異世界へはスマートフォンが   作:河灯 泉

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異世界オルガが流行ってウレシイ……ウレシイ……




再起動、そして便乗

「……知らない天井だ」

「あっ、大丈夫ですかサイリさん!?」

「起きたの!?」

「ご無事で!?」

 

 一時的なスリープモードから再起動を果たした直後に顔を覗きこまれた。

 各々が好き勝手に言葉を投げつけてきて返答が面倒だったので一旦口元に指を置いて鎮める。スリープ時に自動で録音しておくようにしていたスマホからデータの塊を受け取り、高速処理して――……なるほど、大体の話の流れは把握した。

 

「馬車の中、ですか」

 

 当然っちゃ当然の結論に至る。考えるまでもなく他に天井なんて無いだろうが。

 

 機能停止したサイリの身体をエルゼが抱え、同じく意識を失ったナイスミドルな爺と一緒に馬車で休ませていたようだ。

 サイリが初めて全体重を預けた相手であるエルゼはサイリの異常なまでの軽さに気付いたようだが、今はそれについて追求してくる気配は無い。リンゼも薄々勘付いてはいるかもしれないが姉の動向を見て自重している様子。八重はまだ付き合いが短いせいかまったく気にしていない。

 生身の人間と違って生命活動に必要な臓物が存在しない上に外側の肉すらも魔力で構成された擬体に過ぎないのでサイリには質量というものが欠けていた。戦闘の際はその身に見合わない程に高い出力に任せて攻撃力をカバーしていたが実際に持ち上げられたりするとその特異さが際立つ。人類の観点からしてみればサイリの存在がおかしいのは元々承知の上だ。

 ……と、今はまだそんなことはどうでもいい。

 

 

 

「目覚めたか。他の者にはすでに伝えたが、改めてもう一度言おう。感謝するぞサイリ。お主は爺の……いやわらわ等の命の恩人じゃ!」

 

 声の聞こえてきた方へ目線を向けると金髪の少女――ご令嬢が実に偉そうな口調で礼を述べていた。

 自己紹介をした覚えはないんですけどねー、って私が寝ている間に済ませてるんですね。と刹那の内に事情を把握し直すサイリ。口調はともかく感謝の念は本物なのでその程度のことで気を害したりはしない。

 サイリより先に復活していた老人も少女に続いて綺麗な直角の礼をして名乗る。

 

「私、オルトリンデ公爵家家令を勤めております、レイムと申します。そしてこちらのお方が公爵家令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様でございます。この度は我等を助けてくださいまして誠にありがとうございます」

「……いえ。まぁ」

 

 恩を売ろうと軽く考えていたら国家の一大事に関わってしまってさてどうやってこの問題から逃げようか考え出す次第である。サイリは公的権力とかが大の苦手なのだ。重大機密とか隔離サーバーとか、そういうのはサイリが食い物にする相手でもあるのだが主に駆逐される側としてのトラウマがあるので。警視庁も宮内庁も防衛省も大嫌いだ。下手を打ったら即座に消されてしまう。

 

「サイリ……あんたも頭くらい下げておきなさいよ」

「それは絶対にしなくてはいけないことですか?」

 

 文化として? 礼儀として? それともただの主義?

 

 単一の存在であるサイリに血統の価値観などわかるはずもない。

 王族に名を連ねる? だからなんだ、としか思えずそれ以外に言うこともない。

 まぁ、どうしても下げろと言われれば下げない理由も特に無いので従うが。

 

「よい。無礼講じゃ」

「よろしいのですかスゥシィ様?」

「スゥで構わん。お主等もさっきからそう言っておろうが」

「いえそれは……畏れ多いと申しましょうか」

「ふむ、まあ好きにするがよい」

 

 上に立つことに慣れているというか、それが当然で当たり前のことなのだろう。彼女は生まれた瞬間から……いや母親の胎にいた頃から高貴な存在であるのだから。

 

 スゥの話を聞くとどうやら祖母の元へ調べ物に行った帰りに襲われたようだ。

 調べ物がなんなのか、ということはどうでもいいので軽く流し、襲撃犯への考察を伺う。

 

「さてな。身代金目的の誘拐か、それとも王家へ叛意を持つ者の犯行か。考えられる敵は多く得られた情報は少ない。わらわを殺すつもりでいたかどうかもわからぬのだからな」

「うっ……その件に関しましては申し訳なく」

「よい。わらわ等の窮地に駆けつけてくれたことに文句があるはずもなかろう」

「ありがたきお言葉で……」

 

 八重が若干気落ちしている。容易く生け捕りできる程の腕前があればもう少しマシな結果になっただろうと悔やんでいるようだ。

 ――まぁ。どうせ奥歯に何かしら仕込んでいただろうし、捕らえたところですぐに自害しただろう。相手はそれだけの覚悟を持っていた……と、思う。召喚する数は多かったが本体はそれほど強くなく、その割に護衛が仕事を果たしきれていなかった理由については知らないが。内通者の線も考えてみれば益々面倒事の気配が強くなってくるのでその辺りの違和感については無視することにした。知らぬが仏、触らぬ神に祟り無し、くわばらくわばら。

 

 

 

 その後、サイリ一行は王都までの護衛を頼まれたので引き受けた。というかこの状況で断れる人間はどうかしている。そして人外であるサイリも表面上は快くその提案を受け入れた。精々高めの金品をせびってやろうと小さな欲望を滲ませ、面倒事への危機感を訴えている第六感を押し殺しながら。

 

 

 

 馬車は王都へ向かう。

 公爵令嬢と、電子の精霊と、人間たちを乗せて。

 そこにどれほどの陰謀が隠されているのか――誰も知ることはなく。

 





雑ですまないと思ってはいるもののそろそろ原作読み返すのが本気で辛い。


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