10年前。日本近海から巨大な生物が上陸した。
後にドラゴンと呼称される、その生物には現行のいかなる兵器による攻撃でも倒すどころか、傷つけることもできなかった。
だが、ドラゴンに対向する力は存在した。
ドラゴンと同じ能力を持つ兵器《IS》である。
どういうわけか女性にしか動かせないIS。
その操縦者を教育するために作られたIS学園に、二人の男が入学する。
男でありながら、ISを動かせる少年、織斑一夏。
男でありながら、スカートを履くことを恥と思わないマッチョ、左門弁蔵。
二人は、さっそく学園を襲ってきたドラゴン《ゴーレムI》を見事に撃退するのであった。
六月某日の日曜日。
俺は何故か中学からの友達である五反田弾と一緒に、左門の家にいた。
何故かというと、最初は弾の家に遊びに行くと言ったら左門がついてきたのだが……。
◇
「一夏さん!」
弾の妹である蘭が、何かいいことでもあったのだろうか満面の笑みを浮かべて部屋に入ってきて……、そして笑みが凍りついた。
さて、その時の弾の部屋にいたのは部屋の主である弾と左門の二人。俺は、ちょっとトイレを借りていた。
ギギギッとでも擬音が聞こえそうな壊れたロボットを思わせる挙動で部屋を見回した蘭は、かすれた声で左門に問いかけるように呟いた。
「一夏さん?」
「うむ!」
一夏なら用を足しに行っている。
と言おうとしたそうだが、それを聞く前に蘭が悲鳴を上げた。
それを聞いて何事かと部屋に戻った俺が見たのは、『蘭ちゃんファンクラブ同盟』なる五人組とポージング合戦をする左門の姿。
なんで、そんなことになっていたのかは俺にはわからない。
もちろん勝ったのは左門だったが、今度は弾の祖父である厳さんがやってきて三人揃って追い出された。
「なんで俺まで」
弾が呟いたが、そもそも何で俺達が追い出されることになったのか。
蘭を泣かせたからとか言われたが、俺が何をした。
いや、十中八九、俺が連れて行った左門が原因なんだろうけど。
そういうわけで、今度は意外に近かった左門の家を尋ねることになったわけなのだ。
◇
ゴールデンウィークのある五月は、クラス対抗戦のせいで休みが取れなかったりしたので、ようやくの休日気分だったのに何故に左門の家になんかこなくてはならないのか。
途中で買ったゲームをやるためだが。
「で?」
「何が、で? なんだ」
一戸建て住宅の二階にある左門の部屋で、格闘ゲームのキャラエディットをしながらの雑談。ここが左門の家でなければ、中学時代のいつもの日常である。
ちなみにゲームの名前は『武闘神機』。ISを元にしたベストセラーゲーム『
「ホモになったのか」
「なんでだ!?」
「なんでって、お前の送ってくるメール、マッチョマンのことばかりだし、今日も家に連れてくるし」
「学園で一番インパクトが強くて、接点も多いやつなんだから、しょうがないだろ」
学園で二人しかいない男子なんだから、一緒に遊びに行くのもおかしなことではない。
ちなみに、当の左門は茶菓子を持ってくると言って部屋にいない。
そうでなきゃ、弾もこんな話はしない。
話しながら、俺は天使型神機を選ぶ。
このゲームでは癖がなく初心者の友とも言われているキャラだ。
「女の園にいて、話すことが男の話題ってどうなんだよ」
弾が選んだのは、シリーズが続きすぎて苦し紛れで作ったような追加キャラであるイロモノキャラのマッチョマン。
女の子キャラしか出てこない格闘ゲームに、半裸のマッチョマンを追加するとかメーカーは気でも違ったのかもしれない。
「周りが女子ばっかりだから、男同士で固まることになるんだろ」
モニタ内では、俺の操る天使型神機がマッチョマンの攻撃でどんどんダメージを蓄積させていく。
