聖應女学院に、戦車道特別講師として招かれた西住みほと秋山優花里、それに自動車部の面々のお話しです。
なお、このSSはpixivに投稿していたものの再投稿になります。
chapter:戦車道座学室
優花里「というわけなんですよ。なので、聖應さんにあるセンチュリオンの機銃が20ミリポールステン機関砲であることから、1から10号まである初期生産車両の一つと考えられるわけです。レプリカも沢山あるので、オリジナルの希少価値がどれぐらいあるのかわかりませんけどね」
「大変わかりやすい解説でしたね」「本当に。それに、まさか我が校のセンチュリオンがオリジナルだったなんて」「びっくりしましたわ」「センチュリオンは、まさにお姉さまが乗るに相応しい戦車でしたのね」
春「みなさん、わざわざ我が校に講義にいらしてくれた秋山様に拍手を」
ぱちぱちぱち……
春「それでは皆様、このまま艦首食堂に向かいましょう。戦車倉庫で行われてる、実技の講義も終わった頃です」
『はい!』
優花里「皆さん、規律正しいんですねぇ」
春「そう言っていただけると、隊長として誇らしいですね」
優花里「規律の正しさって、戦車道でも大変重要なんですよ?」
春「そうなのですか?」
優花里「はい。正確には軍隊で重要視されるんですけど。こんな話があります。自衛隊が、ある国に派遣されたときのことです。宿営地に、いくつものテントがはられるんですが、いくつもならんだそのテントの張り綱、横から見たら一本に見えたそうなんですよ」
春「震災の被災地でも、それは見たことがあります」
優花里「美作殿は、震災の応援に行ってらしたのですね?」
春「ええ。それが、戦車道を学ぶ者の務めですから。失礼しました。どうぞお話を」
優花里「ああ、はい。それでですね。自衛隊にとってはそれが当たり前だったんだそうです。ですが、他の国の軍隊は、それを見て感嘆の声をあげたそうです。さすが日本、と。つまり、統制され、規律のとれた軍隊は士気が高いことを意味していて、それは攻撃の対象としてはいけない軍なんだそうです」
春「つまり、戦車道でも、統制がとれたチームは……」
優花里「はい。士気が高く、相手にしてはいけない、ということになります。特に、聖應さんは、雑談が始まっても、美作殿の一声に即座に従う統制と規律があります。私ならあまり戦いたくないチームですね。ああ、もう試合しちゃってますけどって、美作殿?」
春「すん……い、いえ、お気になさらずに」
優花里「そ、そんな泣かれたら、気にしますよぉ。美作殿~」
美冬「聖應って今まで対外試合なんてしたことなくて、春ちゃんずっと一人で頑張ってきたからさぁ。私達のやってる事が本当にこれで正しいか、ずっと不安だったんだよ」
千秋「美冬さん、あなたまた言葉使いが」
夏子「今はいいじゃありませんか、千秋さん。まぁ、そういうわけだから、他校の人に、こんなにしっかり褒められたことなかったんです。大変だったもんねぇ、春さん」
春「うん……うん」
優花里「え、ええと、あ、あの、貴女達は……」
夏子「ああ、自己紹介もせずに申し訳ありませんでした。わたくし、隊長車砲手を務めさせていただいております。美保夏子、と申します。此方が赤坂千秋さん、操縦手さんをやってます」
千秋「初めまして」
優花里「こ、こちらこそ」
夏子「で、このわんぱくさんが宮前美冬さん。装填手さんです」
美冬「初めまして! お姉様方からは美冬って呼び捨てにされたりしてます。決勝の西住ターンの最中の装填なんて、もうび――っくりしました! いやー、あんな横G激しい中でも、つっかえずに装填ってできるもんなですねぇ」
優花里「い、いやぁ、そのために、毎日鍛えてますから」
美冬「やっぱり鍛えてるんですねぇ」
