IS<いいから黙って・死んでくれ>   作:速水

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「クラスメイトはマッチョ」

 女の中に男が一人。

 そんな囃し歌が脳裏をよぎる。

 それは多分、現在の俺が置かれた立場が原因であることに間違いはないのだが、我ながら少し暢気な思考だなとも思う。

 そして、その理由も分かっていた。

 本当なら、俺一人に集中していたはずであったろう教室の女子の視線のほとんどが、俺の隣に座っている男子生徒に向いているからであろう。

 そう。前述の囃し歌と矛盾するが、女子ばかりのクラスの中に俺──織斑一夏の他にもう一人の男子生徒がいるのだ。

 この、女子にしか動かせないと言われる飛行パワードスーツであるISの操縦者育成機関であるIS学園にである。

 奴の名は、左門弁蔵(さもんべんぞう)。日本で二人目の男性IS操縦者(自称)だ。

 後、身長が二メートルに近く、鍛え上げられた鋼のような筋肉を持つスキンヘッドの男で、肩の上には全身を覆う騎士甲冑を思わせる人型のナニカを肩車の形で乗せていることも付け加えておこう。

 

 

 俺と左門の出会いは、二ヶ月前に遡る。

 その日、俺は地元の高校受験のために、入試会場がある多目的ホールを訪れた。

 そして迷った……。

 思えば、これが俺の人生のけちのつき始めであっただろう。

 自業自得と言われれば、その通りだが。

 この時、大声で人を呼んで志望する学校の試験がどこで行われているかを尋ねれば運命は違っていたのかもしれない。

 しかし、中学生にもなって迷子になって大声で助けを呼ぶなんて恥ずかしいと言う無駄な自尊心が邪魔をした。

 そして、その日俺は運命に出会った。

 運命は、ピッチピチのTシャツを着たマッチョマンの姿をしていた。

 冬なのに。

 

「ぬぬ。おぬし、こんなところで何をしておる?」

 

 そう聞かれた俺は、最初はマッチョマンをホールで働いている職員の人かと思った。

 なにせ、身長172cmの俺が見上げなければならないところに顔があるのである。

 これが中学生に見える奴がいたら、どうかしている。

 制服も着てなかったし。

 だもんだから、これ幸いと試験場所を聞こうと思った俺は悪くない。

 

「あの、藍越(あいえつ)学園の受験に来たんですが、場所が分からなくて」

「ほう? 拙者以外にもIS(あいえす)学園の受験を受けようと考える酔狂な男がいようとはな」

 

 微妙なニュアンスの違いは、後の言葉のインパクトのせいで聞き流してしまった。

 いや、だってしょうがないだろう。

 この大男が、俺と同じ受験生──中学三年生だと聞かされて誰が驚かずにいられよう。

 冷静に考えれば浪人生という可能性も考えられたのだろうが、その時の俺には無理だった。

 事実として中学生だったし。

 

「ならば、ついて来るがいい。拙者も向かってる途中だ」

「お、おう……」

 

 やめときゃいいのに、マッチョマンについて行った俺は、ある部屋に入り神経質そうな女性の罵声をくらった。

 正確には、罵声を受けていたのはマッチョマンで、「また来たのか」「帰れ」「男には無理だと言ってるだろ」とかそんなことを言われていたわけだが、それが何故なのか俺にはわからなかった。

 というか、そいつが男でありながら自分こそがISを動かしてみせるなどと妄言を吐いて、何度もIS学園関係者に付きまとっていたなどと、当時の俺が知るはずもなかったのだ。