マッチョマンは、生身でも鍛えた男なら武装した女の子と戦えると思い込んだバカという設定のキャラなので、神機たちに比べてやたらと弱くてゲーセンでは人気が低いらしいが、逆に家庭用ゲーム機でプレイする場合には人気がある。
なにせ勝ち負けより面白さが優先されるのが家庭用ゲームであるし、プレイヤースキルに差がある場合、実力差を埋めるハンデにもちょうどいい。
IS学園の寮に入ってゲーセンに行く暇のない俺と、ゲーセン通いを続けてる弾の差を埋めるのにもちょうどいい。
「それに、左門のことしかメールに書かなかったわけじゃないだろ」
「他に、なにかあったっけ」
「鈴が転校してきたって書いただろって、ああっ!」
マッチョマンの超必殺技、特盛りメンズビームで、俺の操る天使型神機がトドメの一撃を喰らわされる。
「ひでえ。天使に、そんな技を食らわすとか恥ずかしくないのか」
「メーカーに言えよ。そういえば鈴の話もあったな」
「ああ、最近は鈴が左門に突っ込みを入れてくれるから俺の負担も軽くなって助かってる」
箒は、あんまり左門の奇行を気にしないし、セシリアに至ってはトラウマが克服できてないしな。
「お前は……。いいけどよ」
今度は、悪魔型神機を選ぶ弾。ネタキャラは乱用すると新鮮味が薄れるからである。
そして熟練度の足りない俺は天使型神機を続行。
「なにがいいんだ?」
「気にするな。それより、メールに面白いことが書いてあったよな」
「面白いこと?」
「なんか、トーナメントで勝ったら一夏と付き合えるってデマが流れてるって話」
「ああ、その話か」
クラス対抗戦の騒ぎの後日、箒が学年別個人トーナメントで自分が勝ったら付き合えと宣言してきた。
そして、脱兎の如く走り去った。
そこまではいい。
あの潔癖な箒が男女交際の意味で付き合えと言うはずもないので、さて、どこに付き合えばいいのかと思ってたわけだが、その話を聞いていた生徒がいたらしく、しかも伝言ゲーム的に尾ひれがついて、俺に勝てば男女交際的な意味で付き合うという話になったらしい。
ちなみに、これは例によって左門情報なのだが、あのマッチョは女子に生理的に無理。とか言われてるくせにどうやって噂話を集めてくるのか。
いや、それよりこの噂をどうすればいいのか。
「本当に付き合えばいいだろ」
「いいわけあるか」
そんな、いい加減なことはできん。
「逆に考えてみてはどうだ?」
足音もなく戻ってきた左門が会話に入ってくる。
「付き合っちゃっていいやって?」
「いいや。付き合いたい女生徒にわざと負ければいい」
ちゃぶ台にコーヒーとクッキーの乗ったお盆を置きながらトンデモナイことを言い出すマッチョ。
「あ、それいいな」
「よくねえ」
「何の問題が?」
そりゃ、えーと……。
「男女交際ってのは、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃダメなんだ。当事者二人だけで静かで豊かで」
「そうか。何言ってんだ、お前」
「そもそも男女交際に決まった形などあるまい。重要なのはお互いの気持で、始まりがどうかなど些細なものでしかない」
ぐっ、左門のくせに正論を。
「で、誰に負ける?」
「わざと負ける話を受け入れた前提で話すな! わざととか以前に、鈴とかセシリアとかと当たったら本気で戦っても勝てるかどうか怪しいのに」
「勝率一割くらいか?」
「そうだよ。左門と当たっても六割くらいの確率で負けるよ」
「そんな程度なのか?」
がっかりしたように言うな弾。
入学前からISを動かしてた専用機持ちに勝てる方がおかしいだろ。
「うーん。でも、それなら尚更さっさと本命に負けといた方がいいんじゃないか? 勝率が低くても一回なら勝てる可能性があるけど、二人両方に勝つなんて無理だろ」
