コンラくんのFGO   作:彼に幸あれ

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夢幻泡影

 

 

第三者視点

 

 

 

中世フランスの大地を、仮面の男が駆けてゆく。

その両腕に、己の(魔力をのせた)声で眠らせた。愛する歌姫(クリスティーヌ)の生まれ変わりである(と思い込んでいる)少年ーーコンラを抱えながら。

 

しつこく追ってくる邪魔者達を、召喚した《落とし穴》や《頭上落下シャンデリア》といった罠で妨害しつつ。深き森を抜け。続く平原をも彼は走り抜ける。

 

そして・・・遂に辿り着いた。

仮面の男ーーファントムの知る中で。

この地にて最も『か弱きクリスティーヌを保護できる堅牢な場所』であり。『麗しきクリスティーヌに相応しい装飾と設備の整った場所』であるーーーー《オルレアン城》へと。

 

 

 

 

 

 

「あぁっ・・クリスティーヌッ!

クリスティーヌッ!!」

 

 

そびえ立つ巨城を仰ぎ見て、男は大いなる歓びと興奮に打ち震えた。

 

これで己は愛する歌姫を、悍ましきモノ達の手から永久に護れるのだ!!

これで己は愛する歌姫の、天上の声音を命尽きる時まで我が物と出来るのだ!!

 

 

「目覚めたならば。もう1度、もう1度。

私と唄おう、クリスティーヌ。

かつてのあの日々のように・・」

 

 

愛しき彼女が『歌姫』へ羽化する前。

醜悪な己が、彼女にまだ『天使』と呼ばれ唄の指導を行っていたーーー懐かしきオペラ座での、あの頃のように。

 

 

「また互いの声を重ね、交せ合い。

2人で美しい唄を奏でよう・・クリスティーヌ。」

 

 

(まばゆ)い過去の想い出を昏く澱んだその赤眼に幻視しながら。ファントムは夢見心地で歩を進める。

一歩、一歩、着実に。

己の行いが最愛の歌姫(少年)(さいわ)いに成ると、欠片も疑う事なく。

 

城の傍らに山のように積まれた黄金の品々には目もくれず。横を素通りし。

無防備に開け放たれた城門を、くぐった。

 

 

 

 

 

 

 

「天体は空洞。空洞は虚空。虚空には神ありき。

女神に(たた)えられし、勇猛なる獅子よ。

数多の勇者を屠ったその(あぎと)を今一度開け。」

 

「ッ!?」

 

「ーーー我が敵を噛み砕け《獅子座!!!(リオ)》」

 

 

唐突に紡がれ響く、凛とした女の声。

次の瞬間、男の行く手を遮るように星座がひとつ宙へと描かれる。

それは神話の時代。

英雄ヘラクレスに討たれた、ネメアの森の人喰い獅子(ライオン)を象った星々。

 

 

《グルルルッ、ガアァ!!》

 

 

首元に広がるは雄々しい(たてがみ)

血肉を求め爛々と輝く、飢えた獣の瞳。

生まれながらの捕食者に相応しい、鋭い牙と爪。

 

実体化した神代(かみしろ)の百獣の王は、ストンと身軽な動作で地に降り立つ。

 

そしてーーーファントムの張った数々の罠をどうにか潜り抜け。気取られぬよう魔術で姿を隠しながら追跡し、ようやく追いついたーーー召喚主(オルガマリー)の命に従い主の敵(ファントム)へと襲いかかった。

 

とっさに歌姫たる少年を庇い、小柄な体を左腕に抱くと。逆の腕を振りかぶり。

長く鋭利な己の鉤爪で、獅子の首を狙うファントム。怪人の異形の凶器が、目にも止まらぬ速さで振り下ろされる。

 

 

ーーーーバキンッ!!

