「規律、礼」
西日が当たる教室でこの日最後の授業が終わる。そして、5分もしないうちにその声はやってくる。
「凛ちゃん!帰ろー!!」
「咲耶さん。頼むからそれやめてって何度言ったらわかるの?」
「え、だってすぐにでも会いたかったし・・・ダメ?」
「そんな上目遣いで言ってもダメ。クラスの皆がビックリするし恥ずかしいし俺にいい事ない。それに、会いたいのは俺だって一緒だから焦る必要ないよ」
そこまで言って、周りが完全に白けるのを感じる。やっちまった。目の前には完全にゆでダコになっている咲耶さん。ここは戦略的撤退だ。咲耶さん連れて早々に教室から立ち去ろう。
「うへへ、凛ちゃんの手あったかぁい」
「変態ですかあんたは。で、そろそろ落ち着きましたか、咲耶さん」
「え、あ、うん!」
「付き合ってもう半年なんですからいい加減俺の言葉にいちいちフリーズしなくてもいいですよ」
「む、無理無理無理!大好きな凛ちゃんの甘い言葉なんて聞いて正気でいられるわけないよ!」
「・・・自分からは簡単に言うんですねぇ」
「それに受験終わってやっと凛ちゃんとちゃんとデート出来る!って思ったら今日はずっと頭の中真っ赤だったから」
「まあ、それは自分も否定しないですけど」
11月。高校三年の咲耶さんは今年一年受験勉強に追われていたが、見事合格し晴れて自由の身となった。受験で忙しくなる時期と交際期間がモロに被ったため、長い間割とデートやそれに近い物を我慢していたのだ。やっと、と言う気持ちは二人同じだった。
「とりあえず、さ。今日はちょっと遅くなっちゃったし普通に駅前で遊ぼっ」
「そうですね、もうそのつもりで歩いてはいました」
「いえーい!私と凛ちゃん息ピッタリ!」
「だからそういうの大声で言うのやめて下さいって・・・」
「着いたらカラオケいこ!受験のストレスを解消してやるのだ!」
「俺は咲耶さんは良ければどこでもいいですよ」
「じゃあ決定!何歌おっかなぁ?!」
俺は、咲耶さんが如何に四苦八苦していたか知っているので出来る限り彼女に楽しんでもらいたい。この時はそう思っていた。
のだが・・・・
「くっ・・・密室に凛ちゃんと二人きり。き、緊張するよぉ・・・」
「えぇ・・・」
なんだこの可愛い生物。確かにこうやって誰にも邪魔されない状況で二人っきりというのは今までなかったかもしれない。
「とりあえずなんか頼みますか?」
「うぅ、じゃあ私ハニトー」
「じゃあ頼んでと。俺ついでに飲み物取ってきますね」
落ち着いてもらおうと、そう言って席を立つ。帰ってくると幾分か緊張は和らいだようだった。
「ゴメンね、凛ちゃん」
「何がですか?」
「こんなダメダメなお姉さんで。私、こういうの全然経験無いから、年上なのに、凛ちゃんをリードしなきゃ、なのに・・・」
唐突に始まったその言葉は、徐々に歯切れが悪くなっていき途中から嗚咽を含むものになっていった。緊張は治った様だが今度は別の感情が溢れて止まらなくなってしまったらしい。
「ちょ、待って待って!咲耶さん!」
「り、凛ちゃんも、もっと気遣い出来る頼り甲斐のあるお姉さんの方が良いよね・・・」
この人は本当に、色々下手なのだ。告白の時もそうだったが、大抵の事を卒なくこなすのにこういうのは不器用すぎる。
「今更何言ってるんですか。バカですか?」
つい出てしまう本音。付き合い自体は長いのでこういうのもたまに出てしまうのだ。
「えぇ!?凛ちゃんヒドイよ!!私真剣に悩んでるんだよ!どうやったら上手く話せるかなとか、嫌われちゃったらどうしようとか、ホントにもう、いっぱい、色々!私、凛ちゃんが大好きだから!凛ちゃんと恋人になれたのとっても嬉しかったの!でも、私こんなんだから怖くて、怖くてぇ・・・」
ああ、泣かしてしまった。俺が悪いのか?悪い部分もあるか。彼女が不安になるって事は、まだ足らなかったという事だ。言葉と態度が。なら、ちゃんと言わなければならない。
「俺は咲耶さんのそういう所込みで好きになったんですよ?ずっと貴女だけを見てきましたし、だからそんな姿見ても可愛いなぁ、ってもっと好きにしかなりませんから」
「ヒック・・・ホントに?」
「ホントですって」
「ホントのホントに?」
「うーん、どうやったら信じてもらえますか?」
「じゃあキ、キス、して」
「・・・はぁ。分かりましたよ」
初めからこのつもりか、駄々っ子め。こういう所もズルい。ますます貴女が好きになるしかないじゃないか。
そんな言葉と想いを届ける為に、精一杯俺は咲耶さんに甘いキスをあげた。
バックボーンやら、前日譚も前書きで言った通りやっていきたいですね。次は、ヤンデレなお姉さんか遠距離恋愛をテーマにした話を予定しています。近いうちに投稿出来ると思いますので是非。