「そうだけどな」
本命とか言われてもな。
「正直、恋愛的な意味での好きとかよくわからないんだが」
「難しく考える必要はなかろう。今どきの高校生の男女交際は、結婚まで続くものでもないのだから軽い気持ちで付き合えばよかろう」
「好きじゃないんだよ。そういうのは」
「何気にめんどくさい奴だよな一夏って」
「付き合い始めてから始まる恋もあるだろうにな」
「始まらなかったらバツが悪いだろ」
そろそろ話を逸らした方がよさそうだな。こいつら、からかう顔になってるし。
「ところで、このクッキーって手作りっぽくないか?」
「ん? そういえば、市販のとは違う感じだな」
弾も、ちゃぶ台に手を伸ばしてクッキーを摘む。
「まさか左門の手作りじゃ……」
「まあ、間違いではない」
「げっ……」
エプロンをつけて台所に立つ左門の姿でも想像したのだろう。弾が潰れたカエルのような声を出す。
ちなみに俺は、何故か裸エプロンの左門を想像してしまって息もできない。
「と言っても拙者ではないがな」
「どういうことだ?」
「左門と言うのは、拙者の名ではなく姓だ」
「え? そうなのか?」
「いや、表札くらい家に入る時に見とけよ弾」
「見たけど、なんか記憶に残らなかったんだよ。友達は男女問わず名前で呼ぶ一夏も左門って呼んでるし」
「うっ……。えーと、そうだ左門じゃないなら誰が作ったんだ」
「それは……」
左門が言いかけたところでバタバタと階段を駆け上がる足音が聞こえ、そして蹴破るかのような勢いで部屋のドアが開けられる。
「ちょっと筋肉! なに人が作った手作りクッキー勝手に持って行ってくれてんのよ!」
けたたましく入ってきたのは小学生だろうか、身長は140cmくらいのオカッパ頭の女の子。
「ん? 数カ月ぶりに帰ってくる兄のために、作っておいたものではないのか?」
「んなわけないでしょ! 今日帰ってくるなんて知らなかったし、一生帰ってきてほしくもなかったわ……よ……」
会話から察するに左門の妹らしいが、実の兄に酷い言いようだ。気持ちはわからんでもないが。
と思って見てたら、俺と弾に気づいたらしい女の子が黙りこみ赤面する。
「ちょっと、誰よあのイケメン」
「む?」
と、こっちを見る二人。
ん? 俺?
「ニュースを見とらんのか? 拙者と同じくIS操縦者である織斑一夏だ」
「ええっ!? この人が筋肉と同じ……」
なにやら信じられないものを見たと言わんばかりの顔をする左門妹。ところで兄のことを筋肉って呼んでるんだな。
「でも、どう見ても筋肉バカじゃないじゃない」
「そういう意味で、そこの変態マッチョと同じ種類の人類は存在しないと思うぞ」
「誰が筋肉バカ変態マッチョか」
黙って、左門を指差す俺と弾と左門妹。
「解せぬ」
「ということは、普通のイケメン?」
「イケメンかどうかはともかく、変態マッチョと違って普通の人間だな」
「いや、普通ってのも違うだろ。ISパイロットってアイドルみたいなもんだし、世界に一人しかいない男性IS適格者って言ったら、ある意味大スターみたいなもんだろ」
「そういうもんか?」
首を傾げる俺に、そういうもんだと頷く弾。
「凄っ。そんな人と知り合いになれるなんて、あたし人生で初めて筋肉の妹に生まれて良かったって思ったわ。イケメンだし」
よくイケメンを強調するなぁ。小学生でも女の子ってこうなのかな。
「えーと、織斑一夏さん。あたし、
「ああ、よろしく……」
中学三年生!? 俺達より一つ年下なだけ……だと……。
「それって、小学三年生の間違いじゃなくて?」
俺が口を開く前に、驚きの言葉を上げる弾。しかし、
「それは、ねーだろ。失礼なことを言うな」
この身長なら小学五年生くらいだろうに……って、あれ?