 

 

「ッ!!?」

 

 

しかし、男の禍々しい爪は獅子の首を切り裂くことはできず。半ばから折れ、砕かれてしまった。

 

それはこの獅子が、生前に勇者達のあらゆる武器を防いだ強固な毛皮を持っていたからだった。

かの英雄ヘラクレスもこの硬すぎる毛皮のせいで苦戦を強いられ。3日3晩の格闘のすえ、絞殺にてようやく退治する事ができたのだ。

 

特殊な神器や呪具ならまだしも。

『無辜の怪物』によって生じた、異形の鉤爪では太刀打ちなど出来る筈がなかった。

 

男は凶器を砕かれた反動で体制を崩す。

応戦できそうなもう片方の鉤爪は、抱く歌姫(少年)の存在が使用を許さない。

もはやファントムがこの獅子に抗う術は、無かった。

 

 

ーーータンッ、タンッ。ダンッ!!

 

 

まさに『野生の獣』といった俊敏さで。敵に生じた隙を逃さず、一気に距離を詰める獅子。

 

迫る、大きく開かれた口から伸びるのは。

まるで(つるぎ)のような鋼鉄の牙。

敗れた勇者達の血に染まった、真っ赤な舌。

鼻孔に押し寄せる、獣と死の匂い。

 

 

《・・・エリック。》

 

 

「クリす、てぃーーー」

 

 

ネメアの獅子は。

憐れなほど一途に、歌姫への愛に狂い果てた男の頭部を。彼の抱いた叶わぬ幻想ごと。

 

 

ーーーーグシャリッ

 

 

躊躇いなく、無慈悲に噛み砕いた。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

ネメアの獅子に敗れ、霧散するファントムの肉体。

消えゆくその腕から落ち、背から地面にぶつかりかけた息子の腕を。ランサー(クー・フーリン)はギリギリで掴み、引き寄せる。

 

 

「よっ、と。・・たく、おまえは何だってこう面倒事に巻き込まれるんだ?」

 

 

ぽふり。

小さなコンラの身体は、容易(たやす)く父親の逞しい腕に受け止められ。軽々と抱えられた。

 

 

「コンラッ!」

 

 

ランサーに出遅れてしまったものの、同じくベイヤードの背から飛び降りたオルガマリーが2人の元に駆け寄る。

 

想い人である己のサーヴァントの身が心配過ぎて。

すぐ傍らで『命令どおり敵を倒したぜ主!仕事早いオレ凄くね?優秀じゃね?褒め称えてもいいんだぜ!というか褒めろ!!』とドヤ顔をしているライオンはスルーである。哀れ。

 

 

「コンラッ!コンラッ!」

 

「う、ん。ううーん。」

 

 

何度呼びかけても眠ったまま目覚めないコンラに、オルガマリーが焦りを募らせていると。

 

ファントムの罠に遅れを取り、結局は保護者達と共に誘拐犯を追い掛けることになった光槍ーーソウェイルが横からヒョイと割り込み。コンラの顔を覗き込んだ。

 

 

〘ありゃりゃー。

これはけっこう強力な睡眠誘導系の術をかけられてるっぽい☆まぁ、術者本人は消滅しやしたし。もう少しすれば自然と起きやすよー。〙

 

 

アッサリと今の主にかけられている魔術の種類を看破し、言外に心配は無用だと告げるソウェイル。

常の言動は『いい加減でチャラい』ものだが。主であるコンラを守護しようとする気持ちは、キチンと持ち合わせているらしい。

 

 

(ファントムに拐われた時も、私達に知らせてくれたし。思えばこの槍。コンラの命の恩人なのよね。)

 

 

前の街(ボルドー)で墜落死しかけたコンラを、光槍が自主的に現界して救った記憶がオルガマリーの脳裏に蘇る。

 

(変な槍だけど・・案外ちゃんとしてるのかも。)

 

今回の件で、彼女の中のソウェイルの好感度が少しばかり改善された瞬間であった。やったね☆←

 

 

 

それはさておき。

カルデア一行がいる戦場(ラ・シャリテ)へ向かう筈が、まさかのオルレアン城へ到着してしまったランサー達。

 

いつまで経っても褒めてくれない召喚主に痺れを切らしたライオンが、すね気味に還った後。

 

