ソードアート・オンライン ~幻剣と絶剣~   作:紅風車

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響夜の過去話編です。
内容に嫌な部分がありますので注意。




喪ってしまったモノの過去

俺、雪宮響夜は持病を抱えていた。

その病名は『慢性骨髄性白血病(CML)』呼ばれる物だった。

原因は染色体による白血病の元となる成分が作られていたからだ。

 

先程までALOをしていたが、神楽に大体の事を託すると俺はすぐに姿を眩ませた。

捜索願なども出たらしいが成果は出なかったらしい。

 

(警察に見つかるほど甘くねぇんだよ、俺は)

 

元不良だった響夜にとって警察は見慣れていた。

事件ばかり起こしては警察の世話になる。

これがずっと続いていくと、そう思っていた。

 

 

ある日の夜、遅くに家に帰った。

この時は名前は時崎直人という名前だった。

いつもなら居間から両親の会話やテレビの音が聞こえていた。

だが、その日だけは会話やテレビも聞こえなかった。

 

「・・・妙だな、母さんー、父さんー」

 

直人は家中を探すが、母親も父親も見つからなかった。

その時、神楽は病院に入院していた。

探しても誰も見つからない事を怪訝に思った直人は母親に電話をした。

数コールしたのち、相手は出た。

 

「母さん?いまどこだ?」

 

『・・・』

 

「・・・母さん?」

 

『ごめんなさい・・・』

 

「!?母さんいまどこだ!」

 

『大見駅にいるわ・・・』

 

場所を聞くとバイクに乗って母親がいるであろう大見駅に向かった。

 

何分かバイクを走らせた後、大見駅に着くと母親を探した。

少しすると花壇の縁に座っている母親が居た。

 

「母さん!」

 

「直人・・・」

 

「何してんだよ、もう遅いから帰ろう」

 

「・・・ええ、そうね・・・」

 

母親をバイクの後ろに乗せると、直人はまたバイクを走らせ、自分の家へと帰った。

 

家に着くと母親は直人を連れて居間に座らせる。

 

「母さん、なんであんなとこいたんだ」

 

「・・・お父さんとは離婚・・・したの」

 

「はぁぁ!?なんでだよ!」

 

「捨てられたのよ・・・私達は」

 

「あんのクソ親父が!」

 

母親のいきなりの言葉に直人は驚きが無かったが自分達を捨てた父親に腹が立っていた。

だが、父親に喧嘩を売りに行けば母親を悲しませる事になる、それだけは分かっていた。

 

「・・・直人。もし母さんが死んだら・・・神楽をお願いね」

 

「そんな縁起でも無いこと言うんじゃねぇよ」

 

「それでもよ・・・」

 

「良いよ、神楽の事は俺が見とく」

 

「お願いね・・・」

 

母親は直人に入院している神楽を任せた後、寝室へと入って行った。

 

 

これが、直人と母親との最後の会話になった。

 

 

 

翌日、直人は起きて来ない母親を起こしに行った。

 

「母さんー、朝だぞー」

 

しかし反応が無いため扉を開けた。

そこには、天井から吊り下がるように母親がぶら下がっていた。

 

「母さん!?」

 

直人は急いで吊り下げてる紐を解くと母親を横たわらせた。

手に触れるもその温度は氷のように冷えていた。

 

「・・・マジかよ」

 

直人はポケットから携帯を出すと、警察に電話した。

 

「・・・直人っす」

 

『直人君か、また何か問題を起こしたのかい?』

 

「・・・」

 

『直人君?』

 

何も喋らない直人に警官は心配そうに聞く。

すると直人は何かを我慢するようにしたが警官に聞かれていた。

 

「・・・くそっ・・・」

 

『・・・今から君の家に向かう。それまでそこに居てくれ』

 

その後電話は切れ、直人は泣き崩れた。

 

「くっそがぁぁぁぁ!!・・・」

 

しばらくすると警官は呼び鈴を押すも反応が無かったため、扉に手をかけると開いていた。

開けて中に入ると奥から泣く声がし、警官は急いで向かった。

 

「直人君・・・!」

 

「上村さん・・・」

 

上村と言われた警官は直人の視線の先を見た。

そこには切られているも天井と母親には紐があり、ぶら下がったのだと分かった。

 

「・・・ここからは僕たちが処理しよう、だから君は信頼出来る家に行くんだ」

 

そこからは上村が同僚を呼び、自殺と事件を処理した。

だが直人には神楽がいる。

だからこそあの家を手放す訳には行かなかった。

 

 

 

 

