ソードアート・オンライン ~幻剣と絶剣~   作:紅風車

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幻想の果ての理想

神菜と拓也の養子となり数ヶ月が経った。

二人の対応の仕方などもあり、隔てる壁が無くなり本当の家族として過ごしていた。

 

 

そして響夜はある少女の事を思い出した。

自分がまだ『時崎直人』としての頃。

根暗っぽく過ごして、目立たない様にしていた自分によく話してくれた女子生徒の事を。

 

今思えば最低限以上に話したのはその女子生徒以外居なかった。

家族・・・神楽の見舞いにも、バイクにすら乗せたのも初めてだった。

だがもう戻れない所まで自分から突き放した。

また他人同士の関係にした。

それに後悔はなかった。

 

 

 

 

ある日、定期検診で診察を受けるといつもお世話になる先生・・・倉橋に呼ばれた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「君には伝えなければならない事がある」

 

倉橋はファイルから一つの紙を出した。

それは響夜の診察結果で、ある物が書いてあった。

 

「君の体からはCML・・・慢性骨髄性白血病が見つかった」

 

「白血病・・・ですか。治療法は?」

 

「完全な治療は造血幹細胞を移植をする方法以外今の医学では無いんだ。症状を抑える分子標的治療薬という薬物療法の二つがある」

 

「そうですか・・・」

 

「白血病自体は進行度的にまだ慢性期だから薬物療法でも十分効果はある」

 

「なら、それでお願いします。移植は・・・まだ決心が付くまでは」

 

倉橋は響夜に薬物が入った袋を渡す。

中には数種類の薬物が入っていた。

 

「これは?」

 

「それが進行を抑える薬だよ。君の決心が付くまではそれで進行を抑えるしかない。移植以外には完治出来ないんだ」

 

「分かりました。倉橋先生ありがとうございます」

 

「・・・いつでも来なさい。相談にも乗ろう」

 

倉橋の言葉に響夜は少し嬉しくなり、また来ようと思い病院を後にした。

 

 

白血病の事はしばらく隠そうと思い、机の引き出しに入れた。

そしてベットの下からある物を取り出す。

それはナーヴギアと呼ばれるフルダイブマシンだった。

 

「もうすぐ時間か」

 

ナーヴギアを使ってやるのはVRMMOのSAOというゲームだった。

βテスターとしても活動していた響夜は正式サービスを待つのみだった。

 

それは今日、ナーヴギアを被る。

そして仮装世界へと入るための言葉を言った。

 

「リンク・スタート!」

 

それが死のデスゲームとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスゲームだったソードアート・オンラインをクリアした響夜は何故また死を連想させるALOをするに至ったのだろう。

SAOで痛いほど分からされたのにも関わらず。

それでも彼は恐怖を抱かず逆に好奇心を持っていたと言える。

 

響夜はその名を付けた日からずっと探しつづけた。

自分の空想でも構わない幻想を求めて。

自分の幻想とは一体何か。

幻想という物はどんな物なのかを。

 

それを具現化したのがナーヴギアによる仮装世界だったのだろう。

ゲームのような世界観。

現実には有り得ないモンスター。

夢としか思えない人物。

実際に着ているような感覚があった武具。

それだけで響夜の幻想の答えが出かけていたのかもしれない。

それを。

それを極地に至るまで自分だけの幻想を追い求めた。

 

 

それがソードアート・オンラインの中だけではあったが発現した。

《幻想剣》というユニークスキル。

響夜のみが使用を許され、唯一扱い切れた。

自分だけの空想を、幻想をゲームの中だけとは言え、具現化した。

響夜の幻想が途切れないかぎり《幻想剣》は存在し続け、誰かのために振るわれた。

 

ゲーム内でだけでも信頼でき、愛し合ったユウキ。

彼女に危険があればその幻想を具現化する。

それが例え響夜を不幸にするとなってもユウキの為に響夜はただただ幻想を想い起こした。

 

 

 

 

 

その結果として、最終的にはユウキを置いていくという結末になった。

神楽には伝達を任せ響夜はALOと現実からも姿を消した。

 

「ユウキ、プレゼント」

 

「ふぇ・・・」

 

カグラから渡された記録結晶。

ユウキはそれを恐る恐るそれに触れる。

 

『えー、まぁこれ聞いてるって事は俺はもうALOとリアルからも居ないんだろうが言っておくと、ちょっとした長旅をしようと思う。それは木綿季を連れていけないし、一人でやるべきだと思ってる。俺的には忘れて新しい人を見つけな。だけどもし、本当に心の底から会いたいと願うなら、誰よりも強く、誰にも負けないぐらい強くなれ。それが俺を呼び寄せる可能性かもしれないな。