2人の人間を乗せた状態で長距離を全力疾走し、流石に疲弊したベイヤードを休ませながら。彼らはこの後の方針を話し合う。

 

本来ならすぐにでも、現在進行形で戦っている仲間達の所へ向かうべきであった。しかし。

 

 

「うーん・・エヘへー。フワフワー」

 

 

術のせいで爆睡しているコンラを連れて戦場に赴くのは、あまりにリスクが高かった。

オルガマリーに膝枕され、幸せそうに寝言を呟く息子に。ランサーは『どんな夢みてんだ?』と微妙な顔になる。

 

 

〘どーせお孫様が起きないとオイラうまく力出せないしー☆『ヒャッハーー!!』出来ないしー☆

もう此処でサボればいいんじゃないっすかー?

あの《ドラゴンバスターズ(竜殺し&聖人2名)》が加勢したんすから、まず負けませんってー。〙

 

 

一方、戦場に行ってもまともに戦えない状態のソウェイルは。不貞腐れて地面に寝転がっていた。

文字通りゴロゴロと転がっていた。

 

そんな《神槍》の威厳がまったく無い槍を見て、今度はオルガマリーが微妙な顔になる。

やめろソウェイル!

せっかく上がってきた好感度がまた下がるぞ!?←

 

やる気のない光槍の発言はアレだが。

眠る少年が目覚めない事には動きようがないのは事実。

 

彼らはコンラが起きるまで『この場(オルレアン城の近く)』に留まり。その後、すぐに『戦場(ラ・シャリテ)』へ移動する事で話し合いの決着をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、それは杞憂となる。

何故ならば・・・

 

 

【 グォオオオ“オ“オオーーーッ!!!! 】

 

 

「「ッ!!?」」

 

 

〘ゲエエッ!!!

なんかヤッベー☆感じのが2つもコッチに来やがるんですけどぉおおっ!!?〙

 

 

 

『戦場』の方が、彼らのところへ飛んで来たからである。

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

コンラ視点

 

 

 

気がつくと、俺はどこかの海辺に1人で立っていた。

 

 

「?、此処は・・?」

 

(おかしいな?

さっきまでファントムと話してた筈なのに。)

 

 

キョロキョロと周りを見回したけど。ファントムだけじゃなく。近くにいた父さん、マスター、ベイヤードの姿もない。

 

眼に映るのは、何処までも続く白い砂浜。

綺麗な瑠璃色の海。

突き抜けるような晴天の空だ。

 

 

(いつの間に森の中から海岸に移動したんだろう・・・謎だ。)

 

 

本当なら『敵の策略で転移させられた』とか。

『敵に幻術をかけられている』とか。

悪い方の可能性を考えて焦る場面なんだろう。

けどーー

 

 

(・・・何だろう。

大丈夫な、気がする。)

 

 

不思議な事に『此処には自分に危害を加えるモノは存在しない』。そんな根拠もない確信を、俺はハッキリと胸に抱いていたのだった。

 

 

(うーん。よく分からないけど、悩んでても仕方ないし。とにかく帰り道か、帰る方法を探そう!)

 

 

俺はひとまず、美しい浜辺を海沿いに進む事にした。

 

 

 

サクサク、サクサク。

 

 

サクサク、サクサク。

 

 

 

途中で、どうせならと靴を脱ぎ、素足になる。

柔らかな砂と、押しては引く冷たい波の感触が心地良い。

 

 

「〜〜♪〜♪」

 

 

自然と鼻歌を口ずさみながら、俺は歩を進めていく。

 

 

《クゥー。》

 

「?」

 

 

ふと、耳に届いた鳴き声に空を仰いだ。

見ると1匹の海鳥が、高い蒼空をのびのびと飛んでいた。

 

 

《クゥー。クゥー。》

 

 

その海鳥は俺の頭上を数度旋回し、何故か高度を下げると・・。

 

 

「えっ?・・わ、わわっ!!」

 

 

バサリッ!と羽音を立てて。俺の肩に止まったのだった。驚いて思わず目を丸くし、立ち止まってしまう。

 

そんな俺を余所に、海鳥はまったく警戒せず。

むしろリラックスした様子で翼に嘴を突っ込み、せっせと羽繕いをし始めた。

 

 

(おお、落ち着けっ!落ち着くんだ俺っ!!

