くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 三の巻 その二十

「アメリー、リーネさん、初美さん。昨日お話しした通り、私、今日明日はサントロンに行ってまいります。帰ってくるのは明日の夕刻ごろになると思いますが、その間、ここの事はよろしくお願いしますわね」

 そう言ってペリーヌが邸宅を飛び立ったのは日が出てかしばらくした頃だった。ヴィルケ中佐は、自分の願いを聞き届け、ペリーヌを邸宅から離してくれた。

 個人的には、あの人への貸しで何を要求されるのか、想像もできないのでいささか不安ではあるのだが、ひとまず一日という時間は作れたわけだ。

 自分たち三人はペリーヌが飛び立つのを見送ると、すぐに活動を開始した。

 

「男性の方達は、職人さんの指示に従っての作業をお願いします!」

 アメリーさんが、中庭に集まった農園の男たちにそう声をかける。とはいえ、彼らも出来不出来の差はあれど、自力で石造りの家一つなら作れるのが大半だ。

 今頃、キッチンでは女性たちと一緒にリネットさんが手の込んだ料理を作っているはずだ。

 そして自分はーー

 

「わざわざすまないな、佐東。今日明日はこの空域の偵察を密に行いたいのだ」

「事情はきいてるよ、あきらちゃんの頼みなら断らないよぉ。恩返し恩返し」

 呼び寄せた佐東と共に、パ・ド・カレーの上空の哨戒任務にあたっていた。まずはこの辺りの空に不慣れな佐東に、哨戒ルートを教えながらの飛行だ。

 事前に聞いた話だと、偵察型ネウロイは数日に一度あらわれるといい、今日明日がそのタイミングなのだという。そして、出現する方向は、だいたいパ・ド・カレーの北側という話だったので、自分たちもその情報にならい、パ・ド・カレーの北を偵察する。

 まぁ、相手は偵察型だから、撃破するのもそれほど困難な話ではないのだが、何かあってからでは遅いのも確かだ。したがって、自分たち二人はペリーヌやリネットさん、アメリーさんの分まできばらにゃならんことになる。

 もっとも、これも506が設立されたらあまり必要ではない行為になるのだろうが。

「そういえば聞いたよぉ、506、扶桑の枠ができたんだって?」

 耳が早いな。坂井司令から聞いたのか?

「ああ、秘密裏だがな。今、本国では華族のウィッチの選定に大わらわだそうだ」

「でも、華族にウィッチっていたっけ?」

 もっともな疑問だ。

 確か明治初期、松平か徳川に一人ウィッチがいたのは覚えているが、その方はもう当然ながら上がりを迎えているしなぁ。

「松平に一人、明治か大正にいたはずだが、もうくたばってるか上がりを迎えて久しいだろうな」

 さりとて、皇女殿下にお出ましいただくわけにもいくまい。

 皇女殿下の御気性なら、むしろ喜び勇んで飛び出しそうな気もするが、さすがに周りが許さないだろう。それにそもそも、皇女殿下の魔力を受け止めるだけのユニットがあるかどうかも怪しい。

 海軍には、外交官の娘で優秀な艦載ウィッチがいるというが、扶桑皇国は外交官に華族をあてがっているわけではない。指揮官としても優秀な彼女は、むしろ508に呼ばれる可能性の方がまだある。

 もっとも、その彼女は現在《死神》の隊長をやっているわけだが。

「……あきらちゃん、十一時方向。仰角10度あたりかな。点が三つ、見えない?」

 言われた方向を見ると、なんとなくそれっぽいものが見えなくもない。

「む……ん、たしかにらしきものが見えるな。しかしあれを見つけるって、貴様、どういう目をしてるんだ」

 たしかに三つの点を確認できなくもないが、それにしても全部針の穴よりも小さな点だぞ。

「んー、普通だと思うよぉ」

「あんなのが見えるなんて普通なものか」

 自分はきっぱり言い切ってスロットルをあける。

「まってよあきらちゃん」

「相手は恐らく偵察型だが、万が一ということもある」

 そう言って、耳のインカムを押さえる。

「こちら扶桑陸軍少尉初美あきら。パ・ド・カレー上空にて偵察型ネウロイ三機と遭遇、付近の航空機は注意されたし。繰り返す、付近の航空機は注意されたし」

 少ししてノイズが入り、

『了解だ。連絡を感謝する。こちらヴァイス・フュンフ。サン・トロンからは大型ネウロイを確認している。そちらの小型ネウロイは、どうやらこちらのネウロイから分離したものらしい』

