そんな少年へ。今が好機とばかりにランサーは言葉を紡ぎ、畳み掛ける。

 

 

「コンラ。確かにキャスタークラスのオレは朱槍も持ってねぇし。クラスの問題でオレ(ランサークラス)より劣ってる部分もあるだろう。

けどよーーーお前の知る《オレ(クー・フーリン)》の実力は、その程度なのか?」

 

「ーーーえっ?」

 

「誰かの助けがなきゃ『足止め』も出来ねぇような弱っちい男かのか?《お前の父親(キャスター)》は。」

 

「っ!!?ーーー違うっ!!!」

 

 

男の問いに、少年は反射的に語気を荒げて答えていた。

 

 

「違う!違う!

俺の知ってる父さん(キャスター)は!

クー・フーリンは!

誰よりも強くて!!

誇り高い最強の戦士でーーっ!!」

 

 

例え相手が《父親本人(ランサー)》であろうとも。

誰よりも尊敬する《父》であり《戦士》である《クー・フーリン》を乏しめるかの様な言い草に。

コンラは憤りを覚えずにはいられない。

頬を赤く染め、激情を露わにする息子を前に父親はーー

 

 

「ふはっ!わかってんじゃねぇか。」

 

 

ーーーまったく動じる事なく。ニカッと快活に笑った。息子が己の言葉を否定した事に、満足気な様子で。

 

 

「へっ?」

 

「オレは強い。そうだろ?」

 

「あっ。う、うんっ!!」

 

「なら、援護なんていらねぇよな?」

 

「うんっ!ーーーーあっ。」

 

 

少年はそこでハタと気付いた。

己がうまく父親に()められた事に。

 

父親(キャスター)の援護に行きたい』と言おうとしたその口で、『父親(キャスター)に援護は必要ない』と断言してしまったのだ。

 

 

(俺のバカッ!!俺のバカァアッ!!!)

 

 

行くことを許してくれなかった父親(ランサー)に対してや。

あっさり言質をとられた己の単純さ。

更には父親(ランサー)に問われて気づいた。

『援護という名目で、父親に会いに行きたかっただけ』という己の利己的な本心など。

 

悔しいやら、腹立たしいやら、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで。少年の心中は様々な感情が入り乱れ、彼は頭を抱えずにはいられなかった。

 

 

「ううぅ・・。父さん、意地悪だ。」

 

 

父は正しく、己に否がある事は明白だった。

それでも我慢できず。つい漏らした子供染みた呟き。

 

 

「何言ってんだ。

最初にオレをダシにしたのはお前の方だろうが。

・・まっ、これが最後のチャンスってわけじゃねぇ。今回はあっちのオレと会うのはお預けだな。」

 

 

拗ねたような声色のソレに返されたのは、まさしく正論で。やはり父親には自分の本意が見抜かれていた事実に、少年は後ろめたさを感じ身を縮こまらせる。

 

父親がそんな彼の心境を察してか。

努めて明るく、微笑いながら返したのがせめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

「ちょっと!何やってるのよランサーッ!!」

 

 

ランサーとコンラの2人を余所に。

先に作戦会議を開いていたオルガマリー達。

 

緊急事態にも関わらず。

なかなか輪に加わらない彼らに、さすがに彼女も堪忍袋の緒が切れたようである。

 

 

「あっ!ごめんマスター。すぐ行くね!」

 

「えっ!?ち、違うのよコンラッ!

コンラには怒ってないの。

悪いのはそこのランサーだから、貴方は謝らなくていいの!」

 

「おい。」

 

 

息子に甘すぎるマスターの、あんまりにもあんまりな発言に。堪え切れず、ヒクリと頬を引き攣らせるランサー。

 

見るからに機嫌を降下させた己とオルガマリーを、オロオロと交互に見る息子に。

父親が苦笑と共にジェスチャーで早く行けと促せば。

少年は大きく頷き、自身の護るべきマスターの元へと軽やかに走りだす。

 

 

(父さん・・凄いな。

俺も、父さんみたいな(うつわ)の大きい男になりたいっ!)