 

 

最後に、こんな別れ方でごめん。

 

それじゃ、じゃあな。ユウキ』

 

「あ・・・あぁ・・・うわぁぁぁぁぁん・・・」

 

泣き崩れたユウキにカグラはただ頭を撫でることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行方を完全に眩ませた響夜は、木綿季が帰ったと確信出来たときに家に帰還した。

 

「・・・ただいま」

 

帰ってきた響夜を見に来たのは母親の神菜だった。

その表情は心配と不安が見える。

 

「響夜、どこに居たの」

 

「・・・何処でも・・・って訳じゃない、大事な話をしたいんだ、父さんは・・・居るか?」

 

「居るわ」

 

響夜は家に上がると居間に行く。

居間には険しい表情を浮かべた父親の拓也が居た。

 

「ただいま、父さん」

 

「響夜。今までどこに居たんだ」

 

「それは後で言う。知り合いには教えたくなかった」

 

拓也に言うと一度自分の部屋に向かった。

部屋に入ると中には神楽がおり、手にはファイルがあった。

 

「神楽、もう言ったのか?」

 

「・・・」ブンブンブン

 

「ん、そうか。なら一緒に来てくれ」

 

「・・・」コクコク

 

神楽を部屋から出して居間に連れていく。

居間には家族全員が集まっていた。

そして、響夜は両親にファイルを差し出す。

 

「響夜、これは?」

 

「・・・見れば分かる」

 

神菜はファイルを受け取り、中の紙を取り出した。

それは響夜の診断結果が書いてあった、無論CMLの事も。

 

「・・・CML・・・?」

 

「慢性骨髄性白血病、俺のはもう移行期って段階でもう数ヶ月したら急性転化期って状態になる」

 

「急性転化期になると・・・どうなるの?」

 

「急性白血病っていうのになって、死ぬ」

 

響夜から放たれた一言に二人は目を見開く。

今までそんな事を見せなかった分、驚きもあった。

 

「今までは薬物療法で抑えてたけど、そろそろ効きづらくなってる。もし薬物療法が出来なくなると移植手術以外無いと思って良い」

 

「・・・移植手術やらないんでしょう?」

 

「それを聞きたいためにこうして帰ってきたんだよ、じゃなきゃ行方眩ませた間々だっての」

 

「移植手術・・・ドナーは居るの?」

 

「一応居る。前準備とかを終わらせたらいつでも手術出来る用意はしてる」

 

「そう・・・木綿季ちゃんには?」

 

「言ってない、来るべき時まで言わないつもり」

 

「なら、貴方の親として言うわね。・・・貴方には生きていて欲しい。手術だって受けてほしい」

 

「俺も神菜と同じで生きてもらいたい。響夜君はまだ若い。何より木綿季ちゃんを一人にさせてしまうことになるよ」

 

「そっか・・・分かった」

 

その言葉に神菜と拓也は嬉しそうな顔をする。

そして二人にある紙を渡した。

それは『メディキュボイド』と呼ばれる物の被験者書類だった。

 

「メディキュボイド・・・?これは何なの?」

 

「ナーヴギア、アミュスフィア等フルダイブ技術を使って医療用に作られたのがこのメディキュボイドって言うものだよ、世界でも1台しかまだ無くて使うにはある人の許可がいる」

 

「許可の一つに親族が要るんでしょ?」

 

「そういうこと。もう一人の人には既にもらってある。かなり苦労したけどね」

 

響夜はその書類の下を指差す。

そこには『七色・アルジャービン博士』と書かれていた。

七色・アルジャービンとは茅場晶彦と同じフルダイブ技術の研究者の一人で茅場が闇なら七色は光と対立していた。

メディキュボイドの開発に一躍買っていたため、使用許可には彼女の許可が必要だった。

どうやってコンタクトを取ったのかは不明だが、響夜はどうにかして許可を取っていた。

その設置場所も知っている。

 

「・・・響夜。ここまで用意してるんなら一つよ。絶対に治してきなさい」

 

「俺からもだ。治さないと木綿季ちゃんとの結婚は認めないぞ!」

 

「はは、そりゃあ困るねぇ」

 

メディキュボイドの親族許可も書いてもらった響夜は、病院の場所も教えた。

知り合いについては神楽を経由して言ってもらう事となったが、病院は教えるなとの事だった。

 

 

 

 

 

メディキュボイドの設置場所である『横浜総合病院』に着くと受付の人に倉橋を呼んでもらった。

 

「どうしたんですか、響夜君」

 

