教室に向かうために黎斗と千冬が廊下を歩いていると、
「もう既に説明を受けたとは思いますが、実際にご覧になってみてご不明な点はあるでしょうか。檀さん。」
「いえ、事前にパンフレットを見たとき施設の充実さに感服しましたが、実際に校内を歩いてみると清掃が行き届いていて実に素晴らしい学園です。この学園に通える生徒たちはとても恵まれていますね。」
「恐縮です。」
「ただ、その敬語を止めていただけないでしょうか。私はあなたと同い年ですので、畏まる必要はありません。」
「しかし、」
「私の立場のことでしたら、気にする必要はありません。私は一生徒としてこの学園に入学しました。ですから、織斑先生も教師として接してください。」
そう言うと、千冬は立ち止まり少しだけ考えてから、
「では、そうさせてもらおう。檀。」
そう答えた。
「よろしくおねがいします。織斑先生。」
そうして、また廊下を歩き始め、教室に近づくと
「ごめんね。でもね、自己紹介、今、織斑君の番なんだよね。だから、自己紹介してくれるかな?ダメかな?」
と、やけにオロオロしている声が聞こえてきた。ドア越しに教室内を見ると、小さな背丈に明らかにサイズの大きな服を着た、いうなれば『子供が無理に大人の服を着た』といった女性が何故か男子に何度も謝っていた。
「はぁ、彼女は山田真耶先生。私の担当し、お前が入ることになる一年一組の副担任だ。そして、あそこにいるのが…」
と千冬が紹介を続けようとすると、
「織斑一夏です。よろしくお願いします。」
ちょうど、一夏がクラスメイトに対して挨拶し頭を下げた。しかし、周りの女子たちは『もっと聞きたい』という雰囲気を醸し出していて、自己紹介を終わるに終わらせず、一夏は戸惑った末に口を開いた。
「以上です。」
がたたっと生徒たちが崩れ落ちる音が教室のそとにまで聞こえた。そんな様子を見て、千冬はため息をつくと、
「聞いたとおり、あれが私の愚弟だ。お前は少しここで待っていてくれ。」
と言って、教室の中に入っていった。黎斗は姉なりに緊張する弟に思うところがあるのだろうと思ったが、
パアンッ!
出席簿でいきなり一夏の頭を叩いた。あまり予想外のことに、黎斗は面を食らい、一夏は急所への不意打ちの痛みに呻いていると
「諸君、私が織斑千冬だ。君たちを一年で一人前の操縦者にするのが私の仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな。」
教師とは思えない暴言が飛び出した。実姉の発言に呆れる一夏だが、ほかの生徒たちはそうは思わなかったようで、
「キャーーー!本物の千冬様よ!」「ずっとファンでした。」「お姉さまに憧れて学園に来たんです。」
大きな黄色い歓声が上がった。そんな学生たちに呆れている千冬と、それによって更にヒートアップする生徒たちを脇目に、黎斗は一夏のことを観察していた。
織斑一夏 17歳。 IS世界大会のモンド・グロッソ初代優勝者、織斑千冬の弟。幼いころに両親が行方不明になり、現在彼の家族は彼女一人のみ。機密事項として、四年前に誘拐されたが姉によって救出。しかし、犯人の正体や目的など詳細は不明。
これが私の調べ上げた彼の情報だ。調べた限り、彼がISを動かせる特別な理由は見つからなかった。ごく普通の男子高校生だ。しかし、彼がこの世界で唯一ISを動かせる男性であるのは紛れもない事実だ。
彼がISを動かしてから、世界中で男性に対してのISの適正検査が行われた。しかし結果は全員空振り。誰一人としてISを動かせるものはいなかった。
私を除いてだがな!
とはいっても、私の場合はある方法で、無理やりISを動かしているのに過ぎない。神である私からしてみれば造作もないことだ
(しかし、四年前とは奇遇だな)
~四年前、一夏が何者かに誘拐される数日前
日本のとある町の路地裏に閃光が走った。その直後、一つの影が地上に落ちる。すると、そのまま地面にうずくまってしまった。
(くっ、転移にここまでの負荷がかかるとは、改良の余地があるな。)
影の正体は他ならぬ檀黎斗である。地上に落下した衝撃以上に、転移による肉体へのダメージが大きく、更には強い頭痛さえある。
痛みがある程度引き、やっと立てるようになると、彼は雄叫びを上げた。
「ふっふっふ、だーはっはっは。やった、やったぞ。成功した。私の才能は完璧だああ!」
しばらく喜びに浸った後、落ち着きを取り戻すと、黎斗はある異変に気付いた。
(無い!バグヴァイザーとガシャットが無い!)