 

 

己の失言や我侭を、咎めることなく赦してくれた父親(ランサー)。その寛大さに、改めて尊敬の念を深めながら。

彼は脳裏に浮かぶもう1人の父親(キャスター)へ、再会が遅れてしまう事を謝罪する。

 

 

(ごめん、父さん。

でも、必ず!必ず会いに行くから!!)

 

 

再会の約束を固く誓い。

コンラは意識を目前のオルガマリーと、危機に瀕している友人達へと集中する。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・。」

 

 

そして、仲間の輪に加わった息子の背を追い。

けれども急く事はなく、マイペースに向かうランサー。

ふと、彼は振り向き。

警戒の色を灯した眼差しを、もう1人の己(キャスター)が居る辺りへと注ぐ。

 

認識妨害(ジャミング)》の魔術を用い、《遠見の魔術》をもってしても(うかが)えないあの不可視の空間でーーー狂った己は何をしているのか。

男のキャスターへの不信感は積り続けるばかりだ。

 

息子に余計な心配をかけまいと『敵を喰い止めている』等と言ったが。

それだけならワザワザ《認識妨害(ジャミング)》を使う必要などない。

 

見られたくないコトをしているのか?

もしくは見られたくないモノがあるのか?

 

 

(どちらにしろ。ロクなもんじゃねぇ。)

 

 

ランサーは息子やオルガマリーに、キャスター(狂った己)の異変を告げるつもりは毛頭なかった。

己の不始末(ケツ)は己でつける(拭く)

それが《アルスターの戦士》として生き、死んだ男の。

譲れぬ矜持(きょうじ)だからだ。

 

もしも最悪の事態が起ころうものなら。

息子とその想い人(オルガマリー)の身を護るため。

躊躇いなくキャスター(もう1人の己)心臓(霊基)を穿く覚悟を固め、ランサーは朱槍を握る手に力を込める。

 

 

(それにしてもーーーはぁ。くそっ。

何だってこう、オレは何時も・・)

 

 

ただその結末を迎えた時。

父親(キャスター)を慕う息子の心を傷つけ、悲しませてしまうだろう事だけが酷く気掛かりで。

彼は己の呪われているとしか思えない役回りに。

憂鬱な心を抱えたまま、人知れず肩を落としたのだった。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

ーーーー同時刻。

異形の巨人(キャスター)火を吐く大蛇(清姫)

狂える者達の死闘は、ついに終局を迎えていた。

 

 

「ぁ"、ァ・・。」

 

 

焼け焦げた大地に伏せるは、1匹の巨大な白蛇。

その長き胴体は、ところどころの鱗が剥がれ。引き裂かれ。彼等が先程まで行っていた『殺し合い』の激しさを物語っていた。

 

 

「ーーーオワリ、ダ。」

 

 

力尽き、凄惨な姿を晒す凶蛇(清姫)に近づく巨体。

それは《バーサーカー》クラスに転じた事で、怪物と見間違う容姿に変異した。とある少年の父親・・《キャスター(クー・フーリン)》だった。

 

男は敵である少女の息の根を完全に止める為。

《バーサーカー》クラス時の得物である『恐槍ドゥヴシェフ』を振り上げーーー躊躇いなく、その矛先を蛇の頭部に突き刺した。

 

 

「■■■■■■■■■ーーッ!!!!」

 

 

響く、蛇と少女の悲鳴が交じり合う断末魔。

地面に縫いつけられた大蛇の脳天から飛び散る血液。悍ましき大槍とその身を返り血で濡らす男の様は、まさに(ケダモノ)

 

彼が全てを棄てでも救おうとしている少年(息子)の脳内とは、あまりにもかけ離れた非情な父親(クー・フーリン)の姿であった。

 

 

「ーーーーッ!!」

 

 

