神の異世界探訪   作:三枚目の切り札

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ちょっと、最期の方を変更しました。


第四話 DASH!クラス代表決定戦

「遅かったではないか。いったい何をしていて…あなたは」

 

道場に入ってきた一夏に、箒は怒鳴りつける。道着を着て、すでにうっすらと汗をかいていることから、かなり待たされていたらしい。さらに問い詰めようとするが、もう一人の訪問者に声を詰まらせる。

 

「やあ、こんにちは。」

 

黎斗がにっこり微笑みかけると、箒は戸惑うように一夏を見る。

 

「ちょっといろいろあってな。しばらく一緒に特訓することになったんだよ。」

 

一夏が苦笑しながら答える。放課後の千冬の忠告を聞いて、せっかく二人しかいない男子ということで、一緒に行動しようと話していた。。

ただし、専用機持ちが襲撃され敗北したとなれば、企業や国のメンツに関わるとのことで口止めされている。そこで詳しいところは濁して話すが、その話を聞いた途端に箒は焦りだす。

 

「なっ!特訓だと?!私とのはどうするつもりだ!」

 

実はセシリアとの決闘が決まった翌日、一夏は箒にISについて教えてほしいと頼んでいた。自分がISのことをさっぱり理解できていないことに、さすがに危機感を覚え幼馴染の彼女を頼ったのだ。

しかしその後、一夏は中学時代に家計を支えるために帰宅部だったせいで、剣の腕は大きく落ちていたことを箒に指摘される。

昔から一夏の強さにあこがれを抱いていた箒はそのことに憤慨し、彼への好意もあって放課後一緒に特訓することになった。

しかし一夏の方は、剣道の練習ばかりで内心ちょっと不安になっていたりするので

 

「もちろん、箒との特訓もやるけどさ。ほら、やっぱりISの練習も必要だろ。黎斗さんはISの開発にも携わっていたっていうしさ。」

 

一夏は、事前に二人で決めておいた理由を話す。しかし箒は納得できないらしく、余計に不機嫌な顔になり一夏に詰め寄る。

 

「な、なにを言っている。そもそもお前はIS以前の問題だろう。そんな弱さではISに乗ったところで、無様な姿をさらすだけだ。」

 

ムキになって反論する内に話の主題がずれているが、本人は構わず続けていく。

 

「だ、だいたい、ISはどうするんだ。お前のはまだ来てないはずだろ!」

 

「それについては問題ない。さきほど学園に確認したら、訓練機はまだ残っているようだ。私はすでに専用機を持っているから、申請は一機分で済んだしね。」

 

箒の剣幕に慌ててしまっている一夏の代わりに、黎斗が事情を説明する。

 

「確かに、実戦経験が必要なのは認める。昔剣道をやっていたというなら、その感覚は間違いなく大きな武器になるだろう。しかし、まったくISと触れていないというのは問題だ。ある程度ならしておくのは必要だろう。」

 

それに、と黎斗は箒のみに聞こえるような小さな声で続ける。

 

「君たちの時間を邪魔するつもりは無いよ。」

 

すると箒は顔を真っ赤にして慌てだす。

 

「なっ、なっ、何を言ってるんですか、一体!?決してそんな不埒などは…」

 

(ん?黎斗さんは何を言ったんだ?)

 

箒の変わりぶりを一夏が疑問に思い首をかしげていると、一夏の死線に気付いたのか、箒が咳払いをして襟を正す。

 

「そういうことなら、構いません。では着替えてくるので少し待っていてください。」

 

「いや、いまは剣道の練習しようぜ。箒もせっかく着替えて…」

 

「ええい、うるさいぞ。とにかく今はISの訓練が先だ。」

 

一夏の言葉を無理やり遮ると、箒はスタスタと更衣室の方へ向かってしまう。残された一夏は、得心いかないような顔つきを黎斗に向ける。

それに対して黎斗は、肩をすくめて受け流す。

 

 

更衣室の扉が閉まり、中に誰もいないのを確認すると胸に手を当てて気を静める。

 

(こうも簡単に気持ちを見透かされてしまうとは。)

 

一夏への自分の気持ちを当てられたとき、私は自分自身を恥じた。あの人は私と一夏の関係をほとんど知らないはずだ。

いや、もしかしたら一夏が話したのかもしれない。

 

