フルメタル・アクションヒーローズ   作:オリーブドラブ

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第84話 食事中はマナーを守ろう

 何もかもが機械に制御され、無機質な空間となっている俺の自室。

 意識を取り戻した時に広がっていた視界には、その全てが映し出されていた。

 

「ん……ここって……」

 

 頭を左右に振りながら身を起こし、俺は改めて自分が寝ていた場所を確認する。寝床らしく柔らかいことには柔らかいが、周りが周りゆえに落ち着いて寝付けないだろうと踏んでいたベッドの上で、どうやら俺は一夜を明かしていたらしい。

 

 ベッドに付属しているデジタル時計は午前七時を指し示し、俺に起床を促す。

 

『真モナク朝食ノオ時間デス。所長ニエッチナイタズラヲサレタクナケレバ、起キテクダサイ』

 

 ――何やら恐ろしいことを抜かす電子音声により。つか、エッチなイタズラって……それでも研究所の所長かあの人。

 

 朝日の一つでも差し込んでてくれれば、少しは朝を迎えた実感も出てくるんだろうけど……なにぶん、周りが機械まみれのこの光景だからなぁ。日差しなんて拝めたもんじゃない。

 

 俺は本日最初のため息と共に、ベッドから身を起こして顔を洗おうと洗面所に向か――おうとするが、その前に頭を抱えていた。

 昨日、何が起きたかをまるで思い出せない、という不安のせいだ。

 

 ……あの『三次元を二次元と錯覚する』という妙チクリンな薬を飲まされた――ってとこまでは辛うじて覚えてる。

 だけど、そこから先の記憶……そう、あの視界が歪むような異常感覚に襲われた辺りから、記憶がゴソッと抜け落ちたかのように何も思い出せなくなっていたのだ。

 

 あの後、俺は一体どうしたんだ……? あれからどうやって、俺はここまで運ばれたんだ?

 

 その疑問と不安が、意識が戻ってしばらく経った頃から、幾度となく俺の脳内を動き回っていた。……女性陣に何もしてなければないいんだが。

 脳裏をはいずり回る危険要素に後ろ髪を引かれる思いで、俺は洗面台で顔を洗う。鏡に何やらモジャモジャとうごめいているマニピュレーターが映ってるけど――これに慣れろってのか? ここの連中は。

 

 ……それから、朝食にと指定された時間まで十分を切ったというところで、俺は自室を出て食堂へ向かう。――何か胃袋に詰めれば、少しは頭も落ち着くかも知れないしな……。

 

 ふと、その道中で見慣れた後ろ姿を見掛ける。

 

「おっ……救芽井! おはようさんっ!」

 

 それが救芽井だと脳みそが理解した瞬間、俺は光の速さを超える気持ちで彼女に接近する。

 こんな機械だらけの世界で朝を迎えた中で、やっと生身の人間に会えた……という心境もあるが、科学者的側面も持っている彼女なら、昨日の状況についても詳しく把握してそうだという期待の方が、声を掛けた動機としては大きかった。

 

 そして俺は話し掛けると同時に、その小さな肩に手を置き――

 

「ひゃっ……!」

 

 ――振り払われた。

 

 ……ちょ、ええぇえぇえ!?

 なんで!? 朝の挨拶しただけだよね!? 最悪でも昨日の女性陣に比べれば全然健全な挨拶だったよね!?

 

「あ、あ、りゅ、龍太……君……!?」

 

 俺が挨拶を拒否られショックを受けていると、今度は彼女の方から声が漏れてきた。あれ? なぜに顔が赤い?

 こちらを上目遣いで見つめる彼女は、裸を鑑賞されているシミュレーションでも実行しているのか、胸と下腹部を抱きしめるように隠しながら、茹蛸のように顔を真っ赤にして全身を震わせているいる。……あれ? なんか首筋に付いてるような……?

 

「きゅ、救芽井さん? なんか首に付いて――」

「あ、や、ら、らめえぇぇええぇえっ!」

 

 拒絶された直後ゆえに若干遠慮気味になりつつも、その部分を不審に思い指を当てて――みた瞬間、彼女はまるでいきなり胸でも触られたかのように素っ頓狂な声を上げ、俺の疑問が解明される前に逃走してしまった。

 ちょ、速ッ!? 着鎧甲冑使ってる時より速くないですか救芽井さんッ……!?

 

 ……おいやべぇぞコレ、絶対夕べに何かあったんだ! あの救芽井がここまで俺を避けるような何かがッ……!

 迷惑を掛けたなら謝らなくちゃならないってのはわかるんだが、その前に何があったのか把握しなくては。

 

「なんだよ、昨日俺が何したってん――おっ! 矢村と久水だ!」

 

 その時、俺は部屋が近かったからか、珍しく二人一緒に歩いている彼女らを見掛けた。そして、今度は逃げられないようにと二人の前に回り込む。

 

「おはよう! ちょっと聞きたいんだけど、昨日の晩飯の時に何が――」

「きゃあああーっ!」

「いやあぁぁあぁんっ!」

 

 ……が、彼女らは救芽井によく似た反応を示すと共に俺を突き飛ばし、食堂目掛けて一目散に走り去ってしまった。茹蛸三人衆の出来上がりである。

 

 ――すいません。泣いていいですか。

 

 ……そして誰に聞くわけでもなく、俺は魂の奥底からそう呟いていた。

 

