くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

59 / 104
くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その四

 司令より頂いた閲覧許可書は、スオムス語で書かれていたため、何が何やらよく分からなかった。ただ、そこに書かれてる文章はそんなに長いものではなく、最後にハンナ少佐のサインが入っているのが確認できるだけだ。

 しかしながら、許可書の上には、top secretの印鑑と司令のサインの後に507部隊司令を意味する印が捺されているため、これが正式な書類であることはわかる。文字を覚えて、あとでどんな内容なのか調べてみようか、それともそこらを歩いているスオムス人に聞いてみようか、などと考えてしまった。

『資料室は、ここから南に向かって三棟間に挟んだ建物の三階が全部そうだよ。建物の入口に軍警がいたらそれを見せれば通してくれる。なに、アキラなら顔パスだよ』

 との、軽口めいたハンナ少佐の言葉を思い出す。

 そんな事に思いを巡らせながら歩いていると、向かいの棟の入り口にたどり着いたわけだが、警備担当の軍警がいないのだが。

 顔パスするための相手がいないじゃないか。

 これはどういうことかな、司令官殿。

 いれば書類を見せれば顔パスらしいが、いない場合はつまりそういうことか?

 というか、どうにも怪しいのだよな。この手の施設はたいてい厳重な警備の元管理されてるのが普通のはずだ。胡散臭く感じるのも当然だろう。

 さてはて、中に入らねば欲しい情報は手に入らぬし、このまま手をこまねいているの自分もらしくない。

 ここは女は度胸といくか。

 腹を決めて、雑にニスを塗られた木製のドアの前に立った。そしてその安普請の真鍮製のドアノブに手をかけ、ぎぃ、と軋んだ音を立てながらゆっくりと開けていく。

 ぱっと見人の気配はないが、なにがあるかわかったものではない。慎重な行動をするのにこしたことはないだろう。

「さりとてここは初めて踏み入れる建物だ。鬼が出るか蛇が出るか……」

 まぁ、ハンナ少佐がやろうとしてることは大体予想できる。

 隊員たちに自分を襲わせて、力量を図るかあるいは隊員たちにいい経験をさせるかのどちらかだろう。あるいはどちらに転んでもかまわないというところか。

 あにはからんや、おとなしそうな顔をしてずいぶんと豪胆なことをするじゃないかあの司令官殿は。だてに50ナンバーをしょってないということだろうな。

 楽しくなってきたぞ。

 左側はガラス張りで外の様子が確認できる。右側はコンクリの壁が続いていて、おそらくそれの向こう側が資料室になっているのだろう。二十メートルほど先は曲がり角になっていた。

 自分は、正中を立ててひたひたと木製の廊下を歩きだす。足音などたてない。ましてや床をきしませるなどという不出来な真似などは決して。足が床に触れたときに、どの程度の力加減までなら床がならないかぐらいはわかる。

「freeze!!」

 背後から声が聞こえ、自分は言われたとおりに立ち止まる。声の大きさや反響具合からしておよそ十メートル。リー・アンドレア・アーチャー少尉だ。

 おそらく外で待ち伏せし、自分が建物に入ったところでタイミングを見計らってやってきたのだろうな。

「アーチャー少尉、いい判断だ」

 自分はわざとらしく両手を挙げて後ろを向いた。

 当然ながら手にしている銃はM1911。通称ハンドキャノン。

 なるほどいい拳銃だ。そして彼女ぐらいの体躯であれば、魔法力を開放しなくても十分に扱いきれるだろう。彼女は右手で構え、自分に狙いを定めていた。銃口を見る限りブレはない。

 だが、この距離で自分相手にはどうかな。に

「負けを認めるべきです、初美少尉」

「そちらの勝利条件をきいてみようか」

「あなたにまいったと言わせること」

「発砲許可は出ているか?」

「イエス」

 ははは、これはこれは。

「アーチャー少尉。撃ってもいい。いいが、その時は覚悟してくれないか。無傷で済ませる自信がない」

 は? と首をかしげるアーチャー少尉。そりゃそうだろうな。むこうはウィッチの魔法力を開放すると考えてるのだろうから。

 自分は、開放するつもりはない。

 この程度のことで開放するなど、戸隠流を受け継ぐ人間としてはなはだ不本意だ。師匠なら遠慮なく開放しろ、というところだろうが自分は違う。

 プライドというものがある。

 ぴく、と肩が震えた瞬間、自分は床に這いつくばるように伏せて床を蹴り、飛び込み前転で彼女の足元まで至る。拳銃は、横方向、それも内から外への動きには対応がたやすいが、上下、特に下方向への対応は難しい。

 これは体や目の構造上の問題で、これを克服するにはそれなりの修練が必要だ。さらに下方をいきなり飛んでくる対象を狙うのは、よほどの熟達者ならようやくというレベルになる。

 すなわち――

 二発、発砲音が響いたが、床に穴をあけただけだった。

 自分はすっと立ち上がって、目前で自分の動きに唖然としているアーチャー少尉のハンドキャノンを持つ手を取り、

「さて。アーチャー少尉はこれからどうするかな」

「OK、私の負けでいい」

 苦笑して先ほどの自分のように両手をあげた。

「これで負けを宣言してくれなかったら、アーチャー少尉を床に這いつくばらせることになっただろうな」

「あらためて、初美が武術の達人だと理解したよ」

「で、これはどういうことなのかな? 自分を試しているのか、サイレント隊の教練なのか。教えてほしいものだが」

「教練、だそうです。実地で武術の達人の動きを見て体験するのは、ウィッチとしても悪いことではないだろう、と司令官の判断です」

「了解した。資料閲覧の料金代わりに教官をしてやろう」

 自分は、そう言ってアーチャー少尉に背を向けて歩き出しのだった。




今更ですが、自分のストライクウィッチーズの世界では、くノ一で忍術を使える存在はウィッチという設定です。
他にもくノ一のウィッチはいますが、忍ぶ存在なので表に出ることはありません。初美がなんでわざわざ出てきてるのかの理由は、詳細に関してはまだ考えてません(ぇー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。