寤寐思服   作:恋詩記

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紗月に降りかかる試練。


試練

学校行事は恋愛にとって、何か起こるかもしれない大イベントだ。しかし、紗月たちの学校での体育祭は、無事に終わり、面白いほどに何も無かった。紗月と忍はSNSでは毎日のように話していたが、顔を合わせるとやはり話せない、そんな日が続いていた。そして、紗月はある決心をしていた。学校でお昼休みに紗月は由渉に告白する。

「私、忍のこと、宵宮に誘おうと思う。」

突然の告白に由渉は腰を抜かした。

大袈裟な表現ではなく、ほんとに尻餅をついている。

「お、おう、いいんじゃないの?」

「うん」

「でも、夏祭りじゃなくて、宵宮なの?」

この町では神仏習合で、神社だか寺だか、分からないところで行う宵宮と、街で一番大きな公園で行い、花火大会も開かれる夏祭りがある。宵宮は、夏祭りより1ヶ月ほど前に行われる。その宵宮に忍を誘おうと紗月は決めたのだ。

「宵宮一緒に行った時に、夏祭りに誘おうかなって」

「あー、なるほどね!いいと思うよ!というか紗月って以外に大胆だね」

由渉のからかいは馬鹿にしたものではなく、紗月のことを理解してのからかいだ。それでも紗月は気恥ずかしかった。

「由渉は圭くん誘わないの?」

「はぁ!?ばっ、馬鹿じゃないの!?」

由渉は明らかに同様の色を見せる。少々からかい返してやろうかと思ったのだが

地雷だったのだろうか…。

「私はね、見てるだけでいいの、遠くから見つめて片思いするだけよ。」

「……。そっか…。」

それでいいのか?本当に後悔しないのか?紗月には言う勇気がなかった。由渉は、告白して断られることを恐れているのだ。そんな由渉に無理やり告白を促すことなどできない。

「うん、宵宮は日曜だし、月曜日は祝日だね。」

スマホのカレンダーを確認し、紗月が言った。

「紗月何してるの?」

由渉が、聞く。

「お泊まりしよう!」

「えぇっ!?」

突然すぎで、尚且つ嬉しい提案にビックリする。

「お、親に聞かなくてもいいの?」

するとスグにタッタッタッと、キーボードを打ちつける。

「OKだって。」

「ま、まって、私もお母さんに聞いてみる。」

由渉も、急いで母親に許可を求める。

〝いいよー!〟

母親の返信は早かった。

「やったー!お泊まり出来る!!」

ということで宵宮の前日からつまり来週の土曜日から由渉は紗月の家にお泊まりだ。

「明日は暇なの?」

紗月に聞かれ

「え、まあ、暇ですね」

と答えると

「よし、決まりね」

「行動力と決断力すごい(汗)」

そして明日、お泊まりのちょうど一週間前の土曜日に由渉は紗月の家に遊びに行く事が、決定した。

翌日

こぐこぐこぐ、自転車をひたすらこぐ。

坂を登りきると歩道のない道に出る。

両脇には木々が生い茂り、耳元で虫たちが通り過ぎる。由渉の額には汗が溜まり、首元の汗が胸元へ流れ落ちる。

本来ならば直ぐにタオルで拭き取りたいところだが、いまはそれどころではない。急いで紗月の家に行かなければ、伝えなければ、重大な事実を…。

紗月の家が目の前に迫った時

ピタッと、足が止まった。

こんなこと教えて、紗月は喜ぶのか

心の中に、ふとそんな不安がよぎる。

確実に傷つくだけだろう。

紗月の家の庭に自転車を止め、考える。

一度引き返して、頭を冷やそうか、少し早く来てしまったし、しかし、今から帰るとなると自転車で全力疾走しても片道30分だ。

がちゃり。

「由渉、なんとなく来てる気がした」

玄関から現れたのは紗月だ。

もう引き返せない。

「入って入って。」

「…お邪魔します」

何度も来た紗月の家。玄関前の階段を登り左を曲がったところにすぐに紗月の部屋がある。30秒ほどでつく部屋までの道のり、何分にも感じた。

「〜〜〜でさ、ーーだったの。」

紗月の話が頭に入ってこない。

言うか言わないかこの事で由渉の頭はいっぱいだった。

「ねぇ聞いてるの?」

「ごめん、聞きたくないかもしれないけど、教えたいことがある。」

覚悟を決めた。

「………なに?」

少々訝しげな、声が帰ってきた。

「…あのね…。」

ピリッとした緊張が走る。

「忍、付き合ってる人がいるみたい。」

しばらく沈黙が流れる。

言わない方が良かった。後悔の念が由渉の中に流れてくる。

「……え?本当…なの?」

消え入りそうな声で呟く。

「ごめん、琉架が言ってたからたぶん、本当だよ。」

琉架とは、斎条琉架(さいじょうるか)のことで紗月達のクラスメイト、忍の小中の同級生である。

「そっか…もう、いいや。」

「なにが…いいの?」

「もういいよ、彼女いるのにしつこく話しかけて。馬鹿みたいじゃない?」

由渉は、黙る。

「もしかしたら、気にかけてくれてるかもとか、変に期待してさ…宵宮に誘おうとか、出しゃばりなことして、馬鹿みたい。」

なにか励ます言葉をかけなければ。

なにか、なにかを。

「帰ってほしい。」

「…ごめん。」

「由渉が、謝らないで…一旦落ち着きたいだけ…」

「分かった。」

「宵宮に誘う前に教えてくれてありがとう。」

涙がこみ上げてきた。でも、流してはいけない。一番辛いのは紗月だ。わたしは泣くべきではない。由渉は自分に言い聞かせた。

帰り道では自転車を押しながら歩く。

行きは驚くほど暑く汗が流れて止まらなかったのに、今は体の芯まで冷えきっているような気がした。

「何やってるんだろう。紗月のこと傷つけて、馬鹿なのはどっち?私よね。」

一人で呟く。

「でも、教えないと後でもっと苦しいし…言い訳すんなよ。」

自問自答を繰り返すうちに由渉の頬には涙がとめどなく流れ続ける。

「ごめんなさい…ごめん、ほんとにごめんなさい……。」

ごめんなさいと、口にした瞬間

がしゃん!!!

歯止めが効かなくなった由渉の手から自転車が離れ、膝が地につく。

幸いこの時間、由渉のいる道は人通りの少ない道である。

由渉は、泣き続けた。家に着く頃には日が沈みかけていた。

 

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