弾の言葉にムッとした顔になってた小羽が、嬉しそうに俺を見ている。
「はっはっはっ、言葉が足りないのもイケメンの必須スキルということか」
左門が何か意味のわからないことを言ってるが、小羽の耳には届いていないようだ。
変態の言うことは聞き流すのが正しいと理解しているんだな。流石は妹。
「一夏さんって、付き合ってる女の子いますか?」
「直球!? 小さい娘の行動力はすげえな」
「小さいって言うな! で、いるんですか?」
余計なことを言った弾に怒鳴ってから、質問を続けてくる小羽。
物おじしない娘だな。
「どうなんです?」
「えーと……」
「それは学年別個人トーナメントで決まることになっている」
「……。なんですか、学年別個人トーナメントって?」
横から口を出してきた左門を無視して俺に訪ねてくるのは何故なのか。
「学年別個人トーナメントっていうのは……」
「一言で言えば、一夏争奪戦だ。これに勝利したものが、一夏と結婚を前提とした付き合いをすることになっている」
「語弊のある言い方を……」
「……そういう恋人の決め方はどうかと思いますけど」
まったくだ。
俺も、そんなつもりじゃなかったんだが。
「ここは一つ、あたしと付き合うことにして、もう恋人はいるから勝っても付き合えないってことにしませんか?」
「いや、その理屈はおかしい。大体、会ったばかりの相手と付き合うとかおかしいだろ」
「一目あったその日から、恋の花咲くこともある。いいと思いませんか?」
いい笑顔でトンデモナイことを言い出す小羽。
あー。この娘、間違いなく左門の妹だわ。
「まあ小羽と付き合うかどうかはともかく、恋人がいるから断るというのは、いい手ではないか」
「嘘をつけってか。誰と付き合ってるんだって聞かれたらどうするんだよ」
「嘘をつけとは言っとらん。箒と付き合えばよかろう」
「なんで箒だ」
「数いる女生徒のなかで、一夏が一番意識していると思われる人物だからだが」
「え、そうなのか?」
「うむ」
「箒って?」
「一夏の幼なじみにして巨乳美少女だ。ついでに言えば、IS開発者である篠ノ之束博士の妹でもある」
いや、ついでにするべきことが逆じゃないのか。一般的には。
「巨乳……」
自分の膨らみの目立たない小さな胸に手を当てて呟く小羽。
小羽には、そっちのほうが重要なのか。
「一夏さんは、胸の小さい女の子は嫌いですか?」
「ええっ!? そう来るか」
「ハッハッハ、妹は一度狙った獲物を逃さんぞ」
「たち悪いな」
「なに。どうあれ一夏に妹と付き合う理由はないのだがな」
「なんでよ?」
「一夏は初めて会った相手とすぐに付き合うというタイプではないし、今必要としているのもトーナメントで勝った女子と付き合えない理由だ。IS学園の外に恋人がいるとか言っても、実物を見せなければ信じてもらえまい」
「見せればいいじゃない」
「どうやってだ? 部外者はIS学園に入れんのに」
「向こうが、見に来るのが筋でしょ」
「ハッハッハ。どんな理由があっても学園の女子が拙者の家になんぞ訪ねてくるわけがなかろう。同じ空間にいるだけで妊娠させられそうとか噂されて嫌悪されているというのに」
そこまで言われてたのか。
しかし、そんな失礼極まりない噂を誰が本人に伝えたのか。
なんとなく箒と鈴が頭に浮かぶ。
うん。言いそうな二人だが、箒はそういう噂に疎そうだし鈴は興味もなさそうだ。
セシリアは、テンパッて本人に言いそうだけど噂があるとかいう言い方はしないだろうしな。
つまり消去法だと下手人は俺!
