くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女~ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その十六

 魔道エンジンをフルスロットルで回して、人型めがけて突っ込んでいく。

 すれ違いざま脇構えにした扶桑刀で切り抜ければ、腕を切り落とすことに成功した。

 痛覚でもあるのだろうか、悲鳴のような金切り声をあげて腕を再生させる。

「コアは胸元と聞いたが、易々とは斬らせぬか」

 振り向いて旋回をかけると、むこうも自分を追いかけるように飛んでくる。

 バレルロールで人型をオーバーシュートして増速、斬りつけようとするが、宙返りでよけられたので後を追うように宙返りをしつつ納刀、空になった機関銃のマガジンを交換した。

 そして銃を構え、

「くらえっ!」

 三点射撃で狙い撃つが当たらずにかすめるだけで、痛撃を与えられない。

 むこうが両手をこちらに向けてきた。

 いやな予感がしてバレルロールをやると、自分がいた場所にビームが二発飛んでくる。

 さらに連続してビームを撃ってくるが、自分も左右上下に体を振って赤い熱線をよけていく。

 そうしながらも機関銃を撃つものの、ろくな照準もせずに撃っても当たるはずもない。

 唐突に人型が急降下を始めた。

 その先をみれば、二つの点がドーム状ネウロイの頂点部にむかって飛んでいるのを確認できる。

 なるほど、雁淵軍曹と菅野中尉が攻撃できるだけの余裕を作れたわけか。

 となれば、こちらも奴に二人の邪魔をさせるわけにはいかんな。

 自分も、人型の後を追いかけて急降下を開始する。高度に若干の不安はあるが、なにより撃墜できないことには話にならない。

 急降下と加速によるGが、ぎし、ぎし、と木製疾風に悲鳴を思わせる軋みをあげさせる。

 幸い速度はこちらのほうが出たようで、木製疾風が分解する前に扶桑刀が届く距離へと近づけた。

 奴の腕が二人に向けて赤く輝き始めるが、遅いっ!

「ふっ!」

 刀を抜き放ちざま、足を切り落として返す刀で胴を逆風に切り裂く!

 カッ、とコアを裁ち切る手応えを感じると同時に、人型が破裂するように破片をまきちらしながら消滅していく。

 気づけば引き起こしにはギリギリの高度まで降りていた。

 間に合うか。

 ストライカーを下に向けて全力でエンジンをぶん回し減速を試みる。

 湖面にぶつかる寸前で停止すれば、ぶわっと湖面がしぶきをあげ、ふわりと浮き上がった。

 湖上に舞い上がって《迷彩》を解除、無線通信を可能にする。

『見直したぜ、くノ一。人型ネウロイを本当に一人でなんとかしちまうなんてな。やるじゃねぇか』

 菅野中尉の声がインカムから聞こえてくる。

「中尉こそ、雁淵軍曹と共同とはいえネウロイを撃破したんだからたいしたものです」

『へっ、それぐらいなんてこたぁねぇよ』

『雁淵軍曹、菅野中尉、初美少尉、三人とよくやってくれたよ』

 と、ハンナ司令。

「こちらも奴にはやられっぱなしでしたからね。すっきりしました。これより、そちらに合流します」

 

 その後、自分は五〇七と五〇二の混成部隊と合流し、作戦成功を喜び合った。

 どさくさに紛れてへんなところを触ってくる迫水中尉には辟易したものだが(飛行中なので下手に制圧してはもろとも墜落してしまう)、ともかくこうして自分は人型ネウロイに対しての一応の復習はなったわけだ。

 今回撃墜した奴は、アフリカのあいつではないだろうが、一度は手を出せない時に自分をいいように追い詰めてくれたのは事実であり、こうして復習ができたのは痛快だった。

 逆恨みと言われればそれまでだが、おびえるウサギのように縮こまっていなければならなくなった羽目になったのは屈辱だ。

 その鬱憤を晴らせただけでも十分だろう。 

 自分は、これを最後にサイレントウィッチーズを離れ、五〇二隊の扶桑組とともにブレイブウィッチーズの基地があるサンプトペテルブルクへと移動する。

 人型ネウロイとのより詳しい交戦記録を確認するためだ。

 自分は相手の知識などほぼ持っていない状態で人型ネウロイを撃破できたが、次があったとしても今回と同じように運べるとは限らない。

 なんにせよ、敵の知識は必要なのだから。


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