これはもしかして・・いや、もしかしなくとも!

『チャンス』なんじゃないかっ!!?)

 

 

突然の出来事に戸惑いつつも。俺は今の状況が『アニマルスキー(動物好き)』にとって、千載一遇の好機である事に気がついた。

 

天から与えられし《もふもふ☆撫で撫でタイム》の到来だ。この機会を逃すなど、あってはならないっ!!!←(使命感)

 

 

「撫でさせて・・もらうね?」

 

 

俺は海鳥を(おど)かさない様に。

そーと、そーと、手を伸ばし。

指先で、見るからに柔らかそうな羽毛に触れようとした・・・その時。

 

 

《クゥー?》

 

「ッ!!!?」

 

 

な、なななんとっ!!

海鳥がまるで甘えるように、自分から俺の指に頭を擦りつけて来てくれたのだ!

しかもそれだけじゃない!

指先を甘噛みしたり、体を存分に撫でさせてくれたりと出血大サービスだっ!!!

 

 

(うわあああああぁっ!!!

可愛いいよぉおおおーーっ!!!!

《アニサ》ありがとうございますぅうううっ!!!)←大感激

 

 

「えええと、えっと。

君が良ければ、なんだけど。

帰り道がわかるまで。

このまま俺と一緒に、行かない?」

 

 

興奮し過ぎてちょっと、どもってしまったけれど。海鳥とせっかく仲良くなれたのに。すぐお別れするのが残念で、イチかバチかお願いしてみたところ。

 

 

《クゥ!ククゥーッ!》

 

 

海鳥は快く頷いてくれた。

 

 

(や、やったーっ!!)

 

 

俺は嬉しくて嬉しくて。

肩に海鳥が居なければ、危うくバンザイしながらそこら中を走り回るところだった。

 

 

(エヘへー。人間の言葉がわかるなんて、とっても賢い子だなぁ。人懐っこいし、もしかして誰かの飼い鳥ちゃんなのかも?

羽根の撫で心地もフワフワで最高だったし。

たぶん飼い主さんに、こまめにお手入れして貰ってるんだろうな。)

 

 

「君の飼い主さん、優しい人なんだね。

海鳥ちゃん。」

 

《クゥーー!》

 

 

惜しげもなく振り撒かれる可愛さに、フニャフニャと頬をゆるませながら。

俺は同行してくれる《海鳥》もとい《海鳥ちゃん》と共に、再び砂浜を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

サクサク、サクサク。

 

サクサク、サクサク。

 

 

 

サクサク、サクサク。

 

サクサク、サクサク。

 

 

 

ーーーーどれほど脚を動かし続けただろう。

長い距離を、休むことなく歩いて来たというのに。俺は体に少しも疲労を感じていなかった。

 

天空に輝く太陽の位置も。

数刻前と変わっていないように思える。

 

 

(これは。此処はーーー『現実』じゃないのか。)

 

 

認識した違和感に。薄々感じていた予感が、明確なものとなっていく。

 

 

(それと・・なんだろう。

この場所、この景色。

どこかで見覚えがあるような?)

 

 

さらに、自分が今いる場所に漠然とした既視感を覚えた俺は。足を止め、その正体を探るために。

手掛かりになるモノを求めて注意深く自分の周囲を見渡した。すると・・

 

 

《クゥー!!》

 

「あっ!海鳥ちゃん!!」

 

 

何の前触れもなく、俺の肩を『止まり木』にしていた海鳥ちゃんが飛び立った。反射的にその姿を目で追う。

海鳥ちゃんは高度を上げる事なく、真っ直ぐ水平に飛んで行き。

 

 

《クゥ!クゥー。》

 

《ーーー何だ。また来たのか。》

 

 

慣れた動作で差し出された。

女性のすらりとした白い二の腕に、止まった。

 

 

《私のような者の所へ好んで来るとは。

お前もつくづく物好きな奴だな。》

 