(一夏ときたら、最近は私の前だというのに、あの人のことばかり話しおって。)

 

ふと、楽しそうに黎斗のことを話す一夏を思い出して、怒りが湧いてくるが頭を振り、考えを戻す。

問題はそこではない。たとえ一夏が、あの人に何を話していたとしても関係ない。そもそも、一夏は私の想いに気付いてないのだから。

それでも私の心を言い当てられた。つまり私の行動はそれだけ分かりやすかったということだ。

 

(もう少し気を付けなければ)

 

箒は舞い上がっていた自分を戒めるように、ほほを叩く。

遅くなってはますます面目が立たないと着替えを足早に済ませる。そして道場の外で二人と合流すると、アリーナの方へ向かった。

 

 

「美しい」

 

黎斗は、誰に聞かせるでもなく感嘆の声を上げる。IS学園は四方を海に囲まれ、学園自体が島のような形状をしている。日本本土との距離もそれなりにあるので、空高くに浮いている彼の視界を妨げる建造物は、ほとんどないと言って良い。

さらに、空気が澄んでいるためか、空はどこまでも広がっていて海との境界線が、実際よりはるか遠くに感じられる。

自分がまるで青空の中に立っているような、いやいっそ空の一部になったような感動を黎斗は感じていた。

 

「一夏君、調子はどうだい?」

 

通信を通して一夏に質問する。それに一夏は問題ないと答えるが、どうも動きがぎこちない。

アリーナに到着したあと、一夏はIS初操縦ということで、確認のため軽く基本動作を行ってみたが、あまりうまくいかなかった。

 

(好きに動いてみてって言われたけど、意外と難しいな)

 

ISの動かし方については、ISに乗れば自動的に操縦者には分かるようになっている。しかし動かし方が分かっていても、今まで地面と接して生きていた人間にとって、浮いたまま動くというのは意外と難しい。

初めは黎斗が一夏に指導しようとしたのだが、先に箒が話し始めたので、黎斗はそのまま彼女に任せることにした。

ということで、彼はアリーナ上空からの眺めを楽しんでいた。

 

(何度見てもこの光景は素晴らしいものだ。)

 

そして、黎斗は頭上を見上げる。雲一つない空では、青一色の世界が広がっている。

 

(このさらに先に行けば、やがて宇宙へとたどり着く。)

 

しかし、今のISにはそれは不可能である。エネルギーが有限のISではたとえ宇宙に出ても長時間活動することはできない。それが今のISの現状であった。

 

(最も、そんなことを気にしているのは例の彼女ぐらいなものだろうがな。)

 

「黎斗さん、準備できました。」

 

まだ所在すら不明な天才のことを考えていると、通信越しに呼ばれる。

 

「分かった。今行くよ。」

 

黎斗が地表付近まで来ると、一夏が訓練機『打鉄』を纏い、宙を滑るかのように走っていた。

 

「それが黎斗さんのISですか。」

 

「あぁ、『水仙』と言う。よろしく。」

 

水仙。それが黎斗の専用機。ぱっと見は、打鉄そのものだが、水墨画のようなに明暗が入り混じった配色が、機体の機械的なフォルムとは対照的な優雅さを醸し出している。他に違う点と言えば、打鉄の場合は1mほどのシールドが浮いている両肩付近には、薄墨色と黒色一対の大きな車輪が浮いているとことだろう。

 

「では一度、模擬戦でもしてみようか。」

 

「えっ、いきなりですか?」

 

黎斗のいきなりの提案に、一夏が慌てる。

 

「とりあえず、さ。実際に動かしてみて何か分からないところがあれば、修正していこう。」

 

そう言って黎斗は両手に腕の長さほどの鎌を展開し、構える。

ISは普段武装を、拡張領域に収納していて必要に応じて呼び出すことができる。

一夏もそれに応えるように近接ブレードを右腕に展開して構える。すると水仙が打鉄に突撃をしかけ、右の鎌で切りかかる。

 

「くっ!」

 

「甘いよ!」

 

その攻撃を打鉄がブレードで受けると、水仙は互いの武器の接触面を軸に、切りかかった勢いのまま、打鉄の頭上を回転するようにして、背後に回る。そして振り向きざまに左の鎌で横一線に切りつける。

 

「ぐわっ」

 