「倉橋先生、これ」

 

響夜は倉橋に入院手続き、移植手術、被験者等の書類全てを出した。

 

「これは・・・」

 

「白血病、治しますよ。移植手術でね」

 

「移植手術の負荷をメディキュボイドで軽減出来るか等の実験も兼ねてるのですか」

 

「俺が入院してメディキュボイドの被験者としてこき使われてる間は白血病の負荷を減らせると思ったんです。七色博士には許可を貰っていますから稼動キーも」

 

そういう響夜の手にはメディキュボイドを起動させるための稼動キーがあった。

倉橋も初めて見るのか少し眺めていた。

 

「・・・分かりました。今日から入院をしましょう。白血病がいつ悪化しても良いように無菌室で行います。君の体の白血球はほとんど機能していないような物ですからね」

 

「あはは・・・そうですね」

 

 

書類も全て確認が終わり、その日から響夜は白血球治療に臨む事となり、メディキュボイドの初の被験者にもなることになった。

 

メディキュボイドは元はフルダイブ技術の応用の為、ALOが出来る為、消灯時間までならやっていても構わないと聞いたので早速やって見ることにした。

 

 

アカウントはALOで使っていた『hibiki』を入力。

そして、フレンド等、知り合いにばれるものを全て消去し、姿は布のローブを被って隠した。

ギルドも一時的に神楽に全て委ねてヒビキは本当にソロとなった。

 

「久しぶりのALOだな」

 

出来るだけのんびりと過ごすことにした響夜はALOの中でお気に入りの場所へと足を運んだ。

 

 

 

響夜がその場所に着くと、人だかりが出来ていた。

 

「ん・・・何かやってんのか」

 

《隠蔽》を最大にして見てみるとそこには紺色の長い髪で夜を体現した服を着たプレイヤーがいた。

見間違える必要がない、ヒビキの妻だったユウキだ。

 

「・・・もう関係ねぇしな、木の上に登ろう」

 

関係ないと言い聞かせ、ヒビキは木の上に乗って横になる。

これがALOで暇なときのヒビキの寛ぎ方だった。

 

 

 

移植をするにはまず放射線投下と抗がん剤を投薬し、同じ白血球の型の輸血を行う。

移植と言いつつ、治療は他人のリンパ球の力で白血病細胞を駆逐するだけなのだ。

だが、放射線や抗がん剤の副作用が辛い。

また白血病細胞がいつ消滅仕切るかも分からないため治る期間は不明だった。

 

 

治療を開始して2ヶ月が経過した。

最初の白血病細胞に比べ減ったとはいえ、まだ殲滅仕切っていないため治療は続く。

それに伴い、キリト達にもヒビキの病状が教えられた。

だが、入院先までは教えないという約束をカグラは守っていたため特定できなかったようだ。

 

「ねみぃ~・・・」

 

すっかり環境に慣れたヒビキは退屈しきっていたため、上空にある鋼鉄の城を見上げた。

大型アップデートによる新生ALOとなった。

それまでは須郷信之による人体実験のALOだったが、しっかりと見直され新生ALOとして帰ってきていた。

鋼鉄の城・・・アインクラッドは現在第16層まで攻略が進んでいる。

SAOと違いモンスターの強さが桁違いらしいので16層でも60~70層クラスだった。

そして、もう一つ《幻想剣》スキルの下に新たなスキルが出ていた。

 

「・・・これを試すのに行くのも悪くねぇな」

 

ヒビキは羽を出すとアインクラッドへと向かおうとするも後ろには妹のカグラがこっそりと着いてきているのに気付いており、一度街に行くことにした。

 

「カグラ、何の用だ?」

 

「アインクラッド攻略一緒にしたい」

 

「んー、構わんが・・・良いのか?キリト達とか」

 

「知らない」

 

「あ、はい」

 

キリト達の事など無視されたカグラはヒビキと共に入院していても家族の絆を保ちつづけた。

今は入院しているヒビキだが、帰ってきたら目一杯甘えようと思うカグラだったのであった。

 

「・・・どうした?カグラ」

 

「ううん、なんでもない」

 

「そうか・・・んじゃ行くぞ!」

 

「うん!」

 

上空には蒼と白の流れ星が空を描く。

それをユウキは見て、願い事をするのだった。

 

「・・・帰ってきますように」

 

その左手の薬指にはSAOで交わした約束が付けられていた。

 

 




一先ず過去編は多分終わり・・・だと思います。
ここからは新生ALOの話を少し入れつつ、待ち続けるユウキと入院するヒビキの話と、GGO編にも繋がっていきます。
GGOはまだもう少し先かな?

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