くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

65 / 104
くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その十

 自分は少佐の返答を待たずにドアをあけて、彼女に視線を送り自分の唇に人差し指を立ててウインクする。

 ハンナ少佐は、自分が雑とはいえ変装しているのを見て納得したのか、小さく微笑んでうないた。

「アイナ、案内をありがとう。きみは引き続き所定の作業をしていてほしい。作業が終わったらまた戻って、書類の手伝いを頼むよ。ちょっと面倒な書類をまとめなきゃならないんだ」

 あー、何やら厄介ごとでもおきたか。

「了解しました。ではお三方、どうぞお入りください」

 司令に一礼してドアを大きく開き、三人を部屋の中へと招き入れる。

「ありがとうございます」

 と、元気な声で雁淵軍曹は自分に礼を言って中へと入っていく。その後を二人が続いて入室する。一応、すれ違いざまに下原は会釈をしてくれる。

 執務室のドアを閉めて、自分は執務室を離れる。

「んだと、あいつが初美だってのか! 野郎っ、どこいきやがった!」

 怒鳴り声と同時に菅野中尉が部屋のドアを開け、廊下に飛び出す音が聞こえてきた。

「ぷっ……はは、あはははははははっ!」

 思わず漏れてしまう笑い声を押さえることができなかった。

 

 少し間を置いて少佐に会いに行くと、彼女はずいぶん深刻な顔で自分を出迎えた。

 従兵には席を外させていたため、部屋には少佐と自分の二人しかいない。

 迫水中尉が聞き耳を立ていてるかもしれないと思って気配を探ってみるが、ドアの外に人がいるような雰囲気は感じられなかったのでそれはないだろう。

「それで、何の用なんですか?」

 自分は、従兵の机に寄りかかりながら尋ねる。

「ヴァラモ島攻略がちょっと面倒なことになってね。きみじゃないとどうしようもなさそうなんだ」

 自分じゃないと、か。

「具体的に教えていただけますか?」

「外殻が半球体になっているのはすでに知っていることと思う。隊員が試しにこの外殻に向けて総攻撃をおこなったんだけど、途端に大量のネウロイが現れて反撃に転じ、数に押されて撤退したんだ」

「それで、近づいてどういう状況なのかを調べてきてほしい、ということですか」

「その通り。そしてこれは命令ではなくお願いなんだ。五〇七隊に正式に所属してるわけではないからね。うけてくれるかい?」

「自分でなければできない任務なのならば、受ける以外の選択肢はありませんね。プランはできてるんですか?」

「潜水して直接覗いてきてほしい」

「覗く、ですか」

「わかるとは思うけど、あれだけ巨大なネウロイだと中身はスカスカのはずなんだ。可能なら、中がどうなっているのか写真に撮ってきてほしい。もし中がどうなっているのかわかるなら、そこからなにかしら打開策を見いだせるかもしれない」

「酸素ボンベはありますか?」

「海軍の倉庫に一本だけあるそうだ」

「了解しました。初美あきら、偵察任務を受領いたします」

 少佐の前で直立し、敬礼した。

「よろしく頼むよ」

 

 翌日、自分はストライカーユニットの格納庫ではなく、フィンランド海軍の倉庫に足を向けていた。

 小さな倉庫で、荷物が雑然と置かれている。

「少尉、本気ですか?」

 スオムスの海軍下士官がうさんくさげに自分を見ていた。

「本気だ。というより、ヴァラモ島の内部の偵察は自分以外にできないだろうからな。しかたないだろう」

 そうは言ったが、実際はかなり乗り気だった。ウィッチとしてではなく、斥候としての任務につくからだ。

 前哨戦として、五〇七隊が外殻へ攻撃を仕掛けてみたらしいのだが銃弾を簡単にはじくほどに堅く、手持ちの火器ではヒビをいれるのがやっとだったらしい。

 状況が許せば、雁淵軍曹の《接触魔眼》でコアの位置を把握したいのだが、そのための手勢が少なすぎる。それに、使用にはラル司令の許可が必要とのことだが今回は許可されなかったとハンナ少佐より聞かされた。

 それで、自分の出番ということになったわけだ。

「しかし、ユニットなしで接近するのは無茶ではないのですか?」

「無茶なものか。基本水の中を移動するのだからネウロイの認識範囲外だろうし、なにより自分がいくのだ。普通のウィッチがいくより自分がいったほうが様々な面で確実だ。ハンナ少佐の許可も得ている」

「わかりました。でも、ほとんど使われてないですよ、こいつ」

 木箱に収まっていたそれをえんやこらと持ち出した。

「いいんだよ、使えればそれでいいんだ。点検はしているんだろう?」

「もちろんです」

「それなら十分だ。木製の手こぎ船もあるんだろう?」

「はい」

「OKだ。コンプレッサーを借りるぞ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。