 そのせいだろうが、この時のマッチョマンの印象が強すぎてか女性が俺の存在を見逃していたのは、誰にとっても不幸な事態だったに違いない。

 なんとはなしに部屋を見回した俺は、それを見つけてしまった。

 それは、人によって受ける印象は変わるだろうが、俺には騎士の鎧のように見えた。

 と言っても、本当に鎧と思ったわけではない。

 なぜかといえば、俺はそれがISであると知っていたからだ。

 宇宙での活動を目的に作られ、しかし現状では世界最高の兵器と認識される女にしか動かせないマルチフォームスーツ『インフィニット・ストラトス』。

 男性には、テレビや新聞などのメディアを通してしか目にする機会が少ない物体。

 それが手の届くところにあるとなれば、触ってみたいと思うのは男の子なら当然の心理だろう。

 どっかの誰かのように、操縦者になりたいとまでは思わなかったが。

 そうして何気なく触れた時、それが全ての始まりだった。

 起こったことを細かく説明すると長くなるので、要点だけを簡潔に説明すると、女性にしか反応しないはずのISが起動したのだ。

 それは世界中の男性諸君にとって活気的な出来事だったのだろう。

 何しろ、男女平等の名目で男性の立場がどんどん低くなりつつあった頃に出現した女性にしか扱えない兵器のせいで、世の中は女尊男卑と言われるまでになってしまっている。

 そこに男性のIS適格者が現れたとなれば、盛り上がるのもやむなしである。

 しかし、その時の試験会場にいた人たちにとって、それは悪夢の始まりであった。

 なにしろ、いないはずの男性適格者が見つかったのである。

 どれだけ否定されようと、我こそはIS操縦者だといきまいていた馬鹿が調子に乗るのにこれほどの燃料は存在しまい。

 ISは女性にしか動かせないというのは正確には、男性では起動させられないと言うのが正しいが、馬鹿にそんな理屈は通じない。

 鉄の塊──本当に鉄で出来てるわけではないが──であり重量も見た目通りのそれを、人間離れした膂力で持ち上げ振り回して、自分にも動かせると言い切る馬鹿を誰に止められようか。

 ついには、入試を受けることを許可させるに至ったのだ。

 だが、入試を受けたからと言って合格できると決まったわけではない。

 IS学園の入試は、ISを使って教官と戦うというものなのだが、これはISが現代最強の兵器である以上、稼動させられなくては勝つどころか戦いにすらならないことは明白である。

 これは必ずしも勝つ必要はないらしいが、ISを稼動させられもしない人間が合格しようと思えば、勝利以外の道はない。

 ちなみに俺の場合は試験相手に恵まれたらしく、教官が突っ込んできたのをかわしたら勝手に壁にぶつかって倒れてくれたのであっさり合格だったが、馬鹿の相手はガチに殺してでも合格を阻止しようというくらいの気概だった。

 

 そして馬鹿に負けた。

 

 最新鋭の高性能兵器であるISを鈍器のように振り回す馬鹿にである。

 こうなってしまっては、学園側も馬鹿を無碍にできなくなった。

 世界最強の兵器であるはずのISは、生身の人間になど倒されてはいけないのだ。

 倒されたとすれば、それは同じIS操縦者にでなくてはいけないという政治的判断があったとかなんとか。

 そんなわけで、一緒に試験を受けたため中々帰らせてもらえなかった俺には長く退屈な会議の末に、特別にアドバイザーとして呼ばれたある人の「面白いから合格!」の鶴の一声で馬鹿は入試に合格。

 はれて、IS学園のたった二人の男子生徒になったわけである。

 

 

 そんな出会いなんだから、俺が左門と仲良くしたいと思う理由はない。……なかったのだ。

 

「ところで一夏よ。女ばかりの学校とくれば教師も女子なのであろうが、やはり若い女教師であってほしいと思わぬか」

 

 そんなことをフレンドリーに言ってくる左門に、勘弁してくれよと思う。

 はっきり言って左門はできれば関わりたくないタイプの人種だが、それでも他に気の許せる相手がいないといのが現状である。

 なんせ、他は女しかいないクラスだ。

 俺も女の子が嫌いなわけではないが、女しかいない空間なんかに閉じ込められたら窒息する自信がある。

 左門のおかげで窒息しないで済んでいると思えば、暑苦しい馬鹿だということにも目を瞑らざるをえまい。

 この非常識の塊のおかげで女子からの珍獣を見るような視線もかなり軽減されてると思えば、感謝してもいいくらいではある。

 しかし、

 

「この女だらけの空間で、まだ足りないのかお前は」

 

 呆れた様に言ってやると、こっちこそ呆れたと言いたげな顔で首を振る。

 

「美しい花は、いくらあっても見飽きるものではあるまいに」

 

 花なら、俺の気も休まるんだがな。

 何しろ一緒にいて一番気が休まるのが、このイカレマッチョなんだから救われない。

 ああ、クソッと窓側に目を向ける。

 そちらにも、やはり女子しかいないが、その中に一人顔見知りがいる。

 名前は篠ノ之箒。

 一言で言うと幼馴染みの女の子なわけで、本来なら傍にいて隣の馬鹿より気の休まる対象のはずだが、どういうわけか話しかけても無視しやがる。

 