攻撃した場所が、ちょうど一夏の背中だったため、打鉄の絶対防御が発動し、エネルギーが大幅に削られる。

水仙は右の鎌でさらに攻撃を仕掛けるが、それを察知した打鉄が前方へ加速し攻撃をなんとか避ける。

 

「危なかった。」

 

「まだだ。」

 

水仙は右肩にある薄墨色の車輪に鎌をひっかけると、打鉄めがけて投げた。車輪に気付き、体をのけぞらせる打鉄だが、わずかに車輪がかすりエネルギーをまたしても削られてしまう。

 

「何をやってる、一夏!」

 

箒の怒声を受けながら、一夏は内心焦っていた。

 

(やばいな、このままじゃ何もできずに負けそうだ。せっかく箒に特訓に付き合ってもらったっていうのに。)

 

打鉄はブレードを強く握りしめ、前にいる水仙に集中するが、打鉄が後方からの攻撃を警告する。ハイパーセンサーを使って、後ろを確認するとさっき避けた車輪が向かってきていた。

 

「まじかよ!」

 

それを一夏が紙一重でかわすと、車輪はそのまま水仙の方へ戻っていく。

 

「驚いたかい。これは車軸を軸にして常に回転しているんだ。だから、ブーメランのように使うことができるんだよ。」

 

そう言って、水仙は先ほどと同じように構えなおす。

 

(このままじゃ、黎斗さんにやられっぱなしだ。状況を変えないと!)

 

打鉄はブレードを左手に持ち帰ると、右手にアサルトライフルを展開し、水仙に向かって撃ちまくる。弾丸の雨が降り注ぐが、水仙は難なくそれをかわしていく。

 

「それじゃだめだ、一夏君。狙いがバラバラすぎて意味がない。」

 

黎斗に指摘されるまでもなく、一夏もこれ以上は無駄と思いライフルを収納、ブレードを両手に持ち水仙に向かっていく。

 

「はぁぁぁ!」

 

打鉄が左腰からブレードを斜めに振り上げる。もちろん水仙は右の鎌で受け止めると、下方へ流そうとするが、

 

「なに!?」

 

打鉄はブレードを自ら引っ込め、水仙に頭突きを食らわせる。奇襲攻撃に黎斗が驚いている間に、打鉄は猛攻をかける。

 

ガギンッガギンッガギンッ!

 

両方の鎌を使って、打鉄の斬撃を防いでいくが、ついに打鉄の攻撃が水仙のガードを破る。

 

ガチャーンと水仙が後方へ吹き飛ばされる。

 

「くっ、なかなかやるじゃないか。一夏君。」

 

「いえ、黎斗さんこそ。」

 

何とか一撃を加えたことに安堵する一夏だが、それでも彼が不利なことに変わりはなかった。打鉄の残りエネルギーは水仙に比べ、大幅に少ないにかかわらず、一夏はさっきのラッシュに体力を使いすぎて息も絶え絶えである。

 

「それではだめだ。ISは操縦者の動きをある程度、サポートしてくれる。今の君は無駄な動きが多すぎて、余分な体力を使ってしまっている。」

 

水仙は両方の鎌を使って、二つの車輪を自身の左右に、それぞれ投げる。あらぬ方向に投げられた車輪に、一夏が困惑していると水仙が一気に加速して、打鉄に迫る。慌てて下がるが、その瞬間に両側から衝撃を受ける。

 

「なんだ?」

 

左右を見れば、先ほどの車輪が機体に当たったところだった。

 

(さっきのはこのために。)

 

一夏が黎斗の真意に気付くが、時すでに遅し。水仙が目前にまで迫っていた。

 

「もらったよ!」

 

水仙が鎌をクロスさせ打鉄を切りつける。

 

「こうなりゃ!」

 

一か八か、打鉄もブレードを正面に叩き込む。

 

ピピーッ

 

そして、打鉄のエネルギーが0になると、水仙は攻撃の手を止めて、鎌を収納する。黎斗は少し息が荒いながらも、悠々たる様子で一夏に微笑みかける。

 

「素晴らしい腕だね、一夏君。 驚いたよ。」

 

それに対して、一夏は息を切らせながら言う。

 

「よく言いますよ。俺より全然、余裕ありそうじゃ、ないですか。」

 

二人は地面へ降りISを解除する。このとき、水仙は指輪の形になり、黎斗の右手人差し指に収まる。

これはISの待機状態であり、専用機持ち達はこうして、文字通り機体を持ち歩いている。

 