中学を卒業し、高校試験に合格した直人はアルバイトをして自分と神楽が暮らせるぐらいにお金を稼いだ。

その時から響夜は一人を好むようになり、アルバイト以外では極力人と関わらなかった。

学校でも同じ様にしていたが、一人の女子が直人に話しかけていた。

その女子の名前は紺野木綿季。

いずれのSAO事件に巻き込まれ後に直人と結婚する相手だった。

 

「ねー、直人君」

 

「ん、何」

 

「いつも本読んでるけど楽しいの?」

 

「ん、そこそこ」

 

「ならボクの暇潰しの相手になってよ!」

 

こういった会話を何回も直人は続けている。

それに折れた直人は渋々頷く。

 

「良いよ」

 

「ほんと?やったー!」

 

木綿季が喜んでいると直人の後ろの席から丸めた紙が飛んで来る。

木綿季に見えないようにそれを広げてみると中には。

『ちょーし乗んな、根暗が。俺の木綿季に気安く話しかけるんじゃねぇよ』

と書かれていた。

さすがに内容にイラッとしたのか紙をまたくしゃくしゃに丸めるとごみ箱に投げ捨てる。

 

「・・・?何捨てたの?」

 

「気にしなくて良いよ」

 

直人はそういうも木綿季は気になったのか紙を見つけて拾って広げて内容を見る。

木綿季も内容の酷さに怒っていたようだった。

 

「ちょっと!誰、直人君の悪口書いたの!」

 

木綿季は教室全体に大声で言うため、直人はめんどくさそうにしていた。

すると一人の男子生徒が立ち上がり、木綿季の目の前に立つ。

 

「おい木綿季、そんな奴と関わるなって言っただろ?なんで関わってんだよ」

 

「いくらなんでもこれは酷いよ!」

 

「酷かろうが事実だろ?俺には木綿季が汚れてほしくないんだよ」

 

「事実って・・・!しかもボクは君とそういう関係になってないからね!」

 

この男子生徒は木綿季に心底惚れている様で何度も木綿季に告白しては振られている。

しかしめげずに何度も言って来るため木綿季も嫌がっているのが分かりきっていた。

 

「ボクは直人君みたいな人のが良い!」

 

「・・・あ?」

 

木綿季がとんでもないことを言い、男子生徒が直人に近づく。

 

「おい、木綿季に何した」

 

「何もしてないです」

 

「したんじゃねぇのかぁ!あぁ!?」

 

そういうと男子生徒は直人の顔を殴る。

殴られた反動で直人は吹き飛ぶも男子生徒は何度も殴りつづける。

 

「てめぇのせいで!木綿季が振り向いてくんねぇんだよ!」

 

男子生徒の言葉一つ一つにイライラし始めていた直人は我慢が出来なくなり、ため息をつく。

 

「なぁにため息ついてんだ、ごらぁ!」

 

ため息をつかれたことにムカついたのか顔面を殴ろうとするが、直人によって止められる。

 

「殴られ続けるのも癪に障る。一辺お前が痛い目にでもあってろ」

 

直人の力に抗えなかった男子生徒は逆に尻餅をついた。

 

「大した力もねぇのに喧嘩なんて良い度胸してんなぁ!?」

 

普段の直人からはありえないぐらいの声で男子生徒にぶつける。

その迫力に怖じけづいたのか男子生徒は立ち上がって走ろうとするも、直人が横腹を蹴って止める。

 

「どこ行こうとしてんだ、少しぐらい待てよ」

 

「ひっ、や、やめ」

 

「黙れ糞野郎」

 

横腹を蹴られ横たわっていた男子生徒の首元に手を近づけると思いっ切り叩いた。

手刀だったそれは一瞬で男子生徒の意識を刈り取る。

 

「・・・興ざめ過ぎる、もっと強い相手のが良い」

 

「直人・・・君・・・?」

 

「・・・もう近付かない方がいい、君にまで悪い噂が流れたら困る」

 

木綿季の頭に手を当てて言うと、チャイムが鳴り響く。

それは下校チャイムだったので直人は鞄を取るとそのまま教室を出て行った。

 

その日からは直人は学校には行くも、屋上でずっと寛いでいた。

 

「・・・ねみ」

 

眠気がしてきた直人は携帯で時間を見るとまだ朝の9時だった。

鞄を枕にして寝ることにした直人はそのまま寝付いた。

 

 

その頃木綿季は、あの日から教室に来なくなっていた直人を探していた。

休み時間内に探さなければならなかったため、遠いところはお昼休みに探すことにしていた。

ほとんどの所を探し居なかったため、残る屋上へと向かっていると人だかりが出来ていた。

 

