ヒビキは夢を見た。
悪夢ではない、謎の夢。
病院内に居る自分。
そのまま過ごしていると扉が開いた。
すると自分を見て、手を握って嬉しそうに泣き出した。
口は動いて何か喋っているのだろうが聞こえなかった。
しかし自分は考えた。
自分に家族は居たのか?と。
「・・・変な夢・・・だな」
ヒビキはさっきの夢を思い返していた。
さっき自分の手を握って泣いてた女性。
果して・・・自分には家族なんて居たのかと。
「うぅ~ん・・・」
「こいつは・・・相変わらずだな・・・」
しかしそんな考えはまだぐっすり寝ているユウキで掻き消された。
ヒビキは今何時だろうと時間を確認した。
その時間はまだ朝の3時。
普段起きるよりはかなり早くかといってまた寝るかと言えば眠気が無く全然寝れそうに無かった。
「やばい・・・暇だ」
「ヒ・・・ビキ・・・」
「ったく、自分は気持ちよく寝やがって・・・」
まだ夢に中にいるユウキを羨ましそうに思ったが起こす気も無く、ユウキの抱き着きホールドが来る前にベッドから出た。
慣れという物は恐ろしいものだ。
最初こそヒビキが焦っていたが今では一緒のベッドでなければ落ち着かない。
あの時のヒビキに比べるとかなり変わったと言えるだろう。
何者も拒んでいヒビキを変えたのはユウキだった。
少しずつ一緒に絡んでは楽しんで、時には一緒に戦って。
それが心地好いのを感じるのと同時にSAOクリア後の事を考えると辛くなる。
確実にヒビキとユウキが現実世界で一緒にいれるかと言えば分からない・・・というのがヒビキがずっと思っている考えだった。
ヒビキは普通の子とは違う。
SAOだからこそこういうふうに馬鹿騒ぎなども出来るが戻れば確実に出来なくなる。
それを考えるとクリアしたくないという気持ちも出来てしまう。
「・・・でもユウキを現実世界に帰さないと・・・駄目だもんな」
ヒビキはユウキには言っていないが必ずユウキを生かして現実世界に帰すことが今の目標となっていた。
ユウキには感謝しきれないほど変えられた。
その恩返しとして・・・という言い方は変だが絶対に帰すと心の中で思っていた。
「お前はもうちょっと寝とけよ」
ヒビキはユウキの頭を少し撫でた後、宿屋を出た。
一応攻略組であるヒビキはレベル上げを【ユウキに見つからないように】している。
何故見付かってはいけないかと言うとその戦い方がとても危ないものだった。
SAOの中では安全マージンという言わばその階層に+10したレベルが安全圏内と言われている。
しかし普段、ヒビキは自分のレベルと同等かそれ以上の相手と戦っていた。
他のMMORPGでも同じで、弱い敵を倒すより強い敵を倒した方が経験値も美味しい。
それも合わせて、《幻想剣》スキルの熟練も上げれるから一石二鳥・・・だと思えるが一歩間違えると死に直結する可能性は大いにある。
「ったく、ほんとつえーな・・・」
しかし今回は攻略がまだ終わっていない61層の迷宮区でしていたため、レベルは安全マージンである71を超えて、89となっていた。
そしてユウキが起きる時間帯である9時までには帰れる程度に狩りをするつもりだった。
ヒビキは時間帯に近づくと一度街に戻ろうと考え、来た道を引き返していた。
途中の雑魚も通り魔の如く薙ぎ払って倒していた。
少しすると主街区に到着し、転移門に向かった。
するとすごく見覚えのある子を見つけた。
どっからどうみても自分の嫁であるユウキがいた。
そしてユウキに突っ掛かる男プレイヤーもいた。
ヒビキはそれを見て意味の分からない怒りが沸いて来るが何とか抑え、話し掛けに行った。
「おい、あんた何してんだ」
「ふん、私はこのユウキ殿に《血盟騎士団》に加入して頂けないか聞いていただけだ」
「ヒビキ!?やっぱり居たんだね!?」
そういうユウキはかなり怒っていた。
それはそうだ、起きたら最愛の人がおらず、どこに居るか探せば前線層に居るのだから。
「わ、わるい・・・んで、ユウキに何しようとした?」
「貴様・・・ユウキ殿に纏わり付いている男が居ると聞いたが貴様の事だな?」
「だったらなんだ」
「ユウキ殿に纏わり付いてもらうのは止めていただきたい、《ストーカー》」
男プレイヤーがヒビキにその単語を言った瞬間、ヒビキの中で何かが切れた気がした。
ヒビキはユウキに「一旦下がれ」と言うと少し離れた位置で見ていた。
「てめぇ、俺にそんなこと言うだけの腕があるんだな・・・?」