 

長い黒髪が、吹いた潮風にフワリと舞った。

歪な石の塊の隣に、女性は1人佇んでいて。

 

初めて会う筈なのに。

その女性の横顔は、どうしてか酷く懐かしい感覚がして。

 

海鳥ちゃんへと注がれる眼差しには。

呆れを含みつつも。慈しむような、温かな感情が込められているのが垣間見えて・・。

 

 

「ーーーーッ!」

 

 

俺はその光景に。

ギュウッと胸が締め付けられるような切なさを覚えた。

 

 

(海鳥ちゃんが羨ましい。

お願いだから、俺も。俺を。

俺をーーーーその瞳に映して欲しい。)

 

 

そんな強い懇願の想いが、魂の奥底から溢れて。

激流のように押し寄せてくる。

 

 

《クゥー!クゥー!》

 

《?、珍しいな。

どうした。何を興奮して・・・》

 

 

堰を切ったように溢れ出た。不可思議な自分の感情を持て余し、動揺している間に。

 

女性は海鳥ちゃんに促され。

顔を横へ、俺の方へと向けーー

 

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?》

 

「え”っ。」

 

 

俺の姿を視界に捉えてーーーーピシリッと固まった。

 

 

《・・・・・・・・・・。》

 

「・・・・・・・・・・。」

 

《クゥー?》

 

 

春のように穏やかな、ポカポカとした温かな日射しをもたらす太陽の下。

お互いを見つめ合ったまま。石像のごとく微動打にしない、俺と謎の女性。

その間を、海の香りを乗せた柔らかな風が通り過ぎていく。

 

海鳥ちゃんが動かない俺と彼女を交互に見て、不思議そうに首を傾げた・・・うん。海鳥ちゃんの可愛さプライスレス!←(混乱中)

 

 

(ど、どうしよう・・。

見て欲しいと思ったけどっ!

見てくれたけどもっ!!)

 

 

まるで幽霊を目撃したかの様な表情で。

両眼をカッ!と見開き、ひたすら俺を凝視してくる女性。

 

なにやら凄く驚いているらしい相手の反応に。俺もどうするべきか迷って。ただ見つめ返すだけで、動けないでいた。

 

 

《・・・・・・お前、なぜ『此処』にいる。》

 

「っ!」

 

 

けれど、彼女の発したその一言により。

静寂と停滞は破られ、事態は急激に動き出した。

 

 

「あっ。それは、その、おれーーー」

 

《帰れ。》

 

「えっ?」

 

《帰れっ!!》

 

 

どう説明すべきかまごついていると。

女性は急に声を荒げ、俺を射抜くように鋭く睨んだ。驚いた海鳥ちゃんが、彼女の腕から慌ただしく飛び立つ。

 

少し前まで、温かな感情を滲ませていた相手の表情は一変し。今や眉を吊り上げた恐ろしい形相だ。女性の夜色の瞳の奥では、ゴウゴウと激しい炎が燃え上がっている。

 

・・・お、怒っていらっしゃる。

何故かわからないけど。

彼女は俺に対して、もの凄く怒っていた。

 

 

(えええええぇーーーっ!!!?

俺は何か、彼女を怒らせるような事をしでかしてしまったのかっ!!?)

 

 

「ご、ごめ」

 

《謝るな。そんな事より帰れ、一刻も早く帰れ。》

 

「えっ?えっ?でもーー」

 

《モタモタするな!早くしろ!》

 

 

有無を言わせぬ態度に困惑する俺へ。

バシャバシャと派手に水飛沫をあげながら女性は近づいてくる。そのあまりの勢いに気圧されて、思わず深い方へ後退ってしまった。

 

 

《クゥー!クゥー!》

 

 

そんな俺の頭上で、海鳥ちゃんが女性へ何か訴えるようにしきりに鳴く。

その鳴き声がどこか非難めいて聞こえるのは、俺の気のせいだろうか?

 

 

《っ!、黙れっ!!