いやいやいや。それは、ねえよ。
「それなら、小羽ちゃんがIS学園を受験すれば来年には解決するんじゃないか」
あ、話し続いてたのか。
「うちの妹も、受験するって言ってたしな」
それは初耳だ。蘭がIS操縦者になりたいと思ってたなんて知らなかった。
「嫌です」
即答!?
「なんで?」
「せっかくの友達の妹って美味しいポジションなのに、IS学園に入学なんかしたら、ただの後輩の一人になっちゃうじゃないですか」
「そういうもんか?」
「そういうものです。それに、これと兄妹だなんて知れたら友だちができないこと間違いなしです。あたしは、これと違って友だちがいない学園生活に耐える自信なんてありません」
「ああ……」
それは納得だと、弾は左門を見る。
年頃の娘が、この変態マッチョと兄妹だなんて恥ずかしいわな。
「そういうわけで、あたしと付き合いましょう!」
「どういうわけで、そうなるんだ」
「もうっ! 細かいことで一々ケチをつけて。あんた何者よ。どっから湧いたのよ。名を名乗りなさい!」
「五反田弾。一夏の友達で、ずっとこの部屋にいたわけだが」
ズビシッ! と指を向けてくる小羽に呆れた顔で答える弾。
「一夏さんの友達ってだけで偉そうにしないでよね。イケメンでもないくせに!」
「君の判断基準はイケメンかそうでないかなのか?」
「他に何があるのよ」
断言した!?
「ところで妹よ」
「なによ?」
「このクッキー。拙者のためでないのなら、誰のために用意したのだ? 自分のためなら、作ってすぐに食べるだろう。お前は」
ポリポリとクッキーを食べながらの左門の問いに、あっ、という顔になる小羽。
「そうよ。それ勝手に食べないでよ。友達に頼まれて作ったんだから。一夏さんならいいけど」
「ほう?」
「彼氏に手作りのクッキーをあげたいから作ってって頼まれてたのよ」
お、おう。それは、何か間違ってる気がするぞ。
「いいんですよ。手作りって聞いて、向こうが勝手に彼女が作ったって勘違いするだけなんですから」
か、確信犯。てか、心を読まれた!?
「読んでませんよ。一夏さんがわかりやすいだけです」
明らかに読まれてるんだが。
「で、その友達にクッキーを渡すのは、いつの約束なのだ?」
「今日」
左門の問いに答えた小羽の顔から血の気が引く。
「もうっ、家に来てるのに忘れてたじゃない。筋肉バカ」
捨て台詞を残して、部屋を出て行く小羽。
なんというか騒がしい娘だ。
「ゲームやるか」
「そうだな」
コントローラーを手に取り、迷わず悪魔型神機を選ぶ左門。
いや、お前はマッチョマンを選べよ。
◇
「指が痛い……」
一日中ゲームをしてたとはいえ、指が痛くなるまで力が入るとは我ながら大人げない。
ちなみに、戦績は左門がトップで次が弾。俺は最下位だった。
変態のくせに強くて勉強もできてゲームまで上手いとかチート筋肉め。
そのチート筋肉はというと、隣のベッドで座禅を組んで瞑想中。
ここは寮の自室で今の時刻は夕方六時。
俺はといえば、先週までは、箒の使っていたベッドの上で寝転がっている。
先週、ようやく部屋の調整が終わったとかで箒は女子と同室に移ったのだが、その結果、俺は一人部屋になった。
本来なら、すぐにでも左門が移ってきて二人部屋になるところだったのだが、寮の部屋から部屋の移動と違って屋上のホームレスを部屋に移動させるのは書類的に面倒なので時間がかかるらしい。
生徒にホームレス生活を強要してたとか、書類に残すのは問題があるとか何とか。
とはいえ、問題があるのはあくまで書類上のことでしかないので、左門が泊まりに来るという体なら俺の部屋で寝泊まりするのは咎められないので勝手に住み着いているというわけである。