転移するまで、黎斗が腰に巻いていたはずのバグヴァイザーと挿してあったスーパーマイティワールドのガシャットが消えていたのだ。
「マイティワールドは使用者の精神のみを転移させる。肉体自体は元のデータを元にこちらの分子を再構成するはずだったが、どうやらバグヴァイザーは認識されなかったようだな。…!まさか」
ハッとして、黎斗は全身に意識を集中すると、次の瞬間に彼の体は微粒子状に分裂し、しばらく空中を漂った後、元の肉体に戻った。
「ふう、バグスターとしての力は無くなっていないようだ。ならば、どうとでもなる。」
ニヤリと黎笑みを浮かべる黎斗。
「せっかく別世界に来たんだ、少しこの世界を探索するか。」
路地裏を出て大通りに出ると、
キャー!
遠くから大きな歓声が聞こえた。何事かとそちらに歩いていくと大きなディスプレイに群がる人々を見つけた。
「何をやっているんですか?」
まずは情報収集と、近くにいた女性に話しかけると、
「あぁん?男風情がうるさいわね。話しかけるんじゃないわよ。」
と怒鳴られてしまった。女性のあまりに横暴な態度に苛立ちを覚える黎斗だが、辺りを見回して不自然なことに気付いた。これだけの人が集まっていながら、ここには女性しかいない。しかも自分に気付いた女性たちは、こちらを見るやいなや怪訝な顔している。
(まずいな。長居するのは危険だ。)
そう考えて、集団から離れる。
(どうやら、私のいた世界とはかなり事情が異なっているらしい。とにかく、情報を集めるべきか。)
そして微粒子状になった黎斗はそのままディスプレイの中に入っていった。その中で、彼はこの世界に存在する大きな力を知った。
「インフィニット・ストラトス。宇宙活動用のマルチフォーム・スーツか。身体能力の上昇自体はライダーシステムと同じだが、操縦者への保護機能や航空力学を無視した飛行能力、それにどうやって物質を瞬時に量子上に変換してる。いや、そもそもエネルギーはどうやって…」
自分の想像の及ばないISの能力に強く引かれた、そして同時に開発者に強く嫉妬した。
欲しい。
そう強く願う。普通の人間ならば、願うだけ。しかし、彼は止まることなど無い。欲しいのなら手に入れれば良い。幸か不幸か、彼にはその力がある。
その日のうちに黎斗はバグスターの力を使って、日本政府が管理しているISのシステムに直接侵入、解析を試みた。
「だめだ。どうしてもこれ以上先に進めない。」
搭載武器やこれまでの戦闘記録、IS自体の制御システムなどの大部分のデータを計画通り入手した黎斗であったが、思わぬ障害が立ちふさがった。
ISのシステム内部の最深部に謎の黒い扉があるのだ。扉には鍵穴があり、上部には「UCHIGANE」と書いてある。
「打鉄。このISの名前か。今まで手に入れた情報から推測するに、この向こうにあるのはISコアのデータだろう。確かコアについては全くの解析不能だったな。」
ISコアとはISの心臓部であり、ISの稼働に必要不可欠なものだ。
「私の知らないことがあるというのは、どうにも癪だ。このまま破壊してしまおう。」
ドンっ。黎斗は目一杯の力で扉に体当たりをするが、びくともせず、むしろ黎斗の方が弾き飛ばされてしまった。その後もあらゆる手段を講じたが、扉が開く気配すら感じられなかった。
「ふっふっふ、なかなかやるじゃないか。この私の侵入をここまで阻むなど。」
これ以上は無駄だろうと手を止める。だが諦めたわけでは無い。ムキになって無意味な行動を続ける醜いプレイをするつもりは無い。効果的な手がないなら、別の手を考えるまでだ。
「とは言え、今大きく動きすぎるのはまずい。面倒だが正攻法で攻めてみるか。」
そして、彼はその場を去った。
その一年後、IS産業を揺るがす事態が起きる。日本にあるISの開発室の一つである倉持技研のある優秀な研究員が独立し新たなISの産業会社ができたのだ。
この企業の特量は他にはない先鋭的なアイデアとそれを実現する技術力、そして最も特異な点はその社員である。
この会社では才能があるものならば男女問わず平等に採用した。女尊男卑の風潮がある世の中において、この体制は男性たちのモチベーションを爆発的に上げ、トップクラスの企業へと発展した。
その会社の名は「幻夢コーポ―レーション」。社長はもちろん檀黎斗である。黎斗はISを研究するため、自分に関する経歴をでっち上げ倉持技研に入室、そこで獲得した人脈を使い、更には世に不満を持った研究員たちを引き抜き、新たな会社を作ったのだ。