「いやいや、こちらは専用機なんだ。訓練機の一夏君に、ここまでやられるとは思っていなかったよ。それにISを実際に動かすのは初めてなんだろう?本当に驚きさ。」

(まさか、ここまでやるとは。専用機が完成すれば、少し厄介だな。)

 

黒夢よりスペックが劣るとはいえ、彼の公式の専用機である水仙と互角の戦いを行う一夏に、黎斗は素直に驚いていた。

一夏は黎斗の言葉をうれしく思い、照れくさそうな顔をする。

 

「そうですかね、だとしたら箒のおかげですね。こいつのおかげで昔の勘を取り戻せましたから。」

 

そう言って、二人の方に歩いてきた箒に満面の笑みで

 

「ありがとうな、箒。お前のおかげで助かったぞ。」

 

なんて言うものだから、さっきの決意はどこへやら、箒は顔を真っ赤にして狼狽える。

 

「そ、そうか。まあ私はお前の幼馴染だからな。これくらい当然だ。」

 

そんなやりとりを見ながら黎斗は内心、一夏に呆れながらも感心していた。

 

(なんの下心もなく、そんなことを言えるとは。罪な男だな。)

 

「一夏君、君の戦い方だがやはり接近戦が向いているね。」

 

呼びかけられて、黎斗の方を振り向く一夏に、彼は解説を続けていく。

 

「やはり、剣道をやっていたというは大きい。普通なら刀を正しく振れるようになるだけでも時間がかかるものだが、君の場合はそういった基礎がしっかりしているからね。その辺の心配が必要ない。箒君との特訓は、君にとって有益なようだ。」

 

その言葉に箒が満足げにうなずく。

 

「それに言いづらいことだが、逆に射撃の腕は未熟だ。決闘まで時間がないからね、剣の腕を磨いた方が良いだろう。」

 

一夏はさっきの戦いを思い出して苦い顔をする。一夏が撃った弾丸は当たるどころか、かすりもしなかった。残りの短期間で会得しようとするのは無理がある。

 

「分かりました。今回はありがとうございました。おかげで、なんとなくですけど感覚がつかめたと思います。」

 

「いや、良いんだよ。前にも言ったが私は君の勝利を願っているからね。それでは打鉄を片付けようか。」

 

それから打鉄を学園に返し、道場に戻ると一夏は箒との練習を再開させた。今までと違った相手と戦ったからか、その動きは格段に良くなっていた。

 

 

そんなこんなで、決闘の日。一夏、箒、黎斗の三人は第三アリーナのAピットにいた。三人とも、一言も話さず黙り込んでいるため、場の空気は重々しい。このあとの決闘を考え、緊張して…いるわけでなく、むしろ焦っていた。理由は簡単で、まだ一夏のISが到着していないのだ。

 

「いくらなんでも遅すぎる。試合が始まってしまうぞ。」

 

しびれを切らした箒が叫ぶが、現状が変わるわけでなく声はただ空しくピット内にこだまする。そんな時、ピット内に慌てた様子で真耶が、その後ろから普段通りの落ち着いた足取りで千冬が入ってくる。

 

「来ましたよ。織斑くんのISが。」

 

やっとかと三人はひとまず安堵する。このままでは不戦敗もあり得るのではと心配していたので、三人の口から同時にため息が漏れた。

ピットの搬入口が開くと、中のISが姿を現す。

白。三人ともISを見たときに真っ先にそう感じた。それほどまでにそれは白く輝いていた。

 

「これが、」

 

「はい。織斑君の専用機『白式』です。」

 

「時間がない、すぐに装着しろ。フォーマットとフィッティングは実戦でやれ。いいな。」

 

急かされ、一夏が白式に乗り込む。すると空気の抜けるような音がして、白式が一夏の体に合わせるように変形し、彼の体と一体化する。

 

 

「調子はどうだ、一夏。」

 

織斑先生は事務的な口調で、一夏君に問いかける。しかし冷静なのはあくまで表向き、自分の立場を考慮してのことだろう。

 

(呼び方が変わっていますよ、織斑先生。)

 

専用機は訓練機と違い、操縦者に強く干渉する。IS自身が操縦者を理解しようとするからだ。特に精神面でのリンクは強く、それに応じて操縦者の負担も大きい。内心は不安でたまらないのだろう。それに相手は代表候補生だ。