優花里「カバさんチーム――ああ、Ⅲ号突撃砲の装填手の人は、空の砲弾に砂詰めて、自作の装填台使って装填の練習してますよ?」
千秋「Ⅳ号、えーと、あんこうチームの操縦手の方も練習をしてるのですか?」
優花里「いえ、冷泉殿は天才ですので」
千秋「天才……」
優花里「それも、戦車の教本を一読しただけで簡単に操縦できてしまうぐらいの天才です。ちなみに、他人にものを教えるのが致命的に下手です」
千秋「お話を伺いたかったのですが、参考にならなさそうですね」
優花里「ええ、残念ですが、お役には立てられないかと」
夏子「春さん、大丈夫?」
春「え、ええ……皆さま、お見苦しいところをお見せいたしました。それでは、食堂に参りましょう。それから優花里さん、有り難うございます」
優花里「い、いえいえ」
chapter:聖應女学院、戦車倉庫
みほ「はい。人間はどうやってもミスをしてしまいます。そこを試合中に責めても萎縮してしまうだけですので、私はやりません。それよりも、ミスをさせない命令をしなかった隊長が悪い、と考えます。隊員のミスを引き受けるのが隊長です」
千早「では、今まで一度も怒ったことがないのですか?」
みほ「はい。それよりも、選手のみんなには負い目を感じずにのびのび試合してほしいですから。それに、些細なミスも、考え方を変えればその状況に変化を与えてくれた要因です。それを逆手に取って状況を好転させるのも指揮官の役目です」
薫子「いや、普通はそう考えないよ。ね、簡単でしょとかいって、ミスを誤魔化してミスにしなくさせる画家じゃないんだからさぁ」
みほ「みんなで楽しいことは分かち合う、それが私の戦車道ですから。楽しくないことを楽しくして分かち合えるようにするのが、隊長だと思います」
史「千早さま、そろそろ食堂に集まる時間です」
千早「もうそんな時間に。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものですね。大洗のアンコウ鍋と比べたらささやかなものですけど、お茶会の席を用意させていただきました。自動車部の皆さんも、そろそろ講習が終わった頃でしょう」
みほ「有難うございます、妃宮さん」
千早「えぇと、みほさん。出来れば、私たち聖應の生徒のことは、名前で呼んでいただけませんか? 私たち聖應の生徒は、苗字ではなく、名前で呼び合うことになっています。お世話になった方に苗字で呼ばれるのは、我が校の校風にそぐわないですし」
みほ「あ、はい。千早さん」
千早「ふふ、有難うございます、みほさん。名前で呼んで頂けると、戦車道受講者の皆さんもきっと喜んでくれると思います。それでは、参りましょう」
chapter:聖應女学院食堂
「まぁ、あの方が千早様とタイマン張ったみほ様ですの?」
「亜紀さん、タイマンって、言葉が悪いですよ」
「ですが、全国優勝なさった方なのに、なにかこう、普通ですわね」
「むしろ、親しみやすそうな方です」
「雰囲気が前エルダーの周防院様に似ていらっしゃいます」
「言われてみれば確かにそうですね」
「あ、優花里様ですわ。優花里様が我が校にスパイにいらっしゃった時、私と衛里さん、お話する機会に恵まれました」
「まぁ、本当に?」
「どんな方でした?」
「とても気さくで、お話しやすい方でした」
「ああ、みほ様、我が校に転校していただけないかしら」
「そうなりますと、雅楽乃様とエルダーの座を争うのですね」
「あら、あちらにはナカジマ様が。凛々しさと愛らしさが同居した魅力的な方で、私、この前の練習試合でふぁんになってしまいました」
「ホシノ様、麗しい……」
ナカジマ「あー……なんか凄いね」
みほ「あはは……」
優花里「大学選抜戦の後の雑誌取材でも、こんな人に囲まれたことありません」
ツチヤ「いやぁ、まいったね。こんなに注目されたことないや」