「それに女教師という呼び方は実にエロスな響きがしていいと思わぬか」

 

 左門の話はまだ続いていたらしい。

 というか、女の子だらけの教室でよくそういう話ができるな。

 マジ引くわ。

 こいつの声はよく響く上に声を潜めたりしないから、教室内の全員に聞こえてるし。

 あと、なんで俺まで女子に汚物を見るような目で見られなきゃならん。

 箒の俺を見る目も、氷点下まで温度が下がったように感じる。

 

「お前は、もうちょっと周りの目を気にしたほうがいいぞ。いや、しろ」

 

 主に、俺のために。

 

「む? もちろんしておるぞ」

「ほほーう。なら、今どんな目で見られてるか言ってみろ」

「うむ。軽蔑の眼差しというやつだな。正直、ぼっ……興奮するわい」

 

 今、なに言いかけたコイツ。

 いや、よそう追求するのは。俺の勝手な想像でクラスの皆を混乱させたくない。

 ガタッて音と共に、心なしか女子が物理的に遠のいた気がするし。これ以上は心が持たない。

 先生早く来てくれー!

 

「みなさん。おはようございます」

 

 あ、本当に来た。

 なんか背が低いわ童顔だわで、クラスの女子に紛れて埋没しそうな先生だな。

 

「大きめの眼鏡と服で幼さを演出し、しかし体格に不釣合いに大きい胸で色気をかもし出すとは、ナイスですな!」

 

 グッと親指を立ててオッサン臭い笑みを浮かべて見せる左門。

 泣きそうな顔で胸を抱きしめるようにして後ろに下がる先生。

 セクハラだ、それ。

 気の弱そうな先生みたいだし、左門を止めたほうがいいのかな。

 思ってると、ゴンッと音がして左門が仰け反り、バサリという音と共に黒い何かが俺の机の上に落ちた。

 

「出席簿?」

 

 机に落ちたものを見て首を捻る。

 状況から察するに、これが左門の頭に当たったのだろうが、どこからわいて出た?

 あと、今ので左門が肩車して乗せていた人型がバランスを崩し、慌ててその足を掴んだら変な風に転がって、お互いに後頭部をぶつけ合ってたんだが大丈夫だったんだろうか。

 本人曰く、入試会場に来ていたアドバイザーが用意してくれたという専用ISは、重量硬度共に半端ない。

 待機状態にできないからと、そんなものを背負ったり肩車したりして日常生活を送って平気な顔をしてる筋肉馬鹿でも、後頭部に直撃は痛かったらしく頭を押さえて俯いてる。

 出席簿がぶつかった時の音も、パンとかバンじゃなくゴンだったし。

 

「おはよう諸君」

 

 聞き覚えのある声に顔を上げれば、そこに見知った顔がある。

 

「私が、このクラスの担任の織斑千冬だ」

 

 え? なんで千冬姉が?

 そりゃ確かに、昔はISの世界大会に出て優勝したり、今は何の仕事をしてるか教えてくれてなかったりしたけど……。

 

「どうした一夏」

「いや、ひょっとして俺って馬鹿なのかなあって」

 

 気づけよ俺。

 ISの世界大会優勝者とか政府がほっとくわけねえじゃねえか。

 

「というか、頭は大丈夫なのか」

「うむ」

 

 と、問われた左門は真剣な顔になって千冬姉に顔を向ける。

 専用機を肩車し直してるから、間抜けにみえるが、それはさておき、その視線を俺は知っている。

 それは、入試で教官と戦うときに見せた戦士の目だ。

 

「何か言いたいことでもあるのか」

「はい」

 

 千冬姉の言葉に『うむ』ではなく『はい』と答えた左門は、ゆっくりと上げた両手を顔の前で合わせて目を閉じる。

 

「ありがとうございます。次は、できれば拳でお願いします」

 

 ゴスンッ!

 悪は滅んだ。

 てか、出席簿が頭に刺さってるように見えるんだが、大丈夫なのか?