ブルーティアーズ。会社のつてを使い調べたところ、それがあの女の専用機らしい。巨大なライフルを使った完全な遠距離特化型で、とくに遠隔で操れるレーザービットはかなり厄介だ。

 

(一夏君とは相性が悪いな。しかし勝機がないわけでは無い。)

 

彼の動きと勝負勘には目を見張るものがある。訓練機であの動きができるのなら、今回はもっと動けるだろう。レーザーを潜り抜けて刀の間合いに入ってしまえば、ビットもライフルも無用の長物だ。

それにああいうタイプは、自分の得意な遠距離戦しかまともにはやってないだろう。近づけば、勝つ可能性は十分にある。

 

「箒、行ってくる。」

 

「あ…あぁ、勝ってこい。」

 

どうやら出撃準備が整ったようだ。箒君と一言交わすと、今度は私の方を向き純粋な目で、自らを鼓舞するように決意の言葉を話す。

 

「必ず勝ってきます。」

 

「あぁ、君なら勝てると信じている。」

 

本当に純粋な目だ。彼と同じように。

 

(本当に勝てるかもしれないな。この目でゆっくり見れないのが残念だ。)

 

そうして、白式はゲートに立つとアリーナへ向かって飛び立った。

 

 

白式が飛び立つと、その様子がピット内のリアルタイムモニターに映る。

先にアリーナにて待っていたセシリアは、一夏に降伏を勧めるが即答で断られる。その直後、ブルーティアーズのライフルのビームが白式を貫く。

 

「踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

それが開戦の合図となり、ブルーティアーズの猛攻が白式に降り注ぐ。

 

「一夏君、即答でしたね。」

 

真耶が少し驚いたように言うと、千冬は少しだけ笑みを浮かべる

 

「当り前だ。あいつはそんなやわな奴じゃない。それに、もしそんなことをすれば、私がしっかり灸をすえなくてはいけなくなるしな。」

 

いつの間にか邪悪な笑みをうかべる千冬に、びくつきながら試合を見続ける真耶。

状況は白式の防戦一方で、ブルーティアーズのピットから放たれるレーザーを避けるのに、手いっぱいである。当然、すべてを避けきれるわけなく、じりじりとエネルギーを削られていく。

心配そうな顔でモニターを見る中、千冬はいつの間にか黎斗がいなくなっていることに気付く。

 

「山田先生、檀は?」

 

「あれ?!そういえばどこに行ったんでしょう?トイレとかでしょうか?」

 

妙な胸騒ぎを覚える千冬。例の襲撃者をおびき寄せるために、今回は敢えて警備に自然な穴を作っている。

しかし、襲撃者は通常のIS学園の警備を潜り抜けて、専用機持ちを襲撃している。そのことからも、内部犯の可能性も考えられている。

このタイミングで姿を消した黎斗に、不信感を募らせる。

 

(偶然と言えば、それまでだが…)

 

千冬はどうすべき少し悩んだ後、モニターを眺めると、踵を返し出口に向かう。

 

「少し出る。」

 

真耶と箒の戸惑うのをほっておき、千冬はピットを出ていく。

そして、アリーナの廊下を歩いていくと、備品室の中に入る。扉が閉まる瞬間、光の粒子が隙間から出ていった。

 

 

(?!ここはどこだ!)

 

私は気が付くと見知らぬ部屋にいた。壁には工具類の入った箱が並べられた棚、そして部屋の真ん中には机がある。

 

(どうやら、備品室のようだが、私はさっきまでAピットにいたはずだ。それがどうして…)

 

しかしここまでの経緯を思い出そうにも、どうもはっきりしない。まるでそこだけすっぽり抜け落ちたようだ。

 

「とにかく、ここから出よう。」

 

こんな時に、襲撃があったはたまらんと部屋を出るために扉のセンサーに触れるが、一向に扉が開く気配がない。

 

「くっ私としたことが!」

 

どうやら、まんまと罠にはまり、閉じ込められたらしい。

しばらくの間、扉を叩くなり、センサーを触るなりしてみたが、反応はまるでない。

ドアを開けるのを諦め、扉にもたれかかる。

 

(あいつらは大丈夫だろうか。)

 

ふと弟の顔がよぎった。

 

