ソードアート・オンライン ~幻剣と絶剣~   作:紅風車

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辛い重荷の代償

いざ、隠しダンジョンの46.5層に向かうヒビキ達。

だがヒビキを除いて他のものはのんびりとしていた。

理由は簡単だ。

 

ここ戦闘という戦闘をしていなかったヒビキはここぞとばかりに無双しており、キリト達が戦闘する必要性がほとんど無いのだ。

 

「それ、それ、それぇ!」

 

「キリトさん・・・あれは・・・」

 

「良いか、あの状態のヒビキを邪魔したら一緒に掃除されちゃうからな」

 

「えっ」

 

キリトの忠告にみんなは無双中のヒビキに話しかける事は無くなる。

またヒビキは《幻想剣》スキル『幻影剣』をあちらこちらに飛ばすため、ヒビキの正面に居るものは基本見つかればすぐさま綺麗さっぱり掃除されていく。

 

 

中に入って20分ほどするとヒビキが途中で止まる。

 

「どうしたの?ヒビキ君」

 

「・・・プレイヤー、総数10」

 

「なっ・・・」

 

「恐らく生き残った人数を徴集したんだろ、あと・・・この真下に件の竜がいる」

 

「この下に・・・ですか?」

 

「明らかに放っているオーラのような物が違いすぎる。俺の《索敵》で分からない辺り90層辺りの奴と見て良いだろ」

 

ヒビキの発言に全員は息を飲んだ。

ヒビキは攻略組の中でもトッププレイヤーでありそのレベルは誰よりも高い。

自身のレベルと熟練度依存の《索敵》スキルはヒビキだけが頼りとも言える。

だがそのヒビキが分からないと言う辺り、狂暴な竜の規格外さが物語る。

 

「幸い、ここは結晶無効エリアじゃねぇから一応何かあっても良いように転移結晶を用意しておこう」

 

「わ、わかった」

 

「それじゃ・・・キリトと俺が前に、アスナとクラインが後ろ、シリカは主に竜のテイム」

 

「カグラちゃんはどうするの?」

 

「こいつの《隠蔽》はラフコフより高い。それを活かしてユウキの所に行ってもらうが、ある程度距離を詰めてからになるな」

 

「ん、わかった」

 

「それじゃさっき言った布陣で・・・戦闘は自己判断で行く」

 

「オーケー」

 

「了解!」

 

「おうよ!」

 

「さて、行くか」

 

ヒビキとキリトが先に進むとそれに続いてアスナ達も後ろを警戒する。

 

 

するとこの46.5層の長とも言えるモンスターが飛来してきた。

 

「グラァァァァ!!」

 

「・・・スターヴィングドラゴン、推定レベルは・・・120」

 

「なっ!?」

 

ドラゴンの推定レベルを聞き、みんなはドラゴンの警戒をする。

だが一人だけドラゴンに近付く者が居た。

ビーストテイマーのシリカだった。

 

「こ、怖くないもん!え、えっと・・・どうすれば良いんでしょうか・・・」

 

「ゴガァァァァ!!」

 

「ひぃぃ!こ、怖いけど・・・頑張らなきゃ・・・!」

 

シリカは駄目元で《テイミング》スキルをドラゴンに使う。

するとなんと一発でテイムが出来た。

 

「へっ・・・?こ、これって・・・テイム成功・・・?」

 

「グルル・・・」

 

あんなに威嚇し吠えていたドラゴンがシリカに頭を垂れる。

それを見たヒビキは安堵したがすぐに《索敵》に誰かが引っ掛かり、幻影剣をその場所に飛ばす。

 

「っち、逃げ足だけははえぇな」

 

するとヒビキの目の前にはフードを被るプレイヤーが10人居た。

そして一人のプレイヤーが喋る。

 

「あれれ~?せっかくドラゴン用意したのにあれで終わっちゃうんだよ~?それじゃあ楽しくないじゃんかぁ~!」

 

「うっせ、黙れ」

 

ヒビキは幻影剣をそのプレイヤーに飛ばすが当たらなかった。

 

「そんな遅いの当たるわけないでしょ?馬鹿なの?」

 

「・・・」

 

プレイヤーはヒビキを煽っているのだろうが知るものは知る。

ヒビキを怒らせると取り返しがつかない。

キリトもそれに気付き邪魔だと判断してヒビキから離れる。

 

「へぇ・・・言ってくれるねぇ」

 

「みんなシリカの所固まって。巻き込まれる」

 

カグラの忠告をすんなりと聞き入れたキリト達はヒビキを残してシリカの近くに固まる。

 

「カグラちゃん、大丈夫なの?置いてても」

 

「逆に死なないようにしてほしい・・・」

 

「殺しはしねぇよ!あん中放り込むからそれの準備だけしとけ」

 

カグラは回廊結晶を取り出し、それを開いた。

 

「これは・・・?」

 

「黒鉄宮行きの片道結晶」

 

その言葉でその場にいるプレイヤーはヒビキを見る。

 

 

 

その間ヒビキはどうするか悩む。

確実に逃亡者が出るためそれを防ぐ術を。

そして自身の《幻想剣》の一つを使う事にした。

 

「さて・・・と、こいやおらぁ!」

 

ヒビキはまずジョニーだと思われるジョニーを無視し、他の取り巻きを処理しに行った。

抵抗するも戦闘狂いのヒビキを見て恐ろしくなり大人しく、カグラが開いた黒鉄宮行きの回廊に放り込んだ。

その光景を見ていたジョニーは舌打ちしながらヒビキと戦闘する。

しかしヒビキが石ころに躓きこけた。

 