「?なんだろう」

 

気になったのか木綿季は屋上の扉の窓を見ると一人の男子生徒が見えた。

その男子生徒は木綿季が探していた人物、直人だった。

 

「見つけた!」

 

木綿季は屋上の扉を開けようとするも押しても引いても開かなかった。

元々屋上は封鎖されており、鍵が無ければ入ることは出来ない。

直人の場合は屋上の鍵のスペアを担任から受け取っていたため簡単に入れた。

 

「どうしよう・・・ここが開かないと・・・」

 

どうしようか悩んでいるとさすがに人だかりで煩かったのか直人が体を起こして伸ばしていた。

 

 

 

 

 

屋上の扉から声がして煩かった直人は一度起きて体を伸ばす。

そして携帯を取り出して時間を見るとお昼休みの時間だった。

 

「・・・お昼か。ここいても暇だし帰っかな」

 

鞄を持って鍵を閉めていた屋上の扉を開けようとすると生徒が一気に道を作りはじめる。

あんな騒動を起こして何も起きない訳がないと思っていた直人だが、さすがにこんな感じだと悲しくなる。

 

「はぁ・・・」

 

道が空いているのだから、そのまま進むが一人の生徒にぶつかって床に倒れる。

 

「・・・!悪い」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「ほれ、手貸してやるから立ちな」

 

「あ、ありがとう」

 

直人の手を掴んだ生徒は騒動が起きる前はよく話しかけていた木綿季だった。

だが、これ以上面倒事を起こすのも嫌だった直人は立ち上がらせると手を離そうとする。

しかし木綿季はそれをがっしりと掴んで離さなかった。

 

「・・・まだなんかあんのか」

 

「ふぇっ、えっと・・・」

 

「ねぇなら帰る」

 

何も言わない木綿季の手を振りほどくとそのまま階段を下りて行く。

 

「あっ・・・」

 

その背中をただ見ていることしか木綿季には出来なかった。

 

 

毎日屋上で寛ぐのが日課になっていた直人は今日はどうしようかと考えていた。

今、直人には入院している神楽しか家族が居ない。

だからこそ家事は全て直人がしているのだがご飯のメニューを何にするか悩むという主夫の考えだった。

 

すると下の教室がいつもに比べて騒がしかった。

 

「ん・・・妙に騒がしいな」

 

直人は呑気に思っているといつもなら見ているだけの生徒達が慌てたように駆け上がってきて扉を叩く。

何事かと聞こうと思い扉を開ける。

開けるとそこには一人の女子生徒がいた。

 

「うるせぇ、何事だよ」

 

「時崎先輩・・・ですよね!?」

 

「ん・・・そうだけど」

 

「4階に男子の先輩が女子を人質にしてるんです!」

 

「くっだらねぇ、何のためにだよ」

 

「用件は時崎先輩にあるって・・・!」

 

それを聞くと鞄を持って、屋上から降りる。

女子生徒も置いて行かれないように着いて行った。

 

 

4階に降りると女子生徒が場所を案内してくれた。

それに直人は着いていくと段々と声が大きくなっていくのが分かった。

 

「さっさと呼べやぁ!?いつまで時間かかってんだよ!」

 

声を荒げている生徒はあの時直人を殴って、蹴り返された男子生徒だった。

人質に木綿季が捕られており、首元にはナイフを当てている。

 

「・・・あん時の奴か」

 

「は、はい!」

 

「めんど、なんで俺が相手しないといけねぇんだよ」

 

そう言いつつもしっかりと男子生徒に近づく。

 

「ほれ、来てやったぞ、何の用だよ」

 

「やっときやがったなぁ!時崎!」

 

「・・・今なら半殺しで済ましてやるからその女子離せよ」

 

「はっ!お前を殺すまで無理に決まってんだろうぁ!」

 

一応の通告をした直人はため息をつく。

それにイラッとする男子生徒。

 

「大人しくしてねぇと・・・死ぬぞ」

 

「・・・!?」

 

直人は鞄から折りたたみナイフを取り出すとそれを男子生徒の右足に目掛けて投げた。

所詮度胸も知れている男子生徒にそれは刺さる。

 

「ひっ、ぐあぁぁぁ!?」

 

「おめぇごときにわざわざ体力使うのも馬鹿らしいわ」

 

直人が投げたナイフは男子生徒に刺さるも当たり場所が良かったためすぐに治るものだった。

だが、男子生徒は最後のあがきに直人ではなく木綿季にナイフを振るう。

 