 

第三アリーナ。アリーナ上空ではセシリアと一夏が戦っている。

状況は相変わらず、一夏が不利な状態なままである。ブルーティアーズのレーザーの嵐を、なんとか避けていくが、いくつかは被弾しておりエネルギーはわずかになっていた。

それをAピットのモニターで不安そうに見る箒と真耶。

また、Cピットでは襲撃者に備え、楯無が彼女の専用機『ミステリアス・レイディ』を装着した状態で待機していた。

 

(そろそろ限界か。)

 

そして、本来ならば誰もいないはずのDピットに立つ男が一人。そう、檀黎斗である。彼はドアにかかったロックを解除し、誰にも気づかれることなく侵入していた。

彼は一夏の戦いぶりに失望していた。

これ以上待っても何も得るものは無い。そう思いポケットに手を入れると、

 

ガキンッ!

 

大きな金属音が響く、試合の方を見ればブルーティアーズが大きく体勢を崩していた。どうやら白式が体当たりを仕掛けたらしい。

ブルーティアーズは慌てて距離を取って、ピットで攻撃するが、白式は攻撃を見事に避けビットを一基撃破した。

その後も白式は、次々とビットを撃破していく。しかし、四基目を撃破し勢いに乗った白式が、ブルーティアーズ本体に迫った瞬間、ブルーティアーズの腰の部分から新たに二基のビットが動いてミサイルを放つ。

完全に不意打ちを食らった白式は回避が間に合わず、ミサイルをもろに食らってしまう。

 

(惜しかったが、経験の差か。)

 

黎斗を含めた会場の誰もが、白式の敗北を確信したとき、眩い閃光が走る。その光が収まったとき、そこにいたのは新たな姿になった白式だった。

一次移行(ファースト・シフト)』。ISが操縦者に合わせて、最適な機体へと自身を変形させた状態。鮮やかな白と青のボディは美しく滑らかなラインを描き、一対の大きな翼のような非固定浮遊部位が両肩に浮いている。

その姿を見て、黎斗は凶悪かつ狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふ。はっはっはっは!素晴らしいぞ、織斑一夏ァ!圧倒的劣勢からの逆転!このタイミングでの一次移行ォ!実に素晴らしい演出だ。それでこそ、」

 

黎斗はポケットから取り出した小型の機械、この世界には存在しないそれを顔の横に掲げそのスイッチを押す。

 

『ナイトメア・コール』

 

ガチャーンと歯車がかみ合うような機械音と同時に、黎斗の周りに闇が霧状に広がる。その霧が晴れると、そこにはいたのはIS。しかし水仙ではない。黒の全身装甲にとげとげしいフォルム。まごうことなき黒夢が立っていた

 

「データの取りがいがある。」

 

漆黒の戦士はアリーナ上空にて、対峙する二人めがけて飛び出した。

 

『正体不明IS 接近中』

 

ディスプレイに表示された警告に二人は動きを止め、互いに見合う。

 

ギュイィィン

 

その直後、二人に黒夢が光の刃を展開し切りかかる。それをなんとか回避した二人は距離を取る。

会場に警告音が鳴り客席のシャッターが下り、避難指示が放送される。

 

「こいつ!」

 

「ついに来ましたわね。わたくしがその正体暴いてみせますわ。」

 

威勢の良い言葉とともにブルーティアーズが残ったビットとともに攻撃を仕掛ける。しかし、黒夢はなんなく攻撃を避けながら、ブルーティアーズに接近する。

 

「速い!」

 

とセシリアは感じるが、実際には黒夢は、そこまで早くはない。さっきまで戦っていた白式の方が出力は圧倒的に上である。

しかし、黒夢は千手システムにより、自分に向かうすべての攻撃の軌道を把握すると同時に、ブルーティアーズへの最短ルートを割り出している。それを寸分のずれもなく、常に最高速度近くの速さで動くことができる。

結果として、セシリアの体感速度は恐ろしいものとなる。

 

「あっ!」

 

シュルルルと黒夢頭部のコードがライフルに巻き付くと、そのままライフルを放り投げる。動揺した隙をついて、黒夢が刃で切り裂こうとすると、

 

ガキン

 

「大切な生徒にこれ以上、手を出さないでもらえるかしら。」

 

槍を構えた(ミステリアス・レイディ)がそれを防いだ。

 

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