「しまっ・・・!」

 

「バーカ!それとバイバイー!」

 

 

ジョニーはそれを絶好のチャンスだと思い急所である右胸にナイフを突き立て、思い切り刺した。

 

「ヒビキ!」

 

キリトがヒビキに声をかけるが反応がない。

そして奥の扉が開く。

 

「・・・ぇ?」

 

その瞬間ポリゴン状の破片が飛び散った。

ヒビキの仮想体が消えた。

 

 

 

 

一方ユウキは、どうにかして脱出出来ないかと思考していた。

いきなりあのフード達がどこかに行ったためチャンスと思い、閉じ込められた部屋を探す。

拘束されていた物はフード達が居ない時ならば簡単に外せた。

するとあのメンバーが置いて行ったのか鍵らしき物が落ちており、それを扉に使うと開いた。

 

 

早くヒビキに会いたい一心で扉を開けた先には。

ジョニーに右胸を刺されたヒビキの姿があった。

 

「・・・ぇ?」

 

そしてヒビキはポリゴン状となり消えた。

ユウキの前から。

 

「ヒ、ビキ・・・?」

 

「あれぇ~?何で出てこれたの?おかしいなぁ鍵かけたあったはずなのに」

 

ジョニーは消えたヒビキの事など知らずにユウキに近付く。

 

「後であいつと同じ所送ってあげるからね~、だから抵抗しないでよ?」

 

ユウキが力が抜けたように床に落ちる。

ジョニーは少しずつ、少しずつユウキに近付く。

 

「ユウキ!離れるんだ!」

 

「ユウキ!」

 

キリトとアスナが呼び掛けるもユウキにはもう聞こえなかった。

そしてジョニーはユウキにナイフを振りかざそうとする。

 

「何か言いたいことある~?」

 

「・・・」

 

「無いんだぁ~、それじゃあ・・・ばいばい!」

 

何も言わないユウキにジョニーはナイフを振り下ろそうとした瞬間。

 

 

何者かにジョニーは蹴り飛ばされた。

 

「・・・」

 

「ユウキになぁに手ぇ出そうとしてんだ、クズが」

 

蹴り飛ばした者はさっきジョニーに刺され殺されたヒビキだった。

 

「なんで生きてるの?おかしいなぁ、さっき殺したのに」

 

「下調べ不足なくせに勝負吹っ掛けるからじゃねぇの?」

 

「くそっ!・・・ぐっ」

 

ヒビキは武器を取り出してジョニーと相対する。

ジョニーからしたら死んだはずの相手が生きているというイレギュラーに対応出来なかった。

だからこそヒビキはそこを突いてジョニーに自分が出せる限りの早さで近づき手足を切り落とした。

 

「これなら転移結晶も使えないし、歩けもしないだろ」

 

「・・・」

 

「何もいわねぇのかよ・・・つまんねぇな、死ぬか?」

 

「・・・!」

 

何も言わないジョニーにヒビキはイライラし始めるとある言葉に反応した。

 

「死にたくねぇってか?甘ったれてんなぁ」

 

ヒビキはジョニーの腹を上に蹴り飛ばす。

そしてソードスキルを発動させる。

 

「ヒビキ!それは駄目だ!」

 

「そうよ!そのまま牢獄に送れば良いわ!」

 

「・・・悪い」

 

キリトとアスナの制止を聞かず、ヒビキは『ディレベル・メテオ』を発動しジョニーに振りかざした。

 

 

 

ヒビキが振り終わるとそこには何も居ない。

ジョニーブラックは死んだ。

 

「・・・」

 

「ヒビキ」

 

「・・・殴るなら殴っていい、自分の怒りのまま動いただけだ」

 

ヒビキの言葉に誰も動かなかった。

誰もヒビキを怒りは出来なかった。

プレイヤーを殺したのにも関わらず。

 

その場に居た者はヒビキに重荷を背負わせたという責任から、誰も叱れなかった。

 

「もう・・・帰る、今日はありがとうな、手伝ってくれて」

 

「ああ・・・」

 

ヒビキは気を失ったユウキを抱っこして出口に向かった。

 

 

「キリト君・・・私・・・背負わせちゃったよ・・・」

 

「ああ、俺もだよ・・・ヒビキに・・・」

 

「くそう・・・ヒビキの野郎・・・!」

 

「ヒビキさん・・・」

 

4人はヒビキに辛い物を背負わせたという事実に何も言えなかった。

それが何よりも辛かった。

ユウキを助けたいという気持ちで集まり、助けに行った。

結果としてユウキを救出出来たがヒビキには辛く重い物を背負わせてしまった事となった。

 

「ヒビキは・・・気にしないよ、背負わせたことを気にしてたらうざがられるから。だからまたみんなでパーティー組もう?」

 

「ああ、分かった・・・」

 

カグラはそう言った後ヒビキの後を追いに行った。

 

 

 

 

 

ヒビキは家に戻り、ユウキをベッドに寝かせた。

まだユウキは目をつぶっており寝てしまったのだと思った。

すると一気に張り詰めていた物が取れたのかヒビキも一緒に寝てしまった。

 

少しするとカグラも帰ってきて二人を見た。

ユウキの手を繋ぐヒビキはどこか泣いているように見えた。

 

 

 


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