仮面ライダーエグゼイド THE GAME IS NEXT STAGE 作:桐生 勇太
「あなた、天才って呼ばれているらしいじゃない」
とある大学の食堂で一人黙々と食事をしながら勉強する青年の向かい側のテーブルに腰かけた、勝気そうな女性が話しかけた。
「………周りがそう呼ぶだけですよ」
参考書を読みながら、機械的に食べ物を口に運び、無難な返事を返し、目も合わせない。 必然的に話しかけた彼女はムッとした。
「以下にもインテリって感じがしてむかつくわね。あんた友達いないでしょ」
「友人はいません。ですが、研究の協力者や知り合いはいます」
会話を続けても一向に目を合わせる気配がない青年に対し、彼女は無理やり参考書を奪い取った。
「目ぐらい合わせなさい。あんた常識無いの?」
「………急に話しかけてきて人の集中を削いで………君に言われたくはないな」
それだけ言って、カバンから今度は別の参考書を取り出して読み始めた。
「………それで、ご用件は?」
「周りがこの大学一の天才って呼ぶもんだから興味があったのよ。まあ実態はただの一人寂しく勉強がお友達の残念な奴だったけどね」
「勉強が友人………?」
眉をひそめ、青年は参考書を下ろしてようやく目の前の彼女を見た。
「何よ、怒ったの?」
「…いえ、良い表現と思いましてね。私は学問を知り、見聞を広めることがとても好きなたちなので」
こういう青年のことを一般的にガリ勉と言うのだろう。 おまけにぼっちだ。
「つまんない男ね、あんた」
「怒ると疲れますしね。なら無関心でいる方がよっぽどエネルギーの節約になります」
その後も彼女はいくつも質問を繰り返すが、どれも当たり障りのない言葉で受け流されて終わった。
「………そろそろ次の講義の時間ですので、それじゃあ」
いうが早いかお盆を持ち、あっという間に他の学生たちに紛れて姿が消えた。
「………なんなの、あいつ………」
傲慢でもないが、彼女自身は自分を美人な方だと思っている。事実、「彼女は美人な方」と言うより「絶世の美女」と言う方が近いが。社交的で、誰にでも好かれる彼女は出会って3分もあれば誰とでも友人になれる。しかし、この世は広く、そして歴史は長い。あんな男もいる。
その日の帰り、彼女は駅前で自分の好きなアイスクリームを買っていた。
大学に通う時に3日に1度は必ず食べるほど彼女は気に入っている。店員からアイスを受け取り、いそいそと彼女はいつも自分が座っているベンチに向かったが………
「アイス美味しいね。〇〇君」
「そうだね。〇〇さん」
そのベンチには仲睦まじそうな男女が先に座っており、二人でひとつのアイスを食べていた。恐らく彼氏と彼女の関係なのだろう。
仕方なく彼女は別の場所で食べることにした。と言っても駅前のこの広場には一つしかベンチはなく、どこへ行くべきかと考えながら歩く。
「………あの二人………いいなあ………」
先ほど彼女は美女だといったが、残念ながら彼女はいまだかつて男性と付き合ったことはない。 誰とでも仲良くなれるとはよく言ったものだが、逆に言えばそれは友人どまりの関係ともいえる。
「もしかしてずっと独り身…?」
不穏な未来を感じ、慌てて彼女は首を振った。まだ自分は大学生。時間はまだある…と。
「待ってよお兄ちゃん!」
「早く来いよ〇〇!」
らしくない思考に陥っていると、不意に右側に少年少女が突っ込んできた。驚いた彼女は右手に持っていたアイスを反射的に左へと持ち替え、自分自身も左へ飛びのいた。だが、それがよくなかった。
「ああん?」
隣を歩いていた「いかにも不良」な人物の服にアイスが激突してしまったのだ。
「おうおう嬢ちゃん、俺っちの一張羅に何してくれとんじゃごらあ!!」
「すみません。洗濯代を払います」
頭を下げて謝り、洗濯の代金を負担する。最も問題のおこりにくい謝罪だが、相手はそれでは満足しなかった。
「…よく見りゃかわいいじゃねえかよ。ヒヒ、服はもういいわ、俺らとイイ事しようぜ?」
言葉と同時に手を掴み、無理やり引っ張った。取り巻きの二人組はにやにやと笑ながら、彼女のバッグを掴んで逃げられなくする。
「やめてください! だれか助けて!」
大声をあげるが、周りの人間はみなそしらぬ顔でそそくさと通り過ぎていく。
「いいから、こっち来い!」
腕を強引に引っ張られ、彼女の顔が苦悶にゆがんだ。その時。
「その手を放せ」
彼女の手を掴んでいた腕をひねり上げ、絡んできた男を突き飛ばしたその青年は………
まさに今日の昼、彼女が話しかけていた青年だった。
「あ、あなた………」
「怪我は無いですか? 今上さん」
彼女、今上エリ「いまがみえり」は驚いた。ビン底メガネの青年が不良の前に立ちはだかるなど、まず見ることのない光景だろう。
「あんだてめぇごらあ!」
「てめえ! なめてんのか!!!」
「いてえなこの野郎! ひねった腕の慰謝料出せこらあ!!!!」
三人の不良が罵声を浴びせるが、浴びせられている青年、現夢本人はエリに「手首にあざができちゃいましたね」と優しげに語りかけており、全く聞いていない。
「このクソガキが!」
怒り狂った不良の一人が殴り掛かるが、現夢は瞬動もかくやと言った動きで背後に回り込み、不良の首筋に手刀を落とした。
「げ………」
間抜けな声をあげながら一人が倒れる。どうやら気絶したようだ。
「………へッ…上等だぜ!」
残りの二人のうち、片方は驚いて引いたが、もう片方は激昂し懐から折り畳み式のナイフを取り出した。
「おらぁ! どうするよ兄ちゃん!?」
「………やってみろ」
不良はナイフを出せば怖がると思っていたのだろう。一歩も引かない現夢に対し、むしろ恐怖にも似た感情を抱いていた。
「こ………このくそがぁぁぁ!!!」
がむしゃらに突き出したナイフは現夢の人差し指と中指の2本に受け止められ、あまつさえナイフの刃をそのままへし折られた。
「怪我したくないなら、そこに倒れている男を連れて失せろ」
昼間にエリが聞いた無機質の声とは打って変わった、まるで地獄の閻魔のような声。
当然、不良達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。
「まったく………大丈夫ですか? 向こうの水道で手首を冷やしましょう」
広場の真ん中にある立形水飲水栓(公園等によくある上に向かって水が出る蛇口)を指さしながら、現夢はエリの手を引いて歩く。直前の不良とは違い、現夢はエリの腕手首を優し気に包んだ。
「そこで手を冷やしていてください。すぐ戻ります」
それだけ言って、現夢は人ごみの中に消えてしまった。
「あ………」
その時になって、エリは自分がまだお礼を言っていないことに気が付いた。
だが、エリは自分の鼓動が早鐘を打っていることには、まだ気が付いていない。
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