「当然だ、ストーカー如きに負けるわけもありえまい」
「なら受けてくれるよなぁ!?そんだけ余裕があるってならよぉ・・・」
ヒビキは俺プレイヤーにデュエルを申請した。
《初撃決着モード》で相手も承諾した。
「ふん!ストーカーは地にはいつくばるがいい!」
「そのうるせぇ口を塞げよ、雑種以下が」
ヒビキはかなりマジギレしており、普段は口にしない言葉で相手を罵倒していた。
そしてカウントが始まり、3・2・1・・・とデュエルが始まった瞬間。
男プレイヤーがヒビキに両手剣スキルを発動させ当てて来ようとするがヒビキの爆発的な瞬発力と素早さで当たるわけもなく、男プレイヤーの後ろに回った。
男プレイヤーもそれに対抗すべく、後ろに剣を振りかぶるがすぐに止まった。
「はっ・・・?」
何故止まったか見るとなんと、ヒビキが片足で男プレイヤーの剣の先を踏んでいた。
基本両手剣を持つには筋力がかなり要求される。
だがヒビキは男プレイヤーより筋力ステータスが高かったため、片足で踏み付けていた。
「なっ、は、離せ!」
「はい、そうですかって話す阿保が居るとでも思ってんのかよ、てめぇには今までに無いほどいらついてんだ、手向けにでも受け取れよ」
ヒビキは男プレイヤーの横腹を蹴って横に飛ばした後、今度は腹を思いっきり上に蹴り飛ばした。
「ぐはぁ!・・・」
その後、ヒビキは男プレイヤーに《幻想剣》スキル『ディレベル・メテオ』というスキルを使った。
ヒビキはその場から動かずに男プレイヤーに当たらない武器を振っているだけだった。
しかしそれだけで十分だった。
男プレイヤーはどんどn切られて行き、HPが10分の1になるとデュエルが終了、ヒビキが勝利した。
しばらくし、周りからは拍手が飛び交ってきた。
みな見事としか良いようが無いほど男プレイヤーを完封しきっていたヒビキに多大な拍手が送られた。
中には『ユウキちゃん、愛してるー!』や『結婚してくれ、ユウキちゃんー!』などユウキに対する声もあった。
さすがにこの場でユウキと結婚していることがばれるとまずいため我慢したが、それを無に返そうとしている人が居た。
ヒビキに向かってユウキが飛びついてきた。
そう、公衆の前でユウキはヒビキに当然の如く抱き着いてきたのだ。
これではまるで二人は出来ているのでは・・・?というプレイヤーが増えた。
「ヒビキ、ありがとう!」
「んあ、別にいらっとしたからしただけだけど」
「ううん!それでも嬉しいよ、ボクは!」
「はいはい・・・んで、この状況どうするんだ」
「へっ?・・・あ」
「責任取ってくれよ?せっかく隠してたんだから」
「あうぅ・・・」
みなこの会話で理解した。
二人・・・幻剣ヒビキと絶剣ユウキは出来ていると。
そしてみんな各々二人を見た。
一応ヒビキはカッコイイ部類だ、本人は自覚していないが。
ユウキは最早言うまででもない程SAO女性プレイヤーの美少女ランキングに入るほど人気であり、ヒビキと行動していない時は求婚を申し込まれた時もあった。
ユウキはその求婚を全て断っていたが。
二人はこれ以上注目になるのはまずいと思い、キリト達が居るであろう47層に向かった。
二人が47層に向かうとキリト達がいた。
「遅いぞ・・・何してたんだ?」
「・・・色々と疲れた」
「ボクも・・・何か色々と・・・」
「本当に何があったんだ・・・」
キリトはそんなげんなりしている二人を見て呆れるがまぁ何かあってもすぐ解決出来そうと思いこれ以上触れない事にした。
「さて、シリカ準備は良いか?」
「はい!あの・・・お二人は・・・?」
「心配するなら早く行くぞ・・・家で寝たい」
「ボクも・・・」
と早く進行したいと言ったため、プネウマの花を求めて進んだ。
途中、花形モンスターがシリカの足を掴んでスカートの中が見えそうになったがヒビキはその光景を予想していたのか見ていなかった。
見たらヒビキの隣の人が処刑宣告を言い渡す事だろう。
そんなこともあり、かなり奥に進んだ4人はあるものを見つける。
「キリトさん!あれ!」
「ん?」
シリカが指差した奥には台座があった。
しかしそこには何も無いようにしか見えなかったが。
キリトとシリカは先に進んだがヒビキはユウキを引き止めた。
「ユウキ、少し良いか?」
「ん、どうしたの?」
「多分あれが来る。来たらシリカを任せるぞ」
「ボクも戦うよ!」
「いや・・・もしもの事があるかもしれん、キリトも俺と同じだろう。そうなるとシリカちゃんを守る奴が居ない。だからユウキにお願いしたいんだ」