 これはこれは。確かにサン・トロンとパ・ド・カレーは極端には離れていないが……。

「あきらちゃん、ヴァイス・フュンフってなぁに?」

 ああ、知らんだろうなぁ、佐東なら。

 一応世界二位の撃墜数を誇るウィッチのことなんだが。

「ゲルトルート・バルクホルン大尉。元501のエースだ。ついでに、相棒は四強の一人、エーリカ・ハルトマン。覚えておけ」

 と言ってはみるものの、これ以上関わりがなければ明日にでも忘れてしまいかねない。

 こいつはそういう奴だ。

「了解した。こちらは自分ともう一人だ。これよりそちらの指揮下に入る」

『了解。そちらの位置を確認した。そちらは少し東に流れて、小型ネウロイを西へ誘導してくれ。それで、こちらの大型ネウロイ共々挟撃にできる』

「了解、以上。佐東、回り込むぞ」

「わかったよ、あきらちゃん」

 自分は、佐東を連れて東へと回り込みつつ近づいていく。

 目標が針の穴から蝶ぐらいの大きさになった時、むこうもこちらに気づいた。

 北へ動こうとするネウロイの機先を制して、砂糖が威嚇射撃を行う。この辺りのセンスはさすがだな。自分もあわせて威嚇射撃を行った。

「さて、バルクホルン大尉の命令だとこれでいいはずだが」

「あきらちゃん、あれ、あれが大型ネウロイだよ」

 佐東は自分の軌道の内側に来て指差した。

 その方向には、確かに大型ネウロイがビームを無造作に撒き散らしていた。

 ビームが何かに当たって散らばっていないところを見ると、ネウロイは二人を捉えきれないのだろう。流石だな。

「こちら初美、そちらを視認した。偵察型を撃墜次第、そちらに救援に向かう」

「あきらちゃん、偵察機なら私一人で十分だから、あきらちゃんはむこうにいって」

「了解したが、危なくなったらすぐに離脱しろよ」

「逃げ足は、あきらちゃんより早いんだよぉ」

「そうだったな」

 まぁ、佐東もあれで夜間哨戒の熟達者で、なおかつエースなのだから、言う通りたかが偵察型三機を相手にして遅れを取るはずもないか。

 自分は、エンジンをぶん回して大型ネウロイ上空に移動し、

「こちら初美。只今より上空から大型ネウロイにむけて急降下攻撃を行う」

 こんなことを言わなくても、501のメンバーならアドリブにもついてきてくれるだろうが。

『了解した』

 と、バルクホルン大尉。

 扶桑刀を抜き放ち、刀身に魔力を込める。

 青いオーラが刀身に揺らめき、固有魔法の《迷彩》を使うことで、準備は整った。

「オン・マリシエイ・ソワカ」

 摩利支天の真言を唱え、真下にいるネウロイへ向けて急降下する。

 このユニットの引き渡しの時に、急降下は避けてください、とか言われてたな。嫌なことを思い出してしまった。

 確かに若干軋みはするが、言われるほどに強度がないわけでもない。無茶はこれっきりのほうがいいだろうが。

 ネウロイがぐんぐん迫ってくる。

「いえええええあああああああああっ!」

 ビームと火線の死角を貫き、扶桑刀の一撃でネウロイの胴体と思しき場所の装甲を切り裂く!

 すぐに《迷彩》を解除して、

「今です! 大尉!」

 そう叫んだ。

「む! わかった、行くぞハルトマン!」

「はいよー」

 おそらく、むき出しになっただろうコアへ、二人の精密無比な銃撃が襲ったのだろう。ネウロイの装甲にヒビがはいり、一気に砕けた。

 とりあえず、ペリーヌの代役は果たせたようだ。

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