 

 大丈夫だった。

 あと、最初に来た先生は副担任の山田真耶先生だそうだ。

 

 

 HRは色々あったが、その後の授業は左門も大人しいもので、滞りなく時間は過ぎて今は放課後の教室である。

 問題があるとすれば、

 

「さっぱりわからん……」

 

 俺の授業の理解度だった。

 ここはIS操縦者の養成所だが、学園に来るような人間は基礎知識くらいは学んでいるものらしい。

 無論、入試が実技なこともあって、学んでなくて基礎知識がなくても入学前に送られてくる参考書を熟読していれば授業についていけるらしいのだが、俺はアレを間違えて捨ててしまっていた。

 というか、捨ててなかったとしてもあの電話帳サイズは無理。

 あんなもんが、二ヶ月足らずで頭に入るか。

 どうせ授業で習うことだろうから今はいいやと考えるのが普通じゃないか?

 と思うのだが左門まで、ちゃんと授業についていってる所を見ると自分が間違ってる気になってくる。

 

「しかし、どうしたもんかなー」

 

 左門に教えてくれと頼んでみたけど、今日は荷物の片づけがあるからと断わられた。

 IS学園は基本的に全寮制なのだが、男性操縦者など前例がないので部屋の手配が遅れていた。

 そのため左門に寮が決まったと連絡が来たのは今朝になってからとかで、荷物は寮の玄関に置きっぱなしの状態らしい。

 それを聞いては、さすがに俺も無理は言えない。

 ちなみに部屋の手配が遅れてるのは俺も同じで、一週間ほどは自宅から通学するようにと言われているが、寮は二人部屋と聞くし俺の同室は左門だろうから、明日には部屋が決まったと連絡がくるに違いない。

 

「あ、織斑くん。寮の部屋が決まりましたよ」

 

 そうそう、こんな感じで……って、え?

 と振り返れば、鍵と部屋番号が書かれたメモを持った山田先生がいた。

 

「ですから、もう今日から寮で暮らしてくれますか」

 

 いやいやいや。

 

「荷物の手配とかありますし、今日からは無理ですって」

「いえ、荷物なら……」

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

 

 おおっ!? 天から降ったか地から湧いたか、いつの間にか千冬姉が教室にいた。

 

「まあ、生活必需品だけだが、充分だろ」

 

 なんという男前なお言葉。俺が女なら惚れていたに違いない。

 

「じゃあ、私たちは会議があるから行きますが、織斑くんはちゃんと寮に行ってくださいね」

 

 言って教室を出て行くお二人さん。

 しかし、俺の部屋ね。

 メモには1025室と書いてある。

 考えてみれば、左門の部屋番号を先に聞いておけば、このメモはいらなかった気がしてならない。

 というか、今は左門が荷物を片付けてるところだと思うんだが、千冬姉の手配した荷物とやらはどうなってるんだ?

 なんか不安になってきた。寮に急ごう。

 荷物が片付いてなかったら左門の手伝いをしてやってもいいしな。

 

 

 

 そんなわけで、寮の1025室までやってきたのだ。

 ドアを開ければベッドが二つ。

 当たり前と言えば当たり前か。マッチョと同じ布団で寝るとか、ぞっとしない話だ。

 部屋には荷物が散らばっているなどということはなく、人の姿もない。

 そして、シャワー室からは水の流れる音が聞こえる。

 これは、あれだな。左門が荷物を片付けてて汚れたからがシャワーを浴びてるってわけだ。

 となれば、数分後には全裸を水滴でテカらせたマッチョマンが出てくることに……。

 嫌なものを想像してしまった。少し、部屋を出ていたほうがいいかもしれない。

 

「誰かいるのか?」

 

 シャワー室から聞こえる声に遅かったと理解する。

 てか、今の左門の声じゃないよな?

 女の声に聞こえたんだが。

 

「ああ、同室になった者か。これから一年よろしく……」

 

 言いながら出て来たのは、やはり左門ではなかった。

 思ったとおり女だった。

 知ってる顔だった。

 

「……箒」

 

 事態を理解できなかったらしく、きょとんとした顔でこちらを見ていた幼馴染みの顔が、瞬間に朱に染まる。

 同性と思ってバスタオルを一枚巻いただけの姿で出たら、そこに男がいたんだから当然と言えば当然だ。

 

「な、な、なぜ、お前が、ここにいる」

 

 胸を隠そうとタオルの上から豊満なふくらみを押さえる姿は、かえって扇情的に感じるが、今はそんなことを考えている場合ではないだろう。

 ここが生きるか死ぬかのデッドライン。社会的にな。

 