「うぅ・・・そこまで言うなら・・・でも、無茶しないでね!」
「わぁーてるよ」
ヒビキは言うだけ言うとキリト達のところに急いだ。
その後、ペット蘇生アイテム『プネウマの花』を入手したシリカは来た道を引き返していた。
しかし、途中でヒビキとキリトが止まった。
「ヒビキ?」「キリトさん?」
「・・・のぞき見とか気持ちわりぃんで早く出てこいよ」
とヒビキが言うと木の影から人が出てきた。
「あら?あたしの《隠蔽》を見破るとはね。そこそこやるのね?剣士さん達?」
「ロ、ロザリアさん!?」
「その調子だと首尾よく入手出来たみたいね・・・じゃあそれ寄越してくれないかしら?」
「お前、少し前にギルド・・・《シルバーフラッグス》って所を襲ったな?」
「あぁ・・・あの貧乏ギルド・・・」
「転移門前で泣きながら懇願してたぞ、あんたらの仇討ちをして欲しいってな」
「ぷっ・・・あっははは・・・あんた馬鹿?・・・別にあたしはあんなギルド潰れようが関係ないわ、それにそんな正義心があたしにはうざいのよ!」
「キリト、ユウキ頼むぞ」
「・・・ああ」
キリトはヒビキに言われ、ユウキ達の前に立って武器を構えていた。
しかしヒビキは抜刀せずぞのまま立っていた。
「おい!あんたら!やっちまいな!」
ロザリアが号令すると他の木の影から他のプレイヤーも出てきた。
しかしヒビキの姿を見た瞬間一人のプレイヤーが言った。
「ロザリアさん!こ、こいつあの《幻剣》じゃあ・・・?なら後ろにいる紫の女は《絶剣》、こいつら攻略組ですよ!」
「そこの黒い服の奴は《黒の剣士》だ!何でこんなとこに・・・!」
「馬鹿言うんじゃないよ!攻略組がこんなところに居るわけないだろう!どうせ偽物に決まってるじゃない!」
「へへ・・・そうだよな、攻略組なら良いアイテムもってるかもしれねぇ」
と言うと8人プレイヤーはヒビキを切り付けた。
それでもヒビキは何もしなかった。
「ヒビキさん!?キリトさん、ヒビキさんが!」
「そうだよ、キリト!あのままじゃヒビキが!」
「よく見ろ、ヒビキのHP」
「へっ?」
「減って・・・ません」
「あれは《バトルヒーリング》スキルだよ。戦闘時に少しだけ自然回復させる」
キリトが何とか二人を止めてくれたおかげでヒビキも全力を出せるようになった。
「あんたら!何やってるんだい!」
「10秒の総ダメ800か・・・それがあんたらが俺に与えれるダメージ量だ、んで俺のレベルは89、HPは18600、自然回復量は1200だ、何時間しても倒せやしねーぞ」
「そ、そんなのありかよ・・・」
「MMORPGやってるなら分かるだろうが、レベル制はこんなもんだ」
「ふ、ふん!だからってあたしがあんたらに・・・!?」
「言うけどさぁ、俺元々ソロだからな、数日オレンジになろうが問題ねぇんだよ」
ロザリアはヒビキの威圧に負け、武器を落とし降参した。
その後、あのリーダーから受けとった回廊結晶で牢獄への道を作ったヒビキ。
しかし仲間の一人は諦めずにヒビキではなくキリトを欺いてユウキに攻撃した。
なぜならそれは以前ユウキに断られた相手であり、その時ヒビキに負かされた。
意味の分からない恨みをユウキに向けていた。
「ユウキ!避けろ!」
「へっ?」
ユウキが気づくにはもう遅かった。
キリトも駆け付けるが間に合わずにユウキに怪我をさせてしまうな・・・と負い目を感じるといきなり暴風が来た。
「てんめぇ・・・何してくれやがる・・・あぁ!?」
「ひ、ひぃぃ!?」
ヒビキがソードスキルでユウキに当たるであろう攻撃を弾き飛ばした。
そしてそのプレイヤーに殺気を向けていた。
「ったくがよ、さっさと入れよ」
すぐに殺気は収まったが以前機嫌はかなり悪い。
逆らえば殺されるんじゃないかと言われる位に。
その仲間は牢獄にはいっていき、ロザリアも入った。
「・・・コリドー、クローズ」
と言うと先ほどの牢獄への道は消え、ヒビキ達の依頼も終わったことになる。
「キリトすまんが、ユウキを少し頼んだ」
「え?ヒ、ヒビキどこ行くの!?」
「お、おい!」
ヒビキは転移結晶でどこかに行ってしまった。
それを何も出来ない間々見つめる事しか出来なかった事を誰も責めれないだろう。
なぜなら、ヒビキの目から涙が出て泣いていたのだから。
キリトさんはLv78ですが狩る量が少し異次元なヒビキはLv89という数字にしました。
ヒビキの戦闘狂を考えたら余裕でいってそうなので。