「死ねやごらぁぁぁ!!」

 

「・・・ぁ・・・」

 

木綿季は迫って来る事に目をつぶる。

だがそれはいつまでも来なかった。

目を開けると、足元には血があり、直人を見ると。

左手でナイフを掴んでいた直人がいた。

 

「・・・しばらくくたばれ」

 

左手の痛みなど元から無いように直人は男子生徒の腹を蹴り飛ばす。

 

「ぐ、ああ・・・」

 

蹴られた痛みによって男子生徒は意識を失う。

だが、左手が血だらけになった直人が居た。

 

「・・・もういいだろ、疲れた」

 

そういうと、直人は血を出した間々どこかに行こうとする。

しかしそれを木綿季が止めた。

 

「何だよ」

 

「その・・・あ、ありがとう・・・」

 

「別に、ご指名だったから相手した。そのついでで助けただけ、お礼言われる事なんぞしてねぇよ」

 

「う・・・で、でも・・・」

 

「・・・じゃあ俺行くから」

 

直人は鞄からタオルを二つだして、一つは左手を縛って、もう一つは直人のナイフを包んだ。

そのまま帰るかと思われた直人だが、生徒玄関とは違う道・・・保健室がある道に向かって行った。

 

 

 

あのあと、男子生徒は傷害事件として処理され、数ヶ月は刑務所に入ること、高校退学となっていた。

直人はナイフを男子生徒に投げるも事態を最小限にするための手段と処理され、正当防衛と女子生徒を守った事から慰謝料・治療費等が支払われることになった。

 

 

それからもいつも通り屋上で寛ぐ直人を見る生徒は多かった。

その半数以上は女子生徒で、中には木綿季も居た。

 

木綿季はいつも通り屋上に居ると思われる直人を見るため、階段を昇っていた。

しかし屋上に行く途中にトイレから直人が出てきていた。

 

(直人君だ・・・トイレ行ってたのかな・・・?)

 

直人は携帯を弄りながら階段を上がっていたため木綿季に気付かなかった。

そのまま屋上の扉も開けると手を掴まれていた。

 

「ん・・・何だ」

 

「えっと・・・ボクも屋上行きたいなって」

 

「ご自由に」

 

木綿季に屋上の鍵を渡すと直人は屋上には行かずに降りて行く。

 

「ぁ・・・」

 

その寂しそうな声が聞こえたのか直人は降りる足を止めて180度振り返ると木綿季の手を掴む。

 

「・・・んな寂しそうな声すんじゃねーの」

 

「ごめんなさい・・・」

 

謝って来る木綿季だがその手は少し震えており、そのまま放っておけないからか、直人はそのまま手を引く。

 

「・・・?」

 

「ちと付き合え。どうせ下校だろ?」

 

「う、うん・・・」

 

「なら教室まで着いていってやるから帰る用意しろよ」

 

直人は木綿季の教室まで着いていくと教室の中に入れる。

直人自身は教室に入るのが嫌だったため、廊下で待っていた。

だがあの事が起きてからは直人は良い意味でも悪い意味でも有名になっていた。

それに加え直人はスタイルが良く、暴力沙汰になろうと直人に好意を抱く人物は少なからず居た。

 

「あ、あの・・・!」

 

「あ?」

 

「え、えっと・・・時崎さん・・・ですよね!?」

 

「そうだけど、何」

 

「サ、サインくれませんか・・・?」

 

まさかのサイン要求にびっくりした直人。

しかし木綿季を待っている以上、逆に待たせるのは悪いと思い断った。

 

「悪いけどサインとか書かねぇから。それに俺はそんな境遇求めてねぇし」

 

「そ、そうですか・・・ご、ごめんなさい」

 

「俺と居ると悪い噂流れっからどっか行ってな」

 

直人に言われ、女子生徒はどこかに立ち去った。

少しすると帰る用意が出来たのか木綿季が教室から出てくる。

教室から見える生徒はそもそも直人が居ることに驚愕していたが直人はそんなことに興味無く、生徒玄関に向かった。

 

 

外靴に履き変えると直人はあることを聞いた。

 

「木綿季は徒歩か?」

 

帰宅方法を聞くと木綿季は頷く。

直人はバイクで来ているため自転車の場合、ある程度早さを合わせなければならなかった。

木綿季の手を引いて連れていくと直人のバイクの所に着く。

 

「ヘルメット、被れ。検問引っ掛かる」

 

「う、うん」

 

木綿季はヘルメットを被るが固定が出来ずにいた。

それを見た直人は手をどかして固定させる。

 

