早朝。暗いどよりとした空。いつもの灰色パーカー、デニムのショートパンツを着て、ポシェットの毒薬は珍しく置いて。
(やっぱり挨拶行かないとかな。あの、このディストピア区域1のヤクザどもに。はぁー憂鬱だなぁ。)
玄関のドアの前に立ち、家の中に毒ガスを撒き散らせる。私の防犯対策だ。人間は毒が効くから…まぁ、ホワイトリリーに仕える執事の家系は全然効かないけどね。毒注意の看板を掛けて、玄関の鍵を閉め、タクシーを呼び止める。
タクシーは止まって運転手は行き先を私に問いかける。
「どこまで行くんだい?」
「如月まで。」
その言葉でタクシーは発進した。
(そういや、昨日は如月にいたな…私。カナタは如月住か。)
こんなことを思いながら窓の外を見る。相変わらず建物が崩れた街並みが広がっている。でも、ユートピアでは人がこう歩いているのを見たことがない。
(ユートピアは空飛ぶ車とか、またはロボットとか、そんなので移動するからなぁ…人だって歩きで移動することなんて殆どないし、そもそも公共機関なんてないし。金持ちばっかだから。)
その点がこの貴族な世界と母様との大きな違いである。
母様が変人なのかもしれないが、
「大地を踏みしめて歩くことが地上に生まれたものの至福でしょ?」
とか、言っていた。母様は低級貴族出身、父様は変人が多いと言われる白百合カンパニーの社長であったから、周りから変に思われてたのも事実だろう。
母様と全く性格の正反対の叔母は、何度もギャンブルや遊びなどで借金を作り、よく周りに迷惑をかけていたという。
金の亡者とも呼ばれるほどに。
そもそも、私の家はしきたりが結構あって、母様は父様のところへ嫁ぐ時に家族と絶縁しなければならない。そして、Idolaの事は絶対に口外してはならない。こういう掟を破れば…初代から続いているホワイトリリーの執事に…完全に殺される。一族ごと…根絶やしだ。
でも、母様は本当に父様の事が好きだったから。父様も母様のことが本当に好きだったから。そんなの大した問題でもなかっただろう。
しかし、叔母は自力で母様を見つけ出し、金欲しさにその座を奪おうとした。
結果、母様が病気で亡くなった後、父様は殺された。自殺という形で。
なぜ殺されたとわかるのか?
だって
骨も肉も何も残さず、ただの灰になるのだ。
なのに、死体まで用意されていたってことは…どうしても父様の死因を自殺にしたかったのだと。本当の自殺だったら、死体が無いわけで誰も父様が死んだとは分からない。
つまり、意図的に誰かが殺したと考えるのが妥当だ。
ちなみにIdolaは意識しないと物体は透かすことが出来ない。つまり、不意打ちってところか。
そして執事が私と別れる時に、
「貴方の父上は殺されたのです!どうか気を強くもって、ディストピアから帰ってきてくださいませ!」
と、言っていたのをふと思い出していた。
タクシーを降りると、そこに、待ち受けるのはお寺みたいな大きい門。その中の敷地は広大である。、
それで、その後にお世話になったのが、ここ花咲組である。
このディストピア区域で1番を誇るヤクザ…、執事が色々手回ししたり、お金のやり取りをしてくれたのがわかる。
(はぁ…、憂鬱だ…ほんとに。)
ため息が出てしまう。
憂鬱の一言しかない。だって…ねぇ…
ピンポンとインターホンを鳴らし、レイアですと名乗る。
しばらくして、ガタッ、ギィーと音がしながら大きな門が開いた。
中には、スーツ姿でサングラスを掛けた男達が両脇にズラーっと。うぇええ…マジかこので迎え方…
そしてその中央に仁王立ちする濃ゆい顔のハゲな50代。そいつは上半身裸の上に黄金色の袴を羽織り、下は灰色の袴を着ている。この人はこの花咲組の組長、
(なんで、こんな感じで出迎えるのかな…ホント)
私はサクサクと砂利を踏んで、彼の目の前に行き地面に膝をつき、
「レイア・ホワイトリリー、帰還しました。」
と告げた。
「ほぅ…久しぶりだな。レイア・ホワイトリリー。弱いお前のことだからそこら辺で野垂れ死んでいると思ったが。」
低くてドスの効いた声で彼は話す。
「野垂れ死ぬわけないじゃないですか。」
すました顔で私は言った。両者とも無言の時…ヒュォオオオオと風がなる。
「
早口で詠唱をし、彼の右足の蹴りを両手で受け止めた。50代のおっさんの癖にとても素早く強い蹴りだ。きっと詠唱がなければ骨にひびが入ってしまっていたはず。
「ほう…わしの蹴りを止めたか。」
「私も何もしていなかったわけではないので」
両者ともその姿勢のまま、お互いの顔を睨み合った。しわはあるが整った顔立ちで頬にある刀傷が特徴…そしてハゲ。
睨み合っていると
「お父さーん!!!クッキー出来上がりました〜!!!」
と家の中の廊下をタタタとこちらへ駆けてくる音が聞こえた。同時に私とクソジジイは戦闘態勢を解除した。そして、ガララと横にドアをスライドさせて彼女は姿を表した。人より小さい身長、一見すれば小学生、父親(クソジジイ)譲りの整った顔立ち、ミルクティー色の毛先がくるっとしたボブの髪、ピンクのひらひらしたワンピースの上にデニムのジャケット。そして、彼女のつぶらな瞳は確かに私を捉えた。
その瞬間、彼女はデニムのジャケットから銃を取り出し、私に向けてきた。バンバンと音がする。彼女の顔を明らかに口角があがり、笑っていた。
もちろん私にはその鉛玉は当たらない。私は銃声の聞こえる中彼女に近づいていって軽く会釈した。
「ただいまです。
と言った瞬間、彼女は撃つのをやめた。
「相変わらずトリガーハッピーですね」
「まぁね!お久しぶりね!レイア!」
春香姉さんはニコッと私に笑いかけてきた。