 ――食堂に全員が揃い、朝飯が天井から搬入されて食事が始まっても、気まずい空気が収まる気配はなかった。

 瀧上さんは相変わらず伊葉さんを睨みながら味噌汁をすすり、所長さんは面白そうに俺達の反応を伺い、四郷は頬を染めて無関係を装うかのように、チビチビとご飯を口に運んでいる。

 茂さんは「夕べはよくも樋稟の初めてを!」などと意味不明な供述をしており、救芽井・矢村・久水の三人は顔を真っ赤にしたまま俯くばかりで、俺とは目も合わせようとしていない。

 

「……あのさぁ所長さん、いい加減何があったか説明して欲しいんですけど……」

「単にあなたが知りたいだけなら教えてあげても構わないけど、彼女達と仲直りしたいっていうことなら、そこまで知る必要はないわよ?」

「どういうこった?」

 

 俺の訝しむような視線に対し、彼女は返事をするかのようにウインクしてきた。いや、それじゃ意味わかんないって。

 

「あなたは夕べ、彼女達の性癖を全部見たでしょう? それについてのあなたの正直な感想を述べてあげたら、大体のことは解決するわよ。彼女達、それで気に病んでるってところ、あるみたいだし」

「はぁ? そんなんでいいのか?」

「ええ。もしそれでダメだった時は、私を夕べみたいにめちゃめちゃにしてくれてもいいわ」

「……仲直りの件が片付いた時はそっちのこともやっぱ教えてくれ。普通に気になるから」

 

 俺は所長さんの妙なアドバイスに眉をひそめながらも、今は従うしかないと腹を括る。――事実、仲直りするには腹を割って話さなきゃならないことだってあるだろうしな。

 ていうか所長さん、三人には自分に何があったのかをちゃんと説明してたんだな。それで俺をハブるって、どういうことなんだよ……。

 

 ――いや、今はそこじゃない。

 二度三度咳ばらいを済ませ、俺は三人の様子を交互に見遣る。やっぱり、顔は伏せたまんまか……。

 

「……あのさ。夕べには、その、いろいろあったみたいだけど」

 

 そして俺が意を決して口を開くと、向こうも多少はこちらの気持ちを汲んでくれたのか、少しだけ顔を上げて視線を向けてくれた。全員上目遣いになってやがる……。

 

「俺はさ、別にそこまで悪い気にはなってねーよ。自分が何してたのかは把握してないから『全然』とは言い切れないけど。――夕べで、お前らのことがちょっとは解るようになれたかもしれないし、そこは収穫あったかなって思ってる。救芽井のことも、矢村のことも、久水のこともちょっとは知ることが出来たし、それで三人を嫌になったりはしないさ。むしろ、俺がなんか酷いことしてたってことなんなら、謝らせてくれ」

 

 俺は三人に視線を何度も移しながら、自分が感じたこと、思うところを、彼女達がなるべく傷付かないように最大限配慮しつつ、垂れ流していく。

 ……まぁ、確かに嫌いになんかならないけど、人前を考えて是正した方がいいんじゃないかなー、とは思う。つか所長さん、アンタ「イイハナシダナー」って顔でウンウン頷いてるけど、自分が全ての元凶だってこと忘れてない?

 

「い、いいの……? 私のこと、嫌いにならないの……?」

「龍太ぁ……ありがとう……ホンマ、ありがとうなぁ……」

「龍太様……もう一生、離れませんわぁ……」

 

 所長さんの言うことはあながちデタラメでもなかったらしい。

 自分の黒歴史(?)を肯定された喜びゆえか、彼女達は感極まったように涙を浮かべ、口元を緩ませている。

 ……なんかイイ話って空気なのに、話題の中心が変態性癖って部分がツラいな……。

 

 ――だけど、彼女達の赤面は未だに収まる気配がない。さっきまでとは雰囲気が違うような気がするけど、やっぱりまだ三人とも顔が赤いままだ。

 

「『恥ずかしさ』一色のものから、『嬉し恥ずかし』という毛色のものへと変化している、ってところかしら? てことは、残る問題はあなたとの情事ってことね」

「情事ってなんだ!? 俺マジで昨日何やってたんだァ!? ――ハッ!?」

 

 その時、女性陣三人から何らかのオーラを感じた俺は、咄嗟に視線をそこへ移した。

 

「りゅ、龍太君……こ、ここみたいにまた、私にいっぱい、キキ、キスしても、いいよ……?」

 

 どういうつもりなのか、救芽井は顎を上げて身に覚えのないキスマークを見せつけて頬を染め、

 

「龍太……アタシのお尻、あんたに触られてから疼いてしょうがないんや……なんとかならん……?」

 

 矢村は自分の尻をさすりながら顔を赤らめ、

 

「あぁ、龍太様……ワタクシ、もう胸が焼けるように熱くて、堪えられませんの……。今夜、どうかあなたの手で、鎮めてくださいませ……」

 

 久水に至っては、自分の巨峰を寄せて上げ、懇願するかのごとく瞳を潤ませている。

 

 こんな。こんなことがあっていいのだろうか。……いや、あってたまるか。

 自分の性癖が肯定されたと判断したのをいいことに、彼女達は食事中であるにも関わらず自分が何をされたかを赤裸々に暴露し始めたのだ!

 

「――ご、ごめんなさァァァァァァいッ!」

 

 そこで自分がナニをしていたのか、その全てを察してしまった俺に、この場に留まる勇気はなかった。荒ぶる女性陣から逃げるかのように、俺は全力疾走で食堂から脱出する。

 

 ……あ、またメシ食いっぱぐれた……。

 

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