(しかしそこまでしてもISコアについては、未だに不明なままだ。彼がISの謎を解く鍵になればよいが。)
男性操縦者の存在が報道された時、彼は好機と考え社内にてIS適正調査を行い、ウイルスを使うことで、あたかも自分に適性があるように偽装し、男性操縦者に接触するためIS学園に入学したのだ。
「ちょうど良い。今からお前らに紹介しておく者がいる。檀、入ってこい。」
千冬に呼ばれ、教室の中に入る檀黎斗。その瞬間、教室内がざわめく。
「誰、あの人。めっちゃカッコいんだけど。」「織斑君はキリっとしてイケメンって感じだけど。」「あの人は落ち着いてて、大人の男って感じだよね。」
「静かにしろ。檀、自己紹介を。」
すると、黎斗は教壇の横に立ち、
「私は檀黎斗。彼に続いて二人目の男性操縦者となった。君たちと年は離れているが、操縦技術を一から学ぶため、学園に入学することになった。気を使わず、同級生として接してくれると嬉しい。一年間、よろしくお願いします。」
とにこやかに自己紹介をし、最後に丁寧にお辞儀すると、さらなる歓声が教室内に響き渡った。
(耳が、耳がー!)
教室内に響き渡った声のあまりのやかましさに一夏は思わず耳を抑える。一方、黎斗はなんてことないといった風に歓声を聞いていた。
「はいはーい!」
一人の女子が手を上げる。そして、キラキラと期待のこもった目で質問する。
「檀黎斗さんって、もしかしてあの幻夢コーポレーションの社長の檀黎斗さんですか。」
(幻夢コーポレーション?てか、社長!?)
聞きなれない単語に一夏は首をかしげながらも、社長という言葉に大きく驚く。
「ああ、その通りだ。」
黎斗が質問に肯定すると、より大きな が上がった。
「カッコよくて男性操縦者、しかも社長だなんて。」「完璧だわ!」
(社長ってマジかよ。でも、こんなにうるさくしてると、)
バンッ!
と机をたたく音が鳴り、教室が水を打ったように静かになる。
「静かにしろ。ほかの教室に迷惑だ。檀、お前の席はあそこの空いてる所だ。」
「分かりました。」
そして、黎斗は教室の一番後ろの窓際の席まで移動し着席した。
(そりゃ、千冬姉の前で、あんだけうるさくすれば、怒られるだろうな。)
なんて一夏が呆れていると、突然冷たい視線を感じる。そちらを見てみれば、彼の幼馴染の箒がそれとなくこっちを見ていた。一見怒っているような態度を不思議に思っていると、チャイムが鳴った。
「さて、SHRは終わりだ。諸君にはISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その実習では、基本動作は半月で体に染み込ませろ。良くても良くなくても、私の言葉には返事をしろ。」
(さすが千冬姉、なんていう鬼教官ぶり。ていうか、ここで教師やってたのか。俺に言っておいてくれても良いのに。)
少し不貞腐れた一夏が突っ立ったままでいると、再び千冬に怒られた。
SHRが終わると、そのまま一時間目のIS基礎理論の授業に突入する。IS学園では授業量の関係で入学式当日から授業がある。
そして授業が終わり休み時間に入ると、一夏は再び気まずさを味わうことになった。
なんせ彼以外の学園にいるほぼ全員が女性である。さらに彼がISを動かした時、その情報は大々的にニュースで取り上げられたため、彼の名前は学園内に知れ渡っている。
今も教室の外には世界初の男性操縦者を見ようと、一年だけでなく二年、三年の生徒まで押しかけている。
教室内は教室内で誰が最初に話しかけるか女子同士で牽制している状態であり、非常に微妙な空気になってりる。
「やあ、織斑一夏君、だったね。少し構わないかな。」
誰か助けてくれと彼が願っていると、自らを呼びかける声が聞こえた。幸いと声の方を向くと、もう一人の男性操縦者である檀黎斗がにこやかな笑みを浮かべ立っていた。
「あっ、えーと、檀さんですよね。はい!大丈夫…です。」
あまりに驚いて、返事がしどろもどろになってしまった一夏。
(この人、間違いなく俺より年上だろうし、みんなの反応からして相当有名な会社の社長みたいだし。)
ただし、彼が緊張している理由はそれだけでは無い。
(それに、俺はこの人に相当迷惑かけてるんだろうしな。社長の仕事っているのが、どんなものか俺には分からないけど、絶対面倒ごとしか増やしてないだろうし。)
