自分が農民達と一緒に畑仕事に精を出している中、佐東准尉は結局昼過ぎまでかかって鹿の解体作業を終え、昼飯をペリーヌ邸でいただいたのち、隼で所属基地へと帰還したという。すこしばかり時間がかかりはしたが、それだけに丁寧な仕事だったらしい。
そんな話をアメリーさんから聞いてどんなものかとキッチンに向かうと、各部位ごとに綺麗に切り分けられて冷蔵庫の中におさめられていたものだから、たいしたものだ。
キッチンでは、ちょうどリネットさんが鹿肉の調理に取り掛かろうとしていたところだった。片手に肉叩きを持っているので、おそらくステーキにするつもりなのだろう。
「ローストしようか、煮込もうか悩んでたんですけど、新鮮ですし、せっかくですからステーキにしようかと。筋張っていて獣臭いですが、柔らかいところを選んで叩けば柔らかくなりますし、ニンニクと香辛料を使えばかなり美味しくなると思うんです」
話を聞いただけで腹の皮と背中がひっつきそうになってくる。
「いいと思います。料理のことはわかりませんが、リネットさんのことですから美味しく作ってくれると期待してます」
そう、自分は料理はからきしなのだ。米を炊くぐらいはできるが、細かな味の調整が必要な料理はからっきしだった。自分が料理をできない理由も、単純に練習してないからだと思うのだがーーそして、忍びはなんでもこなせという師匠も、実は致命的に料理が下手だったーー、そんな理由だから、料理上手な人は尊敬に値するのだった。
「そんな。あきらちゃんだって、練習すれば上手になるよ」
うぅむ、料理するのはうまいにこしたことはないしな。
「では、教えてくれますか?」
「うん!」
にっこりと笑んで頷く。
というわけで、唐突ながら料理教室になったのだった。
「そうです、野菜をる時は手を猫の手みたいにして……」
「む、こ、こうか?」
「そうです、そんな感じです。そうやっておさえながら……はい、そんな感じです。最初は早く刻めないでしょうけど、すぐになれますよ」
「あ、目がツンとしてきた」
「玉ねぎをきると、そうなっちゃうんです」
「肉をきるのは流石に上手ですね」
「そりゃあ、下手だったら解体できませんからね」
「で、あとはこの肉叩きで叩くの。でも、この部分は柔らかいから、あまり強く叩かないでね」
「鰹節で出汁を取るときは、削り節の厚さにもよるけど、薄削りならこうやって……」
「すぐにとりだすんですか。もったいないきがするんですが」
「長く煮立たせるとエグ味とかが出ちゃうんですよ」
「それででしたか。ほぅ、色が金色だ」
「こんな色がでたら最高です」
「つまり、この出汁は最高ということか」
「ああっ! 味噌汁は煮立たせないで! 風味が飛んじゃうから」
「そ、そうなのか? それで自分が作る味噌汁は風味がなくて塩っぱいだけなのか」
「そうです。だから味噌汁はこうやって、煮立たせないように注意して……」
こうして、自分はリネットさんから料理のやり方を教わったわけだが、彼女は十分に教え上手と言えた。
包丁の使い方一つ知らなかった自分が、料理を作り終える頃には、玉ねぎを賽の目切りに切れるようになり、ジャガイモの皮なんかはすんなりとむけるようになっていたからだ。世間的には大したことのないものかもしれないが、今まで料理を作った事がない自分にとっては、これでも驚きに値するものだった。
味付けも、基本的なやり方も教わり、扶桑料理の味付けの基本であるさしすせそも教わった。ブリタニア人にそんなことを教わるのもどうかと思うが。
というか、煮物に砂糖を使うのか!
そりゃ、すき焼きに砂糖使うのは知っていたけど、まさか肉じゃがなんかにも使っていたとは。
味噌汁にしても煮立たせてはいけないとか聞いたこともなかった。
こうして料理を教わりながらも、他にも色々と面白い話を聞かせてもらった。501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズのこと。ミーナ隊長をはじめとした、精鋭達の人となりや活躍の話。
そして夕食ーー