「ここが俺の部屋だと言われて来たら、シャワーを浴びてる箒がいた」

 

 瞬間、箒の手が霞んだ。と思ったときには、すでに右手には木刀が握られていた。

 むう、箒は工藤流念法の使い手であったか。

 なんて馬鹿なことを考えている場合ではない。

 生存本能の鳴らす警鐘に従い脱兎の如く逃げ出す俺の後ろ髪を木刀が薙ぐ。

 危ねえ、殺す気か。

 心は、いまだ危機感が薄いが体は別のようで、思考より早く足を動かし部屋から飛び出すとドアを閉じて開かないように背中で押さえる。

 

「ふう、助かっ……」

 

 まだだと言う様に、悪寒が走る。

 本能に従い身を離したドアから、木刀の切っ先が生えてくる。

 無茶苦茶だ。こいつ生身で左門とやりあえるんじゃないか?

 

「なになに、どうしたの?」

「あっ、織斑くんだ」

 

 ぬおっ、騒ぎを聞きつけて女子が集まってきた。

 しかも、バスタオル一枚だった箒に劣らぬ煽情的な格好の女子もいる。

 まずいぞ俺。どうする俺。

 なんとか部屋に入れてもらうか?

 いや、バスタオル一枚の箒と二人っきりになる方がまずい気がする。

 そうだ!

 

「左門の部屋を知らないか?」

 

 集まった女子に聞く。

 どう考えても俺と同室なのは左門のはずで、部屋場号は山田先生が間違えたに違いない。

 となれば、左門の部屋を聞いてそこに行くのが最適解であることに疑いようがない。

 

「んー。左門くんなら屋上だよー」

「サンキュッ」

 

 踵を返して階段に向かって走る。

 しかし左門の奴、なんで屋上になんか行ってるんだ?

 考えるのは後で良いか、まずは屋上で左門と合流して一緒に部屋に行こう。

 その考えが間違っていたと知るのは、数分後のこと。

 

 

 

「なんだ、これは」

「拙者の部屋だが?」

 

 犬小屋のような出入り口を作った冷蔵庫用のダンボールを指差した俺にマッチョマンが答える。

 

「部屋?」

「うむ」

「どういうことだよ」

 

 尋ねてみると、どうにも部屋の用意の目処が立たなかったのが原因らしい。

 IS学園が全寮制なのは生徒の保護と機密の保持のためであり、自宅通学は認められない。

 だが、俺と左門のような急な例外を受け入れるには学園側に用意が足りない。

 その結果のしわ寄せの一つが、これである。

 

「まあ、男女七歳にして席を同じうせずとも言う。女子と同じ部屋で寝泊りさせるわけにもいかぬのだし、妥当なところであろうよ。……なぜ、目を逸らす」

「いや、別に」

「なんにせよ、今は用意できてないというだけで、しばらく待てば屋根のある部屋に移動できるのだ。男たるもの文句を言うような器の小さなことをするべきではあるまい」

「そうかなあ」

「うむ。それとも一夏は、替わりに女子に屋上のダンボール部屋で過ごせというつもりか?」

 

 いや、確かにそれは男として最低すぎる。

 

「で、あろう」

 

 そうだな。本人も納得してることに文句を言うべきじゃないな。

 俺は、箒に頭を下げて同室を許可してもらうけど。

 左門と違って望んでIS学園に来たわけでもないのにダンボールハウスとか耐えられん。

 大体、箒は男女の違いとかを意識する前からの幼馴染みだ。

 間違いなんか絶対に起こらないと説得すれば納得してくれるさ。

 

 

 朝の食堂で、俺は左門と同じテーブルを囲んで朝食を摂っていた。

 

「一夏よ。その顔はどうした」

「いや、ちょっと」

 

 腫れた頬とコブだらけの頭を見て尋ねてきた左門に口を濁し、横目で少し離れた席に座っている箒を見る。

 わからん。箒のやつ、何が気に入らなかったんだろうか。最終的には同室を受け入れてくれたけど。

 そんな俺を見て、左門は察した顔で笑う。

 

「ふっ、そういうことか。次に御褒美を貰うときは拙者も誘えよ」

 

 いや、絶対なにか勘違いしてるぞお前。

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