一夏がISを動かした後、世界中でISの適正調査があった。そのとき、黎斗にもISの適性があることが分かり、学園に入学することになった。一夏か自分のせいで、黎斗に迷惑かけてしまっているであろうことを気にしているのだ。
そんなのはただの杞憂であり、むしろ黎斗はかなり乗り気で入学してきた訳だが。
すると黎斗はふふっと笑い、
「黎斗で構わないよ。せっかく同じクラスになったんだ。男性操縦者同士としても仲良くしようじゃないか。」
と言いながら手を差し出した。そんな様子に一夏は、
(なんて優しい人なんだ。こんなところにいきなり放り込まれたのに、元凶である俺にこんなに優しくしてくれるなんて。)
と思いっきり勘違いを起こし、尊敬の念さえ感じていた。結果的にそれが一夏の緊張をほぐす要因となった。
(きっとこういうのを、社長の器っていうんだろうな。せっかく黎斗さんの方から来てくれたんだ。それに応えなくてどうする。)
「はい、よろしくおねがいします。黎斗さん。」
笑顔で黎斗さんの手を握り、握手を交わした。すると、そんな二人の近くに一人の女子が近づき、呼びかける。
「ちょっと、いいか。」
自分たちを呼びかける声に反応し、二人が声の方を向く。
肩の下まである長い髪を白いリボンでまとめたポニーテール、凛とした立ち姿と顔つきに一夏は見覚えがあった。
「お前、箒か。」
しかしその女子は少し表情を変えただけで、黙っているままである。
「では、私は失礼するよ。一夏君、また後で。」
二人の関係性をなんとなく察した黎斗は、席を離れる。
それと同じく、一夏も箒の話しにくい雰囲気を感じて、場所を廊下に移す。それでも箒が一向に話始めようとしないので、俺の方から話を切り出した。
「そういえば、剣道の全国大会、優勝したらしいな。おめでとう。」
昔、新聞で見かけた記事について一夏が話すと、箒は顔を赤らめた。
(えっ、褒めたのになんで怒ってんだろ。)
「なんで、そんなこと知っているんだ。」
「新聞で見たんだよ。」
「なんで新聞なんて見てるんだっ。」
(えー)
その後もいまいち話がかみ合わず、一夏が幼馴染のことなんか忘れないだろうと言って、箒に睨まれたところでチャイムが鳴り、二人は席に戻った。
二時間目の授業の終わるを告げるチャイムが鳴り、一夏は机にうなだれた。
理由は簡単で、先ほどの授業にまるでついて行けなかったのだ。教科書に書いてあることや先生の言っていることが、一夏はまったく理解できなかった。
ただし、そもそもIS学園に入学するような生徒は、事前にある程度ISの知識を学習している。授業ももちろんそれを前提としているので、今までISに関わりの無かった一夏に理解しろという方が酷である。
しかし、事前に彼にも配られた参考書を電話帳と勘違いして捨てた彼の自業自得でもあるのは間違いない
(それにしたって、なんで黎斗さんまで普通に授業受けられてるんだろ?あの人だって、今までISの授業なんて受けたことないはずなのに。それに、)
教室の後方にて普通に女子と話している黎斗を見て、一夏はため息をつく。
(なんで黎斗さんは、あんなに早く女子と馴染めてるんだろ。これが人生経験の差ってやつなのか。)
そんな風に落ち込んでいると、
「ちょっと、よろしくて。」
「へ?」
いきなり呼びかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。一夏が呼ばれた方を見ると、わずかにロールのかかった鮮やかな金髪に、青みがかった瞳の女子が、腰に手を当て一夏を見ていた。
「聞いてます?お返事は?」
「あ、ああ、聞いてるけど、用件は何かな?」
すると、金髪の女子はわざとらしく声を上げた。
「まあ、なんですの。その返事は!このわたくしに声をかけられただけでも光栄だというのに。」
彼女の高圧的な態度に、一夏は心の中でげんなりする。一夏は、彼女のようなIS操縦者としての権力を振りかざす人を、苦手としており嫌ってもいた。
「悪いな。俺、君が誰か知らないし。」
「知らない?!イギリスの代表候補生にして入試主席のこのセシリア・オルコットを知らないですって?」
「代表候補生って、何?」
がたたっと周りで聞き耳を立てていた生徒たちまでずっこける。
「本気で、おっしゃってますの?」
セシリアは、信じられないという様子で聞き返す。
「ああ。で、その代表候補生って?」
「国家代表IS操縦者の候補生として選出された人たちのことだよ、一夏君。」
黎斗が会話に割り込み、一夏に説明する。