流石に荷物は持ち込んでいないが。
それで、なんで俺が箒の使ってたベッドを使っているのかといえば、左門が箒の残り香がどうのと言いそうでなんか嫌だからだ。
そういえば箒と言えば、トーナメントはどうするかな。
勝った相手と付き合うとか、そんな約束はしていないと言っても通じなさそうだよな。
理想としては、俺と付き合うとか考えない左門かデマだって知ってる箒と一回戦で当たることだけど、全員参加だから学年別でも百二十人ほどいるから二%以下の確率か。厳しいな。
などと考えてるとドアをノックする音が聞こえた。
「一夏いる?」
誰だろうと思う暇もなく聞こえてきたのは鈴の声。
「何用だ?」
「……」
さっきまでベッドの上で座禅を組んでいたはずなのに、音もなく移動してドアを開ける左門。
ヨガテレポートでも使えるのか、この変態は。
「なんで、アンタが一夏の部屋にいるわけ?」
「カクカクシカジカというわけでな」
「なるほどマルマルウマウマというわけね」
わからんぞ。なんで通じてるんだ、お前ら。
「というか弁蔵のことなんて、どうでもいいのよ。どうせ夕食はまだなんでしょ一夏、一緒に食堂に行くわよ」
言われてみれば、今日はクッキーしか食べてないな。
「それじゃ行くか。左門はどうする?」
「今日は、カツ丼の気分だな」
「そうか。俺は野菜の気分だ」
三人連れ立って部屋を出る俺たち。
そして上がる悲鳴。
基本的に女子しかいないからと、ノーブラでタンクトップだけとかの油断した格好の女子たちの左門を目にしての悲鳴である。
学園の女子たちの左門の評価は、視姦されてるみたいで気持ち悪い。見られると妊娠しそう。なので、当然といえば当然であるが、逆に言うと俺の視線は気にしていないということで、その辺りが解せない。
「お、織斑君だ。やっほー」
ブカブカのパジャマを着た、昼寝中の猫のような雰囲気の少女が、袖が余って指が見えない手を振りながらおっとりと歩いてくる。
名前は確か……。
「おお、
「
そうそう布仏本音。覚えてるぞ、うん。
「何考えてるかはわからないけど嘘はやめなさい」
「そだよー。嘘はよくないよー」
のほほんさんにまで心を読まれた!?
「案ずるな、単に話を合わせてるだけだ」
「うん。合わせてるだけー」
なんだ、そうなのか。
「そんなことより、私とかなりんと一緒に夕飯しようよ~」
「残念、一夏はあたしと夕飯するの」
「うわーっ、りんちゃんだーッ」
ガッ、と鈴の腕を掴むのほほんさん。
「りんりんも一緒に夕食しようよー」
「その呼び名はやめてよ!」
「りんちゃんさんの方が良かった?」
「それはそれで、なんかヤだけど……」
「ならば、りんりんちゃんさんで」
「混ぜるな!」
往年の沢村忠を思わせる鈴の飛び膝蹴りが左門の腹部に突き刺さる。
「世界が狙えるやもしれん、いい蹴りだ」
「世界ならISで獲るわよ!」
ニヤリと笑う左門の足に追撃のローキック。
本気で、そっちで世界を獲れそうだな。
まあ、それはともかく。
「左門と遊んでないで、食堂に行こうぜ」
左門が馬鹿を言うのも、鈴が肉体言語で応じるのもいつものことで、この時の俺はこのまま何事も無く日常が続いていくのだと思っていたのだけど。
IS学園に入学したり左門と知り合ったりした俺に、それが許されるはずもないということを、翌日の教室で思い知ることになった。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」
なんて山田先生がホームルームの時間にぶちまけてくれたわけだが、そのうちの一人が男子生徒だったのだ。
原作二巻の分の書き溜めができたので推敲完了次第投稿します。
多分週一くらいで。