千早「その、すみません、大洗の皆さん」
薫子「うちの生徒って、案外物見高いのが多くてねぇ」
ケイリ「これでお嬢様学校なのだから、世に言われるお嬢様とのギャップたるや、だね」
春「これでは流石にお茶会とはいきませんね」
優花里「千早殿や薫子殿は平然としてますけど、いつものことなのですか?」
千早「ええ、いつものことといいますか」
薫子「ま、まぁ、何かあるたびにこれだから」
みほ「た、大変なんですね、エルダーって」
薫子「まぁ、芸能人みたいに取材であるとないことはやし立てられて悪さされたりとかはないから、そのあたりだけは安心していいかな」
千早「皆さん、只今から戦車道受講者で、お茶会を開くことになっております。通していただけないでしょうか」
『失礼いたしました、千早お姉さま』
スズキ「うわ、すっごい。千早さんの一言で人が別れて道ができたよ」
ホシノ「こりゃ凄いもの見たねぇ。いい話のタネになる」
春「では、お茶会はあちらの奥になります。参りましょう」
優花里「春殿も動じないですね」
春「優花里さん、戦車道受講者の総人数は100名を下りません。これぐらいの人数を前にいつも何かをしていますから、慣れているだけです」
千早「それにしても、いつもより多いですね」
??「陽向、また貴女がやったのね?」
??「いたっ! いたたたた! おおねえさまウメボシやめえええ」
優花里「ななななんですか今の声」
千早「ふふっ、やっぱりあの娘か原因でしたか」
薫子「散々注意されてるのにやめないあたり、陽向だよねぇ」
史「皆様、お待ちしておりました」
千早「ありがとう、史。大人数のお茶会の準備、大変だったでしょう」
史「史のクラスメイトが手伝ってくれました」
千早「まぁ、それでは、今度お礼をしないといけないわね」
史「クラスメイトのみんなが喜びます」
春「皆さん、席に着いたようですね。紅茶の用意もできたようです。それでは皆さん、始めましょう」
ケイリ「初めまして、みほ。私はケイリ。センチュリオンで操縦手をやっていた」
みほ「あ、はい。初めまして」
ケイリ「実は、みてもらいたい写真があってね」
みほ「はい。どんな写真なんですか?」
千早「ぶっ! ケイリ! 貴女……」
ケイリ「何かな、千早」
千早「貴女あの時の写真を」
みほ「この写真、センチュリオン搭乗者全員とセンチュリオンの写真ですね?」
ケイリ「ああ、これが千早、こっちが薫子、それに史、私だ。周りにいる生徒は、センチュリオン専門の整備チーム。試合前に、記念に撮ったんだ」
千早「なんだ、そちらの写真でしたか」
ケイリ「千早はなんの写真だと思ったんだい?」
千早「わかってて言ってますね、ケイリは」
みほ「この写真、もらってもいいですか?」
ケイリ「ああ、構わないよ。みほのメアドは……」
みほ「bocokuma_love@*****.**.**です」
ケイリ「了解っと」
みほ「有難うございます、ケイリさん」
優花里「あ、ケイリ殿、その写真、私も欲しいです!」
みほ「秋山さんには私から」
優花里「有難うございます、西住殿」
春「れおぽんさんチームの皆さん、本日は講師の件引き受けていただき感謝いたします」
ナカジマ「いやいや、こちらも触った事のない戦車をさわれたから楽しかったですよ」
スズキ「そうそう。それに、センチュリオンなんていう滅多に触れない戦車に触らせてもらったし」
ホシノ「こっちこそいい勉強になったよ」
ツチヤ「あの足回りは参考になったよ」
春「そうですか?」
ツチヤ「ポルシェティガーをより綺麗にドリフトさせるための参考になったよ」
ホシノ「他にも、トータスなんてレア戦車も見せてもらえたしね」
スズキ「いい経験だったよ」
ナカジマ「そういうこと。それに、ここが学園艦GPのコースに選ばれたときのためにも下見はしておきたいしね」