本来であれば、お前が追い返すべきものを!》

 

《クゥー!クゥゥ!クゥーッ!!》

 

《余計なお世話だ!この愚か者がっ!!》

 

 

どうやら彼女は海鳥ちゃんと話せるみたいだ。

 

海鳥ちゃんの発した言葉の内容は俺には分からなかったけど。

それは彼女を煽ってしまったみたいで。

女性は怒りの矛先を変え、激情を露わに海鳥ちゃんと口論を始めた。

 

 

(何だ?何が起こってるんだっ!?

俺は一体どうすればいいんだっ!?

帰れって言われても、帰り方わからないし・・。)

 

 

怒涛の展開に付いていけず。

俺はひたすら狼狽えまくるしかない。

 

それでも、動物好き(アニマルスキー)として。

海鳥ちゃん(ペット)女性(飼い主(?))が喧嘩しているのを放っては置けないと腹を決める。

 

 

「あのっ!!」

 

 

2人(1人と1羽)の声量に負けないよう。

声を張り上げ、俺は仲裁に入ろうとした。

 

 

 

 

《〜〜〜ッ!!、とにかくっ!!》

 

 

ーーーーガシィッ!!!

 

 

「っ!!?!」

 

 

・・・・のだけれど。

女性の細腕からは想像できない、強い力で肩を掴まれ。その不意打ちにギョッとした俺は、頭が真っ白になってしまった。

 

 

《お前は二度と来るなっ!!!!》

 

 

思考がフリーズし。反射的に身を強張らせていた俺の体を。彼女はドンッ!と乱暴に突き飛ばす。

 

 

「ッ!? わ、あっ!!」

 

 

正気に戻り、慌てて踏ん張ろうと足に力を込めた。でも、膝下まで海に浸かった今の状態では上手くいかなくて。

海水の浮力に脚を取られ、俺は為す術もなく背後へ倒れる。

 

 

「っ、ごめんなさい! 『■■■■っ!!』」

 

 

《ッ!!?》

 

 

背中から浅瀬にダイブする事を悟り。

俺は『無意識に何かを口走った』あと。

とっさに海水が入らないよう瞼と口をキツく閉ざして、受け身をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーードボンッ!!!!!

 

 

 

《・・・・・。》

 

《クゥー。》

 

《・・・・・・なぜ。》

 

《クゥー、クゥ。》

 

(アキラ)っ。お前は・・・》

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

※お、お久しぶりでごさいます。

昨年中に第一特異点を終わらせる筈がまたもや大遅刻。

巻かないと!もっと巻かないと!!(切実)

 

 

 

▽コンラくん視点の補足

 

《謎の海辺》・・本人に自覚はないが、コンラくんの深層心理の片隅。そして同時に謎の女性のテリトリー。ふつうは此処まで来れない。でも誘拐犯Fの魔声で強制睡眠させられたら、うっかり潜って来てしまった。マジかよ←

 

《謎の女性》・・コンラくんと深い縁のある女性。見た目は黒髪黒瞳で東洋人っぽい。彼女がコンラくんに怒ったのは、あまり長いこと彼女のテリトリーに居ると現実に戻れ(目覚められ)なくなる可能性があったから。

おまっ!おまっ!このっ!!すぐに死亡フラグ立てるのやめろぉおおお!!!!←(ド怒り)

 

《謎の海鳥》・・こちらもコンラくんと縁のある子。実は女性は飼い主ではなく同居人。でも(素直じゃないけど)優しいから好き。彼女に良かれと思って連れて来たら怒られた。解せぬ。

 

 

ーーー以上ですっ!!!

 

 

あと、作中で出ました『アニサ』とは『動物好きな人間へのサービス(アニマルスキー・サービス)』の略です。

はい、捏造用語なのでご安心(?)を。

 

次回、ついに邪竜親子の戦いに決着がつく・・・筈だ←

 

 

 

▼オマケ{誘拐犯F追跡中の1コマ}

 

所長「(ファントムを)殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃっ!!!!!」

 

ヤリニキ「」←(遠い眼)

 

光槍〘ヤベ☆〙

 

 


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