ふいに、男の巨体がふらつき膝が折れる。

恐槍から手を離し、体を支える為に掌を地に着くが。それでも堪え切れず、キャスターは大蛇の隣に倒れ込んだ。

バーサーカー(狂える者)》同士の争い、彼もまた無傷では要られなかったようである。

 

負傷と魔力残量が限界に近づいた事で。

息子(コンラ)を救うまで還る(死ぬ)ことは出来ない』という、僅かに残された理性(父性)が働き。

《治癒魔術》が使え、魔力消費も少ない《キャスター》クラスへと男の『霊基』は戻される。

 

 

「ぐっ・・!」

 

 

見る間に巨大な四肢は縮み。

ドルイド衣装に身を包んだ蒼髪の男が現れた。

 

荒い息を整えながら、キャスターは得意の《ルーン魔術》を発動。清姫に負わされた無数の傷を塞ぎにかかった。

 

 

「ーーーーさ、ま。」

 

 

そんな彼の耳に届いた、か細い声音。

視線を動かし、出処(でどころ)を見遣れば。

 

虚ろな瞳から、ホロホロと涙を零す。

死に逝く蛇。

 

 

「あんちん、さま・・。

やくそく・・守れ、なくて・・・ごめんな、さい・・」

 

 

頭部の《霊基》を槍に穿たれた事で、彼女の人ならざる体は輝く粒子となって消えていく。

その最中、大蛇の赤い口から漏れ出るのは謝罪の言葉だ。

 

かつて一目で心を奪われ、愛し、偽られ、憎み殺めた『安珍(執着する男)』へ。

狂気に囚われた、憐れな少女は陳謝(ちんしゃ)を繰り返す。

 

その『約束』を先に反故(ほご)にした相手(大嘘つき)へと。

生前、己が隠れた鐘もろとも焼き殺した相手(愛し憎んだ男)へと。

 

当時と変わらぬ狂うほどの深い《愛》を、その胸に抱いたまま。彼女は消滅しきる最後の瞬間まで、『ごめんなさい』と謝り続けたのだった。

 

 

「ーーーー。」

 

 

清姫の最期を見届けたキャスター。

経緯は違えど、己と同じく《愛する者》を追い求め。《約束》を果たせず散った少女。

その哀れな死に様を眼にし、父親の胸にとある感情が去来する。

それは『同情』ーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・やっと、死んだか。」

 

 

ーーーなどと云うを生温いモノではなく。

ようやく厄介な敵が居なくなった事を喜ぶ、『安堵』の想いだった。さすが《父性》に極振りした『冷静な狂人』。

愛息子(コンラ)以外には実に冷淡である。

 

 

 

ーーーーーオオオォッ!!!!!

 

 

 

「ッ!!」

 

 

そんな男の耳を、最後のマスター達を襲う《邪竜》の雄叫びが貫いた。

西の方角から轟いた恐ろしい咆哮に、(ラ・シャリテ)へと向かった少女達の姿が彼の脳裏に思い起こされる。

 

彼女達の危機を察したキャスターは。

おおよその傷口を塞ぎ終えると、別に発動していた《認識妨害(ジャミング)》の術も解除。

急ぎ立ち上がろうと手足に力を入れ、上体を起こした。しかし・・。

 

 

「グッ!ーーく、そっ・・!」

 

 

視界がグルリと回り、再び無様に地に突っ伏す形となってしまった。

理性がほとんど働かない《バーサーカー》クラス時に。(他に選択肢がなかったとは云え)予想以上の魔力を消費してしまった愚行を悔やみ、キャスターは歯噛みする。

 

認識妨害(ジャミング)》を切った事で、一時的に途絶えていたカルデアからの《魔力供給》が再開された為。このまま大人しく、少しの間休んでいれば。

彼は『魔力切れ』によって死ぬ(還る)といった望まぬ結末を迎える事はないだろう。

 