春「それで、講師の条件に聖應の外周走行を条件にしてたのですね」
ナカジマ「ま、私たち三人は今年で卒業だから、走るのはツチヤだけなんだけどね」
ツチヤ「テラダ先輩の思いがこもったコスモスポーツでガンガンドリフトきめてくよ〜」
ホシノ「ドリフトもいいけど、タイムも出してよ?」
夏子「あの、ツチヤさん。お願いがあるのですけど」
ツチヤ「ん? どんな事?」
夏子「聖應を一周するとき、隣に座らせてほしいのです」
ツチヤ「ああ、いいよ。ガンガンドリフトきめるから、注意してね?」
夏子「はい。有難うございます」
美冬「はいはーい! 私も私もー! 私も乗りたぁい!」
ツチヤ「いいよー、一人一周でいいかな?」
夏子、美冬「「はい!」」
優花里「ツチヤ殿、モテモテです」
薫子「モテモテだね」
chapter:聖應女学院、外周環状線
初音「聖應女学院学園艦の外周環状線はおよそ10キロ。昔、ある人物がタイムアタックをやったところ、4分12秒というタイムを残したそうです」
ツチヤ「一見オーバルコースだけど、途中大きなS字コースもあったりで速度だけで走れるコースじゃないみたいだねぇ」
ホシノ「うちのコスモスポーツ、レース用に足回りを調整したりエンジンに手を入れたわけじゃないから、そんなにタイムは出せないだろうけどしっかり頼むよ、ツチヤ」
ツチヤ「わかってるって。最初は様子見、その後夏子と美冬を乗せて流して、ラストラップは本気で行くよ」
美冬「これがコスモスポーツかぁ。背が低くて古いデザインなのに新しい感じがするなぁ」
スズキ「昔、うちの自動車部の先輩が拾ってきて、今年の1学期にようやくレストアに成功したんだ。抜けるようないい音で走るよぉ」
ナカジマ「レストアにはアンコウチームのみんなが協力してくれたんだよね」
ホシノ「そうそう。冷泉さんが配線のトラブル見つけてくれなかったら今も走らせられなかったよ」
ツチヤ「それじゃ、いってくるね」
美冬「うわぁ、はっやーい」
夏子「カッ飛んで行きましたねぇ」
優花里「飛ぶように走るんですよ、コスモスポーツって」
ナカジマ「夏休み、あのまま大洗が廃校になってたら、こうやって他の学園艦を走ることもできなかったんだろうねぇ」
スズキ「学園が残ってよかったよ」
chapter:オスプレイ発着場
初音「大洗の皆さん、わざわざ講義に来てくださり、有難うございます」
みほ「いえ、こちらこそいい経験をさせていただきました」
優花里「トータスとかセンチュリオンなんていう、珍しい戦車にも乗れましたしね」
千早「すみません、最後にお願いがあるのですが」
みほ「はい、なんでしょう」
薫子「記念写真、撮らせて欲しいんだ。大所帯だけど、大洗のみんなと試合できて、しかもこうして交流を持てたのは、なかなかないから。その記念になるものがあると嬉しいなって」
みほ「わかりました」
初音「はーい、みんなフレームに収まったから撮りますよ」
優花里「ほんと、すごい人数ですね、西住殿」
みほ「うん。それと、とっても楽しかった」
千早「有難うごいます、みほさん」
初音「はーい、撮るわよー、はい、チーズ!」
chapter:某日、聖應女学院
薫子「千早、何見てるの?」
千早「あの時の記念写真です」
薫子「ああ……楽しかったね、戦車道」
千早「ええ。戦車道には、人生の大切な全ての事が詰まってる、と聞いた事がありますが」
薫子「その通りだと思うよ。そして、得難い友情も得られる」
千早「はい。多分、大洗との試合のことは、一生忘れない思い出になると思います」
薫子「みほの事、好きになった?」
千早「……意地悪なことをいいますね、薫子さんは」
薫子「その、ごめん」
千早「いいんですよ、薫子さん。僕が好きなのは、薫子さんなんですから」