THEIDOLM@STER 同級生のアイドル   作:くろねこ7

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6話

 休日の朝。両親は未だに旅行中で家には一人。用事は特になし。これほどの好条件が揃えば誰だって、一度目を覚ましたあと、ふたたびそのまどろみに身をあずけたいという考えが頭をよぎる。そう、いわゆる二度寝というやつだ。こいつはなかなかに曲者なやつで一度その快感を経験してしまえば麻薬のようにどっぷりとはまってしまう。そしていざ起きようとすると、一度目で起きる時よりはるかに体が重く感じる。そして一日があっという間に過ぎ、午前中を無駄にしたと午後になって後悔することになるのだ。

 

 だからこそ未だに布団から出る気のない体に鞭打って、無理やり布団から這い出る。1階に下りてカーテンを開けると眩しい朝日が窓を通り抜けて眼光へと入り込んできた。日光というのは不思議なもので、未だに残る睡魔のダルさを軽減してくれる、ような気がする。

 

(飯でも作るか…)

 

 普段から自分でご飯を作る習慣のない自分にとって、親が留守にしているこういった期間は自分で料理をする数少ない機会となる。とはいっても結構頻繁に家を留守にする両親を持つと朝食くらいは寝てても作れるくらいにはなるものだ。夕飯は大体面倒になって外食となるためあまり手の込んだ料理は作れないが。

 

 冷蔵庫を開けてウィンナーと卵を取り出す。フライパンに火をかけその上に油を垂らしたあと、その上にウィンナーを投下し焼けるのを待つ。その間に残り2枚となった食パンをオーブントースターに投げ入れ待つこと数分。焦げる一歩手前ほどになったウィンナーを皿に取り出し、今度は卵をフライパンの上で割り目玉焼きを作り始める。そうすると案外都合よく全ての品が同時に出来あがるのだ。

 

 席に座って食うほどの料理でもないのでいろいろな作業がてら朝食を終える。

 

 リビングのテレビにスイッチをつけると、ちょうど朝のニュース番組で連日の事件などの報道がされている最中だった。殺人事件などのニュースが連日テレビをにぎわせている。惣介が生まれ物心が着いた時には既にこのような感じであったため特別な驚きはないが、親世代からするととんでもないものであるらしい。昔は殺人事件なんて起これば2週間は同じ内容でニュースがされていたと聞いて驚いた記憶を思い出す。

 

 料理を食べ終わった皿をすすいで食器洗いに入れる。一度ずつやると手間なのでやるのは夜にしようと思い放置。次にたまった洗濯物を片付けて一息ついていると、不意に家の固定電話のベルが鳴った。

 

「はい、清水です」

 

 子機を手に取り応答する。すると電話口のむこうから聴き慣れた声が聞こえてきた。

 

『あ、惣介くん? おばちゃんだけど、今日暇してる?』

 

 小さい頃から慣れ親しんできた声の主――渋谷凛の母親なのだが――はなぜかやたらハイテンション気味にそう切り出してきた。相手のテンションの高さに若干戸惑いながら惣介は少し思案を巡らしたあと、はいと答えた。

 

 

 

2

 

「いらっしゃいませー」

 

 店頭に飾ってある花たちに水をやりながら、店に訪れてくる人たちに声をかける。休日なのにも関わらずなぜか学生服に身を包み、片手にはジョウロを持っている自分に目をやり、おもわず似合わないなとため息をついた。

 

 なぜかこういう日に限って日差しが強く、まだ7月にもかかわらず猛暑のような暑さを感じさせる。それには惣介自身の心境もいくらか関わっているのだが、それでも本当に惣介が知らないうちに夏になったのではないかと錯覚させるほどに暑かった。

 

 額から流れてくる汗を服の袖で拭う。それでもすぐに湧き出てくる汗が頬を伝い地面にシミを作った。

 

「暑い…」

 

 半ば逃げるようにして店の中へと入る。店内には色とりどりの花たちが己の存在を示すように咲いていた。惣介は花の知識に関してはからっきしだが、それでも綺麗と思えるということはやはり花というのはいつの時代も花というものが愛されてきた証なのだろうか。

 

「惣介くんおつかれさま。疲れてたら休憩とっていいよー」

 

 惣介が店内の花を見回していると、ふと凛の母親から声をかけられる。当人は予約された花束を手際よくカットしていて、その動作はとても洗練されていた。

 

「あ、いやそんな疲れてないので大丈夫です。なにか仕事ありますか?」

 

「そう? じゃあ…花束でも作ってみるかしら?」

 

「え…」

 

 考えもしなかった提案に惣介は少し尻込む。仕事といっても花たちに水をやるか、店内の掃除をするかくらいだと思っていたからだ。先にも述べたとおり惣介は花に対する知識はほとんどないといっていい。よってどんな花を組み合わせれば綺麗に見えるのかもわからないし、そういうセンスがないのも惣介自身わかっていた。

 

「あはは、大丈夫よそんな緊張しなくて。ちゃーんと教えてあげるから」

 

 惣介の返事も待たないうちに凛の母親は準備を進めていく。テーブルの上には赤いバラが次々と並んでいった。

 

「じゃあねぇ、まずは基本からやってみましょうか」

 

「は、はい」

 