だが、彼は一刻も早く戻らなければならなかった。護るべき己のマスター、藤丸立香の元へ。

息子を取り戻す『計画』の為に、彼女に《こんな所で》死なれては困るのだ。

 

 

「・・、・・っ!」

 

 

されど、父親の(はや)る想いとは裏腹に。

キャスターの意識は抵抗虚しく、徐々に薄れていく。

 

 

「ーーーーコン、ラッ。」

 

 

最後の足掻きのように、喪ったーーと思い込んでいるーー息子の名を呟き。男はついに気を失った。そんな彼を・・。

 

 

 

 

 

「フォーウ・・」

 

 

白き『(けもの)』が1匹、ジッと見つめていた。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

藤丸立香達とキャスターが清姫の襲撃により一時別離した際。

『獣』は心を砕く少女達から秘かに離れ。足止めの為に1人残った男と共に、この場に留まっていた。

 

 

「フォーウ・・」

 

 

『獣』は倒れるキャスターの様子を(うかが)った後。その傍らまでトテトテと歩み寄る。

 

愛らしい姿からは想像もつかない《膨大な魔力》を小さき身に有する『獣』は。

その《規格外の能力》で、眼の前の男がとうに狂い。《裏切り者》と化した事にすでに気付いていた。

 

そして男の《霊基》から滲み出る微かな『同類』の匂い(魔力)に。グルルッと、反射的に唸る。

 

 

この男はーーー息子への愛故に狂った父親(キャスター・クー・フーリン)は。

 

『獣』の眼から見て、まかれた『種』から発芽したばかりの『新芽』だ。

その力は今だ《サーヴァント》の域を出ていないが、(聖杯探索)を続ける中で力をつけ。

終いには『大樹』と成り、カルデアの者達に大いなる災いをもたらす事は明白であった。

 

 

「フォウ。フォフォウ・・。(さて。どうするか・・。)」

 

 

無害な小動物として生きることを望む『獣』は思案する。眼の前の、いずれ必ず『人類悪』に至る(父親)の処遇を。

 

『今』ならば、『獣』は容易く男の《仮初めの命(霊基)》を刈り取ることが出来た。

ほんの少し強めの《魔力》を流せば、『新芽』ごと跡形も無く《霊基》を破壊できる。

 

さすれば、キャスター(クー・フーリン)の《霊基》は改めてカルデアで再構築され。

『英霊』として、『サーヴァント』として。

正常な状態で甦ることと成るだろう。

 

特殊な《バーサーカー》クラスも。

そのクラスを得る原因となった《息子との思い出(特異点Fの記憶)》も失った状態で。

 

 

「・・・・フォウ。」

 

 

ソレが『獣』に『同類』を屠ることを躊躇わせた。

男が『英霊』としての全てを棄てでも、救済を願った愛する息子とのーーー生前では叶わなかったーーー何ものにも代えがたい《唯一無二》の思い出を。

 

永遠に、この『父親』から奪ってしまう事を『獣』は心苦しく思ったのだ。

赤き球体の中へ消え、他者の為に命を散らした《善良》な少年の背を。

『獣』は明瞭(めいりょう)(おぼ)えている。

 

 

「フォウ。フォ・・フォウ。(気が進まないが。仕方がない・・か。)」

 

 

けれど、心地の良い《善性》を宿す少女達の死が。

カルデアの善き人々を襲う悲劇が。

《確定》する事を『獣』は望まない。

 

『獣』が逡巡する間に、その上空を数多の影が飛び去っていく。どうやら邪竜の命令を受けた、フランス全土のワイバーン達が集まり始めたようだ。

 

見る間に数を増やしていく飛竜達。

迷っている時間はーーーもう無かった。

 

ポフリッと、小さな前足を無抵抗な男の頭に乗せ。『獣』は身の内に眠る《魔力》を呼び起こす。続いて、その破壊を目的とした《力》を『同類』に送る。

 

 

 

 

 

 

 

「フォウッ!!?」

 

 

