仮面ライダーエグゼイド THE GAME IS NEXT STAGE 作:桐生 勇太
時は2017年8月27日。男にとって今日はこれまで今か今かと待ち続けてきた時だ。
今日この日、ある異世界から勇者を呼び込むために、とある大仰な次元魔法が使われることになることを男はあらかじめ知っている。そこにある人物を滑り込ませたいのだ。
「運命はこの私に味方したようだ…」
運命などと言う不確かなものではなく、実は影で懸命に支えられていて、必然の道をたどっていたことに、男の視線の先に立つ男………檀 正宗は気が付いていない。
「パーフェクトノックアウトは完全に消滅し、ハイパー無敵は変身能力を失った…もはやクロノスを攻略する術は………無い!」
嬉しそうな顔をするのだなと、木の陰に潜む男はぼんやりと思った。自分が敷かれていたレールの上を一生懸命走り続けて、あらかじめ用意されていたターニングポイントをまるで降ってわいた千載一遇のチャンスだと考えているならば、ある種男を楽しませるための道化師としての役割は完璧ともいえる。
「君たちの運命は…BAD ENDだ…!」
檀 正宗。かつては優しい心を持ち、家族を、妻を、息子を愛した「父親」の手本のような人物。正宗の心に、かつて男が干渉したのは事実だが、それでもここまで容赦のない存在になるとは思っていなかった。だが、男の持つ記憶と黎斗や正宗の性格が同じである以上、やはりこの狂った心の状態が正しいのだろう。
「プレイヤーでない君たちによって不正にクリアしたゲームなど無効だ! 君たちレアキャラは、ゲームに支障をきたすバグ! バグは…削除する…変身」
【仮面ライダークロニクル
ガシャット…ガッチャーン バグルアップ
天を掴めライダー 刻めクロニクル…今こそ時は! 極まれり!】
………最後の戦いが始まる。
予め結末が決められている、闘ったとしても何の意味もない、無価値な最終決戦が。
檀 正宗は気が付かない。
本当は、自分の心がバグっている事に気が付かない。
檀 正宗は気が付かない。
自分が狂っていることに気が付かない。
檀 正宗は気が付かない。
自分を狂わせた相手が近くにいる事に気が付かない。
「私がいる限り、このゲームは続く…仮面ライダークロニクルに、終わりの時など…無い」
否、仮面ライダークロニクルが続くことはない、何故なら、檀 正宗もまた、この少し後に死ぬ運命にあるからだ。そのことにも気が付いていない。ただひたすらに自分の望みがかなうと信じ切る道化…もはやそれは、「将来の夢は太陽になること」と物理的に不可能な話をする頭の悪い望みを掲げる子供と大差のない姿だった。
「ゲームは私の全てだ…! お前のようなクズに、これ以上利用されてたまるかぁ!!」
デンジャラスゾンビゲーマーに変身した黎斗が、正宗に向かって飛び掛かる。その他のライダーも3人続くが、木の陰に潜む男は黎斗と、正宗の姿しか見ていなかった。
何度かぶつかり合い、黎斗が大きく吹っ飛ばされる。いくらか地面を転がり、黎斗の変身が解ける。
【GAME OVER】
黎斗が死んだ。体が粒子になり、空中に解けるようにして消える。
それを確認した瞬間、木の陰に潜む男が動いた。
透明な、不可視の腕が伸び、空中に消えようとする黎斗の粒子の一部をむんずと捕まえた。そのまま粒子を自分の元へと引き寄せる。
「この時を待っていたんだよ………これで、君が私に合う未来が整った」
粒子の一部、黎斗の一部は何も言わない。大部分から切り離されて困惑しているのだろうか。だが、肝心の黎斗の大部分は、自分の一部が消えたことなど気にも留めていない。虎視眈々と、いつ復活して正宗の不意を突いた攻撃をしてやろうかと考えるのに必死なようだ。
男は黎斗の一部を優しく手で撫で、透明なカプセルのようなものに封じ込め、懐からもう一つの透明なカプセルを取り出し、突如発生した怪しげな光を放つ小さな紫色の渦の中に放り込んだ。
檀黎斗の片割れが、異世界に召喚された瞬間だった。
男は満足げな表情を浮かべた。これでまた一つ、男に知る未来にぐぅっと近づいたからだ。あと残すところは、檀 正宗と、この後に出てくるゲムデウスXを異世界に送り込むのみだった。
だが、一番重要な黎斗を送り込んだのだから、もはや終わったも同然だった。男は上機嫌に笑いながら、異世界へと送られた黎斗に想いを馳せた。
「黎斗………待っているぞ………未来で、俺を殺せ」
『GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです』が、始まる。