くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 四の巻 その一

 第四二統合戦闘航空隊。

 自分は今、そこにいた。

 憧れがなかったかと言ったら嘘になる。このエリート部隊に所属するというのはそれだけで名誉なことであり、魔女としても得難い経験をすることになるだろう。

 そして自分は、戸隠流剣術とサバイバル技術の教練に加えて、推測航法の習得のためにこの部隊にやってきていた。

 推測航法習熟のために与えられた期間は二週間。元々は戸隠流剣術の教授をするためだけに来るはずだったのだが、ある事情により推測航法を習得しなけれならなくなった。

 というのも、アフリカで行われるスエズ奪還作戦の前段階の作戦に自分が参加することになったのだが、その作戦の自分の役目が敵情視察なのだ。

 スフィンクスを相手にした時にも加東さんが偵察をしていたらしいが、あくまで前線観測員としてであって事前の航空偵察は行わなかったらしい。そんな時、自分の《ぎっくり腰》作戦での成果がはるばるアフリカまで届き、中野へ自分の派遣を依頼してきた。

 任務としては、スエズ運河奪還作戦の前段階の偵察がそれだった。

 スエズまでの航空写真の撮影で、可能なら巣の偵察と撮影もやって欲しいとのことだった。その任務を受けるのはやぶさかではないが、砂漠は目印も何もない。

 まさに砂の海原だ。

 それ故に、敵情視察を行うためには、海上を飛行するための技術である推測航法を習得せねばならなかった。

 しかしながら、その時すでに自分は第四二統合戦闘飛行隊への教練任務を受けており、ならばそこにいる海軍ウィッチに推測航法を習えとなったわけだ。

 とはいえ、第四二統合戦闘飛行隊はJFWほどではないにしろ日々ネウロイとの戦闘が行われている空域を担当しているわけで……

 

『初美! そっちに中型が一機行ったわ!』

 インカムから鈴の音のような美声が飛んで来る。海軍少佐にして《死神》現隊長の白浜美奈代海軍少佐だ。

「了解! 迎撃に向かう! 空いた空域のカバーは!」

 体を右に傾け、彼女がいる方向へ舵を切り迎撃に向かう。

『俺が行くぜ!』

 オラーシャ語訛りの共通語がとんでくる。ヴィクトーリヤ・ポプコフ空軍大尉。通称、トーシャ。

「頼む、トーシャ!」

『任せな!』

 すぐに白浜海軍少佐の言うネウロイが視界に入る。扶桑刀を右手で抜き、懐から棒手裏剣を一本抜いてそのネウロイへ向かう。途端に飛んでくるビームをローリングでかわしつつ、接近していく。

 捉えられぬ自分に苛立ったのか、乱射してくる。

 その攻撃の一発が自分を捉えたが、ジークリンデ・レムケ少尉が見せてくれた技ーーすなわち、シールドを斜めにはって弾いてビームの圧力を利用して機動を変え、さらに接近、ネウロイを斬り裂き、露出したコアへ手裏剣を打ち込み、撃破する。

 彼女のように掌に作り出し、盾のように操って受け流すことはできないが、シールドを斜めに張ることぐらいならできる。

「白浜、ネウロイ撃破!」

『了解、戻って! アーラ! そっちに中型がいきました!』

『今確認したわ、いただきですわ!』

『上川、サポートに!』

『了解であります!』

 アリーサ・アレリューヒン空軍曹長ーー通称、アーラが意気軒昂に答えて銃撃を開始した。近くにいた上川幸陸軍曹長が指示通りにアーラのロッテについたようだ。

『初美、《迷彩》を使ってそのまま小型ネウロイ群の中央突破、反対側の射撃点に到着次第、全隊で攻撃です』

 無茶振りにもほどがあるが、今のところ白浜少佐の采配に間違いはない。否応もなく、自分は《迷彩》を使用した後、指示された小型ネウロイ群の中央へ突っ込んでいった。

 

 第四二統合戦闘飛行隊の戦闘は他の部隊のようにロッテで行われてはいない。《空間把握》の固有魔法を持つ白浜隊長の指揮の元、各隊員が一定の空域を担当、そこにやってくるネウロイを撃破するものだった。状況により、近くのウィッチがロッテの二番機になったり、テッケを組んだりする。

 それだけに、各員が一番機、二番機、状況によっては三番機も担当できる極めて高い技量を要求されるが、徹底した防衛戦を行うなら最適な方法だろう。

 そう、第四二統合戦闘飛行隊は本来ならば、扶桑陸海軍とオラーシャ合同の空戦技術、戦術研究部隊であるのと同時に、第505統合戦闘航空団、通称ミラージュウィッチーズと同じく東へと勢力を伸ばそうとするネウロイを押しとどめ、侵略を阻害する極めて防性の高い航空団であった。

 ただ、この部隊がそうだった時代は、忌み数故に隊員たちは士気がガタ落ちで、オラーシャの派遣するウィッチは三流ばかりという有様だった。

 自分たちは死に部隊だ、死んで当然という空気はウィッチたちだけにとどまらず、整備兵に至るまで広がることになる。落ちきった士気はひどいもので、扶桑としては解散させて別部隊を創設したほうがマシという意見まで出ていた。だが、後釜の部隊も結局42というナンバリングから逃れることはできず、たとえ別部隊を創設したとしても、早晩士気の低下がおきるのは目に見えていた。

 そして、いっときでもこの部隊を解散させるということは、防衛線に大穴が開くことになる。この穴から滲み出るネウロイは、オラーシャ防衛戦の結界を意味し、戦線崩壊も確実だ。

 さすがにこのままではまずいと焦る扶桑陸海軍は、窮余の策として黒江彩香陸軍大尉を同隊隊長へと派遣した。

 彼女のその驚くべき機転と手腕は以前話した通りだが、同時期、近隣に設立した第505統合戦闘航空団、通称ミラージュウィッチーズ隊長のグレーテ・M・ゴロプ少佐が彼女の手腕を認め、半ば強引に505へと引き抜いた一件があるが、それはまた別の話である。

 ともかく、そうした部隊の激変があってからというもの、《死神》は防衛部隊ではなく、502部隊のような極めて攻撃性の強い部隊へと生まれ変わった。同時に懸案であった防衛戦闘の戦訓は勿論、戦術も編み出され、それは広く扶桑陸海軍に広まることになる。

 そして、《死神》は現在でも今回のような防衛戦を行うことはあるが、普段は倒すべきネウロイを求めて彷徨う軍隊アリになっていた。

 その戦う様は、整備兵も含めて、黒江殿が行った通りネウロイにとっての《死神》そのもの。即ち彼女たちは、505が撃ち漏らした、あるいは505の担当範囲外のネウロイを求めて彷徨う死神たちだ。

 士気の高さは扶桑軍に身を置いている以上聞き及んではいたが、よもやJFWなみの戦果を叩き出してるとは思いもよらなかった。現在は、オラーシャもこの部隊を戦術開発、ならびにウィッチの養成隊として捉えているようで、積極的に装備の供与や人員の補給を行うようになっている。

 それだけ、両国がこの部隊に期待しているということなのはわかる。わかるのだが、厄介な部隊にやってきてしまったようだ、という認識をしたのは、《死神》にやってきたその当日であった。

 確かに自分は、再教育としてあの《クバンの獅子》の指導を受けてはいた事もあってか、一通りの戦術を実行できるだけの技術はある。

 それでもだ。

 激戦に次ぐ激戦が待っているとは聞いていなかったぞ。

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