ーーー前に。『獣』の鋭い《感知能力》が、覚えのある《魔力》を捉えた。

 

それは此処にある筈のない《魔力》だった。

その《魔力》の持ち主は此処に居る筈がない者だった。

 

何かの間違いかと。

『獣』は破壊に使おうとした《力》を感知に回し、その《魔力》の正体と在処(ありか)を探る。

 

そしてーーー『獣』は、とある父子に(もたら)された《運命の悪戯》を知る。

 

 

「ファー、フォフォフォウ。(そうか。《結末(未来)》はまだ、決まっていないのか。)」

 

 

『獣』は乗せていた足を下ろし。

見逃すことにした『同類』に、毛量豊かな尾を向ける。

『獣』は決めたのだ。

この父子の行く末を、最後まで見届けることを。

 

 

雪花の少女に『フォウ』の名を与えられし『獣』。

またの名を《比較》を司る災厄の獣ーー『ビーストⅣ』は。

 

《確定》されつつある《悲劇的な結末(未来)》を《善良》なる少年が覆すことを願い。

 

 

アメジスト色の丸い瞳で、遥か彼方の空を見る。

そこに()る豆粒にもみたない小さな点を。

 

戦場と化した街(ラ・シャリテ)に向かう『1匹のワイバーンとその背に乗る人影』を・・・『獣』は見送った。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

※皆様お久しぶりです。

世の中とんでもない事になってますね。

作者も新型肺炎の影響で公私共にゴチャゴチャしています。皆様もどうかご自愛ください。

 

ああ。どこぞの『ビーストⅠ』よ、自作の《聖杯》の力でどうにかしてく・・・れないですよね(泣)

 

今回また《独自設定》の一部が公開されましたが。

この作中の『キャスター/クー・フーリン』は、現在は『ビースト』の云わば『幼体』。

このまま《人理再編》を成功させると、完全な『成体』となります。

 

公式ビーストは《クリフォトの樹》を基にしているという情報から。キャスニキビーストは以下の設定に。

 

 

 

【ビーストⅥ】クー・フーリン

 

原罪のⅥ『排他』

L(ラプス)/拒絶

固有スキル:ネガ・ウォーリア

 

『人類史で最も大いなる偉業を強奪せし、(ただ1人の)人類を救う為の大災害。』

 

 

ーーー其は愛する息子を護れなかった父親の成れの果て。

 

かつて己に我が子を(ほふ)らせ、二度にわたり奪った冷酷な運命を拒絶するモノ。

息子(コンラ)以外の人間を《人類》という枠組みから『排他』し『人理再編』を起こした裏切りの英霊。

我が子(ただ1人の人類)を幸福にする為だけに(現存する)全人類を贄とした大災害。

 

我が子の死を拒絶し。

宿業を拒絶し。

戦士たる己を拒絶し。

倫理を拒絶し。

息子以外の全てを排他した。

望まぬ運命と己への憤怒に駆られる父性に狂うモノ。

 

光の御子なぞ偽りの名。 

その正体は七つの人類悪“排他”の片割れ。

“拒絶”の理を持つ獣。 

 

ーーーその根本にあるのは、己が殺めた息子への"慈愛"である。

 

 

以上っ!!

 

 

フォウさん「フォウフォフォウッ!!フォーッ!!(とんでもねぇ親バカビーストを爆誕させやがったな!コノヤローッ!!)」

 

 

大捏造申し訳ねえぇ・・。

クー・フーリン親子に夢を見過ぎました←

公式でのビーストⅥに対する騎士王(♂)のアレコレはスルーの方向でお願いします!(土下座)

 

ちなみに、対になる『R(ラプチャー)/愚鈍』は平行世界のコンラくんに適性があるという隠し設定もあったのですが・・・やめました←

ややこしくなりますからね。うん。

 

そして色々詰め込んでたらランスロット活躍回までいかなかった・・。

次回に持ち越しです。

もう少し待っててくれ狂スロットッ!

 

 

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