(わっ・・・か、かお・・・近い・・・)

 

もう一度言うが直人のスタイルは良い。

何度かモデルのスカウトを受ける位には良いため木綿季からすると恥ずかしい物があった。

 

「ん・・・あぁ、悪い。近かったな」

 

「い、いえ!そんなことは・・・」

 

「・・・?まぁ良いや、乗りな」

 

急いで乗ろうとするが身長が平均より低い木綿季にはバイクが高く、中々乗れなかった。

直人は木綿季を持ち上げるとバイクの後ろに乗せて直人も足をかける。

 

「吹き飛ばされねぇようにしっかり掴んどけよ」

 

「う、うん」

 

「掴まり方は好きにしてろ、飛ばされないのならなんでも良い」

 

それを聞いて木綿季は直人に抱き着く。

 

「ん・・・まぁ好きにしろって言ったし良いか」

 

抱き着いている木綿季の頭を少し撫でるとバイクの鍵を回す。

アクセルで吹かすとそのまま学校の校門を出る。

 

それを見ていた女子生徒は木綿季に羨みと妬みの視線で見ていた。

 

 

 

しばらくバイクを走らすとある病院に止まる。

そこは横浜総合病院だった。

 

「病院・・・?」

 

「見舞いだよ、家族の」

 

「ボクも行って良いの・・・?」

 

「好きにしろ」

 

バイクを止めて、中に入る直人を追い掛ける。

受付で話し終わるとエレベーターに入る。

木綿季もそこに入って行き、4階に着くとまた歩き出す。

 

そしてある病室で足を止めた。

号室は0311で下には『時崎神楽』とあった。

 

「入るぞ」

 

直人が扉を開けるとベッドから体を起こして手を振っていた。

 

「神楽、見舞いに来たぞ」

 

神楽と呼ばれた女の子は直人を見てニコニコとしていた。

見舞いに来てくれたことが嬉しいようだった。

すると木綿季に気付いたのか興味津々に見つめる。

 

「そこの女子は木綿季。物好きで俺によく話しかけるんだよ」

 

「ゆ、木綿季です・・・。直人君この子は・・・妹さん?」

 

「そうだよ、義妹だけどな。今じゃ唯一の家族」

 

「そうなんだ・・・」

 

神楽は直人以外にも見舞いに来てくれたことが嬉しいのか木綿季とも打ち解けていた。

しかし面会の時間は早く、検診の関係で30分ほどで切り上げた。

 

「んじゃまた来るからな」

 

「またね、神楽ちゃん」

 

 

 

 

病院を後にした直人はバイクにまた乗る。

 

「俺もう帰るけど、お前どうすんの」

 

「そろそろ帰らなきゃ・・・」

 

「ん、なら送るから家教えてくれ」

 

木綿季をバイクに乗せたあと、大まかな場所を教えてもらい、直人はその場所を目指して走らせる。

 

 

病院から10分ほどで到着し、木綿季を降ろす。

 

「んじゃあな」

 

「ぁ・・・」

 

「まーた寂しそうな声出すんじゃねーよ・・・で?何だよ」

 

「お昼休み・・・一緒に居ていい?」

 

「勝手にしろ、鍵は渡してあんだから」

 

「じゃあ、明日行くね!」

 

一緒にいれると分かると元気になった木綿季を見て直人も少し笑う。

すると玄関が開いて一人の女性が出てくる。

 

「木綿季、玄関で何してるの?」

 

「お母さん、少し話してたんだ」

 

「あら・・・送ってくれたのかしら?」

 

「ええ、じゃ自分は帰るので」

 

「お茶の一つでもお出ししようと思ったのだけれど」

 

「お気遣いは有り難いですけど、用事があるので」

 

「そう・・・」

 

直人はバイクのアクセルを吹かす。

横に居た木綿季が寂しそうな顔をしていたのに気がついた直人は頭を少し撫でて微笑んだ。

 

「じゃあな、木綿季」

 

「うん・・・またね、直人君」

 

住宅街ともあり、速度をいつもより遅くして直人は木綿季の家を後にした。

 

「いい人じゃない、木綿季」

 

「そんなんじゃないって!それに直人君はそんな気ないと思うし・・・」

 

「分からないわよ、気があるかもしれないんだから」

 

「も~、からかうなぁ~!」

 

 

 

 

直人は公道に出ると法定速度ぎりぎりでスーパーに行くと買い物を済ませ、家に帰った。

ご飯を作って洗濯物を出すと、疲れたのか寝てしまっていた。

 

 

 


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