「黎斗さん。なるほど。つまり、オルコットさんはイギリス代表操縦者の候補生ってことか。」
「そう、エリートなのですわ。」
ふふんと、得意げな顔で宣言する。
「ですから、このわたくしに泣いて頼むというのなら、ISについて教えて差し上げてもよくってよ。何せ入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから。」
「入試って、あれか?ISを動かして倒すやつ。それなら俺も倒したぞ。」
ピシッと場の空気が一瞬凍り付く。
「非常に言いにくいが、私も倒したぞ。」
黎斗がその空気に、さらに追い打ちをかける。
「わたくしだけと聞きましたが?」
顔をこわばらせながら、そう聞くセシリアに、
「女子の中ではって、オチじゃないか?」
一夏が容赦なくとどめを刺した。そしてちょうど、三時間目開始のチャイムが鳴った。
「っ!また来ますわ。逃げないことね、よくって!?」
それだけ言うと、さっさと席に戻ってしまうセシリア。それに続き黎斗も自分の席に戻っていく。
「授業の前にクラス対抗戦の代表者を決めなくてはいけないな。」
三時間目の授業。教壇に立った千冬は思い出したたように呟く。クラス代表者というのは、対抗戦でほかのクラスの代表者と戦うだけでなく、生徒会や委員会の会議に出席する、いわばクラス長のようなものである。
「はい。織斑君を推薦します。」
「私は黎斗さんが良いと思います。」
女子たちが次々に彼らを推薦する。すると、一夏は慌てて立ち上がり拒否しようとする。
「ちょっと待った。俺はそんなのやらな…。」
「納得いきませんわ。」
パンと机を叩いて、セシリアが立ち上がる。
「男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ。このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間、味わえとおっしゃるのですか。実力から考えれば、わたくしがクラス代表になるのが必然。それを珍しさで極東の猿をされては困ります。わたくしはサーカスをしにこの極東の島国に来たのではありませんわ。」
(いや、イギリスだって島国だろ。)
セシリアの発言にイラつく一夏だが、そんな様子には気付かずセシリアはさらに続ける。
「大体、文化的にも後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとって耐えがたい苦痛だというのに、」
さすがに頭に来た一夏が言い返そうとすると、
パチンッ
両手を叩き、黎斗が立ち上がる。
「そこまでにしときたまえ。セシリアさん言いすぎだ。」
「なんですの。さっきから、私の話に割ってきて…」
セシリアが今度は怒りの矛先を黎斗に変えるが、
「そこまでだ。」
パンッと千冬がセシリアの頭を叩く。あまりの痛みにセシリアがおとなしくなると、黎斗がそれと、と話を切り出す。
「織斑先生、クラス代表ですが私は辞退させてもらいます。私は会社の方の仕事もありますので、クラス代表を務めることはできません。」
(確かに、会社の経営にISの勉強までするんなら、クラス代表なんて、やってる暇ないよな。あれ、てことは俺かオルコットが代表者?)
「それと、候補者が二人になったことですし、決闘で代表者を決めるのはどうでしょう。」
「なるほど。確かに代表者は対抗戦に出場することになるし、強いものがなるのに越したことはないな。」
(あれ、なんか勝手に話が進んでぞ?冗談じゃないぞ決闘なんて)
「いや、ちょっと待っ…」
「おーほっほっほ!何を言うかと思えば決闘ですって。代表候補性であるこのわたくしと、彼とでは天と地以上の差がありましてよ。」
ブチッ。この時、一夏の中で何かが切れた。
「いいじゃねぇか。四の五の言うより分かりやすい。」
さっきまでの考えはどこへやら、完全に乗り気になった。
「あら、よろしいのかしら。あなたの負けなんて、目に見えていると思いますけど。」
「そうだよ、織斑君。やめときなって。」「相手は代表候補生だよ。」
クラスメイトの制止の声を聞きながらも、どうやら一夏は言葉を撤回するつもりは無いと黙り込んでいた。
「よし、話はまとまったな。勝負は一週間後の月曜。第三アリーナで行う。二人とも準備しておくように。では、授業を始める。」
生徒たちが授業の準備にうつる中、檀黎斗は一人、黒い笑みを浮かべた。