マルタ島解放作戦前日の朝、自分は雲ひとつない地中海の空をキ一〇六で《迷彩》を使用しながら飛翔していた。
改めてネウロイに占領されているマルタ島の様子を確認するためだ。新たな人型ネウロイが、また要塞型ネウロイにやってきていないかの調査だ。
もし奴らがきていたら自分が人型を撃破し、明日行われる作戦決行の阻害要因を取り除く。これは、ミーナ少佐から直々に発令された極秘任務で、表向きは偵察で基地の北方を飛んでいることになっている。
別に、秘匿任務とする必要はないのではないか、と尋ねたのだが、
『この作戦は戦費確保のための宣伝の意味合いが強いの。その作戦遂行に問題となる事案がありました、というのはさすがに体面が保てないわ』
とのことで、このあたりの事情は理解できたから異論をはさみはしなかった。
自分は、ネウロイの直上百メートルの位置にとどまり、出方をうかがう。
「さて、ネウロイの直上にきたわけだが。これまでの行動を考えたら、《迷彩》を使った自分がこれぐらいの距離に近づくと、奴らは偵察のために外にでてくるはずだが」
出てくる気配はないように感じられたが、西から水面ギリギリをネウロイへ向けて飛翔する影が二つ、見受けられた。
ふん、こちらの作戦を察知したか、あるいは何らかの情報伝達によって駐留していた人型が撃墜されたのを知って、ようやく駆けつけたっていうところか?
自分は、奴らがネウロイの内部へ侵入する手前で後方を飛ぶ人型へと降下、守り刀を抜き放ち、背中からコアを刺し貫いた‼
瞬間、ビキッと全身に亀裂が入り、一気に砕け散った。
このまま、前方を飛翔する人型へと向かい、両足を切り落とす。
悲鳴を思わせる声を上げ、ネウロイは停止し、ありったけの光線を自分に向けて放つ!
ほぼ至近距離のため、いくら《迷彩》を使っていても位置はばれているし、回避も不可能だ。
ウィッチとしての本能がシールドを展開した。なんとか、わずかに下方へ傾けられたのは僥倖だ。
ビームを受け流した反動が、ぐん、と自分を上へと押し上げた。
その勢いを借りつつ斜め上へと上昇、ビームを受けているシールドの面を真下へと傾けていく。
そうして赤い閃光をすべて受け流し、きしむストライカーユニットを無視して超小径のとんぼ返りを敢行、やつの背後に回り込み、袈裟に斬りかけた。
若干浅くなってしまったが、わずかでもコアに刃が届けば、ネウロイは崩壊する。そして、その手応えは確かにあった。
奴は慌てて急上昇、自分から逃げ出す。
自分は、腰の鞘へと短刀を納めると、基地へと帰投を開始する。
怪鳥の如き悲鳴とともに、ネウロイの破壊音が聞こえてきた。
任務、完了だ。
基地に帰投した頃には、負担をかけたストライカーユニットがいやな咳き込みをして、ユニット足先付近にある排気マフラーから黒煙を吐き出していた。それもどちらか片方ではない。両方だ。
魔道エンジンの状態がおかしいことを無線で連絡しておいたので、自分が滑走路に降りると同時に、外に出されていた発進促成装置へと納める。
キ一〇六は、そのまますぐに整備隊へと引き渡され、整備室に運ばれていく。
自分は、それを眺めながら、はぁ、と深く息をついた。
ミーナから言い渡された任務は、なんとかクリアしたものの、ユニットを破損してしまったのは痛いところだな。
まぁ、五〇二隊のブレイクウィッチーズに比べたら、問題はないだろう。
などと自分をごまかすようなことを考えていると、自分が帰還したのを見かけたのだろうか、ミーナ中佐がやってきた。
「人型ネウロイ、いたみたいね」
「はい、無茶なマニューバをやったせいで、エンジンが故障してしまいましたが」
「人型がもたらす脅威を未然に防げたのだから、それぐらい安いものだわ」
「詳しくは、後ほど提出する報告書で確認をお願いします」
「それにしても、初美さんは本当に優秀ね。ラル少佐がヘッドハンティングしようとしたのもうなずける話だわ」
五〇五のゴロプ少尉も自分のスカウトを企んでいたようだし、自分、ずいぶんと高い評価をされているのだな。
正直、悪い気分ではないが、いささか迷惑でもある。
「スカウトされても、答えられませんよ」
「ええ、坂本少佐から大体の話は聞いているわ。人型ネウロイから、ウィッチを守りたいんでしょ?」
「そうです。ウィッチはネウロイから人類を守るために戦いますが、その肝心のウィッチを、誰が人型ネウロイから守るのか。自分ならそれができる。だから守る。それだけの話です」
「動機は違うけど、そのあたり、宮藤さんとそっくりね」そう言ってくすっと笑うと、「それができるのが凄いのだけどね。私はそろそろ共同作戦に向かうわ。初美さんはゆっくり休んでいて」
そう言って、彼女は基地の中へと戻っていった。
治部をねぎらってくれてはいるが、そんなわけにもいくまい。
報告書を書かないといけないからな。