 テーブルに二人並んで作業を進めていく。花束なんてまとめてそのまま包むだけだと思っていたが予想以上の手間が掛かっていることを惣介は思い知らされる。まずどの花を使うか。一概に赤いバラといっても微妙に色合いが異なり、花弁の大きさもまちまちなのでそこから最適なものを選び取らなければならないのだ。

 惣介が迷っているうち横でテキパキと作業を進めていくのが目に入る。その度にどのポイントが大事など助言をしてはくれているのだが、惣介自身このような作業をしたことがないので目で追うので精一杯だった。

 

「――みたいな感じで…わかった?」

 

 目で追っているうちに一つの綺麗な花束が出来上がっていた。一輪で咲いているときも綺麗なものだが、それが幾重にも折り重なると豪華さが増し、強烈な存在感を放っていた。

 

「す、すいません…もう一度お願いします…」

 

「はいはーい、今度はもうちょっとゆっくりやろうかー」

 

 頭をたれてしまった惣介に対して、凛の母親はなんのこともなしに次の作業へと取り掛かる。こういうところが親しみやすいところだ。小さい頃からの縁というのもあるだろうが、それでも彼女の雰囲気は常に穏やかで一緒にいるだけで和やかな気分になるのだ。そのためか近所でもこの花屋を利用する人が多く、常連客も多い。この人柄こそがこんな不況と言われるご時世にも花屋を個人で続けられる所以なのだろうと惣介は一人結論づけた。

 

3

 

「そういえば」

 

 日も暮れかかりあたりが夕陽の朱に染まり始めた頃。作業が一段落したとき、おばさんがなにか思い出したような顔をしてこちらをみてきた。

 

「凛のことなんだけど」

 

 てっきり今日のバイトに関することかなにかだと思ったが当てが外れる。凛のこと…と言われてもあまりピンとくるものがなかった。なかったのだが、おばさんに目を向けてそのなにか面白いことを言おうとしているような顔を見たとき、凛のアイドル関連のことを言おうとしているのはなんとなく察することができた。

 

「あの子ね…」

 

「アイドル、始めたんでしたっけ?」

 

 やたらもったいぶって間を空けてくるおばさんの言葉を遮るようにして言うと、おばさんは一瞬固まって、そのあと非難の目を俺に向けてきた。

 

「えー、なーんで惣介くんが知ってるのよ」

 

「本人から聞いたんですよ。ちょうど1か月前くらいに」

 

 なんだ、つまんないと呟いてからすぐにおばさんはにやにやと表情を変えた。その表情の意図がつかめない俺は疑問の目を向けながらおばさんのほうを見る。だがたいていこういう顔をするときは人をからかう時だということは長年の付き合いからわかっているのであまりまともな回答は期待していなかったりもする。

 

「凛たらあの子、恥ずかしいから誰にも言わないでって言ってたのに…。惣介くんにはちゃんと言ったのねぇ」

 

 ほら、やっぱり。この人は昔から俺と凛をこういうことでからかうのだ。そして、このからかいに対しての俺たちの反応は年代を経て変わっていった。幼稚園の頃はお互いに喜び合い、小学校の頃はたがいに照れあい、中学を卒業するころにはたがいにうまくかわすようになっていった。

 

「長年の付き合いですからね。言いにくいことも言いやすいんでしょう」

 

 そういって俺は残りの作業に取り掛かる。もう夜になる一歩手前なのでさっさと任された仕事だけは終わらせないとまずい。ただの手伝いなら別にいいかもしれないがアルバイトでお金をもらっている以上やるべきことはやらないければいけないのだ。

 

 凛のことはなるべく考えないようにしている。そもそも凛にそんな気があればこんな十数年間も友達の関係を続けてはいないだろう。それに今はアイドル活動で頭がいっぱいだからそんな余裕もないはずだし。

 

「ただいま…って、あれ? 惣介、なにしてんの?」

 

 と、噂をすればなんとやらでちょうど凜が帰宅した。休日なのに制服でほとんど学校に行くのと変わらない姿でいることに若干の違和感を覚えたが特に質問することでもないのでスルーした。

 

「アルバイトだよ。まぁ、そうはいってもまともなことはやってないけどな」

 

「そんなことないわよー。手伝ってもらって助かったんだから」

 

「…そっか。前からちょくちょく手伝ってはいたもんね。そういえばご飯は? もうこんな時間だけど」

 

 確かにもう外は真っ暗で時刻は6時を回ろうとしている。かといって隣だしご飯を食べさせてもらうほどには…

 

「そうねー。どうせなら食べていっちゃいなさい。どうせ鍋だし。3人も4人も変わらないわよ」

 

 断ろうとした矢先におばさんからも誘いを受ける。こうなると断るに断れないのだ。一人だけならまだしも二人となると説得するのには骨が折れる。それならばおとなしくお世話になるほうが楽だろう。どうせ両親も出張しているし。

 

「それじゃあ。いただきます」

 

「よろしい」

 

 そういっておばさんは料理を作りに奥のほうへと引っ込んでいった。残された俺と凛はたがいに顔を見合わせてそれから家の中へと入っていった。正直おばさんの料理はなかなかの絶品で楽しみであったりする。久しぶりのおばさんの料理に心を弾ませながら俺は凜の後ろをついていった。

 

 

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