自分と三隅軍曹は、戦闘訓練のために格納庫へと足を向けていた。
ストライカーユニットはすでに整備を終えており、いつ発進してもいいよう、発進速成装置にセットされている。
自分は、腰に吹き流しをつけて、三隅は木刀を手にしていた。
「吹き流しをつけて飛ぶから、軍曹は吹き流しに斬りかかれ」
「ありがとうございます、少尉」
「では、自分が先発する」
三隅にそう告げてユニットを履くと、発進速成装置を中心として梵字の魔方陣が広がり、格納庫内を青い光で染め、使い魔であるモモンガの尻尾と耳が生える。大きめの尻尾がぷるんとふるえた。
同時にストライカーユニットのエンジンが始動し、呪符プロペラが発生、回転し始める。魔道エンジンが十分なパワーを発揮するのを確認して、
「《くノ一の魔女》、発進する」
速成装置のストッパーを開放すれば即座に勢いよく前進し、すぐに離陸速度に到達し、ふわりと空に舞い上がる。
三隅も上がってくる。
零式艦上戦闘脚ならではの軽さと運動性、それに離陸性能だな。
「三隅、まずはおさらいだ。自分は適時回避運動をとるから、貴様は吹き流しをねらって木刀できりかかってみろ」
「了解しました!」
自分はスロットルをあけて、一気に加速する。重戦ユニットならではの加速性能でもって三隅を突き放し、ある程度距離を取ると速度を落とす。
「やってみろ、三隅」
『はいっ!』
後ろを確認する。
三隅が追いかけてきて、構えていた木刀を振りかぶろうとしていたので、即座にバレルロールを行い避けつつ彼女の後ろにまわりながら上体を起こして急上昇した。
軍曹は即座に自分を視界にいれたのか、インメルマン旋回で追跡する。
視界に収めていれば即座に相手に対応できるのはさすが軽戦ユニットだな。
上昇してきた彼女の出鼻をくじくように、自分は緩やかに下降する。
『くっ!』
「さすがは五〇七の隊員だな、よく食らいつく」
『はぁ……はぁ……いやああぁぁっ!』
さらに追跡しつつ斬りかかってきたので、上体をさげて急降下へと切り替えれば、三隅の木刀は空を切っていた。
そうして、何度か彼女の斬撃を回避して追いかけつつ斬りつけることの困難さを体験させると、
「よし、一端終了だ」
『は、はい』
「息が上がっているな。巴戦をやりながらの格闘戦はきついだろう」
『相手の回避機動、を、よみながら、接近するのが、これほど大変だ、と、は……』
「息を吸いながら腹をひっこめて、息を吐きながら腹を膨らませろ、数回やれば息も整う」
『は、い』
自分に言われたとおり、素直に何度か呼吸するとインカムから聞こえてくる荒れた息づかいもなくなっていく。
「どうだ、楽になったか」
『はい、ありがとうございます』
「では次だ。軍曹は自分の上空に位置しろ。太陽を背にするのを忘れるな」
ネウロイが太陽の影響を受けるのかわからないが、やれることはやるべきだ。
『了解です』
彼女が所定の位置につくと、自分は前に進み出す。
「いつでもいいぞ、こい」
そう言って、大型ネウロイの動きを再現してゆらゆら左右にゆれながら飛行を開始する。アグレッサーとして大型ネウロイを模倣するのだから当然だ。
さて、軍曹はどう動くのか。
零式艦上戦闘脚のエンジン音が耳に入ってきたと同時に、ぐん、と吹き流しが引っ張られてバランスを崩しそうになった。
何度か練習しないと無理だと思っていたが、一度で当ててくるとはさすが佐世保が送り出したウィッチだけはあるな。
いやはやたいした物だ。
『あ、あたった? やった、あたったぁっ!』
インカムを通じて三隅の喜びの声が飛んでくる。
「こちらが攻撃していないとはいえ、一度で当ててくるとはたいしたものだな。驚いたぞ。さすがは軍神北郷の学び舎で学を修めてきただけはあるな」
『初めてです、初めてこんなきれいにできました初美さんっ!』
はは、まさに欣喜雀躍だな。
自分がホバリング状態にはいると、そばに軍曹が飛んでくる。
「言われてすぐにできると言うことは、貴様がそれだけ優秀だという証明だな、誇っていいぞ」
「はいっ!」
「今のでわかったと思うが、扶桑刀による攻撃の基本は一撃離脱だ。斬ったら撃墜したしないに関わらず離脱することを考えろ。ほかにも細かな戦技規則はあるが、肝要なのは相手が回避困難であり、なおかつ表面積を最大に視認できる位置から高速で接近し攻撃、離脱することだ。さぁ、もう一度だ。次は少し動きを加えるぞ」
「わかりました、お願いします!」
自分はその後彼女のアグレッサー役をしばらく続け、ある程度形になったところで基地に帰投したのだった。